虹裏img歴史資料館

1 17/08/23(水)00:40:58 [2/10] No.448079828

午後1時を回った頃、ようやく若葉女子の校門前に辿り着いた。 「見て下さいよ旦那方、いやはや女子校に通う女子高生こそ真のJKってもンですよ」 「見た目は同じでも浜にあったら浜の家、海にあってこそ海の家と言えましょう」 なんだか分からない妙な例えで盛り上がるカップル二人に、この先は別行動だと告げる。 これで仮に知り合いと出くわしたとしても、あの二人と一緒に来てはぐれたと言えば、面倒が無い。 金銭トラブルを避けるためか、ここでは入場時に予めお金とクーポンを引き替えるシステムになっていた。 そういえば、彼女のクラスは模擬店で喫茶店を出すんだっけ…ちょうどいい、少し遅いがお昼にしよう。 文化祭のしおりによると1年A組の教室は4階か…少し見て回りながら行こうかな。 1年A組の教室に飾られた派手な看板には、手書きの文字で大きくこう書いてあった。 『1ーA 　メイド喫茶』 事この後に及んでようやく、文化祭を見に行くと言った時、どうして彼女が妙に渋っていたのかを理解した。 いや、進め。 彼女のメイド服姿なんて、もしもこの機を逃せば二度とお目にかかれない。

2 17/08/23(水)00:41:39 [3/10] No.448079991

喫茶店は思ったよりも盛況だった。メイドさん姿の生徒がぱたぱたと忙しく立ち回っている。 「はいはーい　お帰んなさいますたー　はいこれメニューねー」 …なんか小学生みたいな外見のメイドさんがオーダーを取りに来た。 「んー…んん？　あー　なるほどなるほど？　ばーぜ分かっちゃった」 全然話が見えない…それにこのメイドさんどっかで見覚えが…でも思い出せない。 「気にしなーい気にしない 　んっとねー　ばーぜのオススメはこの『特製ラブオムライスセット』って奴かなー」 アッハイ、じゃあそれで。確かにこれならお昼代わりにいい。 「あいよー！　たいしょー特製セットいっちょー！」 オムライスを待ちながら彼女の姿を探すが見当たらない。バックヤード担当なんだろうか？ そうこうしていると、長いツインテールのメイドさんが、隣のテーブルにカレーを運んできた。 「べ、別にあんたの為に作ったんじゃないんだからね！　…何よもう！　さっさと食べなさいよ！」 何という神対応…ベタなツンデレキャラを真剣に演じる姿に胸が熱い。演劇部かな？ 衣装の作りも凝っている。売り物になりそう。 「お待たせしました、マスター」

3 17/08/23(水)00:42:08 [4/10] No.448080111

「『特製ラブオムライスセット』になります」 何を着ても似合うと思うのは惚れた欲目だろうか？　でも今日の姿はやっぱり特別だ。 メイド姿の彼女が高所から見事に紅茶をサーブする。 「オプションサービスになります」ケチャップを手に取るとオムライスに文字を入れてくれる。 　『I Want You Back』ゴシック体フォントみたいな字で書かれた。何という塩対応… 目配せをすると、彼女は少し気まずそうに目を伏せた。うん、困らせちゃダメだよね。 「それでは、お寛ぎ下さい」彼女がテーブルから離れようとした時だった。 「いかんなーアーキテクトくん　一番大事なサービスを忘れちゃー」 さっきの小さいメイドさんが突然現れた。彼女の体がビクリと一瞬震える。 「さーさーさー　いっぱい練習したよねー？」 彼女は珍しく赤い顔で唇を噛みしめると、目を閉じすーはーと二度深呼吸をした。 目を見開き胸の前に手をかざすと、親指と人差し指でハートのマークを作る。 「美味しくな～れ　美味しくな～れ　心を込めて、ラブ・インスト～ルっ！」 店内は厳かな静寂に包まれた。それを破ったのもまた、キメポーズのまま笑顔を浮かべた彼女だった。 「……消えたい」

4 17/08/23(水)00:42:48 [5/10] No.448080267

ラブがインストールされたオムライスはいたって普通の味がした。 立ち直った彼女が仕事に戻る。赤の他人という設定上、フォローする事すら許されない。 のんびりと紅茶も頂いた。扉の前にある精算カウンターでクーポンを渡す。 「まいどー　こちら特製セットを頼んだ旦那さんには、デイリーガチャサービスがあるナリよ」 そう言われ会計のメイドさんにタブレットを渡された。 画面の中ではディフォルメされたCG姿のメイドさん達がちょこまかと動いている。 中央の『GO!』ボタンを押すとメイドさん達が一斉に掃除を始めた。これはかわいい。 その内の一人が大きな手につまみ上げられる演出と共に、タブレットからファンファーレが鳴り出す。 「大当たり～！　景品は～なんと～　4番のメイドさんによるエスコートナリ～！　ひゅ～ひゅ～！」 …はい？　このレジ前のお土産クッキーとかじゃなくて？ 「つまりですな…メイドさんが文化祭を二人っきりでごあんなーいぞなもし。いや隅に置けませんなー」 後ろを振り返ると4番の札を着けたメイドさん…つまるところ彼女が居た。 こちらをみつめるその瞳が、何より雄弁に想いを告げていた。 『それは聞いてない』と

5 17/08/23(水)00:43:25 [6/10] No.448080417

「そんじゃあ、出発前にこれを」そう言われ、首から手書きの着せ看板をぶら下げられる。 『1-A　メイド喫茶　メイドさんご案内chu!』『特製セットはガチャチケ付き!　メイドさんとデート券も？』 あの…これ単なる客寄せでは？　彼女の方も持ち看を手渡されていた。 「終了アナウンスまでには戻るナリよ～…魔法が解けてしまうからのう」 「それではマスター、どちらへご案内しましょう？」彼女が左手を差し出す。見たい物か…それなら 「こちらが図書室になります」彼女が普段行く場所に案内して貰う。 それにしても、このエスコートは本当に目立つ。看板が無かったら逆に死んでたかも知れない。 図書委員だろうか？　黄色い歓声を上げて彼女に群がる。まあそりゃ急にメイドさんが来たらそうなる。 彼女も顔見知りの子達なのか、あくまでも業務の一巻と事情を説明している。 周りの子から、こちらに視線が来たので看板を見せた。宣伝でーす。 「ここは…とても心地いい場所」少しだけ、いつもの彼女が顔を見せる。 彼女が普段過ごす場所を見られただけで、今日来た意味があったと思う。 では、宣伝を続けましょう。彼女の左手を取るとまた歓声が聞こえた。

6 17/08/23(水)00:43:57 [7/10] No.448080567

最後に案内されたのは屋上へと続く階段だった。当然ながら扉は施錠されてる。 「…これは秘密の鍵」ポケットから取り出した鍵で扉を開ける。一体どこから持って来たんだろ。 熱気の籠もる校内から一転、吹き抜ける風が気持ちいい。ようやく首から枷を外せた。一応施錠しとこう。 「以前バーゼラルドが授業を脱走した際に、あおと武希子、轟雷とスティレットがここで捕獲。 　それ以降もバーゼラルドはこの場所を秘密基地として使用」 つまり、その鍵は貸し出し品？ 「肯定。教室を出る前に貸してくれた」…粋な計らいだ。 二人きりだからか、いつもの彼女に戻ってる。 隣同士で座ってマスターとメイドは一時お休み…色々調べてたのはメイドのこと？。 「肯定。今回は資料だけでなく実践が要求された…難解」オムライスを思い出して苦笑する。 その服がとても似合ってると遠回しに伝える。 「…好き？」答えにくい質問ですが好きです…つい黙り込むと中庭ステージから音楽が聞こえる。 ジャズ研だろうか？　女性の声でCan't Help Falling In Loveが流れてくる。 祭の熱気に当てられたのか、彼女は不意に立ち上がった。 「マスター…踊っていただけますか？」

7 17/08/23(水)00:45:03 [8/10] No.448080844

急なお誘いに数度瞬きして…思わず吹き出してしまう。いや、何を言ってるんだろう本当に。 お気に召すままに。彼女の手を取り屋上の中央へエスコートする。 誰も見ていない二人だけのダンスホール。今日はお祭りなんだ、なら、踊ったっていいじゃないか。 お互いステップなんて分からない。それでも、音楽ではなくお互いの呼吸にゆっくりと合わせる。 彼女の手を取ってくるりと回る。左手と右手はしっかりと握り合い、空いた片手を腰に回す。 フィニッシュに合わせて、そのまま彼女を強く抱きしめる。いつか見た映画のように。 結婚しよう …他にもっと言い様があっただろうに！　口にしてから冷や汗が出た。でも言ってしまった物は仕方ない。 彼女はそのままつい、と胸に手を当て身体を離すと、こちらを見つめながら朗々と語り出す。 「ああ！　ああ！　どうか愛しい人、そんな言葉はお止めになって。どれほど情が通じても、所詮主と端女は、 　結ばれぬのが世のさだめ。重ねた逢瀬も泡沫の夢。元より朝には消える物』 そのままスカートの端を持ち上げて一礼する。 「だから夢は、これにておしまい」

8 17/08/23(水)00:46:02 No.448081066

書き込みをした人によって削除されました

9 17/08/23(水)00:48:14 No.448081567

何か欠落してるような

10 17/08/23(水)00:51:51 No.448082370

8から10に飛んでない？

11 17/08/23(水)00:57:50 [9/10] No.448083639

渾身のプロポーズを断られたのに、彼女の芝居がかった物言いがおかしくて、つい笑ってしまった。 「ステージ演奏より練習した」何故かちょっとドヤ顔で言う。やめて追い打ちやめて。 「データ取得による結論。メイドとマスターは結ばれない結末が肝要。結ばれた場合、関係性は永続的に変化してしまう。それは『メイド』ではなく『メイド服を着た恋人ないし伴侶』だと判断」 …確かに一理ある。これも彼女なりのメイド美学が出した結論か。 終了アナウンスがスピーカーから流れる。 「速やかに教室へ帰投」そう、お店に帰るまでが販促です。 看板を手に人から見られないよう屋上を降りる。あれ…鍵空いたままだっけ？ 校内は終了の慌ただしい空気に包まれていた。皆こちらを気にしてる余裕はあまり無さそうだ。 そういえば、この販促って最初から企画されてたの？ 「肯定。武希子が立案してバーゼラルドが実装。タブレットも彼女の私物。 　…ただし、賞品は物販用のクッキーだと聞いていた。看板の文面も企画と相違」 今日になって客寄せのために実装されたのか… 「文化祭への協力に感謝」まあ楽しかったのでOK。 ステージを応援すると告げて彼女を見送った。

12 17/08/23(水)00:58:08 [10/10] No.448083700

「続いての演奏は1-Aガールズ！　曲は『FULLSCRATCH LOVE』！」 6人編成のバンドは彼女の友人達が勢揃いだった。小さいメイドさんとツインテのメイドさんもいた。 多分あの小さい方がバーゼラルドって子かな？　 少し前は隣にいた美しいメイドさんは今、ステージ上で無表情のままトライアングルを叩いている。 なんだか機械的な正確さでリズムを刻…いやこのバンド構成で必要なのかトライアングル。 『会えない夜を数える　少しでも声聞きたくて　泣きそう』 これから彼女と会えない時間を過ごす身には、色々と刺さる歌詞だった。 後夜祭のあとはキャンプファイアーと盛大な打ち上げの定番コース。 だから彼女にステージの模様をメールで送ったら、一足先に帰ろう。 律儀に校門で待ってくれていた友人達に「買いすぎた」とウド焼きそばを押しつけられた。礼は言わない。 どうにか潜入ミッションは達成できたかな…途中で随分と目立ってしまったけど。 『だから夢は、これにておしまい』 彼女はあの時、本当はどう思ったんだろう？　いやいや、恥ずかしくて聞けるはずない。 夢のような時間は確かにおしまい。 代わりに今夜は良い夢が見られそうだ。

13 17/08/23(水)00:58:28 [sage] No.448083755

9が抜けておりました…

14 17/08/23(水)00:58:52 No.448083827

いい…

15 17/08/23(水)00:59:29 No.448083932

よかった…

16 17/08/23(水)01:05:26 No.448084990

ばーぜはいい仕事をするな！

17 17/08/23(水)01:08:01 No.448085414

手書きの「帰ってほしいの」で吹く

18 17/08/23(水)01:10:31 [11/10] No.448085817

日付が変わる頃、どうにも寝付けず夜食としてウド焼きそばを食べていると、彼女からメールが来た。 打ち上げは大変盛り上がっているご様子。春頃は友達の事で悩んでたなんて今じゃとても考えられない。 ＜今からプロジェクタで動画を上映。圧縮データを転送。 打ち上げの臨場感をお裾分けとはお優しい…結構大きいファイルだ。 ファイルを再生して　血が　凍り　付いた 夕映えの屋上、ドラマティックな曲と共に抱きしめ合う二人。 背面からのカメラで一人は顔が分からないけれど、もう一人はよく知っている相手だ。 『…結婚しよう』『ああ！　ああ！　どうか愛しい人…』 想像を絶する事態にウド焼きそばを思いっきり吹き出す。メール着信。 ＜観客からのボイスメッセージを転送 ＜『あ、あはは…まあアキ子のメイド姿って確かにこう、グッとくる物があるよね』 ＜『おめでとうございます、アーキテクト！』 ＜『必ずや！　かの邪智暴虐のマスターを斬らねばならん！』 ＜『ななな、なんてロマンチ…じゃなくて！　こんなの破廉恥よ!!』 ＜『あらあらぁ？』『踊り子さんに手を触れる悪いマスターにはぁ』『『きつ～いお仕置きが必要ねぇ？』』

19 17/08/23(水)01:10:53 [12/10] No.448085870

＜大成功 今日一日の間にあった微かな違和感。バラバラのピースだったそれらが一つの形をなしていく。 いやまったく運が良かったなー　なんてご都合主義、あるはずがない。 オムライスを薦めたのは誰だった？　あのガチャを作ったのは？　何故急遽看板は変更された？ 屋上の鍵を渡したのは？　施錠したはずの鍵が開いていたのは？　何故彼女は「練習した」と言った？ 最初から全てが計画通りだったとは考えにくい。だけど背後には偶発的な事象を織り込み画を描いた者がいる。 ＜『ばーぜのー　撮影技術はー　せかいいちー！　ますたーあんがとねー　大・好・評！だよー』 そうだろうそうだろう。深夜テンションの女子高生がこんなの見たら大爆笑だ。 間違いない。主犯は…こいつだ。 ＜『いや～突貫作業で編集した甲斐があったでありんすな～』 ＜クラスの文化祭記念動画に使用を予定。撮影協力に再度の感謝 ＜そんな話聞いてません ＜？　教室を出る際に協力要請を取り付けたとバーゼラルドから聞いた。 ＜聞　い　て　ま　せ　ん　！　！ 今更ながら、彼女も謀略に巻き込まれていると気がついたようだ。

20 17/08/23(水)01:11:14 [13/10] No.448085926

例の動画はクラスの記念PVの一部として使用されるらしい。 彼女による「友人に協力を要請」という説明が、一体どの程度信じて貰えたのかは怖くて確かめようがない。 おそらくは、本来なら違う誰かがこの役回りを演じる予定だったのだろう。 …まぁ抱きついて譫言を言ったのは完全にこっちの暴走だから、あまり文句も言えない。 『事は密をもって成り』とは言うけれど、今回は見事に謀られた形になった。 「バーゼラルドは何故即座に関係性を看破したのか？」という彼女の疑問だけは謎のままだ。 お互いそれらしい素振りは少なくとも見せてはいなかった…と思う。 結局今の今まで、恥ずかしさに侵食されベッドの上で転げ回っていた。 携帯の電源を切り布団を頭から被る。今夜はどうにも良い夢は見られそうにないな… 翌朝、彼女から新しいメールが届いていた。 ＜該当ミッションの成功報酬としてM型装備一式を取得。再整備の後はマスターの任意で使用が可能。 …一体なんの話だろう？ でも添付の画像は昨日の確かな戦果として、ありがたく受け取ろう。 夕映えに一礼するその姿は、映画のワンシーンだと言えばごまかせそうな程に美しかった――了

21 17/08/23(水)01:13:09 [sage] No.448086192

前回は半分寝込んでたので今回はアキ子かわいい分を倍増で書いた 折角の文化祭なので普段出ないオールキャストの皆様にもご登場いただいた アキ子かわいい

22 17/08/23(水)01:13:37 [sage] No.448086272

一応これまで書いたのは ss297483.zip

23 17/08/23(水)01:15:40 No.448086588

「結婚しよう」が素面だと気づいた時のアキ子さんの顔がみたいです

24 17/08/23(水)01:17:41 No.448086897

これ本当は迅雷がやるはずの役だったんだろうな…

25 17/08/23(水)01:25:32 No.448088018

ばーぜはかしこいな…

26 17/08/23(水)01:34:30 No.448089212

>「美味しくな～れ　美味しくな～れ　心を込めて、ラブ・インスト～ルっ！」 あーだめだめ可愛すぎます