虹裏img歴史資料館

1 17/08/10(木)01:32:07 [2/10] No.445260947

家を出る前に、鏡に向かい三回「デートじゃない」と呪文を唱える。よし冷静だ。 待ち合わせ場所の駅北口ペデストリアンデッキに着くと、駅側が見える植え込みに腰掛ける。 勿論、彼女は時間ピッタリに来るはず。そういう人だ。 それでも、こっちは1時間前行動を厳守する。彼女の事を考えて待つ時間は、何だかとても楽しい。 1時間なんかあっと言う間だ。彼女とデートかぁ… ぽんぽん、と肩を叩かれ現実に引き戻された。それから「現着」という彼女の声。 いつもながら、自分の想像力の無さに呆れてしまう。 何故今日も制服で来るものだ、なんて思っていたんだろう。そりゃあ私服で来るよ。当たり前じゃないか。 リブ編みのタートルネックセーターにスキニーパンツ、色はグレーと黒、それに小さなカーキのバックパック。シンプルで飾らない装いでも彼女が着ると、これはもう圧倒的な視覚の暴力！　ニットが豊かな胸元のラインを強調しつつ、スキニーが細く長い脚を包みスマートさを演出。それでいて裾から僅かに見える股上から、確かな密度を感じさせる腰回りと臀部をちらりと覗かせる事で、そこに宿る秘密をわずかに開示 「…待たせた？」 いえ、今来た所です。

2 17/08/10(木)01:32:25 [3/10] No.445260985

映画館は駅の北口から歩いてすぐの場所にある。 音響への拘りで結構有名だからか、遠くからわざわざ訪ねて来る人も多い。 開場まではあと少し、彼女はその間にパンフを買いに行ってる。 本日の映画は『FABULOUS ARMOR GIRLS・THE MOVIE』通称FAG。彼女の解説によると 「FAGは、2009年10月に放送開始したTVシリーズ。ジャンルはシットコムに該当。1stシーズンは11話で放送打ち切りになる。その後、主にネット上のファンからの強い支持を受け、2年後に2ndシーズン22話が作成される。このシーズンから徐々に人気が高まり、1年の休止を挟み現在は5thシーズンまで放映。今回の映画はTVシリーズの前日譚に当たる。」 「今回は全シーズン視聴組とシリーズ初見組とで、どう意見の違いが現れるかの検証」 と言われ予習を禁じられていた。 いや、心配な事が一つあった。 暗い場所で、彼女のすぐ隣に座って、映画に集中出来るかどうかだ。 手と手が触れて…とか気がついたら相手ばかり見ていた…なんて映画みたいな事にならないだろうか？ 照明が徐々に暗くなりスクリーンでは予告編が流れ出す。 子供の頃からこの時間がとても好きだ。後で彼女にそう話したくなった。

3 17/08/10(木)01:32:43 [4/10] No.445261018

結論から言えば、 最後まで映画に集中して、ドキドキイベントは頭からどこかに吹き飛んでしまった。 物語はある日、冴えない男の元に届いた荷物を開封した所から始まる。 箱の中に入っていたのは機械仕掛けの少女、ただし大きさは1/10スケール。 男をマスターとして認識したその少女は、自分はFAGアルシィテクトだと名乗る。 手違いから始まった二人の生活だったが、徐々に心を学んでいくアルシィ。 騒がしい日々の中、お互いが絆を深めていく。 けれど、アルシィには世界を揺るがす大きな秘密が隠されている事が、やがて明らかになる。 次々に現れる新たなFAG。世界中を股にかける逃避行の果てに、アルシィが選択する未来は… というお手本のような娯楽大作だった。 CGで描かれるFAGと俳優の差も、すぐに気にならなくなった。 なにより、ヒロインのアルシィが健気でもう、とてもかわいいのだ。 脇を固めるFAG達もいい。早く彼女と話したい。 だけど、劇場を出るまでは、お互い私語厳禁。ネタバレをする者には逃れられぬ死を。 外に出ると、太陽の下で空腹がお昼を告げていた。

4 17/08/10(木)01:33:07 [5/10] No.445261058

「発見。現在地点から南東に約750mの距離。」検索を終えた彼女の目が強く訴えかけてくる。 今二人の心は一つだ。 「お待たせしました。こちらランチコースの海鮮トマト鍋になります」 映画を観てから二人とも、トマト鍋が食べたくて仕方なくなっていた。 そういえば彼女とは初めての食事か。 周りを観察すると、同じように映画館から真っ直ぐここに来た人も、いくらか居るみたいだ。 それにしても今日は朝から少し肌寒いとはいえ、この季節に、しかもランチでトマト鍋があるなんて。 向かいに座る彼女の目が輝いて見えるのも、きっと湯気のせいじゃない。ボナペティ！ トマトの酸味、それに海鮮のうま味が口の中に広がり、一口ごと体の中にリコピンと女子力が満ちていく。 そういえば、彼女と一緒に食事をするのだって初めてだ。彼女が野菜を口に入れた瞬間を見計らって訪ねる。 どう、美味しい？ 不意を突かれた彼女は口に含んだまま、こくこくと首肯する。んっくと嚥下して水を飲む。 不機嫌な時の半目の眼差しで「ペナルティを行使」と言って、こちらの取り鉢からエビを強奪していった。 待ってほしい、心だけじゃなくエビまでも奪っていくというのか！

5 17/08/10(木)01:33:24 [6/10] No.445261103

そういえば、あのスチルレッド？って子は、どうしてあんなにトマト鍋にこだわっていたんだろう？ 締めのチーズリゾットを食べつつ彼女に質問してみる。 「トマト鍋は彼女を構成する重要なファクター。加えて、TVシリーズにおける定番ジョークの一つでもある。 　なお、詳細は1stシーズン10話と2ndシーズン7話を参照。」 と前置きすると、彼女はバックパックからおもむろにBOXを取り出した。 すっかり気になっていたので、ありがたくお借りします。…始めから布教する気だったよね？ 「体験の共有は有意義と判断。結果によっては今後の供給も視野」 口調はいつも通りだけど、気のせいか圧が強い。でも好きな物を共有出来るなら、それは嬉しい。 ソルベを運んでた店員さんに美味しかったと感想を伝えると、少し苦笑しつつ教えてくれた。 「お客様は多分、映画をご覧になったんですよね？　実はトマト鍋って冬の夜向けコースなんです。 　でも店長が『必ず食べに来る客がいる！』って映画の期間だけ特別メニューにしちゃって…」 彼女と二人で顔を見合わせる。思わぬ所にファンが居たものだ。いや、よく分かってらっしゃる。 「ごちそうさまでした。」

6 17/08/10(木)01:33:40 No.445261147

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7 17/08/10(木)01:34:15 [7/10] No.445261229

この後、連れて行きたい所があると彼女に告げた。 デートではないにしてもサプライズの一つ位は用意してある。 駅からは少し遠いけれど、鍋で火照った体を冷ますには歩くのがちょうどいい。 30分ほど歩いた所にある煙突のある喫茶店。さて、彼女は喜んでくれるかな？ 扉を開ければ、そこはうさぎの園。彼女を見ると、あ、驚いてる驚いてる。よし成功。 珈琲を口に運ぶ…美味しい。彼女はというと、柔らかい表情で白いうさぎをもふもふと撫でている。映画の話をするなら、やっぱり喫茶店が王道だ。お互い映画の感想を交わす。アルシィって凄くかわいいね。 「肯定。アルシィは特別」 そういえば、彼女とアルシィにはどこか似た所があるように思える。 「否定。好意を罵倒で表現したりしない…出来ない」 彼女によると、映画のアルシィは起動直後だからかとても素直で、TVシリーズではマスターのことが大好きな癖に、随分と口が悪いらしい。 「アルシィの愛情表現は明らかに矛盾している。けれど、それは…」 どうしたの？ 「…好意を言語化するのは困難。伝達すべき情報が失われてしまう…気がする」 白いうさぎをもふもふと撫でながら、彼女は静かに言った。

8 17/08/10(木)01:34:32 [8/10] No.445261263

もし出来ない事があって、それでも為したいと思うなら、きっと練習する意味がある。 うさぎは好き？　改めてそう彼女に尋ねる。 「肯定」彼女は首肯する。それならもっともっと気持ちを言葉で、行動で表す練習をしてみようか。 俯いたまま白いうさぎを抱き上げると、彼女は胸元でそっと抱きしめる。 「言語化を開始……好き」うん、そうそう。 「好き……好き……」ほら、出来た。出来ないなんてことない。言葉にすれば伝わる。 すると、今度はこっちの隣に居る黒いうさぎを抱き上げ、自分の顔の前に持ってくる。 「……好き？」そう聞いてくる彼女の顔を見ようとすると、何だか眠たそうな黒いうさぎと目が合った。 勿論、大好きだよ。 「…それは」だってほら、うさぎって超かわいいよね！ 目の前のうさぎがピクリと震えた。 黒いうさぎをもふろうと手を伸ばすと、何故か彼女はうさぎを引っ込めてしまう。うさぎまで奪われた！ 何故だか彼女はこちらを見ずに、黒いうさぎに向かって語りかける。 「…学習。言葉は時として、あまりに無力」 この流れで一体どうして、その結論になるのか。

9 17/08/10(木)01:34:49 [9/10] No.445261311

夕暮の中を駅に向かって二人で歩く。 特に言葉は交わさないけれど、なんだか心地良い時間だ。 それにしても、彼女が独り占めする程うさぎが好きだったなんて、これは憶えておこう。 駅のコンコースが近づいてくる。デートじゃない楽しい時間は、もうすぐおしまい。 今日一日、彼女は楽しい時間を過ごせたのか。今になって段々と不安になってくる。 映画が面白いのも、トマト鍋が美味しいのも、うさぎがかわいいのも、 全てが他の誰かのおかげだ。自分に何かが出来たのか不安だった。 何のことは無い、言葉にすれば伝わるだなんて信じ切れてないのは、こっちの方だ。 隣を歩く彼女の一歩先に行く。振り返ると、まずは自分から気持ちを伝える。 今日はすごく楽しかった。またこんな時間を過ごせたら嬉しい。 「言葉による伝達は困難。よって別のタスクを実行する」 そう言って一歩踏み出した彼女の両腕が、ふわりと首の後ろに回り、 抱きしめられた。

10 17/08/10(木)01:35:09 [10/10] No.445261355

彼女の髪から凄くいいにおいがして、それが鼻孔をくすぐる。 「言葉ではなく、行動で意志を伝達する」 彼女の声が耳のすぐそばから聞こえて、それが鼓膜を震わせる。 「…以前に轟雷が教えてくれた。友情を伝える方法」 会った事は無いけど轟雷さん…ありがとう本当にありがとう。 「伝わった？」伝わった。鼓動が躰から伝わった。 解答を聞いて満足したのか彼女はふっと体を離すと、そのまま先に行ってしまう。 彼女がどんな顔をしていたのかは見えなかった。前を歩いて行く彼女の顔が見たい。見たい。 結局改札を通って彼女が帰るまで、顔を見る事は出来なかった。 分かってる。あれは友情のハグ的なアレで、特別な意味は無い。それはそれとしてだ、体にはまだ、彼女の熱と感触が残っている。 そうだ、また明日すぐ会うっていうのに、今度はこっちがどんな顔すればいいのか。 今夜はきっと眠れそうにない。 『おい起きろハゲ、もう朝だぞ』 結局眠れずに予習をしてる…しかし、このアルシィはホントに口が悪いな！――了

11 17/08/10(木)01:36:59 [sage] No.445261618

ss296711.txt の続き 前回頑張った二人にイチャイチャして欲しかった 着想をくれたアキ子スレとうさぎのレスを「」に感謝したい

12 17/08/10(木)01:43:16 No.445262407

怪文書来たな…

13 17/08/10(木)01:48:41 No.445263064

ゴマちゃんはきゅーってないた

14 17/08/10(木)01:49:25 No.445263143

いい・・・

15 17/08/10(木)01:51:14 No.445263391

>1/10 そんなに いいねぇ

16 17/08/10(木)01:51:35 No.445263452

あいつ

17 17/08/10(木)01:56:52 No.445264156

まとめて読んだ あいつアキ子のことになると

18 17/08/10(木)01:57:18 No.445264198

あいつ ありがたいよな

19 17/08/10(木)02:08:51 No.445265470

次は手を繋ぐくらいまでいけるやもしれん

20 17/08/10(木)02:09:25 No.445265516

次あるの！？

21 17/08/10(木)02:18:07 No.445266298

アキ子はかわいいなあ

22 17/08/10(木)02:20:18 No.445266484

抱けーっ!!　抱けーっ!! 抱きしめられてた

23 17/08/10(木)02:24:13 No.445266777

このハゲー！

24 17/08/10(木)02:32:07 No.445267332

ドキドキが止まらない…

25 17/08/10(木)02:41:11 No.445267932

これは…ありがたい

26 17/08/10(木)02:42:53 [sage] No.445268042

>次あるの！？ 今書いてるからその内に…

27 17/08/10(木)02:43:30 No.445268076

ナニココ

28 17/08/10(木)02:50:12 No.445268544

墜ちていく

29 17/08/10(木)02:51:36 No.445268646

アルシィテクトって名前が良いもじり方してるな…

30 17/08/10(木)02:53:50 No.445268818

元ネタからすると多分ピアノの上に乗ってアキ子が歌うパロディシーンがある

31 17/08/10(木)03:10:08 No.445269932

私のお茶目なバレンタイン 愛しい　おかしな　バレンタイン あなたは心から私を笑顔にしてくれる あなたの見かけって笑えるし 全然絵にならない 私の一番のお気に入りのアートだとしてもね ほんと　全然ハンサムじゃないわ 口元にしまりがないし 話す事も全然スマートじゃない だけど　私の為に髪一本変えたりしないで 私が好きならしないで いつまでもそのままで 一緒にいて！ そう毎日がバレンタインデイね …多分映画のEDもこれだな