虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    17/07/02(日)14:24:26 No.437170647

    短いSS BGMあり https://www.youtube.com/watch?v=_L4kkETRd4o&t=1330

    1 17/07/02(日)14:24:42 No.437170682

     ベッドにうずくまり、すう、すうと寝息を立てていた金髪の少女が寝息を止める。  ゆっくりと目を開き、あくびと伸びをして、起き上がる。 「カチューシャ、そろそろ時間です」 「分かってるわ」  普段なら、ノンナから受け取った蒸しタオルで顔を拭き、身を整えてそのまま陣頭に立つカチューシャ。  だが、この日はかたわらの目覚まし時計を一瞥してベッドからゆっくりと起き上がり、鞄から大仰なヘッドフォンを取り出した。 「まだ、5分あるわね?」 「はい」  椅子に座って、戦車道の試合で使うよりもさらに大きなヘッドフォンですっぽりと側頭部を覆い、携帯プレイヤーを操作する。  今日は新戦術を試す場。練習試合。だが、相手は――あの――黒森峰。  絶対、負けるわけにはいかない。  カチューシャが目を閉じる。  荒々しく、猛スピードで始まる弦楽器、耳をつんざく管楽器、機甲兵団の思わせる打楽器。

    2 17/07/02(日)14:24:58 No.437170746

     音の暴力が――始まった。

    3 17/07/02(日)14:25:14 No.437170797

     スポーツ選手が、試合前に集中力や戦意を高めるために、自分の好きな音楽を聴くのはよくある話である。  ほんらい、カチューシャにはそのようなものは必要ない。  彼女はひとたび戦車の前に立てば、いつでも優秀な指揮官であり、プラウダの絶対的存在であった。  だが、高い状況判断力と統率力を誇る彼女をして、さらに自らを追い詰める……いや、さらに『カチューシャたらん』とするとき、必ず頭に叩き込む曲があった。    ドミトリ・ショスタコーヴィチ。交響曲第10番・第2楽章。アレグロ。  作曲者自らが「スターリンの肖像」と語った暴虐非道の象徴。音の暴力。  地吹雪のカチューシャは自分が暴君だと恐れられていることを知らないほど無邪気ではない。  だが、暴君として振る舞わねば、このプラウダを統べることが出来ない、自らの無力さをも痛感していた。  隊員が自ら考え、勝利に向かって行動するには何をすべきかを模索し、鍛え上げ、後を継ぐニーナとアリーナにじゅうぶんに引き継いだつもりだ。  しかし、その成果を今日出さねば、新しいプラウダの船出は不穏なものとなる。

    4 17/07/02(日)14:25:32 No.437170850

    (暴君を止めた暴君は、地に引きずり下ろされて、打ち砕かれるわね)  次代のプラウダには暴君はいない。ニーナもアリーナも、暴君となることを望まず、また、なることは出来なかった。  最後の暴君・カチューシャが抱える矛盾が、激しい音のうねりと打楽器のリズムの上で燃え上がる。  黒森峰に打ち勝て。そして暴君に打ち勝て。暴君の命により。  その相矛盾する無理を、無茶を、自分の手で、最後に命じるのだ。  黒森峰を倒せ、カチューシャを倒せ。乗り越えよ。  両耳をこじ開けて、脳を遠慮無く揺さぶるスケルツォの濁流に、カチューシャがわずかに首を動かし、膝を指で叩く。  眉をひそめ、眉間にしわをよせて、暴君そのものを描ききった短い楽章を聞き終える。  再生が終わる。ヘッドフォンを外す。  耳鳴りの残響の中……戦車帽を携えたノンナの青い瞳が彼女の視線まで降りてきた。

    5 17/07/02(日)14:25:54 No.437170928

    「行きますよ」 「分かってるわ!」  ヘッドフォンと携帯プレイヤーを鞄に戻して、戦車帽を被り大股で外に歩み出る。  もう、迷うことはない。  今日は、なんとしてでも勝つ。たとえ、練習試合だなんて関係無い。  勝たねば、ならないのだ。 「全員、整列!」 「あなたたち。今日の対戦相手はどこか、分かってるわね!!」 『ダー!!!』 「ここまでの練習の成果をあいつらに見せつける絶好のチャンスよ……負けたら全員、シベリア送り100ルーブルっ!!!」 『ウラー!!!!』

    6 17/07/02(日)14:26:10 No.437170980

     自分の不器用さに腹が立つ。最後の試合くらい、悠々と試合を見守る事は出来なかったんだろうか。  いや、その迷いは一瞬で胸の奥に押し込めた。  カチューシャは、最後の最後まで暴君なのだ。  試合も、あのアレグロのように激しく、情け容赦なく。  それが……黒森峰に対する、礼儀でもあるのだから。 『ウラーーーー!!!!!』  隊員の万歳三唱を満足げな目で見守るカチューシャの視線が、森の向こうにいる、西住まほ率いる黒森峰の機甲科部隊の方を強く見据えた。

    7 17/07/02(日)14:26:28 No.437171031

    (終)

    8 17/07/02(日)14:26:48 [sage] No.437171098

    ごめん、本当に短かった…

    9 17/07/02(日)14:28:44 No.437171449

    かっちゃんいいよね…

    10 17/07/02(日)14:47:31 No.437174856

    いい...

    11 17/07/02(日)15:13:52 No.437179680

    カッちゃんのプラウダや同志を思う気持ちいいよね...