ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
17/07/29(土)19:44:16 [1/23] No.442888211
1984年といえばジョージ・オーウェルが最後に残した傑作『1984年』が浮かぶ人も居るだろうし、そこからインスピレーションを受けた村上春樹の『1Q84』を思い浮かべる人も居るかも知れない。 ただ栃木県民の私としては昭和でいうと59年に当たるこの年は「とちぎ博覧会」が行われた年で、両親に手を引かれ、子供ながらに様々な未来の産業技術を見て回り、特に農業技術の発展に目を見張り、真っ黒で縞模様の無いスイカやポマトなどに圧倒されていた。 この頃からだろうか、漠然と農業に関係する分野で働きたい。バイオサイエンスという物に携わりたいと思い始めたのは。 宇都宮管区に聳え立つ巨大な新宇都宮タワーを遠くに睨み、思い返すは幼少のみぎりから の憧れであった研究職と決別し、今まさに科学の進歩に対して邪に挑まんとする事になったのは真っ直ぐでいて、紆余曲折を経る、あの遠い日々の日常にあった。 昭和は茹だるような夏場の焦燥として会場が極めて印象的な博覧会の後、四年ほど続き、やがて平成の御代となる。日本史上最も長く続いた元号で、世界大戦や高度経済成長期を送った時代も終わりを迎えた。
1 17/07/29(土)19:44:37 [2/23] No.442888287
長じて小学校中学校と進み、高校でも農業学校で生化学を専攻し。その人生において曲がること無く科学を志した少年は、大学でも農学を選択し、バイオサイエンスなる物を極めんと欲したが、生来からのやりたいことしかやらない性格が災いし、道を究めずして進退が窮まった。 なんとか大学はお情けで出して貰い、その後運良く研究職にもありつき平成の時代を一研究者として過ごしていた。 そうして、そう都合よく研究生活が送れたのはわずかばかりの時間で、自堕落な生活に身をやつし職を転々とする羽目になった。 何が悪いのか?己であることは間違いないのだが、転職するたびに、いわゆるブラック企業に引っかかり、己の調査能力のなさと、最もこの時期にブラック企業という言葉自体がまだ珍しい物だったから仕方ないという言い訳はさせていただく。そして生来の気ままさから過酷な職場で長続きせず。 唯一問題が無かったとはいわないが、比較的円満に過ごせたのは県の農業職員の臨時職員時代だけであった。
2 17/07/29(土)19:44:56 [3/23] No.442888352
在籍していた中にはお昼のワイドショーを賑わせるような会長の巨額の横領が発覚した企業なんかもあったりして、天罰覿面と未だに燻り続ける復讐心を大いに満足させたものだ。 今年で平成が終わるらしい。 天皇陛下の生前譲位という珍事である。仮に平成31年ということであれば第百十九代光格天皇以来二百年ぶりのことらしい。近年でにた例を探すとローマ教皇ベネディクト十六世は現役中に教皇を辞することを決め、四百年ぶりに教皇生存中にそのペトロの弟子たる冠をフランチェスコ一世に譲り渡した。 新宇都宮タワーには、旧来の宇都宮タワーのように車や自転車で気軽に迎えるというようなものではない。宇都宮管区のグリッドの外郭を高速で移動する。宇都宮市長肝いりの超高速弾道体、通称LRTにのり新宇都宮タワーの職員の中に混ざって移動しなければならない。 都市は無計画に成長している。私が暮らす郊外の一軒家は、今のところ中心部からある程度距離が保たれているため、無計画なシステマチック都市増殖論者の企みからは逃れているが、いつまで放っておいてもらえるかは不明である。
3 17/07/29(土)19:45:14 [4/23] No.442888423
昭和の時代からやってきた自動建設者群が何らかの法則に則り、増改築を繰り返しているがカオス理論に裏打ちされた、積層フラクタル構造都市計画が日々進行し、大地の記憶を失わせている。システマチック都市増殖論者など昭和の頃の遺物だろうに一度走り出した計画は止まらないらしい。 そのころ私はブラック企業での違法な残業とパワハラにより病を得ていた。 最初の内は、傷病休をとり、満足に回復しないうちに無理矢理復職したが、周囲からの厳しい目にさらされ、心は荒廃し、お前はもう辞めた方がいいと言われたのにもかかわらず、自主退職という形でこの会社とは決着を見た。 退職金も支払われず、得た物は精神障害者手帳三級という些細な得点だけであったが、薬をがぶ飲みするようになって以来、税制面で優遇されたり、時々心を和ませるため美術館や映画館に行くのに割引がきくという恩恵にあずかっていた。 別に障害者手帳を取ったからといって恩給が出るようなものでもなく、ただ世の世間の、社会の理に従い労働せねばならないという点においては、障害があろうが無かろうが関係のないものであった。
4 17/07/29(土)19:45:33 [5/23] No.442888487
もちろん不満はあったが、世を拗ねても仕方ない。以前在籍した会社が悉く天罰を受けよと呪詛の念を送りつつ、薄給で働くしか無かった。 今在籍しているここも程度の差はあれ、ブラック企業と呼ばれる部類の会社であった。 夜帰り、疲れた体を無理矢理起こし本を読んだり、録り溜めた番組をボンヤリ消化していくことが一日の自由時間の全てであった。 ああ、青春の科学に対する熱い志の念はどこへ消えてしまったのだろうか? 今日も会社へのグネグネとした道を通いながら、ここは増改築が激しい割には、昭和の時代から使われている建設者群がシステムの更新もされずに動いているため、やたらと昭和の残り香のする都市区画となっていた。 北関東グリッド・宇都宮管区では、新宇都宮タワーに移動できるのは資格となる遺伝子治療を受けた職員だけであった。とはいっても一般の資格の無い人間でもある程度まで侵入することは出来た。 ただそのためには都市衛生の観点から、全身を薬液に浸し、皮膚がガサガサになるほどの衛生処理を施されたうえで、更に埃や毛の侵入を拒むことになっていた。 新宇都宮タワーの主な目的は、気象調整であった。
5 17/07/29(土)19:45:50 [6/23] No.442888537
長らく見つかっていなかった、ミレニアム懸賞問題の一つである、ナビエ=ストークス方程式の厳密解が平成三十年に、日本の中主毅とクロフォード・富岡・エリックの手によってそれぞれ独立に発見され、平成の掉尾に花を添えたのである。 この方程式は偏微分連立不等式であり、人間の力では解くことがほとんど不可能であったが、新宇都宮タワーの中枢で氷り漬けになっている第四世代型量子コンピューターにより大気の粒子の一粒一粒に至るまで計算がされている。 これには、大気圏外から下ってくる長大な世界中に点在する静止衛星軌道まで到達する「バベルの塔」達の大気圏内の気相と海と都市陸上部の観測結果から基に厳密な大気条件が算出され、塔の内部からの微細な粒子や水分の放出、巨大な日傘の出し入れによって、年間の気象条件はほぼ揺るがず予定が組まれるようになっていた。 昭和は遠くになりにけり、平成の御代もまた通り過ぎていくことが予定されている。
6 17/07/29(土)19:46:09 [7/23] No.442888595
大地の残り香がほのかに感じられる、僅かばかりに残った舗装されていない地面の上や、干上がった暗渠のなかをLRTは異常な速度で飛んでゆく。外郭縁に設置されたLRTは空中を縫うように飛び去り、都市防壁の隙間から、半ば機械化された日光連山や那須連山の鈍色に光る山々が瞬間的に見ることが出来る。 日光方面も杉並木や東照宮を囲うように都市防衛の基盤を備えて、カオス理論に従った無作為な都市構築が行われている。 あれはまだ学生の頃で、宇都宮から見て日光の手前の今市市という長閑な街があった。杉並木を支点に森林と鄙びた街が広がっており、特に何も無いところではあったが、他の土地から来た人間には「いまいち市」という名前が今ひとつしっくりこないようで、その話題になるたびにちょっとした笑いが起こったものだった。 昭和のその頃はりんご園やぶどう園が日光杉並木通りに平行して点在して、少ないながらも観光客の足を止めていた。 平成後半になってからも、高速道路のインターが近くにあり、免許を取るための高速教習で、馬鹿広いドライブインによっては生徒達が教官とともに名物のソフトクリームなどを食べて和気藹々とした時間が流れていた。
7 17/07/29(土)19:46:25 [8/23] No.442888654
今市市は栗山村と共に日光に吸収され、今現在は巨大な日光グリッドとして存在しているようであったが、時折隙間から見えてくる光景以外に、グリッド間を移動する方法は一般市民には無かったので、そんな旧来の思いと共に、既に車に乗ることも無くなり用をなさなくなった北関東自動車道の高速道路という過去の遺物の上を、多種多様な高速飛翔体群が日本の大動脈として、グリッド間を内蔵を浸潤する体液のように、文字通り目にもとまらぬ速さで飛び交っていた。 そんなことは噂でしか知られていないことだった。時々壁を乗り越えてやってくる越境者が語っているのを聞いたりするぐらいであった。越境者も自力でグリッド間の都市防壁を乗り越えてくることは不可能なのでその地方ごとの高速飛翔体群に乗り込み、数少ない都市設計者の会議に帯同してきたりするものが、隙を見て語っていたりする事がごくまれにあるということである。 「チキンラーメン食うか?」 「卵を入れてくれ」 「卵は無い」 豆腐売りのラッパの音が昭和の風を乗せてやってくる。だが今は平成だ。そして平成もその役割を終えようとしている。
8 17/07/29(土)19:46:44 [9/23] No.442888715
時代は移り変わり、公務員が人間が量子コンピューターの奉仕者となる事になっても豆腐売りは居るし、チキンラーメンもボンカレーも相変わらず食っていた。 そりゃそうだ、人間腹が減っては動けやしない、水が無ければなおさらだ。 無謬の演算子は奉仕者を飢えさせないため、食料集積地を作り、各グリッドにNP困難な経路問題を力業で解き明かし、凄まじい勢いで「最も効率的な」経路を構築し、建設者群に指示を出していた。 そんなことは市井の人間には関係の無いことで、毎日けだるい作られた昭和の町並みを歩き、今は平成だったか?そんな疑問が頭をもたげる。 精神障害者ということで、障害者雇用枠でお情けで職を恵んで貰っていた、宇都宮ジーンテクニクスに勤めだしてからはそれなりに続いていた。 待遇に対する不満は大きいが、かといって転職できるほどの器も無いので、主にマウスとヒトの遺伝子情報のリプログラミングを行っていた。 正規職員との給料差は、ほとんど変わらない仕事をしていて三倍になっていた。食うのがやっとである。
9 17/07/29(土)19:47:01 [10/23] No.442888783
再雇用されたパートのおじさんとはよく冗談で、新宇都宮タワーアクセス遺伝子をばらまいてから辞めてやろうぜ等と話をしていた。 重大な都市安全への反逆であり、どんなことになるかなどは知れたものではなかった。 都市公共福祉の名の下に精神および身体に障害のあるものは、最低限のお恵みを都市上層部から与えられていたが、最低限の生活をするのがやっとである。 前世紀に障害者や同性愛者がゲットーに集められ、その苦しみの悲鳴と共に焼却された過去に比べればなんてことは無いと自分を納得させる。 一等市民は、塔に勤務し、宇宙巨大コンピューター理論を用い各グリッドに集められた量子コンピュータを並列稼働させ、地球を実際に用いたアース・シミュレーターでもってして管理するコンピュータへの奉仕者がこの一等市民に当たる。 昭和は遠くになりにけり。
10 17/07/29(土)19:47:21 [11/23] No.442888843
気象状況が安定しているため、昔のように田川や釜川が荒振り氾濫することも無く、雨は人気の無い夜に降ることが多かった。 山の端にかかった巨大な入道雲が遠くに見える。懐かしの夏といった風情ではあるが、あの足元には人はほとんど居ない。 人工のダムなどの上空に、積層型積乱雲発生飛翔体が飛び回り、巨大な雲を発生させ山付近に災害にならない程度の雨を降らせる。 街中では路面温度がある程度上昇した時にだけ、降雨予定警報が鳴らされ、都市部を潤していた。 昭和の頃は、山中に鬼虫を取りに行き、夕方まで虫刺されにあいながら野山を駆け巡ったものだ。早朝から夕方まで疲れることを知らず、夕方17時を過ぎると空が真っ黄色に染まり宇都宮の別名「雷都」と言われるだけあり、小学生の頭の上に雷が無慈悲にさんざ降りに墜ちたものだ。 私の父は、小学校の頃、校庭で野球をしていた少年らの頭上に雷が命中して即死したというショッキングな場面にあってから、雷を本当に恐れている。 それも昭和ならではのことで、今では巨大電流対策プロジェクトが組まれ、地上にまで雷が到達することは無い。 人類は気象条件を己がものにしていた。
11 17/07/29(土)19:47:47 [12/23] No.442888936
男は書物を紐解く。 「おい、お前はどこに居るんだ?」 通気管の遙か遠くから声かボンヤリと響いてくる。 「わからん、俺は俺の心臓を探しているんだ、邪魔しないでくれ」 「だったら俺の心臓を一つやろう、二つも心臓はいらない」 「じゃあそいつを一つ貰おうか」 「こっちに来い、壁沿いに歩いてくれば旧市街を抜けて、砦の跡が改装された俺たちの寝床にたどり着くはずさあ。そこまで来れば心臓を分けてやる。なるべく早く来い、急げよ」 「何でそんなに急かすんだい?」 「なんでって、そりゃ心臓が無けりゃ人は死んじまうからさ」 胸にあいた穴の中に手を突っ込むと、確かに言われたとおりに体は冷たくなっていた。 心臓は無い。 頭に血が巡らないが、早く砦の跡の、心臓を二つ持つ男に会いに行かなければ。 砦の跡といっていたが、砦というのは何かの用語なのだろうか? なぜなら砦は何か敵から自国の領土を守るためのものなのだから。 そんな疑問は後回しだ、今は心臓を早く手に入れないと。 男は眠気に負けて、そこで本を閉じた。
12 17/07/29(土)19:48:07 [13/23] No.442889004
宇都宮の中心街から外れたところに、福田屋百貨店という商業施設がある。こちらは昭和の頃には呉服を商っていたが、平成に入る頃には百貨店となり、周辺の田圃以外何も無い土地の値段が一気に二十倍にもなり、騒ぎになったものだ。 この福田屋百貨店は宇都宮の都市構造がカオス理論に従って増殖するのため、売り場が圧迫されるなどしたことがあった。 そのため、大曽店の他にインターパーク店という巨大な複合施設を生み出し、この二つをシャトルバスで結んでいたが、建設者群が道を線形計画法に則り極限まで宇都宮の都市区画を不可解に整理し、福田屋の計画を外れた交通網を作り出していった。 福田屋幹部は激怒し、自らの建設者群を作りだし、空中庭園を宇都宮の中心地に浮かべ、空中を高速飛翔体を用いて繋ぐ計画を立てた。 そしてその空中庭園にも、宇都宮市管轄の建設者群がまとわりつき、神経に絡まる癌のように無作為な建設を始めていた。 福田屋はこの状況に本格的に対策を取ることにした。 つまり「無限福田屋計画」である。
13 17/07/29(土)19:48:25 [14/23] No.442889062
宇都宮市管轄建設者群が癌化する街の象徴ならば、福田屋も独自に建設者群を作り、宇都宮の計画に逆らい店舗を無限拡張することに決めたのだ。 宇都宮市側はこの無限福田屋百貨店計画に対して「これは街に付いた癌細胞だ」と批判し、都市免疫抗体解体群を作りだし、無限福田屋百貨店と化した建設群をこぼつ人の如く粉々に砕き都市建設者群の素材としてリサイクルしていった。 福田屋側も手をこまねいて見ていただけではなく、福田屋建設者群を増産、そして民間防衛の要として、至る所に防人と呼ばれる社員を配置し、都市側の建設者群が来ると、囲んで破壊した。 分解された部品は、エリアマネージャーと呼ばれる幹部社員に回され、徹底的なリサーチの後、新しい建設者を作りだし、それぞれ高高度用や、地下掘削用、宇都宮市都市建設者群妨害ベトン配置建設者、高速飛翔体軌道設置建設者群など様々な用途の建設者を作り出していた。 こうした福田屋の研究所は砦と呼ばれ都市機構に対する重大な反対勢力となっていた。
14 17/07/29(土)19:48:44 [15/23] No.442889116
しかし、国からの補助金などが降り、地方景気もよかった宇都宮グリッドの建設者群は、あるときは福田屋を砕き、あるときは南国の寄生蔦植物が絡みついて栄養を吸い取るように、無限福田屋の構造物やシャトルバスの構造体の電子的・量子的情報をハックし、宇都宮市側の都市として作り替えていた。 皮肉なことに福田屋から徴収される法人税や、防人に支払われるサラリーの住民税なども宇都宮市の都市建設計画にどんどんつぎ込まれているのだ。 そして、じり貧になりながらも宇都宮の都市の重要な構成要素となった無限福田屋百貨店は癌細胞の誹りを受けつつも、貴重な都市の財源として生かさず殺さずの攻防が繰り広げられていた。 会社の帰り道、高速飛翔体の軌道の下を通っていると囂々という音がして耳がガンガンと鳴り、急に統合失調症の症状が出て膝をつく。 周りを見回すと目玉を右手で指を指したイラストの付いている「目医者」という黄色い古びた看板や、やっとこの先に後光が差している奥歯らしきイラストが描いてある「歯医者」という、酷く錆付いた看板がくるくると回っていた。
15 17/07/29(土)19:49:01 [16/23] No.442889170
ここはこの世の地獄なのか?無機物と有機物が混交するガード下で頭を抱えてうずくまる。 目を回しながら頭を抱えていると、どこからともなく「ぐふふ」という笑い声が聞こえてくる。 「ハッテン処」という看板があった。 看板の案内に従い、火に魅入られた我の如くふらふらと進んでしまう。 都市建設者群と福田屋百貨店建設者群の作り出した歪な空間のポケットがそこにはあり、何らかの配管のあるちょっとした広さの空間の中で、ヘッドマウントディスプレイをした男達がまぐわっていた。 「最高だぜ!お前のニューラルネットワークの複雑な絡みが、俺の中の都市構造群をスクラップ・アンド・ビルドしていきやがる!俺の中にお前が広がってくるぜ!ハッテン的都市の発展が俺のニューロンに電磁パルスの火花を咲かせるぜ!」 「おらっ!死んじまえ!孕め!お前の脳幹からペニスの先までハックしてやる!じっくりと征服される様を味わえ!」 男達が街の中にできた法の空白地で一心不乱にハッテンしていた。 ハッテン取締官、通称忍者に捕まれば人格矯正プログラムを脳内にインストールされる事は逃れ得ない。
16 17/07/29(土)19:49:19 [17/23] No.442889222
次第に強くなる頭痛を抑えながらその場から逃げていった。 しかしこのランダムに広がる都市の中でどこに逃げ込めばいいというのだろう? 当てなどは無くいっそ自分もこの年気候の一部になってしまえれば楽なのにという妄想が頭の中を駆け巡り、心臓を失った男のように全身が冷えていくのを感じた。 都市は無作為に広がっていく、人間も生物では無くなり機構の一端とかしてしまうのだろう。 建設者がいつの間にかさっきまでの乾いた暗渠というか商店街のような階層をすでに作り替えてしまっていた。 行き場の無い魂は量子化され新宇都宮タワーに取り込まれ都市を回転されるエネルギーになるのだろう。 ゆっくりと倒れ意識は無くなった。
17 17/07/29(土)19:49:38 [18/23] No.442889281
ここはこの世の地獄なのか?無機物と有機物が混交するガード下で頭を抱えてうずくまる。 ふと目を見やると宇都宮市の建設者群と、福田屋の建設者群がお互いに進入不可になった一種エアポケットのような空間があり、煌々と輝く看板に「うまみ処」と書いた看板がぶら下がっていた。 このエアポケットのような空間は結界と呼ばれ、何人たりとも入ってはいけないと都市の管理者はいう。 しかしこのように土地を持たぬ人が勝手に占拠していることが多かった。 それにしても堂々としている。 酷い耳鳴りで目玉が飛び出しそうになるが、せめて水の一杯でも貰えまいかと「うまみ処」に入っていくことにする。 建設者群が入っていけないのも納得の狭い空間で、メンテナンスなど考えていないような謎の配管が連なる通路、というより狭い隙間を這い入っていく。 どうやら旧市街地の外郭沿いを歩いているようであった。天を見上げるとほんの僅かばかりの人工の光もなく、道々に茂るトウダイヒカリゴケのかすかな光を頼りに歩いて行く。
18 17/07/29(土)19:49:54 [19/23] No.442889342
天井を見上げてわかったことだが、ははこ都市建設者群と福田屋建設者群の攻防が非常に激しいところだったようで、それぞれ特徴のあるパーツが有機的に絡まってマンデルブロート集合体のような複雑な模様を描いて、地層をなしている。 ここは旧市街地だったが平成になってから使われるようになった有機都市形成パーツも使われているようで、その部分にトウダイヒカリゴケが生えているようである。 時々高速飛翔体が頭上を通りぬけ、そのたびに激しい頭痛に見舞われ壁にもたれかかる。 そうこうしているうちに淀んだ空気の中にも、なにやら食欲をそそる香りの漂うちょっとした空間に出た。 「いらっしゃい」初老の男が陰気に声を投げやってくる。 ここに来て、何も頼まずに水だけ貰うというのも気が引けてきた。体調は相変わらず悪かったが、腹は減ってきた。 「何か食わせてください」 「ここはそのための場所だ」 店主が無感情にいう。 奥さんらしい人が愛想を振りまきながら水を持ってくる。こんなところなので期待していなかったが、思いの外キンキンにひえたうまい水でありがたい。 一気に飲み干す。
19 17/07/29(土)19:50:10 [20/23] No.442889386
ホテイブクロの焼いた奴とかクラヤミネズミのメンチカツなどよくわからないメニューが非常に気になったが、とりあえず餃子を注文する。 宇都宮の店で餃子を頼んでおけば、とりあえずの外れはないであろうという根拠のない考えであった。 水を飲んだら内臓の調子がいくらかましになってきて、飯を食う余裕も出てきた。 店主は相変わらず無口であったが、奥さんの方はおしゃべり好きのようで色々と話しかけてくる。 曰く、こんなところでも客はそれなりに入ってくる云々。元来この場所は自分たちの土地であったのに、無限福田屋計画の空中庭園シャトルバス弾体発射口として店を上書きするように有機パーツや特殊サーメット材などであれよあれよという間に上書きされてしまい、この奇っ怪な建造物の樹海へと飲み込まれていったという。 無限福田屋計画の橋頭堡として、周りからは福田屋の砦と呼ばれていたそうである。 一時期は福田屋の防人などが頻繁に通ってきていたので、昭和の頃より売り上げは調子がよかったぐらいであるという。 砦に来れば腹はふくれる。体は温まる。命を取り戻す。統合失調症の症状も治まり、鋭く重い頭痛も消えてきた。
20 17/07/29(土)19:50:29 [21/23] No.442889451
何の肉でできているのか聞くのが怖かったが、味わった感じでは餃子は豚肉でできているようだった。 調子が上がってきたので餃子のほかにも、刺身の盛り合わせを頼んだ。 会計を済ませると元来た狭い道を、体を横にして這い出ていった。 男は本を紐解く。 「心臓の調子はどうだ」 「具合がいいようだ」 砦までの道は荒廃した都市遺跡群となっていたが、それでも見るべきものはあったように思える。 荒廃した空き地にカラスが一羽所在なさげにうろついていた。 空は長いことみていないようであった。 砦を出て長い坂を登っていくと、浄水プラントが見えた。まだ活動しているようである。こんな辺鄙なところでも人は住んでいるようで、いや、辺鄙なところだからこそ人は生活圏を保っていられるのであろう。 腸内細菌叢を考える。 人間の腸内の微生物フローラは、微妙なバランスの上で成り立っている。 そして、そこに生活する細菌のバランスで人の体調は大きく左右される。内臓脂肪のたまり方、細胞の癌化、いろんなところに影響が出てくるという。
21 17/07/29(土)19:50:47 [22/23] No.442889515
長い坂の道すがら、自分の内臓をすべて捨て去ってしまえば、もっと生きやすいのではないのかと思った。 心臓を二つ持つ男はさぞや生き辛かろう、何せ命を主張する器官が二つ独自に動いているのだ。 かといって心臓がなければ氷のように冷たくしわくちゃになって小さく消えるように死んでしまうのだろう。 生きるのは辛かろう、死ぬのも辛かろう。 さてどうしたらいいのか? 郊外のまだ舗装されていない大地の香りを求め歩いて行く。 男は眠気に負け本を閉じた。 家に帰る途中の郊外で新宇都宮タワーにフリーで接続できる、フリー量子遺伝子撞着型端末があった。旧市街には道祖神の如く立っていたがこんな郊外にまであるとは。 戯れに会社でコピーしてきた端末接続遺伝子型の鋳型をつかい上位階層からグリッドにあるエアポケットを眺めると、様々な思念が激流の如く流れてきた。 本来であればこんなところでダミーの遺伝子キーを使うなど正常な考えではなかったがもうどうでもよくなっていった。
22 17/07/29(土)19:50:53 No.442889535
栃木はほも先進国
23 17/07/29(土)19:51:04 [23/23] No.442889579
「覚悟はあるのか?」 「自分ガチマゾなんで好きにしてください」 「お前にこの雷拳がうけられるかな?俺のセッションは激しいぜ?」 「オッス!望むところっす」 どうやら忍者の情報網に繋がったようである。ハッテン取締官が都市衛生上好ましくないホモセックスを見張っている。 男達はチンポぶんぶん、汁出るマニアファミリーと化してまぐわった。マス大山のような拳がが呂布の槍裁きのように見事にネコの、ソフモヒ猿顔ゴリマッチョのケツの穴にぬるりとめり込む。おらっ!死ねっ!妊娠しろ! 雷券と名乗る男は雷都宇都宮にふさわしい拳の出し入れをする。 「そこまでだ!」忍者が飛び込む。 その瞬間びっくりした二人は思わず特大のアーチを描いてホワイトレインボーを発射する。 あの二人はどうなることだろう?端末のアクセスを解除しログを消し去り逃げるようにその場を後にする。 きっと彼らの魂は新宇都宮タワーの量子コンピュータにとらわれ永遠の奉仕者とされることだろう。
24 17/07/29(土)19:51:34 No.442889679
よかったらおひねりは「そうだね」していただけると励みになります
25 17/07/29(土)19:51:48 No.442889736
またきたのか!
26 17/07/29(土)19:52:03 No.442889780
改めて全文見るとめっちゃ長いな…
27 17/07/29(土)19:52:29 No.442889860
ホモのおもしろ人生だけど 科学的じゃない
28 17/07/29(土)19:52:32 No.442889868
昨日より長い…
29 17/07/29(土)19:52:33 No.442889871
ホモ要素が唐突すぎて吹く
30 17/07/29(土)19:52:45 No.442889910
書き下し?
31 17/07/29(土)19:53:17 No.442890021
23て
32 17/07/29(土)19:53:41 No.442890099
ほもの役人
33 17/07/29(土)19:55:07 No.442890392
1/23まで読んだ 書評とか出してた「」だっけ…?
34 17/07/29(土)19:55:32 No.442890458
すごいものをみてしまった感がある ハードSFガチホモかあ・・・・・・ありだな!
35 17/07/29(土)19:55:58 No.442890550
1984年生まれ栃木県民の俺はスレを開いて困惑を隠せない
36 17/07/29(土)19:57:37 No.442890867
ジャンルはSFになるのかな…
37 17/07/29(土)19:58:18 No.442890990
どことなく春樹っぽさを感じる
38 17/07/29(土)19:59:02 No.442891137
SF(スペルマファンタジー)
39 17/07/29(土)20:02:02 No.442891791
もうちょい長くしてストーリー作ってどっかの賞に投げたら普通に通りそうな出来だ
40 17/07/29(土)20:02:04 No.442891799
>またきたのか! 昨日のログみたいといわれたので 基本的にログ保存してないんで 再放送だけどまあいいかなって思って
41 17/07/29(土)20:03:04 No.442892030
トチギ真実が福田屋インターパーク店にまで言及されたところで駄目だった 上野さん…お前は今どこで戦っている…
42 17/07/29(土)20:03:19 No.442892088
まあ俺は初見だったからよかったよ
43 17/07/29(土)20:05:17 No.442892577
俺の知らない間に宇都宮がとんでもないことに…
44 17/07/29(土)20:06:20 No.442892867
続きが来たのかと思ったら追加版だった
45 17/07/29(土)20:07:04 No.442893076
23の文字見てそんなにってなった
46 17/07/29(土)20:08:31 No.442893444
さっき見た時途中からかーと思ってたからありがたい…
47 17/07/29(土)20:10:37 No.442893936
[2/23]に気付いた時のよくわからない絶望感よ
48 17/07/29(土)20:11:47 No.442894230
なんか変なもの見ちゃった…
49 17/07/29(土)20:12:32 No.442894431
>続きが来たのかと思ったら追加版だった とりあえず10万文字ぐらいは書くつもりです
50 17/07/29(土)20:13:05 No.442894570
なそ にん
51 17/07/29(土)20:13:27 No.442894655
宇都宮在住だけど凄いものを見た
52 17/07/29(土)20:14:08 No.442894843
サイバーパンクゲイ文学
53 17/07/29(土)20:16:58 No.442895516
こういうどこまでも街が続くみたいなのが好きで 伊藤潤二の「街」とかブラムっぽい雰囲気にしようと思っていたんだけど 皆勤の徒というのにも似ているらしくてジャンルが自分でもわからないので誰か教えて あと横浜駅SFっていうのとは設定かぶってたりします?
54 17/07/29(土)20:17:35 No.442895645
ゲイに輪廻はないからね 次もホモ
55 17/07/29(土)20:19:15 No.442896050
宇大農学部「」が俺以外にも居たとは・・・
56 17/07/29(土)20:23:07 No.442897015
面白くて読みたくなるのが困る
57 17/07/29(土)20:25:22 No.442897635
横浜駅SFは人間の意思を離れて自己増殖するようになった横浜駅が日本全土を覆い尽くしたみたいな舞台設定だったから微妙に違うな
58 17/07/29(土)20:25:56 No.442897768
>書評とか出してた「」だっけ…? ブックガイド執筆者募集しているからよろしくね これフォローしてもらえたら連絡とりやすいかもなので 興味があったらよろしくです https://twitter.com/jyukaisan
59 17/07/29(土)20:33:38 No.442899613
>もうちょい長くしてストーリー作ってどっかの賞に投げたら普通に通りそうな出来だ 何賞に出せばいいんだ
60 17/07/29(土)20:34:49 No.442899875
なんで栃木にしたんだよふざけんな
61 17/07/29(土)20:36:24 No.442900305
>宇大農学部「」が俺以外にも居たとは・・・ 農学部だけど宇大じゃないんだ 東京農大なんだ
62 17/07/29(土)20:40:03 No.442901179
ハヤカワSFコンテストとか…?字数的にも規定内に収まりそうだし ジャンル的に言ったらSFだろうし 締め切りは来年3月
63 17/07/29(土)20:42:19 No.442901695
>ハヤカワSFコンテストとか…?字数的にも規定内に収まりそうだし >ジャンル的に言ったらSFだろうし >締め切りは来年3月 ホモ抜きでストーリー作ってて ここに投下するときだけホモ要素とってつけているので 2ラインで進んでいます 文字数規定に合うようならせっかくなんで投稿してみるのも面白いかもしれないので 検討してみます、アドバイスありがとうございます
64 17/07/29(土)20:42:48 No.442901805
SFなら同性愛要素もいけそう