17/08/14(月)00:19:27 SSです... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1502637567967.jpg 17/08/14(月)00:19:27 No.446090599
SSですので苦手な方はご注意ください 前編は17/07/23(日)00:53:50に同じ画像で投稿しましたのでそちらをご覧頂くと助かります もし探すのめんどくせ!という方がいらっしゃればtxtファイルでお出しします
1 17/08/14(月)00:19:55 [10/31] No.446090698
その日はコンビニから戻り、夕方までカモの親子の様に連れられて走るだけで練習を終わった。 『よーし、じゃあ今日はここまで。後は戦車内外の清掃をしてから帰ろう』 「わかりました…ですがいいのでしょうか」 『なにがだ』 「練習量が少なすぎるのではないかと思ってしまいまして」 『言っただろう。初日は慣らし運転だ。次からは練習でビシビシしごいてやるから覚悟しておく様に』 「わかりました。明日はしっかりと復習しておきます」 『そうだな。じゃあ私はトラックで寮に行ってくる』 「何かあるんですか?」 はぁ、と深いため息が通信機越しに届く。 『…整備もせずに遊び終わったら寝てる先輩たちに自分の戦車くらいは洗わせないとな』 「わかりました。ペパロニさんがこちらに来たら伝えておきますね」 『頼んだ。じゃあ行ってくる』 その言葉を最後に通信を終え、私は掃除を始める。
2 17/08/14(月)00:20:27 [11/31] No.446090815
それから数分後、私が機器の動作チェックをしていると自主練習を終えたペパロニさんが整備場に戻ってきた。 「お疲れさまです」 「お疲れ。練習どうだった?」 「そうですね…このくらいでいいのかな、というのが正直なところです」 「そうだねー、私もそうだったよ。まあ明日からはシゴくって言ってたから頑張らないと。…そういえばアンチョビ姐さんは?」 「先輩たちにも使った戦車くらいは自分で洗わせる、と言って寮に向かいました」 「そっかー。…でもさ、姐さんって絶対先輩たちの掃除も手伝うよね」 ししし、と楽しそうに笑いながらペパロニさんが言う。 「ですね。優しい方ですから」 そんな会話をしながら下回りを水洗いしていると、渋ったのであろう先輩たちを乗せたCV-33が戻ってくる。 「ドゥーチェ!この子たちもちゃんとやってるじゃないですか!一年生を見習って私達もやりますよ!」 アンチョビさんはそう言うと、荷台の手すりにしがみつく先輩たちをトラックから引きずり降ろしていった。
3 17/08/14(月)00:20:50 [12/31] No.446090878
三年生。私達から見て二つ上の先輩も十人ほどしかおらず、一年と二年を合わせても試合には形式上で出られる程度に過ぎない。 それも主力戦車はM41が二輛とCV-33のみなので試合になるかすら怪しい数合わせの様な存在。それがアンツィオ高校の戦車道である。 「勝ち負けよりも毎日を楽しもう!」 そう言い出したのはドゥーチェで、アンツィオならでは気風を持ちながらも世話焼きなアンチョビさんは気苦労を重ねていた。 「ちゃんとしてくださいとは言いません。せめて私が後始末せずに済む様にしてください」 そう一度直訴したらしいが、「来年ドゥーチェになった時の予習だよ」と一蹴されてしまったとボヤいていた。 そんな先輩たちであるから、私は三年生たちからは半ば見捨てられているんじゃないかと心配にもなっている。 しかし、その疑念を打ち砕いたのもまたアンチョビさんであった。 「遊んでばかりな人だけれど、ちゃんと皆を見てるんだよ。だからドゥーチェになれたんだ」 そう言って私の肩を叩き、心配するなと励ましてくれた。
4 17/08/14(月)00:21:19 [13/31] No.446090968
それから一週間が過ぎ、アンチョビさんが付いての練習も残すところ二回となっていた。 その日は高い雲がいくつもそびえ立ち、夏の訪れを感じ取れる朝だった。 「今日は天気が崩れそうだな…どうする?外でやるか?それとも屋内で勉強でもいいが」 「そうですね…時間も無いですし、外で実践をしたいです」 「わかった。だが天気が崩れたらすぐに戻るからな」 「わかりました。無理をしすぎず、楽しんで。ですよね」 「わかっているならよろしい」 そう確認をした私たちは戦車に乗り込み、練習へと向かう。 課題点を洗い出しながら乗ることでCV33の小さな車体にも慣れ、細い路地でも走れるようになってきた。 そんな自信はついたものの、やはり試験となると落ち着かない。 たとえそれが「楽しむ」をモットーにしているこのアンツィオ高校であろうともだ。
5 17/08/14(月)00:21:35 [14/31] No.446091015
慣らし運転を10分やり、CV33から顔を出したアンチョビさんに見られながらの練習を一時間ほど続けていた。 ぽつぽつと小さかった雨粒が大きくなり、瞬く間に土砂降りとなった。 『急に降ってきたな。すぐにこっちに来てくれ。足元がぬかるみになる前に撤収だ』 「わかりました」 『戻ったら洗ってから座学だな。…練習量が減るのを気にしてたな。なら戻る間も先導してもらおうか』 「はい。よろしくお願いします」 私はそう返事をしたものの、打ち切らざるを得ない天気に長いため息を吐く。 この後の座学を活かし、どう取り戻そうかと考えて斜面を横断するその時だった。 『危ない!』 「えっ?」 斜面になっている足元の土が崩れ、に履帯を取られた戦車が横に流されてしまう。 横にあった木にぶつかり、ゆっくりと車体が回転する。 私は木にぶつかった衝撃で頭を打ったものの怪我というほどでもなく、安堵の息を吐く。
6 17/08/14(月)00:21:56 [15/31] No.446091080
外側からガンガンと戦車を叩く様な音が聞こえ、ハッチが乱暴に開かれる。 「大丈夫か!怪我は!」 雨の中慌てて走ってきたのであろうアンチョビさんは雨とぬかるみでドロドロになりながらも私を心配してくださっていた。 「大丈夫です。すみません、ご心配をおかけしました」 「ああ、それはいい。ちょっと見せてみろ」 アンチョビさんは雨が入らない様にか中に入ってきてハッチを閉めなおし、隣に座りながら私の様子を確認する。 「…こぶができてるな。頭を打ったのか」 「軽くですので大丈夫です」 「医務室に行くぞ。後遺症が残ったら大変だ。これは命令だから、拒否はさせない」 「はい、すみません」 「失敗は誰にでもある。気にしなくていい」 そう伝えてくれたアンチョビさんはエンジンを掛け直し、CV-33を発進させる。 それからは最寄りの玄関に着くまで互いに言葉を交わすこともなく、ただ戦車内には騒音だけが響いていた。
7 17/08/14(月)00:22:18 [16/31] No.446091157
医務室に入ると事情を説明し、簡単な検査が行われる。 私は養護教諭の方が手に持ったペンライトを目に当てられ、それをただぼんやりと眺める。 「脳震盪は恐らくなし。むしろ私が心配なのは泥んこでずぶ濡れになってるあなたの方よ」 そう告げられたアンチョビさんは恥ずかしそうに頬を掻き目線を逸らす。 「あー、私はドゥーチェに報告をしてきますので、その子をお願いします」 そう言ったアンチョビさんは立ち去ろうとする。 「それでしたら当事者の私も…」 そう言い立ち上がろうとしかけたところで制され、椅子に座り直す。 「取り急ぎの報告と、ついでに着替えたいだけなんだ。終わったら戻ってくるからそれまでベッドを借りて休んでおけ」 私は申し訳無さを感じつつも、はいと返事をしてベッドへと向かう。 カーテンに囲まれたベッドで一人になると、私は自己嫌悪でため息を吐く。 ひとつ吐くごとに肩が重くなり、背中が丸くなってしまう。 このまま丸くなってしまおうか、いやそんな事をしても意味はない。 そんな葛藤の中でまたひとつため息をついた。
8 17/08/14(月)00:22:40 [17/31] No.446091223
「…何をしているんだお前は」 アンチョビさんの呆れ果てた声を聞いた私は我に返り、抱えた膝から手をほどき立ち上がる。 「まあいい。それよりもドゥーチェから呼び出しを受けている。カルパッチョは体調次第と言われているが、どうだ?」 「大丈夫です。私も行きます」 手足を軽く動かして大丈夫である事を伝え、すぐに使ったベッドを綺麗に戻す。 そしてお世話になった養護教諭に頭を下げ、保健室をあとにする。 廊下を並び歩き、私はアンチョビさんに声をかける。 「今回の件で叱られるんでしょうか」 「呼び出すという事はそうだと思うが…正直ドゥーチェの考えはわからないからな。 …あの人は気分屋だから待たせすぎると出かけてしまう事もあるかもしれない」 「その場合はどうするんですか?」 「他の先輩に話をして終了…しかないかなぁ。居てくれれば話が早く済むんだけど」 予想出来ない先輩の行動に困り果てたアンチョビさんが腕組をしながら「まあ、なるようになるさ」と伝えてくださった。
9 17/08/14(月)00:23:07 [18/31] No.446091318
隊長室に着き、ノックをする。 中からは「入ってるよ-」と気の抜けた声が聞こえ、アンチョビさんが肩をガクリと落としながら入室したので私も続く。 中に入った私たちは机の前に直立し、ドゥーチェからの言葉を待つ。 「わざわざご苦労様。カルパッチョ、怪我は大丈夫?」 「はい、大変ご迷惑をおかけしました。私の油断から起きたミスですので罰は私一人が受ける様お願いします」 そう伝え頭を下げると、アンチョビさんが「んなっ!」と声をあげて驚く。 「ドゥーチェ!私が指導をしている最中に起きた事故なので全ての責任は私にあります!」 頭を下げ続ける私の横でアンチョビさんも勢いよく頭を下げ、室内が静まり返る。 その静寂を破ったのはドゥーチェが発する戸惑い混じりの声だった。 「あー…ちょっといいかな。私は二人に話を聞こうと思っただけなんだけど、なんで罰を与えるって前提で進んでるの?」 罰せられるわけではないのだろうか。 「いい?練習で怪我なんて付き物でしょ。それにあなたたちに罰を与えるなら一番上の私も罰を受けないといけないでしょ。 そんなの楽しく過ごせないじゃない。だから罰則は無しね」
10 17/08/14(月)00:23:42 [19/31] No.446091427
ドゥーチェはうーん、と顎に手を当て天井を見上げる。 「そうね…でもそれだと二人がスッキリしないか。私が結論を出そう。 責任者であるアンチョビが悪いって事で終了。異議は認めない。じゃあお風呂に入ってらっしゃい。私はもうひとっ走りしてくるわ」 そう言い手をひらひらと振りながら席を立つ。 そんなドゥーチェの姿にアンチョビさんが口を開く。 「…教えることもせず遊び回ってるドゥーチェに決定される事自体に異議があるのですが」 その言葉を聞いたドゥーチェは出ていこうとしていた体を回転させ、満面の笑みでアンチョビさんの肩に手を置く。 「よーしじゃあ二人に罰を与えよう。カルパッチョはこのもっさもさで生意気なポニーテールを次期ドゥーチェにふさわしい髪型にしてやること。アンチョビはその髪型をお披露目して笑われること。 期限は私が買い物から戻るまで。いい?この漫画みたいにしてやりなさい」 そう言うと、ページが開かれた漫画雑誌を私に見せてくる。 そのページにはきらびやかなドレスを着たお姫様が描かれていて、髪は二本の縦ロールにしていた。 私はふと疑問に思い、挙手をする。
11 17/08/14(月)00:24:35 [20/31] No.446091603
「はい、カルパッチョ君。なんだね」 ドゥーチェはわざとらしい演技をしながら私の発言を認めてくださった。 「あの、この漫画は準備してたんですか?」 「いいや、さっきまで二人が来るまでの暇つぶしに読んでただけだよ。 あとはそうだね…髪のセットにアイロンとか櫛は揃えてあるから使っていいから。じゃあ、よろしくね」 そう言うと道具が乱雑に放り込まれた箱を出し、退室をする。 隊長室には私達二人だけが残されたが、アンチョビさんが先導をしてくださる。 「…まあ、とりあえず風呂に行くか」 ただし、肩を落としながらの言葉であったが。 隊長室に据えられた通信機、それが突然音を発する。 『あーあー、隊員諸君に連絡。二時間後に見せたい物があるから講堂に集まる様に。 それとは別件でペパロニは準備が出来次第格納庫に来てほしい。二人でちょっとお出かけだ』 ドゥーチェの発言の後に他の先輩たちからあがる祭りの様な歓声に、アンチョビさんの肩だけでなく彼女のポニーテールも重そうに揺れていた。
12 17/08/14(月)00:24:59 [21/31] No.446091680
お風呂で温まった私たちは隊長室へと戻り、セットの準備をする。 姿見と椅子を置き私が道具を見繕う中、アンチョビさんは動かしたばかりの椅子に腰を下ろす。 「じゃあ、準備が終わったらやってくれ」 「よろしいんですか?」 「良いも悪いも命令だからな…もう私はまな板の上の鯉だ。好きにしてくれ」 「わかりました。では失礼します」 セットしやすい様に保湿液を手に取り、髪に馴染ませ伸ばしていく。 そこからツインテールにする分の髪をまとめ、根本をヘアゴムで止める。 あとは巻く作業をしていくだけだけれど、バランス調整が難しい。 前に置かれた姿見を見ると、アンチョビさんは少し頬を赤く染め固く目を閉じていた。 責任を負わされる羽目になった先輩に恥をかかせるわけにはいかない。 私はそう気合を入れ直し、髪を巻きはじめる。
13 17/08/14(月)00:25:18 [22/31] No.446091748
左右のバランスを確認し、巻いた髪の跳ね具合も確かめる。 よし、これなら自己採点でも満足出来る。道具が無いとはいえ、根本をヘアゴムで止めるだけにしているのがちょっと残念ではあるけれど。 「おまたせしました、完成ですよ」 そう言うとアンチョビさんは恐る恐る片目を開け、勢い良く目を閉じなおし頬をより赤くする。 「いや、無理だ。これは、ちょっと」 「まな板の上の鯉だってご自分で仰ったじゃないですか」 「それもそうだが…」 自分の中で葛藤があるのか、ちらりと姿見を見ては目を閉じての繰り返しをする。 私は時計を見て、先程伝えられた時間を確認する。 「あと30分ですから慣れないと。先輩たちに楽しまれちゃいますよ?」 「先輩たちはまあいいんだが…ペパロニにも笑われるのは威厳ある先輩として少し癪だな」 「そういえば、ドゥーチェがお出かけって連絡してましたけど何の用だったんでしょう?」 「きっと三年生たちと一緒に見せて驚かせたいんだろう。さて、後は何をすればいいんだろうな」 「待つ…しかないんでしょうね」
14 17/08/14(月)00:25:57 [23/31] No.446091899
時刻が迫り残り10分。ようやくアンチョビさんが姿見に映る自分の姿に慣れた頃、ドゥーチェとペパロニさんが戻ってきた。 「間に合ったぁ!よかった。時間前だね。はいこれ、付けてあげて…おお、似合ってんじゃんその髪型」 そうして紙袋を渡され、私は中を見る。 中には一対の黒いリボンが入っており、それを見た私はドゥーチェを見る。 ドゥーチェは一緒に買ってきたのであろうお茶のペットボトルを飲み、説明をしてくださる。 「それ、アンチョビに付けてあげて。おめかしさせてやらないといけないから急いじゃったよ。ねぇペパロニ?」 「そうっスね。いきなり呼び出されて何かと思ったっスよ。…ところで、一ついいっスか?」 「お茶ならあげないよ。私がもう口つけたし」 「いやそれはいらないっス。…そこの綺麗なお姉さんは誰っスか?転校生っスか?」 それを聞いたアンチョビさんはツインテールで顔を隠し、私とドゥーチェは笑い出す。 笑いながらも忘れないうちに、と私はアンチョビさんの髪にリボンを付ける。 「ようやく完成だな、アンチョビ。よく似合ってるよ」 ドゥーチェはそう言うと頭をひとなでする。
15 17/08/14(月)00:27:30 [24/31] No.446092221
その時にガタガタ、と音がしたと思ったらペパロニさんがアンチョビさんへと詰め寄っていた。 「ええっ!アンチョビ姐さんっスか!?だってその髪…えー…。最近のウィッグって凄いっスね…」 「じーげーだー!」 「ほんとだ!姐さんの声だ!すげー!くるくるっスよ!髪!」 「ペパロニ、そろそろ時間だからアンチョビと一緒に講堂に行ってくれるかな? 私もこっちの片付けを手伝ったらそっちに向かうからさ」 「了解っス!じゃあ行きましょう!」 「ええいもうどうにでもなれ!カルパッチョ、とりあえずありがとうな」 ペパロニさんに手を引かれたアンチョビさんはそう言い残し、講堂へと向かっていく。 「片付けは私がやっておきますから、ドゥーチェも一緒に行かれては…」 そう伝えようとしたものの、「しーっ」と続きを制される、 「とりあえずやっちゃおっか。私はテーブルと椅子。カルパッチョは小物をお願いね」 一番偉い人にやらせてしまっていいのだろうか。そう思うものの本人の意志には逆らえず片付けをする。
16 17/08/14(月)00:28:01 [25/31] No.446092322
片付けを進める中、遠くからは先輩たちの大きな歓声が聞こえる。 指笛を吹く音も聞こえるので、とても盛り上がっているのがわかる。 「よし、始まったね」 ドゥーチェがそう言ったものの、私はどういう意味かはかりかねる。 何故、ドゥーチェは一緒に行かずこちらに残ったのだろう?やはり私を罰するのだろうか? どちらにせよ片付けはきちんとやろう。 「ドゥーチェ、こちらの分は終了しました」 「了解。こっちはもう終わってるよ。さて、残ったのは他でもない。君に話があるんだ」 来た。真面目な雰囲気だし、やはり叱られるのだ。 他人がいない場所で、というのはドゥーチェなりの気遣いなのだろう。 「…そんなかしこまられると困るんだけどな。話って言ってもこっちがお願いする側だし」 「お願い、ですか?私に?」 思いもしない展開に私は戸惑ってしまう。
17 17/08/14(月)00:28:26 [26/31] No.446092422
「話ってのは他でもない。アンチョビの事。あの子は同学年が誰も居ないし、一つ下も君とペパロニだけだ。 それを責任に感じてしまっていてね。本来それに責任を感じないといけないのは私達三年であって二年生のアンチョビではないはずだろう」 確かに、と思いつつもそれを直接口に出すのもはばかられてしまう。 「続けるよ。あの子が挫けそうな時、後ろから支えてあげてほしい。これは君にしか出来ない事だ 前に進むことに悩んだ時はペパロニが引っ張って行ける。あの子はそういう素質があるね。だけど、後ろに倒れそうになった時後ろから支えてあげられるのは君だけなんだよ。抽象的な話になっちゃったけど、バランスって思ってくれればいいよ」 あれ、と疑問が浮かぶものの私はドゥーチェの言葉を聞く。 「まあ、一人で頑張ってくれたあの子にしてやれることなんてこれくらいだからさ。卒業してから、頼むね。 それじゃ、特になにも無ければ真面目な話はここまで。合流しようか」
18 17/08/14(月)00:29:00 [27/31] No.446092528
ドゥーチェの言葉に手を上げ、疑問を伝える。 「あの、質問があるのですがよろしいでしょうか」 「この際だから聞くよ。言ってごらん」 「なぜ新入生の勧誘やら私達の指導をアンチョビさんに任せておられるんでしょうか。 それだけ案じて下さっているのでしたらドゥーチェも手伝う気がある方の様に感じられるのですが」 「あー…それは私の判断ミス。あの子は練習も含めもっと私達と一緒に楽しい方にって流れると思ってたんだ。でも、生真面目に二人の指導しちゃった。これはあの子に謝らないといけないね」 「判断ミス、ですか」 「そう。私達三年は楽しいのが第一。これは試合になんてならないから、っていうのが本心でもあるんだ。楽しもうとしないと楽しくないくらい弱小だからね。 そんなチームに居るんだから君たち一年生を私達と同じ楽しむ方向に流してくれると思っていた。最近になるまではね」 「アンチョビさんは違っていたと」 「うん。二人の癖を調べ、ちゃんと対策を考える。それをただ伝えるんじゃなく考えさせる。そうしてるアンチョビは生き生きとしていたんだ」 「そうだったんですね…」
19 17/08/14(月)00:29:52 [28/31] No.446092707
「まあ、三年の皆が教えるのも下手だから彼女が適任だっていうのはあるよ。アンチョビは世話焼きだから手のかかる子が多いほうが楽しそうな顔をするし」 「確かにペパロニさんに振り回されても楽しそうですね…。お答えいただきありがとうございました」 「いや、気にしなくていいよ。他に何かある?」 「いえ、それだけです、ありがとうございました」 「そっか。すっかり長く話しちゃったし急いで向かおう。じきに夕食の時間だし」 「わかりました。では電気消しますね」 「あ、そうだ。これは口止め料とさっきお願いした事の報酬を兼ねてプレゼント」 そう言うとドゥーチェは薄い紙袋を取り出し、私に差し出してくれる。 「よろしいんですか?ありがとうございます」 「急ぎで買ったから気にいるかはわからないんだけどね。気に入る様なら使ってあげて」 中を開けると一本の櫛が入っていた。 「これは、櫛ですよね」 「そう。カルパッチョは髪のアレンジが好きだろう。自分で使ってもいいし、もしアンチョビが受け入れるならあの子に使ってもらってもいいよ」 「わかりました。髪を崩す時に伺ってみます」
20 17/08/14(月)00:30:23 [29/31] No.446092800
それから私たちは講堂へと入り、ドゥーチェは先輩たちに囲まれるアンチョビさんを一緒にからかい始める。 私は先輩達に一緒になって着飾らせているペパロニさんを引っ張り出して声をかける。 「いやぁ、アンチョビ姐さんほどではないけどひどい目にあったよ」 制服の上からドレスやエプロンなどを着させられては囃し立てられるアンチョビさんを見ながら苦笑まじりに話す。 「お疲れ様です。…ペパロニさん、来年頑張りましょう」 「え、急にどうしたの?」 そこまで話し、つい先程口止めとも言われていた事を思い出す。 「ああ、いえ。来年はもっとたくさんの生徒を入れて、いっぱい楽しみたいな…と思いまして」 「そうだね。先輩たちがもし早く引退したら秋から三人だし、それだと寂しいから来年は三十人とか四十人を目指したいね」 「それだけ入るかはわかりませんけど。でもそれだけ入ったら楽しいでしょうね」 「そうだね」 そう話した私達はアンチョビさんをからかう先輩たちを見て、その輪の中へと混ざりに行った。
21 17/08/14(月)00:30:46 [30/31] No.446092879
結局私達が行うはずだった試験は保留となり、いつやるか決まらない状態が続く中で「そんなのより試合に向けて全体練習した方が良くない?不合格でも選手足りないんだし」というドゥーチェの一言でそのまま流れてしまう。 アンチョビさんは「また勝手な事を」と言い落ち込んでいたが、ドゥーチェなりにアンチョビさんの負担を軽くさせようと考えたのだろう。 私はそんな一年前の事を鮮明に思い出し、あの日怪我をした場所の真ん中に立つ。 あの時は雨だしわからないかも。そう思っていたが、いざ歩いて来てみると木の根ごと崩れた一角は丸く切り抜かれ空も見上げやすくなっていた。 あの時に崩れたのか、崩れやすいから木を切り倒したのかは思い出せない。 (そんな足元の中私の救助に飛び込んできてくださったんだ) そう思い、感謝の気持ちを込めつつ空を見上げる。 ふと左手をかざすと、時計の時刻が目に入る。 いけない、もう朝礼の時間じゃない。 慌てて林の中を走り出し、校舎へと向かう。
22 17/08/14(月)00:31:03 [31/31] No.446092947
既に全員が集合しているのであろう。ドゥーチェ・アンチョビさんがこちらに気づき教鞭を持った手を振る。 「カルパッチョ!あと三分だぞ!走れ!」 その声に合わせペパロニさんも手を振り、一年生たちからも声があがる。 「ハァ、ハァ…お待たせ、しました」 「ギリギリだけど間に合ったから良しとしよう」 「ハァ…ありがと、ございます」 私は息を整え、背筋を伸ばす。 「だがいいか。もし遅刻したらお前とペパロニの試験、今度こそやるからな」 ニヤリと笑うドゥーチェの顔に満面の笑みを返す。 ペパロニさんは試験という言葉を聞いただけでうげぇ、と苦みばしった顔をする。 「はい、大丈夫です。もうあの時みたいなミスはしません」 だってあれから一年間。私たちは貴女に鍛えられましたからね。 目線を前に戻すと、たくさんの一年生が遅れてきた私を心配そうに見てきている。 その中で、今日も一日の始まりを告げるドゥーチェの声が遠くまで響き渡った。
23 17/08/14(月)00:36:16 No.446093954
今回もめっちゃよかった…三人とも良い子だ…
24 17/08/14(月)00:37:42 No.446094260
ははーん先代は裏目に出ちゃうタイプだな?
25 17/08/14(月)00:38:16 No.446094367
キテル!
26 17/08/14(月)00:39:55 No.446094717
やはりアンツィオ組はいいな!
27 17/08/14(月)00:44:56 No.446095669
気づかない内に後編やっちゃったのかなあと思ってたけど遭遇できてよかった 凄くよかった…
28 17/08/14(月)00:45:46 No.446095827
メモ住で教えてもらって飛んできた 後編待ってた
29 17/08/14(月)00:55:08 No.446097687
>中を開けると一本の櫛が入っていた。 これがマルコの4コマにあった短剣形の櫛なのか!?
30 17/08/14(月)01:06:58 No.446099821
いい話を読めて気持ちよく眠れそうだ…
31 17/08/14(月)01:09:00 No.446100185
あれだな この後OVA冒頭に繋がるやつだな
32 17/08/14(月)01:16:24 No.446101512
良かった…アンツィオを読むとホッとする 尻を治してみんなでPIOに帰ろう!