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17/07/13(木)12:25:48 西住S... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1499916348327.jpg 17/07/13(木)12:25:48 No.439373994

西住S! 初めての人は初めまして! 久しぶりの方はお久しぶりです! 前回までのあらすじ! わたし西住みほは大洗に住んでいる高校二年生 ある日ピンクの戦車に乗った六人のわたし、西住Sがやってきた 元の世界に帰れなくなった彼女たちを元の世界に戻すべく仲間を集めてきたんだけど、世界を滅ぼそうとする敵に、世界中が新生カーボンに飲まれてしまった! なすすべも無いわたしたちの前に現れたのは……ええ? 異世界のわたしたち? 果たしてこれからどうなっちゃうの!? su1935488.txt

1 17/07/13(木)12:26:25 No.439374074

 戦車は次々に止まって人が降りてくる。  ナカジマさんが外に乗っていて、あれ? この戦車って外で乗るの? って思った。 「すごい!」 「ほんものだ」 「見てもいいですか?」 「はじめましてーナカジマでーす!」  手を振ったナカジマさんに、ナカジマさんが手を振り返す。 「この戦車はちょっとピーキーだからね。最後の点検をしてたんだ。みんなに手渡す前にね」  ちょいちょい、と誘われるまま、ESP研究会のメンツが戦車によじ登る。 「そんなに乗って大丈夫なのー?」  声をかけるわたしに、向こうのナカジマさんが「だいじょーぶー」と言った。 「そもそもこいつが重い戦車だからね。  ぐずり出したら気を付けて。装甲もあるけど、いざとなったら下がって修理しないと炎上して動けなくなるから」 「え? でも、リアルの自動車も戦車も動かしたことないんだ。弄ったことも」  ナカジマさんの顔がちょっと曇った。

2 17/07/13(木)12:26:52 No.439374137

 向こうのナカジマさんが驚いた顔をする。 「え? じゃあここのみんなは何してるの?」  ホシノさんが戦車の中から現れた。スズキさんのよく焼けた顔も這い出てくる。 「車関係のなにか、やってるんじゃない?」 「……私たちは、その、玩具みたいなので」  こっちのツチヤさんが言った瞬間に、ポケットからミニ四駆が飛び出した!  「イエローレオポン!」 『玩具じゃないぞ! ツチヤ!』  突然ミニ四駆が喋る……いや、なんか違う。 「に、西住さん! え、ESPAが出てきた!」  ナカジマさんがとんでもないことを言うから、わたしは慌てて戦車によじ登った。そこには褐色の少女が乗ったイエローレオポンがある。  そこに走り込んできたのはナカジマさんのポルシェティーガーだった。 『やあ、西住さん、久しぶり』 「しゃ……喋れるの?」 『大気中に高濃度のガルパニウムが含まれているからね。わたしたちも身体を持つことが出来るんだ』

3 17/07/13(木)12:27:17 No.439374206

「「「「うわあ! すごい!」」」」  歓喜の声を挙げたのは、向こうの世界から来た四人だ。 「え? なにこれ、普通の状態でもこんなふうに出てくるの?」 「あれ、ツチヤとナカジマの顔に似てる」 「あ! もう二台出てきた!」 『ボクはドリフトオレンジ』 『オレはパーフェクトレイン』 「すごい! リアル三次元アバターだ!」  ホシノさんが手を打ち付けた。 「この子達は私達の分身なんだ。で、分身同士でチューンアップして意志を持たせて、こっちの指示通りにミニ四駆を走らせることが出来るようにしてるんだ」 「なるほど。  性別を男性にしているのは、もしかしてオリジナルと別個の存在にしてるから?」  向こうのナカジマさんの推論に、ナカジマさんが頷いた。 「そういうこと! あえて捻れを作ることで、混ざり合った情報がバグを起こさないようにしてるんだ」  へえ。さすが話が早い……って、それは本人同士だからかな。

4 17/07/13(木)12:27:51 No.439374273

『西住さん。この世界はいろんな世界に繋がっているんだ』  ポルシェティーガーが言った。 『だからこんなイメージも共有できるんだよ。  ここは本当は、そんな世界なんだ』 「ねえ、よかったらさ。わたしたちもそれでレースしてみたいな」  向こうのナカジマさんが言った。 「メカの相棒がいるって憧れだよね」  ツチヤさんも頷く。スズキさんは手を差し出す。そこをポルシェティーガーたちが走って行く。 「うわ! くすぐったいよ!」 「こういうの開発してるってすごいな! ここのわたしたちは」  ホシノさんが素直に感心するから、ナカジマさんが手を差し出した。 「もちろん! ようこそ! ESP研究会へ!」

5 17/07/13(木)12:28:10 No.439374324

「なあ、どんな顔して会ったらいい?」 「どんな顔もなにも――」 「いやマジで女の子来るのかな。戦車乗ってるぜ?」 「他の戦車も、女の子乗ってるだろ。ぜよ」  歴史情報研究会のメンツの顔は強張っていた。 「どうしたのみんな」  わたしが声をかけると、カエサルさんが難しい顔をする。 「いや、女の子の自分っていうのがどうも判らない。  っていうか、おりょう。その無理のある「ぜよ」大丈夫か?」 「だって西住さんに「薄い」って言われたんだよ! 負けてられないじゃん! ……ぜよ」  いや、それ言ったのわたしじゃないけどね。  ……わたし”達“だけど。 「「「「うわ――っ!」」」」  突然聞こえたはしゃぎ声に、イケメン四人が硬直した。

6 17/07/13(木)12:28:52 No.439374425

 駆け寄ってきたのは女の子達だ。背丈は歴情の人たちよりも頭一つ以上低い。それがキラキラした笑顔で見つめている。 「すごいな、男性版の我ら。壮観だな。  これは逆に女装すればネロ皇帝か!」 「いや。美貌の外交官シュヴァリエ・デオン!」 「逃亡時に女装した桂小五郎とかどうぜよ?」 「そうじゃないだろ。完全に性別が逆転してるんだから、井伊直虎!」 「「「それだ!」」」  キャーッと喜ぶ四人に、こっちの四人は完全に真っ白になっている。  エルヴィンさんが言った。 「そ、その頭は?」 「ああ、この帽子はかの名将エルヴィン・ロンメルをイメージしている」 「……いや、金髪は」  ここで初めてエルヴィン(♀)は彼の髪が薄い茶色だということに気づいたらしい。フッと笑って高らかに言い放つ。

7 17/07/13(木)12:29:17 No.439374490

「自分の人生は、自分で演出する!」 「いいなあ。背丈あるのはいい。私も男だったらトーガで学校通ったな!」  カエサル(♀)がとんでもないことを言い出す。 「カエサルは一度試そうとしたけれど、胸が出てしまうから断念したのだな」  左衛門佐(♀)が突っ込むと、うんうんと頷く。 「ブラつけるのは違うし、さらけ出したらアマゾネスになってしまう。男だったらカエサル・シーザーだな……。  う! ブルータス! お前もか!」 「ええい、紀元前44年2月15日に与えられようとした王の冠を退ける演出でますます王の座を得ようとしたシーザー! 許さん!」 「ちょ、ちょっと」  左衛門佐さんが声をかけた。 「君、左衛門佐ちゃん、だよね。その片目、どうしたの? 痛い?」  質問の意図が分かりかねて、左衛門佐(♀)が首を傾げた。そういえば彼女は左目を瞑りっぱなしだ。  左衛門佐(♀)は、あーあーと頷いた。 「この方がかっこいいでしょ?」 「かっこ……」

8 17/07/13(木)12:30:14 No.439374643

 絶句する中、おりょうさんはおりょう(♀)に怒られていた。 「なんで“龍馬”を名乗らなかったの?! せっかくの男なのに……それじゃあいかんぜよ!」 「いや……その、龍馬になりたいんじゃなくて、龍馬の……ファンでいたい、その心の現れっていうか……」 「わかるぜよ!」  一転、がしっと両手を握るおりょう(♀)をおりょうさんが寂しそうな目で見た。 「あの……よければ、身体、触ってみてもいいかな。  も、もし自分が、女の子だったらって思って」 「え? あ、まあ、いいけど」  胸元に手をやり、肩に手をやり、それからおりょうさんはおりょう(♀)を抱きしめる。 「そっかぁ……女の子だったら、こうだったのか」 「ちょ! は、はずかしいから……」  そう言いながらおりょう(♀)は身体に手を回す。  それを見て色めき立ったのは向こうの世界の人たちだった。 「そうか! その手があったか!」

9 17/07/13(木)12:30:41 No.439374705

「胸板! 触らせて下さい!」 「うん! やはり男性はたくましい身体がいいな! 六尺ふんどしは? 履かないのか?」  遠慮が無い触りように、三人の口は開きっぱなしだ。 「そうだ! そっちの世界の西住さん! 記念写真撮って!」 「カエサルナイスアイデア!」 「それにしてもキャラ濃いな、ここの私達は」  左衛門佐(♀)に言われて、歴情の四人はぎょっとした。 「こ、濃い……?」 「男というだけで、随分と存在感があるぞ」  エルヴィン(♀)が惚れ惚れした声を出した。 「赤マフラーも、まるでヒーローだ」 「なんか大人って感じぜよ」 「それにそのカラコン! かっこいい!」  左衛門佐さんが口をパクパクさせてがくっとうなだれた。身体を震わせる左衛門佐さんに、わたしは「まあまあ」と声をかける。 「異世界から来た自分とのギャップって大きいですよね。わかります」

10 17/07/13(木)12:31:19 No.439374816

「そういえば、聞きたいことがあります」  エルヴィン(♀)が手を上げた。 「こっちのカエサルさんが男の人ってことは、そっちのひなちゃんは男なんですか? 女なんですか」 「え?」  カエサルさんが固まった。  男子三名女子三名が喜色満面になる。 「なるほど」「慧眼だ」「言われてみれば……」 「え? ひなちゃん?」「ほほう」「気になるぜよ」  うん。わたしも気になる。確かカエサルさんの幼なじみだっけ。  首に巻いたマフラーレベルで真っ赤になったカエサルさんが大声で言った。 「だからあ! ひなちゃんはぁっ!」

11 17/07/13(木)12:32:06 No.439374951

「うわーっ! ついた!」  元気な声が聞こえた。  あ、キャプテンだ。 「あなたがここの西住さん? うちのチームはどこ?」 「あ、えーとみんなは……」  探しながら奇妙な違和感を覚える。屈託のない笑顔はもしかしたらここのキャプテンより明るいかもしれないけれどそんなことじゃなくて……。 「西住さん!」  呼ばれて気づいた。向こうからビーチバレー部の子達がやってくる。 「彼女が、向こうの世界のわたしか!」 「磯辺先輩も、バレーボールやってるんですか?」  向こうのキャプテンに尋ねると、彼女は眼をパチパチさせた。 「え? ここの西住さん、一年生?」 「二年生ですけど」 「じゃあ同い年じゃん!」  え?

12 17/07/13(木)12:32:53 No.439375083

 ここでなんかまた変な気持ちがした。そこにビーチバレー部の子達が集まる。 「初めまして――磯辺典子です」  キャプテンもちょっと妙な顔をした。なにか違うような、そんな視線。でも向こうの磯辺先輩……いや、磯辺さんはにこにこしながら。 「あなた三年生なんだ!」  と尋ねた。 「わたしまだ二年生なんです! うわー、年齢が違う自分と会うのって新鮮! あ、三年生になったら、わたしも身長伸びるのかな!」  あっと思った。  向こうの磯辺さんは、明らかに身長が低い。ここのキャプテンはわたしと目線が同じなのに、今は明らかに下にある。 「……あの、わたしは、中学の頃から身長変わらないから、そのままかも……」 「なーんだ。ちょっと期待しちゃったな……。  でもいいなあ! バレーって身長高いと有利だもんね!」 「そんなこと無いですよ!」  向こうの世界の佐々木さんが言った。河西さんがそれに続く。

13 17/07/13(木)12:33:20 No.439375160

「キャプテンは名セッターです! 更にサーブコントロールの巧みさは抜群です」 「気合いと根性ですよ!」  近藤さんがさっと手を出すと、三人の手が重なった。 「うおおおおおお! こんじょーー――!」  ……熱いな、この人たち。  こっちの河西さんが尋ねる。 「あなたたちは、一年生なの?」 「ええ。この前ようやく部として再認可されました」  しみじみうなずく河西さんに、近藤さんが尋ねる。 「バレーボール部は何名?」 「今はまだ四人……でも、戦車道で顔を売ったからもう少し増えるかも!」 「ねえ! そっちはバレー部って何人くらいいるの?」  向こうの佐々木さんがわくわくした声で言った。

14 17/07/13(木)12:34:03 No.439375277

「……補欠が、出るくらいはいるかな」  佐々木さんが応えると、向こうの四名が「すごーい!」と手をたたき合った。 「そしたら試合し放題だ!」 「他校との試合も出来るかも!」 「後輩もいるってことだよね! どんな子だろ」 「大会に出られる!」  わーっと喜ぶ四人に、わたしは尋ねた。 「あの、でもそれだけ人数がいたら、試合に出られない人とかも出てくるかも……」 「試合に出られなくても、ゲームは出来るじゃない」  向こうの磯辺さんが言った。 「四人だと出来て2on2だもんね! それだって楽しいけど!  大洗女子学園バレー部は不滅だっ!」 「「「お――――――――っ!」」」  明るい四人に、こちらの三人は目に涙を溜めていた。 「私達が、もっと早く素直になってれば」

15 17/07/13(木)12:34:18 No.439375318

「キャプテンはもう卒業しちゃう――」 「……ずるいよこんなの。一年違うだけで……」  声が震える三人に、キャプテンが言った。 「ずるくない!」  そう言う彼女の目にも涙が光っていた。でも、こらえて笑顔になる。 「卒業する前に、この四人でチームが組めてよかった。……間に合ったんだよ、私達は」  差し出された手の甲に、三人の手が重なる。 「大洗! ファイトォっ!」 「「「オオオオオオオオオオッ!」」」  すっごい!  この気合いは実際に大多数で活動してた部活ならではの声だ。向こうの磯部さんたちも圧倒されている。 「すごい……強豪校の部活みたい」 「負けちゃいけませんキャプテン!」 「わたしたちだって負けてませんよ!」 「根性です! ファイトです!」

16 17/07/13(木)12:34:42 No.439375379

 二人の磯辺典子が視線を交わす。 「これが終わったら、バレーボールやろう」 「うん……世界を救って、一緒に!」  なんだ、おなじだってわたしは思った。  どっちの四人も、身長も年齢も違っても。きっとバレーボールが大好きなんだ。  この四人で、本当のチームなんだって。 「ちょっと! 戦車なんて乗っていいと思ってるわけ?」  園先輩が言うと、向こうの園みどり子さんは肩をすくめてみせた。 「うちは戦車乗るのも授業の一環なの」 「あんたんところのルールはそうでも、うちは違うのよ!」 「つべこべ言わないの。これが無かったら、あんたの世界は……どころかこっちの世界も西住さんも助からないのよ。我慢して戦いなさい」  二人の様子を見ながら、二人の金春さんと後藤さんがひそひそ話し合う。 「そど子はどこ行っても変わらないね」 「芯が強いのよね」

17 17/07/13(木)12:35:10 No.439375456

「ところでパゾミとか呼ばれるの、嫌じゃない?」 「コードネームって考えるとかっこいいですよ。ジェームズ・ボンドみたいに」  園先輩はふうっとため息をついた。 「……なんだか不良みたいなのよ。  この平和な日本で戦車を使うなんて、憲法違反してるみたい」 「いい、こっちのそど子」  向こうの園さんがニヤッと笑った。 「ルールはね、破る為にあるのよ!」 「なによそれ! 不良じゃない!」 「ルールも無くなるくらい酷いことが起きたら、良いも悪いも無くなるのよ。  そうならないように、破るルールもあるの」  それから彼女は、自分自身を抱きしめた。 「しゃっきりしなさい、園みどり子!  大切な人たちを守る為に、四の五の言っていられないの。  自分の居場所を見つける為には、戦わないといけないのよ」

18 17/07/13(木)12:36:02 No.439375596

「大切な人って……冷泉さんとか?」  消え入るような声で尋ねた園先輩に、園さんが驚いたような顔をした。 「ああ、うん。れまこもね」 「そうだよね。毎朝早く来て、風紀委員手伝ってくれたりするものね――」 「はぁー?」  突然あがった、素っ頓狂な声。園さんが園先輩の肩を握って言った。 「それ、一体誰のこと言ってるの!?」  最後の戦車は、誰が乗っているかわかっていた。  四人が降りてくる。 「初めまして。わたしたちがオリジナルのあんこうチームです」  柔らかな微笑の、五十鈴華が言った。

19 17/07/13(木)12:36:22 No.439375663

「あ、あんたが、あたし……?」  華が尋ねると、向こうの華さんが頷いた。 「そうです。私はあなたです」 「なんか、全然違うな――あたしと」  自嘲するように顔を背けて、それから目をパチパチさせた。 「あんたさ、あたしがなりたいって思った、あたしそっくりなんだ――。いや、あたしより自然かな。  落ち着きがあって、優しそうで。  でもあたし、出来なかった。  喧嘩っ早いし、口も悪りいし……」 「まあ! 喧嘩!」  華さんが口元を手で押さえた。 「ワイルドですねえ……勝つんですか?」 「あったりまえじゃんか! 早々あたしに勝てる奴はいねえよ!」  ちょっとだけ自慢げに言ってから、華は顔を曇らせる。

20 17/07/13(木)12:37:01 No.439375768

「……母さんとかさ、おまえは好きに生きろって言うんだよ。華の顔はいろいろ違うって。  あたしの家、五十鈴流って生け花やってるんだよ! 花いけてるの」 「……存じています」 「だよな。あんたあたしなんだもんな。  で、全然、笑っちゃうくらいダメなんだよ。  あたしの活けてえ華が……活けられねえんだよっ!」  華さんは首を横に振る。そこに華が詰め寄った。 「どうやったら……どうやったらあんたみたいに綺麗に咲けるんだよ! あたしは……そんなふうにはなれない……」 「ねえ、五十鈴華さん。  私思うんですけれど、あなたは充分魅力的で綺麗で、あなたの活けたい華を活けることが出来ると思いますよ。それに」  華さんが微笑んだ。 「蕾を醜いという人はいませんよ」  華が泣いた。  声を震わせて大粒の涙を零して。

21 17/07/13(木)12:40:31 No.439376304

そこに入ってきたのはさおりんだ。 「やだもー、華ったらそんな泣いたらびっくりしちゃうでしょ」 「でもよ、沙織」 「はいはい。涙拭いて。大丈夫! 華はとっても綺麗だし、魅力的だよ」 「あれ? あなたがあたし?」  声を掛けてきたのは、ふわふわの髪の美人さんだった。なんかすごい! シャンプーとかめっちゃ気をつかってる人だ! 「やだもー! あたし、武部沙織だよ?  ってみんな知ってるか!」  え? さおりん?  あ、確かにさおりんだこれ。  あっけに取られている華とさおりんのところにやってきて、オリジナルの武部沙織さんはにっこりした。 「うちのみぽりんがお世話になりました。  あ……この後も一緒に頑張ろうね」

22 17/07/13(木)12:40:57 No.439376363

 さっと手を出して、まだ目元が赤い華の手を握った。ぽっと華の頬が染まる。 「あ……ありがとう」 「どういたしまして! それよりさ!  ここってぇ、共学なんでしょ! 男女比率どれくらい? 彼氏いる?」  振られたさおりんが目をパチパチさせた。がっついてくるオリジナルの沙織さんにさおりんは苦笑気味に応える。 「あの、半々くらい? 男の人には興味ないかな」 「えー! なにそれ! すごい余裕!」  ぷーっと頬を膨らませる沙織さんに、華さんが突っ込む。 「うちの沙織さんは男の人にしか興味ないですからね」 「なによそれ!」 「まあまあ。好きなものがあるってのはいいことですよ」  ひょっこり出てきたもじゃもじゃ頭は、向こうの秋山優花里さんだ。 「それにしても戦車道の無い世界って、不思議ですね。確かに実生活に無くても困らないかもしれませんけれど……とても寂しい気がします」 「あ、あの、初めまして」  秋山さんが俯いて挨拶する。そうすると向こうの秋山さんが満面の笑顔で手を握った。

23 17/07/13(木)12:41:37 No.439376468

「わーぁ! 本当、そっくりですねえ! ね、ね、見て下さい! 並ぶとどっちがどっちか判らないくらいですよ! 写真撮って下さい!」 「え? え?」 「もしよかったら、今回の件をきっかけにもっと戦車のこと知って下さい! きっと興味持てますよ。  秋山さんは何が好きですか?」 「あ、あの……わたしは、オカルトとか囓ってて……」 「オカルトですか!  UFOですか? ルーズベルト大統領呪殺とか、もしかしてフィラデルフィア実験?」 「ゆかりん、あんまりずんずん行ったら、相手が引いちゃうよ」  苦笑気味の沙織さんに秋山さんが頭を掻く。 「すいません。異世界で出来た初めての友達なので、つい調子に乗ってしまいました」 「え? 友達!」  ちょっと秋山さん。あんまり大きな声出すと、秋山さんびっくりしちゃうよ。実際その声に困ったような顔をして秋山さんが謝る。 「あ、すいません……。馴れ馴れしくしちゃって。  そんな、いきなり異世界から来た秋山優花里とか言われて、友達扱いとか困りますよね」 「ちがいます! 逆です!」

24 17/07/13(木)12:41:59 No.439376537

秋山さんが首を振った。 「わたしも、秋山さんと友達になれて、嬉しいです。 わたしの、異世界の、友達……!」  いろいろ言いたいことが溢れそうになって、秋山さんはぐっと堪えた。 「喜んでばかりもいられません……今、皆さんの友達……西住みほさんは囚われの身です……。そして敵は強大です。勝てるかどうか――」 「こういう戦い、わたし達は慣れっこですから」  秋山さんは力強く言った。 「勝てるかどうか、ではなくて、勝つんです!」 「ですね!」  ぐっと腕を絡ませて二人、ガッツを見せる。 「おい、それよりも私はどこだ」  わ! 麻子。  そうだった。これが彼女の望みなんだ。  別世界の冷泉麻子が横取りしている睡眠を、自分のところに取り返すという願い。  そこに欠伸をしながら冷泉さんが現れた。 「なんだ騒々しい」

25 17/07/13(木)12:42:24 No.439376601

「睡眠泥棒はお前か」 「なにも盗んでないぞ。私は私が眠りたいと思うときに眠るだけ……ふわぁ……」 「麻子ったら、ほんと寝起き悪いのよね。  戦車道の試合とかはみんなで起こしに行くんだから」  沙織さんがプンプンするのを聞いて、麻子は大きなため息をついた。 「まったく……お母さんとか起こしてくれないのか」  呆れた声に冷泉さんは、はっとした顔をした。そして素晴らしい推理力を発揮した質問をする。 「おばあは、無事か」 「ピンピンしてるぞ。家族揃って息災だ」  ここまで言って、麻子の顔が青ざめた。冷泉さんの顔も青ざめている。でも、麻子の動揺の方が激しい。冷泉さんが言った。 「おばあは元気だが、さすがに年を取っているからな」 「そうか。うちのおばあも先日体調を崩した」 「お父さんとお母さんは、ちゃんと面倒見ているか?」 「……ああ!」

26 17/07/13(木)12:42:42 No.439376646

 麻子が拳を握った。 「この年齢になっても、ちゃんと家族仲はいいぞ!  沙織の作ってきたお菓子を一緒に食べたり、お母さんの作ったケーキとか、おばあのおはぎとか食べるぞ! お父さんも、優しい!」 「そうか……」  ふーっと息を吐いて、冷泉さんは笑った。 「よかったな」 「ああ! だから。  睡眠くらい、お前にくれてやる」  真剣な顔の麻子に、冷泉さんはぼやいた。 「そんなにたくさん寝たいわけじゃないんだ。ただ眠くなるから寝ちゃうだけなんだ。  むしろこの眠気が欲しいなら少しだけ分けてやってもいい」 「どれくらい」

27 17/07/13(木)12:43:01 No.439376688

「十五分くらい」 「少なっ!」  突っ込む麻子に、冷泉さんは軽くパンチを見舞った。麻子はそれを受け止める。 「さ、ここの世界の西住さん。指示を出してくれ。  私達は友達を助けて、世界を救いに来た。  準備万端。  整ったぞ」  わたしは大きく頷いた。  黒い影の戦車は、徐々に近づいてくる。

28 17/07/13(木)12:43:52 No.439376803

今日はここまで! お昼になっちゃってごめんね! 明日はちょっとお休みかも この章はもうちょっとでおしまい それからいよいよ……戦いだ!!!

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