ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
17/08/26(土)23:06:51 No.448888885
ガルパンSS 【良く聞いて、あなたは私の白馬の騎士なのよ。】
1 17/08/26(土)23:07:06 No.448888976
-1- 逸見エリカは熊本の裕福な家庭に次女として生まれた。 由緒ある家という訳ではないが、事業に成功した祖父と優秀な入り婿の父の収入もあって、その経済規模は西住の家と比較すると流石に大きく見劣りするが、平均水準を多大に上回っていた。 客観的に見てこの家庭は概ね理想的な家庭だったと言えるだろう。 夫婦間は良好な関係を維持し、親として二人の娘を良く愛していた。 姉も年の近い妹をとても可愛がっていた。 欠点を強いて挙げるなら、家族全体が少々この末女に対して甘過ぎるきらいがあったが、それも平穏な家庭の要素の一つとも言えるだろう。 しかし、それらが無条件の幸福を保証するかと言えば、そうとは限らないのも現実である。
2 17/08/26(土)23:07:44 No.448889174
ドイツ人である祖母の血が色濃くでたのかエリカは綺麗なプラチナブロンドの持ち主であった。 容姿も白人の血が流れている事が一目瞭然であり、彫りが深く端的に言えばアジア人離れした端正な容貌であった。 人間が集団になった時、異色の存在が加わると概ね二つの反応に分けられる。 即ち特別視して上位に置かれるか排他されるかである。 これは特に児童の間では顕著であり、大抵は後者のパターンに落ち着く事が多い。 つまり、被差別階級の対象として認識される事が割合的に多いといえる。 ところがエリカの場合はまず本人の資質が非常に高かった。 頭脳面は勿論、体力面でも同年代の男子相手にも引けを取らなかった。
3 17/08/26(土)23:08:13 No.448889350
子供の場合は様々な要素でカーストが決定されるが、この二つは"階級分け"に置いて重要な要素である。 であれば特殊な容姿も仮に特記たる能力も無く性格も内向的であれば減点要素であっただろうが、能力を示し性格も外交的であったエリカにはむしろ加点要素となった。 これによりエリカは幼稚園時代から集団の中で最上位の階級につく事に成功した。 この時はまだエリカの強い正義感も良い方向に働いていた時期であったといえる。 まだ大人の言う事を正しい指針としてのみ受動していた(それをどの程度真面目に受け取るかは個々に拠るが)事もあって、"正しい事"を通す者は一定の価値観の元で評価されていたからだ。 しかし、小学校に進学するとそうも上手くいかなくなってきた。 幼児に比べて飛躍的に聡くなるこの時期では大人の言う事は全面的に正しいものとして一方的に感受する物ではなく、自身等を拘束する不当な物と感じるようになっていく。 これは精神年齢が高くなった事により、思考の幅が広がり、独立心と自尊心が成立していく事に起因すると言えるだろう。
4 17/08/26(土)23:08:30 No.448889459
それでもまだ少なくとも表向きにはエリカは排斥されていなかった。 知性面と肉体面に置いて優秀であったエリカは小学校でもクラス内でも高い地位に置かれていた事もあって、彼女がリーダーシップを発揮して主導していく事は全員が受け入れていた。 しかし、ある時にエリカによって糾弾されてクラス中から非難の声を浴びせられながら憎憎しげな視線でエリカを見つめていた少年が、 別の機会にエリカが別の少女を注意していた時にそれに乗るように周囲と一緒にその少女を非難している光景はとてもではないが健全な状況と言えなかった。 ある日、エリカが珍しく忘れ物を教室にして取りに戻った時、既に皆が帰ったはずの教室から話し声が聞こえてきた。 それが聞こえた時、何らかの予想かまたは感によってかエリカはそっと足音を殺して聞き耳を立てた。
5 17/08/26(土)23:09:11 No.448889801
「何時までこんな事してなきゃならないんだろうね」 「この学校ってクラス替えしないからね……」 それは普段良くエリカと一緒にいる二人であった。 少なくとも学校生活において最もエリカと一緒にいる時間が長いクラスメイトである事には間違いない。 「もう疲れちゃったなぁ…」 「……逸見さんの傍にいればマシだと思ったんだけどね」 「台風の目こそ無風で一番安全だと思ったのに……」 ガンッという音が扉越しに聞こえた。 音の発生源から推測するに……それは恐らくエリカの座席が蹴られた音であっただろう。
6 17/08/26(土)23:09:41 No.448889957
「もう耐えられない…!」 「でも……今更離れられないよ…。 不自然に離れたらもっと目をつけられるかもしれないし…」 「……明日もまた逸見さんの傍で逸見さんの言う事に頷かないと…」 そこまで聞こえた時、逸見は忘れ物の事など失念して静かに後ずさりした。 「……逸見さんがこの学校に来なければ良かったのに…!」 その声と共に再びエリカの席が蹴られる音を背にしつつ、涙を流しながらエリカは足音を殺しながら去った。
7 17/08/26(土)23:10:11 No.448890124
エリカは家に帰ると何処か落ち込んだ様子に心配する家族の視線を振り切って自室に戻るとそのままベッドに飛び込んだ。 友人と思っていた存在に裏切られたから泣いている……そういう訳ではなかった。 その気持ちが無いといえば嘘になるだろう。割合としても確かに大きい。 しかし悲しみの原因を構成する割合ではなく基幹という点で言えばもっと別の気持ちがエリカを悲しみに導いていた。 驚き、そしてショックではあったが……同時にエリカは薄々と何処かで察していたのだ。 その高い知性面と精神性によって無意識に現状を推察と検証していたエリカは、自分を客観的に見る事もできた。 その結果、自分が恐らくは口煩い厄介な存在であると認知されているであろう事は十分ありえる事であると自分でも認めていたのだ。 エリカが正しいのは間違いない。 それはエリカのみならず疎んでいる側も理解している事である。 しかし、正しいという事が常に歓迎されるかというと話は別である。
8 17/08/26(土)23:10:38 No.448890259
誰が言ったかは不明であるが、少なくともこのエリカの状況に置いて真理であっただろう。 それでも確認しなければ不明のままであった。 世界は自分の主観によってのみ描写されるのだから、自分の知らない所は存在しないも同義である。 であればエリカが真実を探索しようと、箱を開けて事実を確定させなければエリカにとってみれば可能性は波動の揺らぎを抱えたままであった。 しかし、今エリカは箱を開けてしまい、恐れていた現実という悪魔を開放させてしまった。 これがパンドラの箱であればラプラスの悪魔だけを箱のそこに残して"不確定性原理"という希望が残ったであろうが、残念ながらエリカが開けた箱は現実を確定させるシュレディンガーの箱であったのだ。
9 17/08/26(土)23:10:54 No.448890334
無論、結果のみならずそれに至るまでの過程と原因も察していたのだから、幾らでも改善の方法は見出せていた。 最もシンプルかつ効果的な方法は当然ながらエリカが口煩くする事を辞めれば良い。 それはエリカも重々承知していた。 しかし、幾らそう心がけていても、いざそういった場面に直面するとどうしても口にだしてしまうのだ。 エリカ自身はこの性分を自分でも疎んでいたが、自分の性格の短所を自覚したからと言って簡単に改善できれば人間はそう苦労はしなかっただろう。
10 17/08/26(土)23:11:12 No.448890416
それ以降、エリカは少しずつ態度が変化して言った。 例えば学校についての家族との会話「友達が~」と表現していたのを「クラスメイトが~」「同級生が~」と表現するようになったり等である。 ……そう、エリカは友達が欲しかったのだ。 しかし、エリカが(本人としては)気軽な態度で取る様に臨んでも、もはやクラスメイトはエリカをそういった存在として認識していなかった。 別に表立って排斥されたり苛められたりされた訳ではない。 むしろ、依然としてエリカはカーストの中でトップに君臨していた。 エリカが遊ぼうと声をかければその子は他に何をしていてもエリカとの遊びを優先させた。 エリカが何かに誘えば誰かに断られる事はなかった。 それでもエリカからすれば友達としては見れなかったのだ。 何故なら、別の人間と楽しそうに話している時と自分が話しかけた時を比べて、口に出す言葉や態度は大体同じであっても、その表情と目が違っている事がエリカには解ってしまっているのだから。 ……実際、相手からしてもエリカを友達とは見ていなかっただろう。
11 17/08/26(土)23:11:29 No.448890495
-2- 夏休みに入るとしばらくの間、エリカは祖父の家に泊まる事になった。 これは原因を明確には察していなかったが、エリカが何処か気分が暗くなっている事に気づいた両親が気分転換にと薦めた事であった。 エリカ本人も祖父も祖母には懐いていた事もあってこれには了承した。 両親は車で送ると言ったが、エリカは交通機関を使って一人で行きたいと主張した。 これには思春期特有の自立心と独立心からくる物であったが、同時にエリカ自身の人に頼らない気質もあっての主張だっただろう。 娘を溺愛しているといってもよい両親はこの案に不安を示したが、同時に娘に甘いといってもよい両親は最終的にこれを許した。 初めて一人で交通機関を利用して遠出するという行為は冒険心を感じさせ、エリカの気分を若干ではあるが晴れさせる効果があった。
12 17/08/26(土)23:11:47 No.448890605
青い空の中で僅かだがくっきりと白く存在を主張する雲が疎らに散らばる晴天の下で、エリカは日差しを麦藁帽子で遮断しながらも汗を流しつつエリカは祖父の家にたどり着いた。 エリカの祖父は経済的成功者の家なだけあって、平均よりはかなり広いであろうエリカの家を更に上回る広さを持っていた。 木造の古風とも言えるが決してボロさと古臭さは感じさせず、趣きと落ち着きを感じさせる家であった。 エリカは家を囲む高い塀の周囲をぐるりと回り、大きな門にたどり着くとその横にある人が出入りする為の小さな門についていたインターホンを鳴らした。 『何方様でしょうか?』 「こんにちわ、エリカです」 『まぁまぁ、お待ちしておりました! 旦那様も奥様もお嬢様のご到着を楽しみにしてましたよ! 少しお待ちくださいね』 しばらく待つと門が開き、そこには予想していた使用人の姿ではなく、満面の笑みの祖父と祖母が自ら可愛い孫娘を迎えに来ていたのを見てエリカは若干の呆れを見せていた。
13 17/08/26(土)23:12:07 No.448890689
エリカが懐いているように、祖母もこの異国の地で自分の血を一番色濃く受け継いでいる孫娘を溺愛しており、祖父も自分の愛する妻の面影を一番感じさせる孫娘を愛していた。 初日に豪勢な山の珍味によって大歓待を受けたエリカはこの静かな地で普段からは考えられないほどゆっくりと過ごしていた。 たとえ休みでも自宅ではこの様にだらりと何もしないで寝そべっている事などした事もないだろう。 この遠く離れた静かな田舎がそうさせるのかエリカは久方ぶりの休養を取っている気分であった。 そんなエリカに祖母も祖父も少しは外にでてみてはどうか?等といった言葉は一切投げかける事は無く、起きたい時に起きて寝たい時に寝るというエリカを何時までも好きな様にさせていた。
14 17/08/26(土)23:12:25 No.448890763
そうして数日ほど過ごしているとエリカの中で溜まっていた疲れが解消されたのか、外に遊びに行こうと思い立った。 それを告げると祖父母はやはりにこりと笑ってここに来た日に被っていた麦藁帽子を出してくれて、何時の間に用意したのかエリカの寸法丁度の白いフリルが沢山装飾されたワンピースを着せてくれた。 そして「暗くなる前に帰ってくるんだよ」とだけ告げて幾らかのお小遣いを持たせて見送ってくれたのだった。 服の趣味に関して学校の"友人"達には公言していないが、こういった少女趣味の服装をエリカは好んでいたし、家から持ってきた白いウサギのヌイグルミを抱え込んでみるとよく似合っていた。 この新しい装いで外を久々に出歩く事は大きくエリカを高揚とさせた。
15 17/08/26(土)23:12:44 No.448890865
日差しがちらちらと降り注ぐ中をエリカはどこまでも続く田園の風景の中を歩いていた。 汗が全身から滲み出ていたが元々活発的であったエリカは久方ぶりに体を動かした事もあってそれすらも心地良かった。 そうして歩いているときゅらきゅらと何かが近づいてきた。 それは巨大な……いや、実際には"ソレ"はむしろカテゴリー的には小さい方であっただろう。 しかしまだ幼いエリカにとって始めて目にした"ソレ"は力強く、重厚で、巨大な物と目に映った。 眼前を横切る鉄の塊をよく見ると子供が……自分と同じ年代の子供が二人乗っていたのだ。 ある意味では戦車道の本場ともいえる熊本に住んでいるだけあって、エリカも知識としてはソレがなんであるかは知っていた。 ただ本や伝聞だけで知りえた知識のとは違い、いざそれを直接目にすると、エリカは圧巻されてしまったのだ。
16 17/08/26(土)23:13:04 No.448890957
エリカはつい昔までは自分らしく思うままに自由に生きてきたと思っていた。 しかし、実はそうではなく、自分を殺して周囲が求める理想像を演じていた事を最近理解した。 しかも、それすらも求めておきながら疎ましがられていたのだ。 エリカはもはや自分らしく生きるという事が解らなくなっていた。 いや、より正確に言うのならば自分らしいということが解らなくなっていたのだ。 そんなエリカの前に自分の理想する生き方を体現したような存在が現れた。 どんな障害にも負けず、大きく思うがままに直進していく鋼鉄の塊を……。
17 17/08/26(土)23:13:46 No.448891155
「貴方!子供だけで戦車を動かしちゃいけないのよ!」 つい口から出た言葉にエリカは瞬時に後悔した。 本当はこんな風に喧嘩腰に声をかけるつもりは無かった。 戦車には興味があったし、できればお願いして載せて欲しかった。 また、この見知らぬ土地で始めてであった同年代の子供である。 それも初対面で学校の同級生の様にしがらみが無く、エリカに対して悪印象がある訳ではない存在だ。 できれば仲良くなり、そして友達になってほしかった。 ところがエリカの生来の"癖"がついついマウントを取る様な発言をさせてしまったのだ。 二人の(……容姿からでは性別の判別がつき難かったが、格好からして恐らくは)少年達はエリカの発言に互いに顔を見合わせた。
18 17/08/26(土)23:14:05 No.448891253
きっと嫌われただろう。 誰が好き好んでこんな面倒臭い奴とかかわるだろうか。 そう思いながら内心で自嘲していると、片方の活発そうな男の子がキューポラから降りると 「ほら、一緒に乗ろう!」 と笑顔と共に手を差し出してきたのだった。
19 17/08/26(土)23:14:24 No.448891338
「……戦車に乗りたかったんだよね?」 「だ、誰が!」 「一緒に乗ろう!ね!」 「……」 エリカはおずおずと手を取ると、少年はエリカをキューポラに引っ張り挙げた。
20 17/08/26(土)23:14:45 No.448891432
「……うわぁ」 普段見る視点よりはるかに高く、そして遥か遠くまで見渡せる。 始めて戦車の上からみる光景にエリカは感嘆の声を自然に漏らしていた。 あの遠い空でさえ、現実的には僅か何メートルか近づいただけだろうに、エリカには手を伸ばせばあの白い雲ですら掴み取れそうな錯覚を覚えていた。 「じゃあ、パンツァーフォー!って言ってみて」 「ぱ、ぱんつぁー?」 「パンツァーフォー!戦車前進って掛け声だよ」 「ぱ、パンツァーフォー!」 エリカがそういうなり操縦席にいたもう一人の少年がペダルを踏み込み、戦車はエンジンから猛音を奏で、振動と共に力強く動き出した。
21 17/08/26(土)23:15:08 No.448891548
「……うわぁ!!」 エリカは先程と同じ様な、それでいてより心の底から漏れた様な声を出した。 見渡すような視点の高さ、風を感じながら移動する爽快さ。 まるで今まで感じていた悩みが馬鹿馬鹿しくなるような瞬間だった。 自分の理想の生き様と感じていた戦車の力強さ。 今まさにそれと同体になっている。 エリカは何処までも行ける様な万能感を感じていた。
22 17/08/26(土)23:15:25 No.448891636
「……ね?戦車って楽しいでしょ!?」 ふと隣を見ると自分の手を引っ張ってくれた男の子がニコニコしながら此方を見ていた。 エリカは子供っぽい部分を見られたと恥ずかしくなり顔を赤くしたが……その子の邪気の無い笑顔を見て何だか自分も妙におかしくなってきた……。 「……そうね、楽しいわね!」 そうして戦車の上で二人で笑いあった。
23 17/08/26(土)23:18:16 No.448892414
以降、長いのでテキストで su1995667.txt エリカが謎の正体不明の男の子に初恋する話
24 17/08/26(土)23:22:12 No.448893571
やだもーえりりん甘すっぱいー
25 17/08/26(土)23:26:12 No.448894710
いい…いいといか言えない…
26 17/08/26(土)23:28:39 No.448895329
やっぱ兄弟に見えるよねあの二人
27 17/08/26(土)23:28:58 No.448895411
そうだよ… こういうのがいいんだよ…
28 17/08/26(土)23:31:56 No.448896277
これを聞いた男の子だと思われてた娘の反応が気になる
29 17/08/26(土)23:35:22 No.448897307
関係するシリーズ su1995709.txt この話の直前までの話 su1995721.txt
30 17/08/26(土)23:36:37 No.448897651
あいつ
31 17/08/26(土)23:37:59 No.448898155
短編集 su1995730.txt
32 17/08/26(土)23:40:20 No.448898864
いい...
33 17/08/26(土)23:40:41 No.448898958
正体不明の男の子 一体何者なんだ…
34 17/08/26(土)23:41:07 No.448899094
>これを聞いた男の子だと思われてた娘の反応が気になる 顔を見合わせて大笑い
35 17/08/26(土)23:50:04 No.448901858
長くてスレが落ちる前に読み終われないな
36 17/08/26(土)23:50:08 No.448901878
>顔を見合わせて大笑い 中学だと反応違うよね
37 17/08/26(土)23:55:14 No.448903251
今から読むけど消えそうだ
38 17/08/26(土)23:55:20 No.448903282
>長くてスレが落ちる前に読み終われないな そういう時は0時のSS雑談スレ!