17/07/11(火)00:01:20 澤梓... のスレッド詳細
削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。
17/07/11(火)00:01:20 No.438930226
澤梓は真剣だった。 寄港の僅かな時間を使って、ひたちなか市の小洒落た紅茶専門店までやってきて、いくつも並んだ見慣れないしさっぱり意味のわからない銘柄を睨みつける。 店内はカラフルな缶が並んでいて、そこかしこにおしゃれなオブジェやドライフラワーが飾ってある。 棚や内装は主に木を使ったナチュラル・テイスト。ショウ・ウインドウには焼き菓子などもならんでいて、紅茶の香りとバターの香りが、梓の鼻腔をくすぐった。 大会スケジュール中である。 彼女が隊長を務める大洗女子学園は、あぶなっかしくもなんとか決勝に駒を進めていた。彼女には目標がある。大それた目標であることもわかっている。しかしやはり彼女には目標があったのだ。 「オレンジペコと戦いたい」 聖グロリアーナを率いるオレンジペコ。サクセサー・オヴ・ダージリン。そんな名で呼ばれる彼女が、偉大なる先輩の名を借りる後継者ではないことを、澤梓は知っていた。 今大会でオレンジペコは、完全にダージリンのドクトリンで勝ち進んできている。 それが敵の目を欺くためのものだと、梓は看破していた。 その敵とは。 「わたしだ」
1 17/07/11(火)00:01:39 No.438930300
梓の目は紅茶を見ているが、その心は大会に飛んでいる。 オレンジペコ、ローズヒップ、ニルギリ、キャンディ、それからお水。居並ぶ紅茶はみな強敵だ。 高校に上がったばかりの澤梓が、ほんの興味本位で参加した戦車道。そこに彼女はいた。 梓と同じ一年生でありながら、(やたらと)大物(ぶった)ダージリンの脇に控え、一段高みから彼女らを見下ろしていた。 しかし無理もない。その最初の試合で、梓を含む彼女のチームは戦車を捨てて逃げ出したのだから。戦車を降りたのが一番最後だった、というのは言い訳にも弁護にもなるまい。 そして大会を通じて、オレンジペコは梓を含む大洗女子の奮闘ぶりにじょじょに心惹かれていった。それは梓にも解る。しかしその対象はあくまで西住みほであり、大洗女子全体だった。つまり、オレンジペコからしたら、わたしはしょせんその他大勢だったのだ。 梓はくっと唇を噛む。 意識しているのは自分だけか。違う。 オレンジペコとはその後の合宿や何度かの練習試合を通じで、次第に仲良くなっていた。
2 17/07/11(火)00:02:02 No.438930372
きっかけこそ戦車だったけれど、彼女は教養ゆたかで話していて飽きないし、おしとやかで優雅な立ち居振る舞いは梓にとっても新鮮で憧れるものがあった。これじゃかなわない。そう思うこともあった。戦車も他でも、オレンジペコは自分よりすうっと上の存在に思えたのだ。 しかしオレンジペコはやがてはっきりと梓を認識し、そして言ったのだ。 「私、澤さんとお友達になりたいんです」 「え? わたしと?」 それは嬉しいけど……わたしなんか……と口ごもる彼女に、オレンジペコが小さな手で梓の手を暖かく握って言った。 「澤さんはすごいです! 戦車道をはじめて間もないのに、もうこんなに戦車を使いこなしてるし、みほさんのあの突飛な戦術についていけてる! 聖グロリアーナでもそれができる子はそう多くありませんよ!」 「そうかな……」 「来年は、私は聖グロリアーナの隊長になります」 オレンジペコは自身を持って言った。すごいな、と梓は思った。
3 17/07/11(火)00:02:20 No.438930458
「澤さんの率いる大洗女子と、全国大会で戦ってみたいんです」 「ええっ?!」 梓は飛び上がる。だいそれてると思った。彼女は確かに副隊長だが、彼女よりも戦車のうまい子はいると思っていた。一年生の愛澤さんとか。 「きっと、上がってきてください」 オレンジペコは梓の手をにぎる力を強めた。励ますように。ちょっと痛いくらいに。 オレンジペコは信じていた。 あの戦車から逃げ出した一年生が、わずか数ヶ月で黒森峰の重戦車を二両撃破せしめた一年生が、その後も数多くの番狂わせを演じてきた澤梓が、ただの西住みほのモノマネ師で終わるはずがない、ということを。 きっとライバルになれる。そう思っていた。 聖グロリアーナでついぞ出会えなかった、全力で力を込めてなりふり構わず殴り合って、そのあとあははと笑えるライバルに。 澤梓は折れないのだ。 負けてもうまく行かなくても必ず進化して上がってくる。 だからすべてをぶつけられる。それがたまらなく。 「楽しいんです」
4 17/07/11(火)00:02:37 No.438930518
「あはは……わたし、ボコみたい」 「みほさんの気持ち、ちょっとわかります。澤さんを見てると、わたしも心が強くなるのを感じるんです。澤さんなら、残るは9回表裏で点差が100点でも、きっとなにかしでかしてひっくり返してくれる。ようし、わたしだって、って」 オレンジペコはそう言って微笑んだ。 「だからきっと、戦いましょう。高校最後の公式戦で、力いっぱい戦いましょう」 「……」 梓は自信がなかった。 彼女はそんなに自己評価が高くない。しかし信じるしかなかった。 この眼の前の、はちみつ色のすてきな髪をかわいらしく結い上げた少女が、彼女の知るトップクラスの戦車道選手がこうまで言ってくれている。信じるしかない。オレンジペコの信じている澤梓を。 「うん!」 梓はぎゅっとオレンジペコの手を握り返した。 それが大会前のこと。 大会までは結構頻繁にメールやメッセージのやり取りをしていた彼女たちも、大会スケジュールに入るとそれを意図的に減らしていた。
5 17/07/11(火)00:02:56 No.438930576
最後に戦う相手だ。 手の内を見せすぎない。それに、偵察が容認されているとは言え、こんななにげないやりとりから相手の情報を”知ってしまう”ことがあれば、それは嫌だった。フェアじゃない。 だから梓はこの店に来る前に、オレンジペコに「ねぇ、お誕生日プレゼントなにがいい?」なんて聞くこともなかった。 代わりに信頼できる情報筋から、オレンジペコの好きな銘柄や、バスで行ける範囲の紅茶専門店についてなどを聞いておいた。 「ペコちゃん、紅茶詳しいだろうけど……」 他に思いつかなかったというのではないが、梓はオレンジペコのお誕生日プレゼントに紅茶の葉を選んだ。 聖グロリアーナでは好敵手と認めた選手やチームに紅茶を贈るという。 もちろん、梓ももらった。 「なら、わたしからも贈らなきゃ」 好敵手。あんなすごい選手をそう呼んで、紅茶を送りつけるなんて! 梓は興奮して、フンスと鼻を鳴らした。
6 17/07/11(火)00:03:17 No.438930640
「あの、これください!」 梓は店員さんに、ショウウインドウの中のひと缶を指差して注文した。 「はあい」 缶はかわいらしい橙色をしていて、そこには梓の大好きな友達と同じ名前が記されていた。 すなわち、オレンジペコ。 ◇◆◇ 「好敵手、と、いうわけですか」 オレンジペコは届けられた紅茶のセットを見て微笑んだ。 今年のお誕生日に紅茶セットを送ってくれたのは、梓だけだ。 いっしょに贈られたカードを開けると、大洗土産なのだろう、仕込まれたスピーカーから電子音であんこう音頭が流れ、かわいい字でびっしりとお手紙がしたためられていた。内容は、とりとめない。しかしはしばしにあったのは。 「大会、楽しみにしてて、ですか」 オレンジペコは嬉しくなった。 あの澤梓が、ここまではっきりと勝利を意識してくれている。楽しみ? こっちのセリフだ。
7 17/07/11(火)00:03:35 No.438930700
「宣戦布告、ということですね、梓ちゃん」 橙色の茶缶には、彼女の名前が記されている。そして追加の文言も。 オレンジペコ・ブロークン。 「手加減はなしですよ」 オレンジペコは、秘蔵のクロムウェルの整備状況を見るためにハンガーに向かったのだった。 まさに大会前夜のことだった。 END
8 17/07/11(火)00:04:25 No.438930896
一分おくれちゃったね… でもそんなのは些細なこと、そうだろう? スケジュールを考えると多分決勝はもうすぐってくらいの澤ペコだよ(ポロロン)
9 17/07/11(火)00:09:27 No.438932098
久しぶりに見た気がする「」カ
10 17/07/11(火)00:10:01 No.438932260
継続の!今日は大サービスじゃねえか!ああ甘露甘露
11 17/07/11(火)00:10:26 No.438932372
下水とは言わない澤さんにやさしみを感じる
12 17/07/11(火)00:11:21 No.438932600
ぺ 昇 コ 天 !
13 17/07/11(火)00:11:47 No.438932726
>残るは9回表裏で点差が100点でも、きっとなにかしでかしてひっくり返してくれる。 澤さんは不屈闘志だったのか
14 17/07/11(火)00:12:27 No.438932898
よかったねぺこさん ……ぺこさん?
15 17/07/11(火)00:14:43 No.438933540
しんでる・・・
16 17/07/11(火)00:19:14 No.438934754
>残るは9回表裏で点差が100点でも、きっとなにかしでかしてひっくり返してくれる。 なんなの 澤さんはマグナムエースかなんかなの
17 17/07/11(火)00:19:44 No.438934881
>この眼の前の、はちみつ色のすてきな髪をかわいらしく結い上げた少女が、彼女の知るトップクラスの戦車道選手がこうまで言ってくれている。信じるしかない。オレンジペコの信じている澤梓を。 俺が信じるお前を信じろ
18 17/07/11(火)00:20:12 No.438935004
継続の… 今までカンテレ割って悪かったな… もう思い残すことは無え…
19 17/07/11(火)00:20:14 No.438935009
>澤さんはマグナムエースかなんかなの ガルパンとアイアンリーガーは相性が良いからな…
20 17/07/11(火)00:22:56 No.438935824
su1932836.jpg.html 決勝の顛末です!
21 17/07/11(火)00:29:02 No.438937393
なんですかこれ!
22 17/07/11(火)00:34:18 No.438938736
鋼鉄の塊を駆り戦う彼女達はアイアンリーガーと言っても過言ではないからな
23 17/07/11(火)00:39:30 No.438940056
初優勝の実績と伝統を無視した編成は大会後OG会という名の現役弄り同好会が大いにペコちゃんを嫌味漬けにしてくれそう
24 17/07/11(火)00:46:15 No.438941940
でもペコちゃんは(ない)胸を張るんだよ 澤さんみたいに決して折れないんだ
25 17/07/11(火)00:51:15 No.438943154
試合の後はお茶会をしよう 汚れていたってかまわない どんな結果になっても最高のお茶とお菓子で彼女を迎えるのだ オレンジペコはそう決意すると裏帳簿に手をつけた
26 17/07/11(火)00:54:45 No.438944165
OG会にはそりゃあ嫌味くらいは言われるだろう でもそれでも彼女と精一杯戦うんだ 一度しかない青春を謳歌するんだ オレンジペコはそう決意すると、流出すると聖グロ艦が廃艦になる資料のコピーを取り始めた