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17/09/15(金)23:12:15 No.453162538
わたくし"大"ダージリンが彼女と同居するようになってそこそこの年月が過ぎたが、しかし彼女はわたくしにいつも発見をくれる。 偉大な発見や改革には常に多くの人の知性による協力が不可欠である。これは電話を発明したグラハム・ベル。 そしてそれは事実であって、ケイはみんなの前で珍しくも(ひょっとしたら滅多に見られない姿かも?)怒って、不満を口にし、ふてくされている。 「落ち着きなさいな」 「落ち着いてるっ!」 「そうかしら」 「デイジィはなんとも思わないの?!」 「いいアイデアだと思いますわ……あなたが口を尖らせるから毒っ気を抜かれたのよ」 わたくしはドナルド・ダックのようになったケイの口を指でつまむ。 「じゃあ、そうしましょう」 そのまま彼女を黙らせて、カチューシャに向かって微笑んだ。 「いいのかぁ?」 「大丈夫よ」 心配そうにする安斎さんに、わたくしは苦笑する。 ケイがご機嫌斜めになるのはないわけではない。彼女だっていつでも上機嫌なパーティ・マシーンではない。それでも彼女は切り替えが早く、すぐに気を取り直して新たな未来に向けて進むことのできる女性だ。
1 17/09/15(金)23:12:30 No.453162611
わたくしはそう思っていた。 少なくとも、そのときは。 事の起こりは九月の真ん中くらい。 風が涼しくなって秋の気配がしてきたころ。外を歩くのに一枚羽織ろうかな、となってブティックに新しいカーディガンを探しに行った後のこと。 その時はいつもの六人で行ったのだが、帰る前に一休みすべく喫茶店に入った。チェーン店で紅茶はいまひとつだったが、楽しむべくは紅茶の味ではなく友人との語らいとその時間である、ということを、わたくしは学んでいた。味も良ければ言うことはないけれど、それはアパルトマンに帰ってからケイに淹れてもらえばよい。 「誕生日、あるじゃない?」 と、言い出したのは我らが暴君カチューシャだ。 彼女はいつものようにロシアンティーを注文し、わたくしと同じように味に注文をつけながらそれを音を立ててすすっていた。 「わたくしの?」 「ダージリンもだけど、チョビも」 「いい加減チョビはやめてくれ」 「安斎の誕生日は覚えているぞ。九月二十三日だ」 「そりゃどうも」 「何よ得意げに! そのくらいカチューシャだって覚えてるわ! だから話に出したんじゃない」
2 17/09/15(金)23:12:45 No.453162669
「楽しみね!」 ケイがアイスコーヒーの氷を噛み砕きながら笑った。 「秋はパーティがいっぱい! デイジィのお誕生日に、チョビの! ハロウィンもあるし、それからぁ……」 「それなんだけど」 指折り数えるケイを制して、カチューシャが椅子の上に立ち上がった。 「待って、待ちなさいケイ。パーティが多すぎるって話よ」 「ホワイ?! パーティが多くって困ることなんてある?」 「たくさんあるわ! プレゼントも! お料理もいっぱい!」 「最近ちょっと太りましたからね」 「余計なこと言わないで! いーい? ハロウィンだとかはいいわ。でもお誕生日は近いんだし、合同でやることにしない?っていう話よ!」 カチューシャは一気にまくしたてると、どすんと再び椅子に腰を下ろした。 なるほど。言われてみればそれもそうだ。 わたくしは考える。 パーティが連発することを面倒に思わずむしろ楽しみに思っていたわたくしがおかしいのだ。おかしくなっていると言うべきか。パーティ疲れで苛ついていた昔が嘘のよう。 「でも……」
3 17/09/15(金)23:13:01 No.453162751
ケイは口を尖らせる。 「それじゃ、いつやるの? 来週の十七日? それとも一週伸ばして二十三日?」 わたしは十七がいいなぁ、とケイが口の中でもごもごと言うが、これを大きく言わない分別がケイにはあったらしい。十七日はわたくしのお誕生日だ。 「ダージリンだって嫌でしょ?」 「わたくしは……」 急に水を向けられて、わたくしは紅茶を口に運んで間を取った。 そりゃあ、誕生日に誕生日を祝いたい。お祝い事、パーティとは楽しいものである、ということはわたくしだって知っている。しかし、カチューシャの言うことにも一理あると感じた。 パーティが頻発してそれぞれが軽くなってしまうのも面白くない。祭りはたまにがいいのだ、とは誰だったかしら? 「わたくしは、反対しませんわ」 「ええーっ!!」 「だってケイ、来週は火曜日から試合よ? フィンランドのチームをお招きしての練習試合。忘れたの?」 「覚えてるわよ」 「それなら、試合も日程も終わって再来週にぱーっと打ち上げも兼ねて盛大にやっていただくのも悪くないわ」 「また兼ねた!」 ケイが両手の拳を作って上下に振る。
4 17/09/15(金)23:13:18 No.453162837
「デイジィのお誕生日も、チョビのお誕生日も、練習試合の打ち上げも、ぜんぶやればいいじゃない!」 「わがまま言わないで」 わたくしはケイの肩に手をおいて、それからみんなに向けて肩をすくめてみせた。 「みんなもう上級生よ。忙しいの。あなただってそうでしょう? みんなあなたと同じ気持ちだわ。お祝いしたいしお祝いされたいの。でもこの提案はみんなにとってプラスになる提案だわ」 「でも……」 「楽しみにしてる。ね? 仕切りはカチューシャがやってくれるんでしょう?」 わたくしがそう言うと、カチューシャは胸をそらしてフンスと鼻を鳴らした。 「もっちろんよ! 大きいところを借り切って、おーっきくやりましょう? なんでもボリショイがロシア式よ!」 「それは楽しみだ」 まほさんが頷く。彼女はそもそもパーティの規模にあまり興味はないのだろう。カチューシャはうっと緊張するが、その反応すら意に介さない。 「でもでも……わたし、それぞれ……」 「落ち着きなさいな」 「落ち着いてるっ!」 ケイが青い目に涙を浮かべて顔を真っ赤にした。 「そうかしら」
5 17/09/15(金)23:13:33 No.453162921
「おい、大丈夫かぁ?」 安斎さんがこっそりわたくしに囁いて、わたくしは苦笑して頷いた。 ケイは納得してくれるはずだ。 ◇◆◇ ところがそれからの一週間、ケイはずっと押し黙ったままだった。 ぷっと不貞腐れて、子供みたいに不機嫌を隠そうとしない。 わたくしは流石に困り果てた。 「ケイ、コーヒーなんかどう?」 「のむ」 「今夜は奮発してチャリングクロスのレストランなんてどうかしら」 「おいわいでもないのに?」 「ええっと……さっき波戸村さんのチーフが転んでたわ。だから、ねころび記念日ってところで手を打たない?」 「じゃあいく」
6 17/09/15(金)23:13:51 No.453163017
ケイのふくれっ面は最初は珍しくて、なんだか楽しかった。 でもそれが数日続くと呆れてくる。 子供じゃあるまいし! どれほどパーティを楽しみにしていたか知らないけれど、本人のわたくしがいいと言っているのだから、納得して欲しいものだ。そりゃ私だってお誕生日の延期は残念だ。でもそれはわたくしのことであって、ケイのことではないだろうに。 不機嫌が伝染したかのように、我がアパルトマンはひどく静かになってしまった。 これは良くないわ、とわたくしは思う。 いつもは賑やかなケイがどんよりとしている。 それはわたくしのそう長くない共同生活においても違和感だった。 彼女が自分の意志で不機嫌になっているならいい。しかしそうではないことはわたくしから見てもなんとなく解った。彼女はなんとかして気分を変えようと努力している。朝のジョギングコースを変えてみたり、寝る時間を変えてみたり、わたくしが出す外食やお買い物の提案には不機嫌ながら乗ってきてくれた。犬好きながら猫にブラシをかけてみたり、珍しくも観葉植物の世話をしてみたり。壁に銃を撃たなかったのは褒めてあげたい。
7 17/09/15(金)23:14:07 No.453163090
しかしそれでもなお、ケイのご機嫌は上向かなかった。 それほどパーティが楽しみだったのだろうか。 わたくしはとうとうしびれを切らして正面から問いただした。 「ねぇ、ケイ。あなたが努力してることは解るから責めたりしないわ。でも、そんなにパーティが楽しみだったの?」 ケイは珍しくデスクのパソコンでインターネットで動画を眺めていた目を上げて、それからぎぃっと椅子を鳴らした。 「……どうだろう。多分そうなんだと思う」 「でもパーティはたくさんするじゃない」 「たくさんじゃないよっ!」 わたくしが言うと、ケイは思い出し怒りのようにぷっとふくれて、それからもう一度椅子の背もたれに体重を預けて前髪をかきあげた。 「そりゃ、パーティは好きだけど……でもね、その……」 「なぁに?」 言いよどむケイを、わたくしはついいらいらと促す。彼女は立ち上がってぱたんとノートパソコンの画面を閉じると、本棚から読み飽きた戦車道の教本を一冊取ってわたくしの後ろを通ってドアに向かった。 「だって」 去りざま、自分でも戸惑っているような声でしょんぼりと言う。 「あなたのおたんじょうびだったんだもん」
8 17/09/15(金)23:14:23 No.453163167
ケイはぱたぱたと上の階の自室に行ってしまい、わたくしはひとり、アパルトマンのリビングに取り残された。 それから数日、わたくしはまことに忙しい日を過ごした。 翌週からの国際練習試合は、我らが大学選抜チームにとっても重要な試合だから、練習にも熱が入る。 いまさら基礎練習はいい。もっと相手を想定したフォーメーションや戦術、作戦レベルでの練習を行う。フィンランドのチームはその即応性こそが華だった。裏をかき、奇襲する。それならば日本戦車道チームとしてはその強みを殺しにかからねばならない。きちんとした陣地を構築し攻めさせる場所を限定し、受けて殺すのだ。戦車道は戦争と違い、どちらかが勝たなければならない。ずっと守っていられないので、数両を撃破した後包囲殲滅戦に映る必要があるだろう。そのタイミングは、指揮を執る西住まほに任される。 わたくしはその試合では火力中隊の中隊長を任ぜられていた。ケイは全体を把握する大隊長で、部隊のナンバーツーにあたる。参謀長に安斎さん、遊撃し釣りを任務とする小隊を率いるのはミカさんで、敵を食い止める防御陣地を構成するのはカチューシャの中隊だ。
9 17/09/15(金)23:14:38 No.453163236
本調子ではないとはいえ、ケイはきちんと任務をこなした。及第点以上の活躍で、練習中はなんの心配もない。 しかし、練習が終わると電池が切れたようになってしまって、そそくさとアパルトマンに帰るのだった。 「隊長、どうしたんですか?」 と、アリサさん。ここで言う隊長とはまほさんやわたくしのことではなく、ケイのこと。彼女とナオミさんのスーパーパーシングは我が火力中隊の要石だ。 「ちょっと、ね。本番には万全になるよう努力いたしますわ」 「喧嘩でも?」 「そうじゃないんだけど……」 わたくしははぐらかした。 わたくしは戦車道の練習の他に、やることが山積していたのだ。 まずは、お料理の手配。これは自分でも作れるようにあれこれとレシピを確認しつつ、メインは大人しく大家の波戸村夫人にお願いした。これは非常に困難で恥ずかしいことだったが、わたくしは不断の勇気でこれを完遂したのだ。 「あの、九月十七日に、ちょっとお料理を作って欲しいのですけれど」 「いいけど、なんの日?」 「その……わたくしのお誕生日ですの……」
10 17/09/15(金)23:14:55 No.453163334
これは恥ずかしい。自分のお誕生日パーティの準備を自分でするというのはなんとも気恥ずかしいものだった。 そう。わたくしはケイのために、わたくしのお誕生日のサプライズパーティを計画したのだ。 「あべこべだわ!」 自分の寝室でこそこそと部屋の飾りつけ用に色紙を刻みながら、わたくしはなんだかおかしくなってしまった。笑い出したい気持ちを抑える。 「自分のお誕生日パーティで、ケイにサプライズですって!」 そういえば昔、一度だけこんなことをしたことがあった。 妹が生まれて両親が彼女にかかりきりになった時、わたくしは自分のために自分のお誕生日パーティを計画し、そこに両親と生まれたばかりの妹を招待したのだ。 色紙で飾ったお部屋に、両親はおおきなぬいぐるみを抱えて入ってきて、びっくりしていたっけ。彼らは別にわたくしのお誕生日を忘れたわけでも何でもなかったのだが、わたくしはなんだか世界からひとりぼっちになった気がしていたのだ。 「ふんふん」 わたくしは幼い自分に、今のケイを重ねた。
11 17/09/15(金)23:16:29 No.453163864
彼女がわたくしのためにパーティを開くことを本当に楽しみにしていて、それはきっと他のパーティとは彼女の中で全く違うものだったのだろう。 それくらい、彼女はわたくしを大事に思ってくれているのだ。そしてそれがスポンとなくなって、しかも当のわたくしがあっさり手放してしまったから、彼女は心の置き場に困っているのだ。 ひょっとしたら前からの何らかの計画があったのかもしれない。 カチューシャはケイよりもわたくしとの付き合いは長いから、ひょっとしたらそれを飲み下せなかったのかもしれない。 いずれにせよ、わたくしはケイにサプライズを仕掛けることを楽しみ始めていた。 いつもケイはサプライズする側だ。 わたくしと協力するにせよ、一人でやるにせよ、人を楽しませることが好き。 「それにしたって」 わたくしは黄色い星を作って、それに赤いマジックでハッピーバースデー、と書くと、ちょっとためらってから書き足した。 「あべこべですわ!」 ハッピーバースデー・ダージリン! ◇◆◇ さて、その日は日曜日だったので、わたくしはケイが朝のジョギングに行くのを見計らって、大急ぎで部屋を飾り付けた。
12 17/09/15(金)23:16:46 No.453163948
ケイが戻ってくるまで、いつものコースならおよそ三十分といったところだ。 事情を知っている波戸村夫人が、ほかほかのミートパイやフィッシュフライを持ってきてくれる。わたくしも、昨夜の間にこそこそと手作りしていたチーズケーキを冷蔵庫から取り出した。箱に入れて隠してあって、不断のケイなら「これなーに」と聞いただろう。 両面テープで星をあちこちにつけて、わたくしはちょっとかわいらしいフリルのついた服に着替える。ブランドのかっこいいものではなくて、パステルカラーのかわいいもの。普段は着ないけど、手作りお誕生日パーティの主役にはちょうどいいだろう。 クラッカーを準備したが、これはわたくしは鳴らさない。そりゃあそうだ。主役が鳴らしてどうする。 二人がけのソファはちょっとテーブルから遠ざける。ルンバさん、あなたはもうしばらくひっくり返っていてくださるかしら? 秋口の朝の涼しい風を部屋に取り入れると、ほかほかのお料理のいい香りがふわっと舞い上がった。 「それじゃ、ごゆっくり」 波戸村さんが含み笑いを残して、猫を抱いて階下に戻っていく。 「あとで来てください」 「もちろん」
13 17/09/15(金)23:17:04 No.453164041
それからわたくしは、窓の外を監視した。手鏡を使って通りを見る。ジョギングウェア姿のケイがゆるゆると流して走りながら、石畳の通りを公園の方から戻ってくるのが見えた。 わたくしはさっとソファに座って、すこし顎をそらして、お祝いされる準備をする。 きっと彼女はまずシャワーを浴びるだろうから、このリビングに入るはずだ。ちょっとしょんぼりした感じで。なにせ今日は当日。なのにパーティは先延ばしだったのだから。 ところがそこにあるのは見事なパーティ会場で、主役である所のわたくしがこうして座っている。 察しのいい彼女だもの。すぐに意図に気づいて、それから飛び上がってお祝いしてくれるに違いないわ。戸惑うかしら? ケイはサプライズをやりなれてるけど、されなれてるわけではないから。 わたくしはそんな絵を想像しながら、階段を上がってくるケイのスニーカーの足音を聞いていた。 ところが、その足音はリビングを素通りして三階のケイの寝室に消えていってしまう。 「あら?」 わたくしは首を傾げて立ち上がった。
14 17/09/15(金)23:17:19 No.453164098
おかしいわ。なぜ彼女は自室に引きこもってしまったのかしら。ひょっとしてパーティがないことが残念すぎて、シャワーを浴びる気にもなれなかったのかしら? わたくしは不安になる。なんだか一人で空回りした気分になって、居心地が悪い。 結局こうしてパーティするなら、サプライズじゃなくて相談すればよかったかしら。 そわそわしながら、わたくしはドアの前を行ったり来たりした。 呼びに行こうかしら。それとも電話をする? 数分までは待たなかったろう。すぐに上からとんとんという足音が聞こえて、わたくしはほっとした。 心なしか足音がうきうきしているようで、なんとなしに聞き入ってしまう。 それがいけなかったのか、わたくしはソファに戻ることを忘れて、ドアを開けたケイの鼻先数インチで鉢合わせしてしまった。 「あ、あら……えぇと、ごきげんよう」 「ごきげんよう、ダージリン……何やってるの?」 「何やってるのとはご挨拶ね!」 わたくしは照れ隠しに膨れて見せてからぱっと離れてケイにリビングを披露する。 「アー。これは?」 「お誕生日パーティですわ」 「誰の?」
15 17/09/15(金)23:17:36 No.453164184
「……わたくしの! ハッピバースデー・トゥー・ミーよ!」 言わせないでっ! と言いながら、わたくしはおどけて地団駄を踏んで見せる。 「あれ? 来週じゃ……」 「そうよ。でも別に二人でお祝いしたっていいでしょう? 幸いある日には楽しめ、災いある日には考えよ、神はこの二つを相交えて下し給う」 「どうして……」 「わたくし考えましたの。あなたがお祝いをしてくれようとするのはとっても嬉しいことだわ。きっと、その、自惚れても良ければ、わたくしのお誕生日じゃなければあんなに食い下がらなかったでしょう? あなたは合理的な女性ですもの。それでね、わたくしも、あなたにお祝いしてほしくなったの。大事な日を、その、大切なあなたと過ごせることをね」 ケイが目をぱちぱちする。きっと飛び上がって喜んでくれると思っていたのだが、彼女の反応は少しだけ違った。 「あら、ど、どうしましたの?」 ケイの青い目からぽろりと涙がこぼれて、彼女は慌ててそれを拭った。 「ご、ごめんね、その、びっくりして」 「サプライズですもの」 「あべこべね」 「そうですわね」 「実はね、これ……見て」
16 17/09/15(金)23:17:52 No.453164299
ケイは後ろ手に持っていた十五インチくらいの猫のぬいぐるみを取り出して、わたくしに見せてくれる。それは黄色い毛糸で髪の毛を付けられた白い猫ちゃんで、目は青いビーズ。それから、わたくしのお気に入りのブラウヅによく似た服を着ていて、足の裏には09と17という刺繍がされていた。首元にはほっと不格好であまり似てはいないけれど、でもわたくしとケイにははっきりそれとわかる、針金を曲げて作ったらしい翼の意匠のネックレスがかかっている。 「これは?」 「あのね、実は、前から作ってたの」 「こっそり?」 「びっくりさせたくって。今年のお正月くらいに、あなた、ミホのボコ、見てたでしょ?」 「あぁ……」 「わたしもあなたも、妹がいるじゃない? かわいいおもちゃってあんまり持ってないって話てたでしょ? お誕生日にもらったきりだって」 「よく覚えてますわね」 確かに話した。なんでももらえる末っ子の時代はあまり長くはなかったと、同病相憐れむで笑い話にした記憶がある。 「あなたのことだもん……それで、そのちょっとあとですっごくかわいいの見つけたから、これをダージリンにあげようと思って」
17 17/09/15(金)23:18:08 No.453164402
「服も?」 「服は作ったの。アッサムに教えてもらって」 「まぁ」 アッサムの情報統制は完璧だったというわけだ。 「それでね、刺繍もしたから、これはどうしても今日渡したくて」 「ありがとう。嬉しいわ」 「よかった」 ケイはぐすぐすと鼻をすすって、真ん中にぬいぐるみを入れてわたくしを抱きしめる。 「ごめんね、ここ数日、わたし、悪い子だったわ」 「そんなことないわよ」 「気を使ってくれたんでしょ?」 「違うわ。わたくしがこうしたかったの」 「ずっと楽しみにしててね。あなたとあなたのお誕生日をお祝いしたくて。特別な日だから。でもそれをあっさり順延って言われて、わかってるけど、その、心の整理ができなかったの」 ケイが湿っぽい吐息を肩にあてて、わたくしは彼女のジョギング上がりで汗の匂いのする金髪をなでた。 「ごめんね」
18 17/09/15(金)23:18:45 No.453164586
「とんでもない!」 わたくしはなんだか嬉しくなる。 つまりこの素敵な親友は、自分を制御できなくなるくらい、わたくしのバースデーを祝うことを楽しみにしていてくれていたのだ。 こんな素敵なことってないわ! 「さぁさぁ」 わたくしは彼女を引き剥がして、左手でぬいぐるみを抱いたまま彼女の肩をぽんぽん叩いた。 「その特別な日を涙で過ごすつもり? さぁ始めましょう! クラッカー、クラッカー持って! そうそう。あ、写真撮ってみせびらかしましょうか。ほらほら、笑って! でもわたくしより目立っちゃダメよ。今日はわたくしが主役なんだから!」 わたくしはソファの上に立ってケイのクラッカーを浴びてから、その紙テープを残したまま彼女と写真を撮った。 ハッピーバースデー・わたくし! あなたは、この世に望まれて生まれてきた、大切な人。 ――マザー・テレサ
19 17/09/15(金)23:19:17 No.453164719
su2024707.txt てきすとー ダー誕、台風で伸びてチョビと合同だってね
20 17/09/15(金)23:20:15 No.453164988
もう添い遂げろよ!
21 17/09/15(金)23:22:23 No.453165679
kawaii…
22 17/09/15(金)23:22:46 No.453165784
>ケイが両手の拳を作って上下に振る。 これ絶対目瞑ってブンブンしてる…可愛い…
23 17/09/15(金)23:26:08 No.453166828
いい……
24 17/09/15(金)23:26:25 No.453166910
>ねころび記念日 あらかわいい
25 17/09/15(金)23:27:19 No.453167194
キテル!
26 17/09/15(金)23:29:04 No.453167922
いい...
27 17/09/15(金)23:29:48 No.453168196
>ダー誕、台風で伸びてチョビと合同だってね ダーチョビは新たな可能性だね…
28 17/09/15(金)23:30:39 No.453168503
23日はぱんっあとかゲームショウとかあるからまあ分かれて1000人くらいになるんじゃないかな合同誕生日
29 17/09/15(金)23:33:43 No.453169622
これでこの二人付き合ってないんですよ? 信じられますか?
30 17/09/15(金)23:34:15 No.453169767
付き合ってないと言ってるだけでもう結婚しているようなもんじゃん!
31 17/09/15(金)23:35:30 No.453170084
もう熟年夫婦みたいなもんじゃないすか
32 17/09/15(金)23:35:57 No.453170231
お互いに相手にプロポーズされるまでは絶対に自分から切り出さないケイダジちゃん
33 17/09/15(金)23:37:45 No.453170704
ダー様の誕生日って明後日だっけ 台風直撃しちゃうのね
34 17/09/15(金)23:39:04 No.453171262
さすがのダージリン様もお天道さまにはかなわなかったか
35 17/09/15(金)23:39:29 No.453171361
キテル…
36 17/09/15(金)23:41:13 No.453172027
これ絶対カッちゃんがムキ―!!ってなるやつや…
37 17/09/15(金)23:44:32 No.453173250
地団駄というとエリカダンスと桃ちゃんダンスだがここにダージリンダンスが加わるのか…
38 17/09/15(金)23:44:51 No.453173343
インスタで二人のパーティナイトをあげちゃってカチューシャが怒ってまほチョビナオアリアッップがやれやれしてケイダジが幸せなキスをしておしまい
39 17/09/15(金)23:48:43 No.453174301
結局の所つまりはこういうこと 一人で抱え込んでちょっと空回ったりする女の子は可愛い
40 17/09/15(金)23:49:42 No.453174506
ふたりともお姉ちゃんだし
41 17/09/15(金)23:50:11 No.453174621
普段振り回される事が多いダーが余裕あるのと 大体いつも元気なケイがしおらしくやってるのいい…
42 17/09/15(金)23:50:38 No.453174714
あのおケイさんが一人に対してだけは重くなっちゃうのいいよね…
43 17/09/15(金)23:51:41 No.453174938
いつもの6人中4人がお姉ちゃんだ カッちゃんは一人っ子でノンナさんは…情報あったっけ?
44 17/09/15(金)23:52:23 No.453175096
ノンナさんはカチューシャ日記つけてる以外私生活および家族構成などは不明な女性
45 17/09/15(金)23:54:46 No.453175606
交友関係は まほチョビ ノンカチュ アッップ ナオアリ かな たかひなとかエリカとか出てきてたっけ
46 17/09/15(金)23:55:46 No.453175820
エリみほは出てきたと思う
47 17/09/15(金)23:58:05 No.453176298
あべこべすぎる…かわいい…
48 17/09/15(金)23:58:10 No.453176327
エリみほはお姉ちゃんが安斎囲ったせいで家元に保護頼まれて同居してるな
49 17/09/15(金)23:58:14 No.453176337
>カッちゃんは一人っ子でノンナさんは…情報あったっけ? 知らない方がいい事もあるって提督も言ってた
50 17/09/15(金)23:59:48 No.453176675
>お姉ちゃんが安斎囲った ひとぎきのわるい どうせいだ どうせい
51 17/09/16(土)00:00:28 No.453176821
同棲てお前…いや間違ってはないんだが……もうちょっと言い方を…
52 17/09/16(土)00:00:35 No.453176846
ヒラリーやベネットがぐぬぬ…ってしそうだよぉ
53 17/09/16(土)00:01:55 No.453177106
ミカアリはどうだったっけ…
54 17/09/16(土)00:02:41 No.453177278
その頃お姉ちゃんはカレーのレシピを必死に勉強してるよ
55 17/09/16(土)00:04:00 No.453177588
いいよね…ルーズリーフに書かれたあんざい直伝のやさしいレシピ…
56 17/09/16(土)00:04:17 No.453177632
安斎の人形を紙粘土でつくりながら…
57 17/09/16(土)00:04:31 No.453177696
お姉ちゃんは自信満々にチョビの誕生日間違えそう
58 17/09/16(土)00:05:01 No.453177803
su2024796.png あんざいのレシピいいよね…
59 17/09/16(土)00:05:46 No.453177984
お姉ちゃんじゃないよしてたと思う 卑劣な落とし穴にはめられた愛里寿ちゃんとカッちゃんの仇を取る為にミカノンでマシンガン雪玉マシーンしてたな… でもこのセルフお誕生日の写真ってあれだな ちょっと汗かいてるおケイさんと一緒に写ってるんだな ちょっと邪推できそうですね
60 17/09/16(土)00:06:46 No.453178231
(わたしがかれーをつくれるようにならないと安斎が安心して教しになれないんだ…)
61 17/09/16(土)00:07:52 No.453178484
お前は漢字も使えるようになったほうがいいな…
62 17/09/16(土)00:08:07 No.453178546
それはもうてんだった…
63 17/09/16(土)00:08:14 No.453178565
プロになってからまた食生活壊滅的になってたのに…
64 17/09/16(土)00:08:54 No.453178713
お姉ちゃんが引退するころにはまた安斎が同居してくれる
65 17/09/16(土)00:09:27 No.453178836
>su2024796.png いい…ちょっと泣きそうになる程いい…
66 17/09/16(土)00:10:52 No.453179130
40半ばでふたたび始まるまほチョビ同居生活…
67 17/09/16(土)00:11:04 No.453179182
>お姉ちゃんが引退するころにはまた安斎が同居してくれる お手伝いさんだこれ…