虹裏img歴史資料館

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

17/07/11(火)08:43:19 西住S... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

画像ファイル名:1499730199155.jpg 17/07/11(火)08:43:19 No.438975503

西住S! 初めての人は初めまして! 久しぶりの方はお久しぶりです! 前回までのあらすじ! わたし西住みほは大洗に住んでいる高校二年生 ある日ピンクの戦車に乗った六人のわたし、西住Sがやってきた 元の世界に帰れなくなった彼女たちを元の世界に戻すべく仲間を集めてどったんばったん大騒ぎ! そんななか黒い戦車を操る影住と、片腕を失ったわたし、欠住が現れた わたしは全ての過去と未来を繋ぐ古今東西住とも出会って、近づく戦いの予感を学校のみんなに伝えたけれど、どこまで理解して貰えたかなあ やるだけのことはやったつもりだけど、果たしてこれからどうなっちゃうの!? su1933111.txt

1 17/07/11(火)08:44:12 No.438975557

15  あーあ!  目を開けると、部屋中にかわいらしい寝息が漏れていた。どうやらわたしが寝ているあいだも、ずっとボコのDVDを見ていたらしい。 「ほんとみんな好きだよなボコ」  テレビのスイッチを入れてなにげなく回すと、誰かの「うわっ!」って声が聞こえた。 「なにこの声!」 「あ、ナポリンおはよー。お腹空いたなんか作って」 「昨日のカチャトーラが残ってるよ。  それよりなにこの番組!」 「ニュースだと思うけど」  気がつくと、周囲の熱い視線がテレビに向けられている。 『それでは改めて新技術について、筑波の研究所からお送りしましょう』

2 17/07/11(火)08:44:32 No.438975586

「このキャスターのお姉さん?」 「違うよ!」  偽住が這いながらわたしの肩を掴んだ。 「ああ……スタジオ映さないかな……」 「ちょっと黙ってて!」  次に画面を食い入るように見つめたのはわたしの方だった。 『エレクトリックシナプスプログラム、通称ESP。  電脳世界で自分の意識を反映させる最先端の科学技術。  そしてそれを利用して、デジタルの世界でもう一つの生活を営む自分の分身、ESPA。  これにより機械に自分の意志をフィードバックして運転などの操縦をさせる技術から、人間にとっての魂とは何かという哲学的な考察にまで、幅広い影響がありました』 「違う。そうじゃない」  わたしは思わず呟く。  ESPはその本人に出来る以上のことは出来ない。この説明だと運転の訓練をしていない人まで運転が出来るようになる技術だと考え違いしてしまう。  歯がみするわたしを無視して、テレビは真っ白い研究室にカメラを移した。 『最も効率よく人間の意志を移すことの出来る技術が求められてきました。その最先端が特殊カーボンです』

3 17/07/11(火)08:45:13 No.438975628

「カーボン?」  if住が反応する。 「え? なにそれ。特殊カーボンがあるから、ベタ住はESP使えるの?」 「初期の話してる。この人。  カーボンがほぼ無抵抗で通信を行えるようになったから、情報通信のロスが少なくなってこのジャンルの研究が進んだの」  わたしは見慣れたカーボン実験の映像を見つめる。お母さん――西住しほはその研究者の一人だった。 『電子通信機器の発達を遂げ、技術はめざましい向上を遂げていきます。  そしてプロジェクトは次の段階に推移しました。  人工的に作られた電子状の分身、ESPAをリアルに再現する研究です』 「してない。そんな研究してない」 「ベタ住うるさい」  偽住が突っ込む。うるさいなぁ。専門のことを勝手に解釈されるとムカつくのよ! 「情報を送受信する媒体の研究は行われてるよ。  でもそれは機械工学とかの研究とリンクしてるの。聖グロリアーナ王立研究所の天才だって、車椅子の自動化が精一杯なのよ。  まだ産まれたばかりの技術なの。ふたばの芽が出たばかりなのよ」

4 17/07/11(火)08:45:37 No.438975656

こんな時間に遭遇できるとは思わなかった… もう出る用意しないといけないのに…あぁ…

5 17/07/11(火)08:45:55 No.438975674

『ESPAをそのまま現実にダウンロードする。そんな技術がついに出来上がったのです』 「でーきーなーい!」  わたしは断言した。 「意志を伝える電力は精々がとこ数十MV。1ボルトもいかないのよ? それがそのまま質量になるようなのって何よ?  そのままESPAの情報をコピーするとしたら人間なら全身……」 「いや、でもできるっぽいよ」  ナポリンの言葉に、え? と声が出た。 『つまりこの新型カーボンなら可能ということですね』  女性アナウンサーがにこにこしながら言う。  頷いたのは眼鏡の男性だった。 「「「「「役人だ――っ!」」」」」  うわ、びっくりした。なにみんな叫んでるの? 「も、文科省の、や、役人じゃん!」  闇住にわたしは頷く。この人は知ってる人だ。 「辻さんでしょ? この人ESP関連の担当だから」

6 17/07/11(火)08:46:14 No.438975705

『西住研究所の西住しほ先生の協力により、我々はよりレベルの高い研究を続けることが出来るようになりました。  生物は美しい炭素である。という主張を陰陽五行説に例えて、人間は炭素であるとおっしゃっています。  つまりカーボンです』  取り出されたのは小さな瓶だった。中に黒いものが入っている。 『これに意志情報が伝達されると、カーボンは爆発的に膨らみ、ESPAの情報を再現します。  人間の脳から発せられる1ボルトに満たない電気が、この量のカーボンと反応して、人間一人分を作り出すことが出来るんです』 『本当ですか?  なんだか夢のようです』  わたしは変なことに気づいた。  どうやってそれを証明するの? 証明するだけなら、さっきの映像で映せばいい。  辻さんが微笑した。 『つまり、廃艦なんですよ』 『え?』 『大洗女子学園、学園艦は廃艦なんです』

7 17/07/11(火)08:46:34 No.438975726

 途端、辻さんの髪の毛がするすると伸び始めた。 『え? え? え?』  女子アナウンサーが目を開いて、辻さんに触れる。  と、ぱっくり辻さんが割れてどろりと黒いものが零れだした。 「カーボンだ!」  悲鳴を上げることも出来なかった。  アナウンサーの身体が突然真っ黒になり溶け落ちた。わたしは急いでテレビの電源を切る! 「ダメ! 通信網を通ってあのカーボンが来る!」  強い光を感じる。  オーアライトが光っている! 「いやいくら何でもテレビのケーブル線伝っては来れないでしょ」  if住に鬱住が首を振る。 「……あの少ない量が爆発的に量が増えるってことは、際限なく膨張出来るってことだよ。  その質量は限りなく小さくなれる。だとすれば光と共にケーブルを伝ってくることも可能だよ」  わたしはオーアライトを手にとって部屋を飛び出た。ほとんど本能的な行為だった。危険を見定める為に確認に出る、原始的な危機管理。

8 17/07/11(火)08:46:52 No.438975761

 あっと声が出た。  見慣れた町が、黒く炭化して、炭化しきったところから天に向かって吸い込まれていく。  巻き起こる強い風と、高く打ち上げられた幾本もの光!  そして。 「空に……災い……」  カーボンで出来た黒雲のなかで、大きな二つの目……いや眼鏡ガラスがこちらを見ていた。 「ベタ住!」  他の五人が家から出てきて、絶句した。 「なにこれ!」 「世界が闇で覆われていく……」 「……この世の終わりみたいだ」 「とりあえず、パスタ茹でる?」 「あの光は?」  怪訝な声を出す偽住に、わたしは自分のオーアライトを見せて、空に向ける。光の柱が立った!

9 17/07/11(火)08:47:35 No.438975823

「あれ、みんなのオーアライトだよ! あ!」  わたしの頭のなかに、一気に情報が飛び込んできた。みんなの思念だ。  今、この世界を覆いつつあるのは、ESP用の特殊カーボンだ。多分、空気中にもすでに鼻梁に含まれているんだろう。ESP訓練を受けているわたしは、ESPの領域を使わなくてもみんなの情報を拾いやすくなっている。  一つ一つが何を言っているのか読み取れない。だから。 「学校!」  わたしは叫ぶ。 「学校に、向かって! 多分、学校は残っている!」  それから手を大きく振りかぶった。  「スーパーアンコウ!」 「「「「え?」」」」  四人が慌てる。 「何驚いてるんだよ。ベタ住だって西住みほだろ」  自分だけ落ち着いた振りをしている偽住に、皆からの視線は冷たい。 「知ってたな」

10 17/07/11(火)08:48:14 No.438975872

「ほんとこの秘密主義者は」 「……二人で何してたの。いやらしい」 「とにかくゴハン! 食べながら行こう!」  ナポリンがアパートの階段を駆け上ろうとして、あーっと声を上げた。 「アパートが! ベタ住の家が!」  そりゃそうだろうな。さっきまであれがあったのは、わたしたちが居たのとオーアライトがあったからだろう。 「とにかく急いで! 途中で拾える人がいたら、スーパーアンコウに乗っけていこう!」  目指すべき指針が決まった途端、みんな真面目な顔で頷く。うん。こうなると話が早いなあ。  ピンクの戦車が動き出す。 「あれ? でも学校ってどっちの方向だっけ」  ナポリンが言う。 「ちょっと待って!」  わたしは戦車から顔を出す。真っ暗な空の下、輝く光の柱が動いている。 「多分、あれがみんなだよ。それに残ってる建物も幾つかある」  見慣れた、商店街の名残。学校はその向こうにある。

11 17/07/11(火)08:48:35 No.438975902

「私達が住んでる大洗とは、ちょっと違うんだよね」  闇住が言った。 「学校があるからなんだけど」 「……陸に高校があるのは珍しいからね」  鬱住が同意する。if住は通信を弄っていた。 「さしあたって他の通信は見当たらない。うざ住とも連絡取れない状態」 「そういえばあいつどこいったんだろ」  ナポリンが口を尖らせた。 「うざ住はうざ住でやることがあるんだよ」  偽住が苦笑した。わたしはナポリンに右の光の柱に近づくように言う。すごく近くから、わたしにハッせられるSOS信号。 『先輩!』 「宇津木さん、大野さん!」  学校に向かってた二人を途中で拾い上げる。ツインテールは半分結んだだけで、宇津木さんはパジャマのズボンを履いたままだった。 「髪の支度してるときだったんですよう!」 「こっちは着替えのとちゅう」

12 17/07/11(火)08:48:53 No.438975922

「なんにしても無事でよかった」  ほっとするとまた新しい電波が。 『西住さん!』 「磯部さん!」 『ピンクの戦車見えた! 乗せて貰っていい?』 「ナポリン。七時の方向に磯辺さん達がいる!」  磯辺先輩を初めとした四人は体操着とバレー部のユニフォームだ。朝のランニングのときに異変に巻き込まれたらしい。 「オーアライトが光って」 「なんかあるかもって思ってさ」 「そしたら、周囲が真っ黒になっちゃって!」  口々に言う近藤、川西、佐々木の三人は助かって少し涙目だ。磯部さんが息をついた。 「……昨日、西住さんが話をしてくれなかったら、もっとパニックになってたかもしれない。  ありがとう」 「そんな……お礼を言いたいのはこっちだよ」  スーパーアンコウの後部座席に四人を寄せると、わたしは今思いついたことを、学校のみんなに通達した。

13 17/07/11(火)08:50:47 No.438976060

「風紀委員さん! オーアライトをゆっくり振って下さい! みなさん、そこが学校です!」  あの風紀委員の人たちだったら、もう学校に来ているはず!  予想通りに光の柱がの一部が突然崩れてバラバラに波打つ。あれ? 四本? 予想よりも一本多く光が動いていて、やがて規則正しく四本揃って左右に揺れ始めた。 「まったく。通信手は形無しだよね。ベタ住の力」  if住が言った。 「まあわたしは楽が出来ていいけど」 「……空を雲が覆っているのに、地面が明るく見えるのはなんでだろう」  砲座から覗き込んで鬱住が言った。 「雷が鳴るみたいに、ときたま空が光るからじゃない?」  ナポリンが呑気な声を出す。わたしは偽住の脇から身体をねじ込むようにする。慌てて偽住が表に出た。 「なによ突然」  不平をいう偽住にわたしは応えない。ただ真っ暗な空と、時折ピカピカ瞬く空を見ていた。 「ずいぶんゆっくりだったな!」  桃様がわたしたちの戦車に声をかける。わたしは急いで降りた。

14 17/07/11(火)08:51:06 No.438976080

「とちゅうで、何人か拾ってきたので、それで。  桃様もご無事で!」 「柚子がうちの車をすかさず確保してくれたからな。ただ、ここまでしかもたなかった」  桃様が肩をすくめる。 「西住さん……みんなが……!」  沈痛な顔をしているのは会長だ。駆け寄ってきた彼女はわたしの手を取ってうつむいた。 「町が、世界が真っ黒になっちゃって――まさか、西住さんがこんなこと――」 「いや、わたしはやってないです」 「ああ、ごめん――でも――」  わたしは抱き寄せて会長の背中をポンポンと叩く。もっと小さかったら抱きしめやすかったのになとかちょっと思った。 「無事でよかった!」  駆け寄ってきたのはカエサルさんだ。 「こうした場合まずリーダーを潰すのが定石だからな。心配していたよ」  エルヴィンさんがコクコク頷く。 「戦車があるから平気と思ってもな。我々は前回、影住との戦いを見ているから」

15 17/07/11(火)08:51:33 No.438976116

 左衛門佐さんがウィンク。おりょうさんがいつになく真面目な顔で言った。 「みんなで迎えに行こうかって言ってた。  んぜよ……」  あはは。無理しないでいいよ、野上さん。  ……それにしても、みんなそれはなに? 「「「「チャリで来た」」」」  四人とも自転車のハンドルを手に持ったまま得意げだ。 「ほら……手を離したら、この自転車も吸い上げられちゃいそうだろ? これ俺たちの愛車なんだ」  カエサルさんが自慢げに言ったところに、かわいらしい声が飛び込んでくる。 「カエサルさん! エルヴィンさん!」 「グデーリアン!」  カエサルさんとエルヴィンさんが秋山さんのところへ駆けていった。左衛門佐さんとおりょうさんがそれに続く。四人がぎゅっと秋山さんを抱きしめた。 「左衛門佐さん、おりょうさんも! 無事でよかったですぅ!」 「ああ、グデーリアンも無事で何よりだ」  左衛門佐さんが秋山さんの頬にキスすると、他三人も負けじとキスを送る。ついにカエサルさんが言った。

16 17/07/11(火)08:51:49 No.438976132

「テメ、抜け駆けすんなよ!」 「カエサルこそ!」 「わ、私のはビズだ。お前達と一緒にするな!」 「それにしても秋山さん無事でよかった……」 「あ、ちょっと、止めて下さい。わたしのために争わないで下さい」  端から見てると秋山さんってほんっとサークルの姫……あ、まさにその状態か。  とりあえずわたしは四人に声をかけた。 「あの……歴情の皆様。自転車、大丈夫ですか?」 「「「「アーー――――!」」」」  四人が叫んだ瞬間、一瞬自転車が発光してそのまま空にするすると伸びていった。 「デロリアン!」 「ミレニアムファルコン!」 「流星号!」 「いろは丸――――――――っ!」  哀れ四人の自転車はカーボンとなり空に消えていった。膝を折るイケメン男子達。

17 17/07/11(火)08:52:09 No.438976162

「西住殿!」  秋山さんがやってきてわたしの手を繋いだ。 「……ついに来てしまいました」 「来たね」 「ご無事で……」  ぽろぽろっと涙が零れて、秋山さんがわたしの頬にそっとキスをした。 「「「「あーー――っ!」」」」  男子四人の声が挙がる。 「ずるい、西住さん! グデーリアンからキスしてもらって!」  エルヴィンさんの素っ頓狂な声に秋山さんは変な顔をした。 「キスして欲しかったんですか?」 「いや……我々は硬派な歴史情報研究会であるから」  もごもごと言い訳するカエサルさん。  秋山さんにとっては、この四人は性欲とは無縁な魂の学徒なのだろう。本当は四人に異性的な好意を持っていそうだけど。それはともかくキスして欲しいとかキスしたいとかいう間柄ではないと認識しているようだ。

18 17/07/11(火)08:52:27 No.438976184

 四人は四人でなんかありそうだけど。女の子は別腹なのかな。いやーねー。  秋山さんはわりと真面目に説明する。 「その、西住さんは女の子だし、ちょっとしたスキンシップのつもりで」 「女の子のスキンシップか――!」  エルヴィンさんが拳を握る。左衛門佐さんが言った。 「クソッ! 私も女の子だったら――!」 「いや左衛門佐。それはちょっと極まり過ぎ」  呟くおりょうさんにわたしは乾いた笑いが出る。 「西住先輩!」  澤梓さんが駆けてきた。そこに戦車から降りたばかりの大野さんと宇津木さんが抱きつく。 「わああん梓ぁ」 「無事でよかったぁ……」 「先輩。私達はこの二人合わせて六人揃ってます!  実は私、紗希と一緒にこっそり学校に泊まり込んでたんです!」

19 17/07/11(火)08:52:50 No.438976208

「もう時は近い。そう思っていました」  丸山さんがすっと現れる。 「イニシアチブは向こうが握っています。アタック側はディフェンスよりいつも有利なんです。  ただ状況を整えることが出来たので、こちらの優位も保てています。バタフライエフェクト、という言葉を西住先輩は御存じですよね」  バタフライエフェクト。  蝶の羽ばたきという小さな事象も、大きな事象のきっかけとなり得るという可能性の話。 「こうやって集まるのは、もしかしたら必然で、西住先輩たちが何もしなくてもここに集まっていたかもしれません。  けれど互いが小さく動いたことによって、どこかに変化が生じている。それを感じます。  誰一人欠けても起こりえない助けの気配です」 「フラグって奴だよね!」  阪口さんが割って入ってきた。 「あたしはやまごーちゃんの自転車乗ってきた!」 「こんなに早く来るとは思わなかったよー」  山郷さんが困った声を出す。

20 17/07/11(火)08:53:28 No.438976256

「先輩! わたしたちは逃げません! 西住みほ応援団として、絶対支えてみせますから!」 「ありがとう澤さん」  手を握ると、彼女の顔がかーっと赤くなる。秋山さんみたいに女の子のスキンシップしてあげようかと思ったけど止めた。偽住がにやにやしながらこっち見てるからだ。 「みほ!」  華が駆けてくる。 「無事でよかった」 「心配したよみぽりん!」  さおりんも一緒だ。三人で手を繋ぐ。その瞬間、ほんとに泣きそうになった。  この学校に来て、初めて出来た友達。  いろいろあったね。ほんとにいろんなこと。 「二人とも、ありがとう」  声をかけた途端、誰かが「西住さん!」と叫んだ。 「いつまでライト振ってたらいいの! まだみんな集まってないの?」  そど子先輩だ。わたしたちは顔を見合わせて笑う。  よし、これから前進だ。

21 17/07/11(火)08:53:53 No.438976294

「……で、いったいこっからどうすんだよ」  全員集合して口を開いたのは、ねこにゃーさんだった。 「うちも全部真っ黒になっちまった……」  ももがーが泣いている。肩を抱き寄せているのはぴよたんだ。 「ももがーは目の前で、家族が」  かなりのショックだったのは判る。何人か暗い表情をしている。それがまだ絶望に到達していないのは。 「大丈夫だって。西住さんがどうにかしてくれるよ」  ESP研究会のナカジマ先輩が言った。 「そうそう。あの、ピンクの戦車がさ」  ホシノ先輩に続いてスズキ先輩がミニ四駆を掲げた。 「私たちの子たちも、なにか出来たら頑張るぞ!」 「及ばずながらも力を貸すよ」  ツチヤさんがとんと胸を叩くと、イエローレオポンがぐるぐるんと身体を駆けのぼる。 「ハハ……くすぐったいよ!」  ちょっといいなああいうの。

22 17/07/11(火)08:54:10 No.438976314

 わたしは改めて集まった皆に言った。 「とにかくわたしたちが出来るのは、オリジナルの奪還です。  きっといまこの世界のどこかにオリジナルの西住みほがいる。そうすれば――」  あれ? そうすればどうなるんだろう。  この世界に来た西住みほたちが元の世界に戻ることは出来るようになるかもしれない。  でもだからといって、この世界が元に戻るとは言えない。  皆の視線も一斉に不安が増した。 「とにかく、西住みほがいれば、もっといいアイデアが出るかもしれない!  みんなにはここを守って貰えば――」 「そんなの! 確証が無いじゃないか!」  叫んだのは会長だった。  みんなが「え?」という顔をする。  角谷杏はわたしを遮って叫んだ。 「全部僕の所為なんだ! 僕があの人にESPなんか教えなければ!」 「かいちょう……」

23 17/07/11(火)08:54:28 No.438976338

 ねこにゃーさんが愕然とした顔をする。  みんなも似たり寄ったりだ。頼りになるかっこいい会長。それがみんなのイメージだったから。それが急にこんなことを言い出して――。 「僕は学校を……学校のみんなを守れなかった――!」 『それは違います』  降って来た声に驚いて、みんなが顔を上げた。暗い空をスクリーンにして、そこには西住みほの幻影が映っている。  いや、これは――欠住。 『あなたはわたしに利用されただけ。  この世界を全て消してしまう為、わたしは策を労したのです』 「世界を消す……?」  闇住が顔を顰めた。 『そう。  誰かが、この世界を闇に沈めたいと願った。  友を殺しわたしを殺し大洗を廃艦にし、四肢をもぎ戯れに犯し狂わせ地獄に落としたいと願った。  その死骸の影が影住。  影住はこんなにも多くなってしまった』

24 17/07/11(火)08:54:44 No.438976368

 欠住の視線を見て、おおっとどよめきが走った。  遠くに黒い軍団が見える。影住の軍団だ。 「すごいわね……。師団……いや、軍団規模だわ。  大洗のメンツが全部で八輌として……何倍かしら」 「へっへー。たくさん!」 「見りゃ判るわよ!」  ナポリンにすかさず突っ込みを返すif住。 「……これは、笑いごとじゃないな」  鬱住がブルッと震える。 「……どんな装甲でも撃ち貫くのみ!」  あれ? なんか鬱住なに笑ってるの。 『これだけの軍勢は君たちだけではどうともできないよ』  欠住が不敵に笑う。

25 17/07/11(火)08:54:51 No.438976377

突然来た!

26 17/07/11(火)08:55:10 No.438976398

『そしてここを完全に取り込んだら、次は全ての世界をカーボンに塗り替える。  君たちの辿ってきた意志をカーボンが伝い、次元と次元の狭間まで埋め尽くし、そしてオリジナルの世界を制圧する。  ガールズ&パンツァーの世界を0にする』 「どうしてそんなことが出来るの?」  わたしは叫んだ。 『それは君の世界が、我々αの世界とは別だからさ』  質問内容をわざと取り違えて欠住が言う。 『我々の世界は、戦車道があるαの世界。  もう一つの世界は、戦車道がありながら、誰も救えないΩの世界。影住たちはΩに位置する。  そしてここは戦車道の無いβの世界。  αとΩの境目にあるβの世界なんだ。  ベタ住。君はベタだからベタ住と呼ばれるわけではないんだ。  君こそがβ。  αと対にあるもの。  この世界が、滅びの要なんだ』

27 17/07/11(火)08:55:25 No.438976411

「「「「「なんだって――!?」」」」」  西住Sが叫ぶ。 「初めて聞いた」 「ちょっと厨二心を感じる」 「……もちょっと。もちょっと言葉柔らかくしようよ」 「かっこいい! ベタ住ずるい!」 「で、どう思う? ベタ住。  彼女の言っていることさ」  偽住が肘で突いてきた。 「言いたいこと、言わせてていいの?」 「欠住!」  わたしは潤みかけた目元を拭いた。 「駄目だよそんなことしちゃ!  あなたの世界の大洗のみんなだって、悲しむよ!」  くぅ~! 説得にしてはあまりにもベタな言葉!

28 17/07/11(火)08:55:44 No.438976434

 でもそれがわたしの本心だから、それをぶつけるしかないんだ!  そのとき、誰かが耳元で囁いた。 「……悲しみはしないさ」  とても近いところで欠住の声が聞こえて、わたしはぞくっとする。泣き出しそうな声が、わたしの耳にだけ聞こえる。 「わたしのことなんて、助けられない。だれも……」  ハッとして空を見る。  冷笑する欠住の顔。でも今聞こえたのは、きっと確かに欠住の声だ。だから空を指さした。 「ぜったい止めてみせる!」  さっき聞こえた声とは別の、自信あふれる声が響いた。 『無理だよ。カーボンの黒は、月を夜が侵食するように穴だらけにしていく。  これこそが『無残なる穴だらけの月作戦』の全貌なのです』 「あれ?」  わたしは首を傾げた。 「『満ち足りぬ穴だらけの月作戦』じゃなかったっけ……?」  静かに風が吹き抜けた。

29 17/07/11(火)08:56:02 No.438976461

 欠住は一瞬考え込んで、それから笑った。 『はははは。  止めてみるなら、止めてみて下さい』  あ、ごまかした。 『あなたたちでは止められない。  影住と戦うにはスーパーアンコウだけでは勝てない。わたしも戦うから……』 「欠住!」  もう欠住の姿は無かった。  振り返れば、青ざめた顔をしたみんなが居た。 「みんな……あっ!」  急に頭の中で声が聞こえた。 「お、お姉ちゃん!」 『みほ、聞こえるか』  緊迫したお姉ちゃんの声だ。 『いろいろ試したが、お前に直接コネクトする以外に方法が無かった。西住研究所ももうすぐ特殊カーボンに乗っ取られる』

30 17/07/11(火)08:56:31 No.438976487

 ぞっとするような事実にわたしの喉から変な声が出る。お姉ちゃんは淡々と告げた。 『あの研究は極秘で進められていたらしい。母さんも知らなかった。  とりあえずアメリカ、イギリス、イタリア、ロシアの研究機関に連絡を取り、これからわたしたちは最後の抵抗に入る。  わたしたちが連結して、一切の情報の流出と侵入を食い止める。理論上、他と接続していないESPAは外部の影響を受けない。わたしたちは互いの存在維持だけに力を注ぐ』 「でも、時間稼ぎくらいにしかならいでしょ!」 『みほ……オーアライトは、意志をぶつける力がある。力を合わせれば……』 『みほ!』  突然エリカの声が飛び込んできた。 『もうすぐ、意識が閉鎖される。  この世界と他の世界が繋がるわ! そのとき』  ブツッと音が切れた。 「お姉ちゃん! エリカ!」  強く首を横に振る。  だめだ。これ以上、みんなを動揺させちゃいけない。 「わたしたち、西住Sは、敵に突っ込む!」

31 17/07/11(火)08:56:51 No.438976514

 闇住が頷いた。if住もだ。  欝住がわたしの隣に立ち、ナポリンもわたしの腰を抱く。  偽住はオーアライトを進みつつある軍勢に向けた。 「この光のあるところを、ね」 「みんなはここで待ってて下さい。  校舎はまだ潰えていない。そのオーアライトを当てたら、影住はきっと怯む。だから……」  突然、バシン、と背中を叩かれた。 「もう、水くせえことは言うなって言ったろ?」  華が口元を歪めた。 「ほんとだよみぽりん。わたしたちなんの為に来たのよ」 「私はぐっすり眠る為だ」  もう! 麻子ったら! とさおりんがぷうっと膨れた。秋山さんが敬礼する。 「不肖わたくしも及ばずながらお手伝いさせて頂きます!  今朝、家を出るとき、父と母が、頑張って来いと行って送り出してくれました。  ここには戦う気で来ました!」

32 17/07/11(火)08:57:06 No.438976547

 そうか……ご両親が。ん? ちょっと待って! 「秋山さん、異変の時にご実家なんともなかったの?」 「はあ……わたしが家を出るまでは。  今まであったこと、両親には全部伝えてありまして。激励されて送り出されました。  他にも商店街、何件か残ってましたよ。肴屋さんとか和泉屋とかカワマタとか……商店街は結構残ってましたね。  だから両親も安心して送り出せたんでしょうけど」 「え? 残ってるとことかあったの?!」  そういえば学校に来る途中建物があった。  目をこらす。確かにまだ商店街は残っている。 「どういうことだろう……」  この商店街まで全部カーボンになってしまったらわたしたちの負け、なんだろうか。それとももう打つ手はないのだろうか――。 「いや、多分大丈夫」  偽住が自信満々に言った。 「だってこれは多分、戦車道だから」 「え?」

33 17/07/11(火)08:57:29 No.438976580

 何言ってるの? だってここは戦車道とかいうの無い世界なんだよ? そうするとif住もうんうんと納得したそぶりを見せる。 「そっか。これが戦車道なら判るわ。大洗は廃艦ね。 ならこっちのルールだわ」  え? どういうことなの? 「戦車道で被害を受けたところは、国がお金を出して元通りにするのが義務づけられているんだ。だから戦車道で壊された建物の持ち主は、かえって喜んだりする」 「それがどう関係あるのよ闇住!」 「うーん、わかんないかな。つまり勝てばいいんだよ。あの影住の集団にさ」  無茶なことを言ってくれる……!  鬱住が不穏な笑顔を見せる。 「……撃って撃って最後に敵が立ってなかったら勝ちだよ」 「一機当千だようちは!」  ナポリンも、自信満々で……。  ああ! もうこんな不利な戦いをしてきたっていうの? みんな! 「いや、さすがに一輌じゃ分が悪い」 「いくら影住が単発的な攻撃してくると言っても分が悪い」 「……欠住も戦うだろうしね」

34 17/07/11(火)08:58:10 No.438976625

「大丈夫! わたしたちの戦いはいつもそうです!  それに戦車に通れない道はありません。戦車は――」 「「「「待て」」」」  ナポリンが言いかけたのを四人の西住みほが止めた。そして円陣を組んで構える。 「「「「せーの。  ジャンケンポン!  あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!」」」」 「ヤッター――!」  ガッツポーズを取ったのは偽住だった。小さく咳払いして彼女は言う。 「……戦車は、火砕流のなかでも突き進むんです。  勝てる道のりを考えましょう!」  すごいドヤ顔の偽住と悔しそうな他四名。なにそれ、そんなに重要な台詞なの? 「そ、それはともかく。  わたしはみんなとオーアライトで戦う。みんなはスーパーアンコウで……」  その時だった。

35 17/07/11(火)08:58:30 No.438976653

 誰かが遠くから呼びかけてきた。 「待った――――――――!」  切羽詰まった声。  え? そ、その声は? 「「「「お姉ちゃん!?」」」」  事の推移を見守ってきたみんなも驚きの声をあげた。だっていつのまにか大きな戦車が現れたんだから。  そしてそこにいたのは西住まほ。  まごう事なきお姉ちゃんだった。 「タイガーワンだ……」  エルヴィンさんが興奮した声を出す。 「すごい……実物初めて見た」 「おねえ、ちゃん?」  わたしは目をぱちくりさせる。  黒森峰の制服に身を包んだお姉ちゃんが、戦車の砲塔から上半身を出していた。わたしの顔を見ると、頷いてから指示を出す。

36 17/07/11(火)08:58:46 No.438976671

「説明は後だ。  みんなのライトをつけてくれ」  言われるがままに皆がライトをつける。幾筋もの光が天を指し、一つに絡まる。やがて力と力が反応し合って大きな円を作る。 「いまだ! それを地面に!」  地面にゆっくりと光の円を向けていくと、光が遙か彼方を駆け抜けていく……そして。 「うわっ!」  みんなが目をつむった。凄い光。 「見て!」  さおりんが真っ先に叫んだ。  いや、もしかしたらさおりんが叫ぶ前に気づいたかもしれない。  地面を踏みしめる複数のキャタピラの音。  車体を上下させつつ、荒野を進んでくる鉄の巨体。 「これは……いけるかもしれないぞ……」  偽住が言った。

37 17/07/11(火)08:59:07 No.438976706

 名前は分からないけど、いろんな戦車が来る。幾つだろう……いち、に、さん……。  いや、それはとりあえずいいや!  わたしは突如現れたお姉ちゃんに頭を下げる。 「あ、ありがとうございます!」  わたしはなんの根拠もなく、うざ住のお姉ちゃんだと思った。わたしのお姉ちゃんと違う、どことなく軍人めいた空気が、あの破天荒なわたし、うざ住を思い起こさせたからだった。とは言え一応尋ねてみる。 「あの……お姉ちゃんはいったい誰のお姉ちゃんですか?」 「うん。わたしは……」  答えかけたお姉ちゃんの言葉を遮るように、タイガー戦車の前の方の蓋がパカッと開いた。 「わたしのおねえちゃんは、わたしのおねえちゃんだよ!」  やたら元気なわたしが、飛び出てくる。  あれ? これ、うざ住じゃない。

38 17/07/11(火)08:59:28 No.438976733

 わたしが戸惑っているのを、ふふん、という表情で見て、もう一人のわたしは自慢げに言った。 「おねえちゃんは、せかいさいこうの戦車乗りなんだよ!  そしていまやってきてるのは、わたしたちのさいきょーのなかま!  みんなあつまったら、どんなあいてもぎったんぎったんのばったんばったんなんだから。  ねー――――――――――?」  いや。  ねー、って言われても。

39 17/07/11(火)09:03:21 No.438977004

次回予告! 突然現れた9輌の戦車 そこに乗っていたのは「戦車道をやってる」みんなだった そしてこの後に及んで現れたもう一人の西住みほ 「このごにおよんでとかいうなー!」 もしかしてまだまだ増えるの? 西住みほ 「増えるってもんじゃないよ」 ええ? ちょっとうざ住! あんたどこ行ってたの! 「ちょっとヤボ用 さて次回西住S!『仲間達とわたしたちと』」 ちょっと勝手なこと言わないでよ! 「また明日ここで、よろしく!」 ちょっとあんた本気で言ってるの!!!!?????

40 17/07/11(火)09:27:11 No.438978911

ひさびさ 待ってた

41 17/07/11(火)09:30:36 No.438979220

きたのか!

42 17/07/11(火)09:32:08 No.438979331

来てくれて嬉しい 嬉しいがなんで仕事中の平日の朝!!

43 17/07/11(火)09:35:25 No.438979588

なんかボリューミーだし仕事中だしであとで読むね…

44 17/07/11(火)09:40:17 No.438979976

この時間だと読み切れねえ!

45 17/07/11(火)09:45:22 No.438980419

空に災いで駄目だった 王道の全員集合最終決戦いいよね…

46 17/07/11(火)09:47:04 No.438980560

辻局長の廃校に懸ける熱い思いが…

47 17/07/11(火)09:58:13 No.438981563

まさか昨日の「次回って明日さ!」がマジだったなんて…

48 17/07/11(火)10:04:16 No.438982077

これがホンモノのキチガイ…

↑Top