17/08/14(月)00:55:35 『打ち... のスレッド詳細
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17/08/14(月)00:55:35 [1/10] No.446097760
『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』 いや、これじゃまったくもって共感できない。正しくはこうのはずだ。 『打ち上げ花火、独りで見るか? 彼女と見るか?』 毎年7月の最終土曜、ここでは盛大な花火大会が開催される。 この前のデート…もとい意見交換会からはや1月以上が経った。期末試験も終わり夏休み前のこの時期、 彼女を誘おうと決意したしたものの…結局出来ずじまいのまま、気づけば7月半ばになってしまった。 今日こそは彼女を誘おうと思った矢先、突然彼女から告げられた。 「あお達から花火大会に誘われた。『お祭り』『花火』データとして識っている。 実際に体験するのは初めてで、とても興味深い。それに迅雷が私用の外装も用意してくれた」 好奇心を押さえられない様子で、彼女は話してくれた。 機を活かせぬ者に勝利無しだ。遅きに失した敗北感に打ちのめされつつも、 友達と一緒にお出かけするようになった彼女の事を思うと、やっぱり嬉しかった。
1 17/08/14(月)00:56:05 [2/10] No.446097851
時計を見ると午後4時。待ち合わせ場所に着くと、友人達は先に着いていた。 口は悪いが人も悪い、そんな二人に誘われて、ついついここまで出て来てしまう。 独りで見るくらいなら花火なんか見ない!と思い切れないのが情けない。 カップル+1という、あんまりな構成の三人で花火が始まるまで屋台を見て回る。 …今ごろ彼女は友達とお祭りを堪能している頃だろうか。 それにしても凄い人出だ。はぐれないように気をつけないと。 「おや ねえきみ、ちょっと見てみたまへよ。あんな処に狐がいる」 「まあ、ほんたう。狐がいるわ」 なんだその鬱陶しい喋り方…ついと視線の先を辿ると、確かに狐が居た。 人混みの中、狐の面を被った浴衣姿が歩いている。幾分背が高いけれど、浴衣から見て多分女性だ。 すれ違うその後ろ姿から、長い髪が揺れていた。 ゆらり、ゆらり、銀色の尾を揺らして狐は人混みの中に消えていく。 気がつくと揺れる狐の尾を追いかけていた。
2 17/08/14(月)00:56:24 [3/10] No.446097904
狐はスルスルと人混みの中を抜けていく。 しかし、お面を被ってるのになんであんな風に動けるんだろう。 狐が縮地術を使う、なんて話は聞いた事が無いけれど、気を抜くとすぐ見失いそうになる。 どうにか距離を詰める。 だけどあと少し、銀の尾に手が届きそうな所で不意に姿が見えなくなった。 目の前の人混みから、急に忽然と消えてしまったのだ。 道の端で膝を折り項垂れる。目の前には金魚すくいの屋台。狐に化かされた気分でいると 「なぁお客さん…遊ばないなら場所空けてくんな」というおっちゃんの呆れた声がした。 隣を見れば、しゃがみこんで落ち込む迷い狐の姿があった。 あの…こんな所で一体何を? 狐の面を上げた彼女が、驚いた顔でこちらを認識する。 数秒程ロードを挟んで解答に辿り着いたようだ。 「…尾行?」 全然違うよ!? いやあんまり違わないけど違うよ!
3 17/08/14(月)00:56:44 [4/10] No.446097966
「轟雷達をロスト」 心配は的中した。普段の彼女はとても理知的だ。 だけど、今この場所には彼女の好奇心を惹きつけるアトラクタが満載だ。 少し目を離せば、さっきみたいにスイスイと人混みの中を泳いでいってしまうだろう。 とりあえず、メールで連絡してどこかで待ち合わせるとか? 「問題無い。デバイスは巾着袋の中」 うん。それでその巾着袋は? 「問題無い。巾着袋は迅雷が保持」 全然駄目だよそれ! いくらお祭りでも浮かれすぎだよ! 「肯定。轟雷達と合流する方法をロスト。セカンドプランとして目視による索敵を実施」 この人混みでそれは無理なんじゃ… 念の為、彼女が記憶していた友達のIDに自分のスマホからメールと通話を試してみる。 どれも受信拒否設定で連絡が取れない。このままじゃ手詰まりだ。 今頃、彼女の事を探しているかも知れない。一度最初の待ち合わせ場所に行ってみようか。 「…否定。ここから先は別行動を希望」
4 17/08/14(月)00:57:14 [5/10] No.446098077
彼女の気持ちは分からなくもない。 折角誘って貰ったのに自分の不注意で迷子になって、その上相手と連絡すら取れない。 そんな状況には巻き込めない。まあそんな感じかな。 それに、普段通り振る舞おうとしてるけど、これは結構凹んでる気がする。 ならここでサヨナラなんてのは、無い。 今ここで、この一月分のツケを支払う時が来たのだと思えば踏み出せる。 彼女の右手を取り、しっかりと左手で繋ぐ。 ああ彼女が珍しくフリーズしてる…こっちだって照れくさくて泣きそうだ。 でもこれなら、はぐれたりしない。 それに二人分の頭と眼とスマホがあれば、単純に2倍以上の戦力に。 「否定。戦力判定に若干の過大評価が見られる」とにかく、やれる事はやってみよう。 それでもし駄目ならその時は…二人で花火を見ればいい。 彼女の手がきゅっと握り返してくる。身体的接触は思った以上に色々と伝わるものだ。 無言を肯定と前向きに捉えて、彼女の手を取り歩き出す。 時刻は5時を少し回っていた。花火の開始まで残り2時間半。
5 17/08/14(月)00:57:55 [6/10] No.446098215
待ち合わせ場所の駅周辺では、やはり発見出来なかった。 というか、この時間だと人が多すぎる。これじゃどのみち探し歩いたって会えない。 「提案。最終目的地の位置推定を優先」 そっか…今日はどこから花火を見る予定だったの? 「…不明。断片的情報以外は秘匿されていた」 つまり、とっておきの場所というサプライズがあった。 「肯定。観覧スポットのデータ取得代行を要請」 了解。右手でスマホを操作して花火大会の穴場スポットを検索すると、結果を見ようと彼女も画面をのぞき込む。 近い近い近い。スマホ落としそうになるから待って。 現在地から幾つかのスポットをピックアップする。後は断片的情報から絞り込むしか無い。 A:遮るものが無く花火が見える B:入場は無料で飲食物がある C:他の人が来ない 要点はこの三つ。ここから導き出すしか無い。 時刻は5時47分。開始まで2時間を切っていた。
6 17/08/14(月)00:58:33 [7/10] No.446098329
歩きながら二人で意見をぶつける。端から見ると手を繋ぎながら神妙な顔で話し合う妙な二人だ。 一番可能性が高いのは、特設エリアに団体用レジャーシートを確保してあるって線かな。 「条件A・Cは部分的にクリア。ただし、条件Bに抵触」 …そもそも、BとCって両立可能なんだろうか? 「仮定。条件には優先順位が存在。この場合Cを最も優先する」 つまり、まだ誰にも知られていない本当に秘密のスポットって事? 「肯定。これならAとBも条件付きでクリアが可能」 方向性としては悪くないはず。でもそれだと、今からその場所を見つけること自体が、そもそも不可能に近い。 だから、そうじゃない事を祈りつつ今は除外して考えよう。 「…わからない」 どしたの急に 「状況的に見て猶予は無い。なのに、今こうしている時間が…とても」 楽しい! そうだよね? 「肯定。とても…楽しい」 時刻は6時20分 開始まであと1時間と少し
7 17/08/14(月)00:58:51 [8/10] No.446098381
あと少しだと思うのに突破口が見えてこない。 移動の時間を考えると、多分チャンスは1度きりだ。 今この瞬間だけ、折木奉太郎でもヴェロニカ・マーズでもいいから降りてこないもんかなぁ… 「仮定。入場に特定の条件が必要な場所」 金銭では無い入場の条件…許可…公共施設…個人の許可…もしかしたら! 「アーカイブ。該当する物件は2カ所」 最後のピースだ。会話をよく思い出して。 「該当項目『管理者』…ヒット。確定」なんとか解答に辿り着けた。 彼女の記憶を元に位置情報をスマホで検索…よし、これなら急げばまだ間に合う。 彼女の手を引いて歩きだした途端、急に引き戻されてあやうく転びそうになる。 振り返ると、彼女が足を押さえてうずくまっていた。 慌てて駆け寄ると、下駄の鼻緒が切れている…土壇場でこんなベタなトラブルとは! 大丈夫、怪我は無い? 「問題無い」彼女の目も諦めてない。なら、後は力押しで解決する。 時刻はまもなく7時 開始まであと30分
8 17/08/14(月)00:59:14 [9/10] No.446098446
「この先、道なりに200m直進」背中から彼女のナビが聞こえる。 わかってみれば実に簡単なことだった。 入るのに許可が必要で、入場料がかからなくて、なにより女子高生が夜に入れて他の人が来ない。 そんなの自分の家しかない。後は住所から、高層マンションをあたればいい。 部屋から見る花火なんて花火じゃない。それならきっと屋上に上がるはずだ。焼きそばとかも作るかも。 それには必ず管理人の許可がいる。なら、日頃から管理人と親しくしている方が解答だ。 それにしても…すっごい背中に当たる! 質量の暴力が! 「…重い?」 ありがとうございます! 残り時間は5分も無いけど、これなら辿り着ける。 息も絶え絶えになってマンションの前に到着。やれるだけの事はやった。 だから最後に、彼女へ伝える。 屋上へは許可が無ければ行けない。そして、もし解答が正しければ必ずみんなは屋上にいる。 だから、叫べ。力一杯、叫べ。自分の声を届けるために。 時刻は7時30分 ジャスト
9 17/08/14(月)00:59:46 [10/10] No.446098541
汗でぐだぐだの体に、地面がひんやりして気持ちいい。いや、それにしても面白かった。 花火が上がる前に「たーまやー!」は不意打ち過ぎた。それから名前を一人一人呼んでたっけ。 すぐに屋上は大騒ぎになって、誰かの「すぐ行くから待ってて!」って声が聞こえた。 声の限りに叫んだ彼女は額に汗を浮かべて、何より自分自身が出した声に驚いていた。 それから彼女は右手をつなぐと、一緒に花火を見ようって、そう言ってくれた。 でも、ここからは彼女達だけの大切な時間だ…いや本当言うと、何者だとかどういう関係なんだとか不審者が居るとか色々聞かれるのが怖いだけです許して下さい…あと今凄い汗くさいので。 それに、今日の報酬は先払いしてもらったし。背中には追加報酬までもらったし。 「アキ子~!」ほら、花火もう始まってるよ。そっと彼女の手を解いた。 ビルの隙間からの花火を、独りで見るのだって悪くない。 『打ち上げ花火、独りで見るか? 彼女と見るか?』 僻みっぽい考えはもうやめた。 『少女たちは花火をみんなで見たかった』 これで一件落着。 そういえば浴衣姿、綺麗だったなぁ…いつかまた、着てくれるかな。――了
10 17/08/14(月)01:01:06 No.446098783
一夏の思い出いいよね
11 17/08/14(月)01:01:08 [sage] No.446098788
ss296937.zip のお話の続きです 前に次は手をつなぐって言われたので 手をつなぐお話になりました
12 17/08/14(月)01:04:34 No.446099401
ここから先は敬虔で善良なる者以外 立ち入り禁止だ
13 17/08/14(月)01:05:55 No.446099629
ちょっとした冒険いいよね 場所当てのパートはなかなか予想が捗った
14 17/08/14(月)01:06:27 No.446099738
なんとなく次は手繋ぐくらいとか言ったけどこれは…ありがたい…
15 17/08/14(月)01:09:07 No.446100208
>ここから先は敬虔で善良なる者以外 >立ち入り禁止だ 俺達は入れない
16 17/08/14(月)01:10:02 No.446100365
よく考えたらアニメであおの部屋から花火見てるのに マジに推理していた俺は一体…
17 17/08/14(月)01:11:14 No.446100556
次は誘うの頑張って成功させろよな!
18 17/08/14(月)01:18:32 No.446101873
>よく考えたらアニメであおの部屋から花火見てるのに >マジに推理していた俺は一体… いいよね 答えでこれがFA:Gだって思い出すの
19 17/08/14(月)01:23:01 No.446102701
駄ニメストアで復習したらアキ子が被ってたお面狐じゃなくてバーゼじゃねーか!
20 17/08/14(月)01:42:02 No.446106143
前の話まで全部読んだら糖分多すぎて死んだ もっと苦難を与えてくだち!!