ドンド... のスレッド詳細
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17/06/28(水)00:42:23 No.436240847
ドンドンドン 「ご~めんくた゛さぁ~~い」 整然とした庭園に、訛りのきつい間の抜けた声が響く。 年季の入ったクラブハウス《紅茶の園》の扉の前には、来訪を告げる少女の姿があった。 その少女の身なりは、おおよそ聖グロリアーナの生徒にはふさわしくないものであった。 決して不潔という訳ではないのだが、見るからに安物のシャツにはシワが寄っており、肩まで伸ばした髪も所々寝癖が跳ねている。 青い生地に赤いフリルをあしらった手作りのスカートは、カラフルで目を引くものがあるが、適当に着込んだシャツとは絶望的に似合っていなかった。 更に、少女はその小さな体には不釣り合いな程大きな、皮のバッグを肩から提げている。相当な年季の入っているソレは、デザインよりも如何に物が詰め込めるか、その機能だけを追求した無骨な代物であり、年頃の女子高生が持つようなバッグではない。
1 17/06/28(水)00:43:13 No.436241051
「むぅ~。誰もいねぇのか゛なぁ……」 少女は口をへの字に曲げて唸る。 腕組みをし、しばし黙考した後、少女は意を決して深く息を吸い込んだ。 「す゛~み゛~ま゛~すぇ゛~~ん!だ~れ~か~い~ま~すぇ~ん~か~~~!」 少女がひときわ大きな声を張り上げると、程無くして、クラブハウスの中からトタトタと足音が聞こえてきた。 ガチャリと押し開けられた扉から、蜂蜜色の髪をした小柄な少女が顔を出す。 「はい?どなたでしょうか?」 「あ゛~、ようやく出てきてく゛れたぁぁぁ……」 少女は、安堵と疲労感から、がくりと肩を落とす。
2 17/06/28(水)00:43:32 No.436241120
「んも゛~!どんだけ呼んでも、ぜんっぜん出てきてくれにぃから、どぉしよかと思ったよ~」 「あれ?壊れてましたか?」 応対に出てきた聖グロの少女は、扉のすぐ近くの壁、目線の高さにあるスイッチへと指を伸ばした。 キンコーン。 軽い電子音が館の奥で鳴った。出迎えた少女と、出迎えられた少女、さほど体格に差の無い二人の視線が交わる。 呼び鈴は、かなり目立つ場所に取り付けられており、普通ならば見落とす事はまず有り得ない。 「あ……、あははは……。うんうん、知ってるよ?これね、ピンポン」 少女はぽりぽりと頭を掻きながら、苦笑を浮かべる聖グロの生徒へ、照れ隠しの引きつった笑顔を向けた。 そして、頭を掻いていた指で、申し訳なさげにスイッチに触れる。 キンコーン。 本日2度目の呼び鈴が、外から来た少女の到着を告げた。
3 17/06/28(水)00:44:26 No.436241290
「す゛みませぇん……。わたす、昔っからそそっかしくて……」 「いえいえ、そういう事もあるかと思いますので。それよりも貴女は……?」 「ぬぁ、申し遅れますた。わたすは皆からハパンシラッカと呼ばれとります。ハパンでもシラッカでも好きなように呼んでくだせぇ」 「私はオレンジペコといいます。えっと、ハパンシラッカさん。どういったご用件でしょうか?」 「実はわたす……」 ハパンシラッカと名乗った少女は鞄をごそごそ掻き回して何かを探しはじめる。 取り出した手には、皺が寄って端が折れてしまっている一枚の紙切れがあった。 「継続高校からの使いで、連絡はついてるかと思うんですが……」 オレンジペコは、おずおずと差し出された書状を注意深く確認する。 それは、聖グロリアーナの乗艦許可証だった。
4 17/06/28(水)00:44:52 No.436241412
簡素な装飾で縁取られた書状には、目の前にいる童顔と言って差支えない少女の顔写真と、簡単な身分と、来艦の目的が記載されいる。 名はハパンシラッカ。継続高校1年生。オレンジペコと同学年であった。 そこには、ダージリンとの面会を求める旨が書かれており、オレンジペコが前もって聞いていた話と一致していた。 オレンジペコは、不安そうに佇む少女へ向かって、柔らかな笑顔を見せる。 「はい。用件は伺っています。どうぞこちらへ」 「わっ、おじゃましまぁ~す」 板張りの廊下を軽く軋ませながら並んで歩く二人。 ハパンシラッカは落ち着かない様子でキョロキョロしている。 そんな様子を見ながら、オレンジペコは口を開いた。 「申し訳ないのですが、ダージリン様は会議で席を外していまして。すぐ戻るとは思いますが、少々お待ちいただく事になります」 「いえいえ、そんな全然お構いなく~」
5 17/06/28(水)00:45:35 No.436241571
以前、遭難していた継続の生徒を救助した御礼に、継続高校から使いが来ると、オレンジペコは知らされていた。 継続の隊長と音信不通になっている事に気づいたダージリンが、継続高校へ問い合わせたのがきっかけで遭難が発覚。 身内が居ない事に無頓着な継続高校の気質にも驚かされたが、遭難した3名は救助されるまで1か月近くも無人島で生活していたというのだから驚きだ。 「ところで、ミカさんは来られてないのですか?」 オレンジペコはてっきり遭難者である継続の隊長か、その連れの2人が来るものだと予想していた。 まさか、いち隊員が代表として1人でやってくるとは思ってもいなかったのだ。 「それがぁ~、聞いてくださいよ~。言い出しっぺのミカ隊長はめんどくさいからって行きたがらないし、アキもミッコもいつの間にかいなくなってるし。結局、みんな関係ないわたすに丸投げすんだもん」 ハパンシラッカは眉間に皺を寄せてプリプリと不平を語り出す。 自分勝手な先輩やフリーダムな友人に振り回される側にいるオレンジペコは彼女の言葉に共感して苦笑いで返す。
6 17/06/28(水)00:46:04 No.436241682
「それは……、ご愁傷様です」 「でも、おつかいも悪くねぇかなあ。一度、聖グロには来てみたかったし。役得、役得ぅ~」 表情が一転してカラリと笑いだすハパンシラッカを見て、オレンジペコも自然と笑みがこぼれた。
7 17/06/28(水)00:46:45 No.436241833
応接間に通されたハパンシラッカは感嘆の声を洩らした。 「お~。すっげぇなぁ~」 「そちらにお掛けになってお待ちください」 オレンジペコは椅子を勧めるが、部屋に目を奪われたハパンシラッカはなかなか着席しようとはしない。 オレンジペコは、その姿に初めて自分が聖グロリアーナに来た時の様子を重ねる。 人間ああなってしまうと、周りの声が聴こえなくなってしまうものだ。 仕方なく、ハパンシラッカはそのままにして、客人を持て成すために紅茶を淹れに行くオレンジペコであった。 お湯を沸かす間にも、オレンジペコはテーブルの方の様子を窺うが、ハパンシラッカは人里に迷い込んだ小熊の様に部屋の中をうろうろしていた。 そこへ、ギッシギッシと大きな足音が近づき、ガチャリと少し大きな音を立てて応接間の扉が開かれた。
8 17/06/28(水)00:47:21 No.436241958
「ここに居ましたのねオレンジペコさん。玄関のほうで何やら騒がしかったようですけれど……、おりょ?」 部屋に入ってきたのは、聖グロリアーナが誇る快速、クルセイダー隊の隊長ことローズヒップと、同隊のジャスミンであった。 先ほどまで、オレンジペコと一緒にいた2人は、一向に戻ってこない友人を探し回っていたのだ。 その2人に見つめられたハパンシラッカが視線を合わせたまま硬直している。 「お客様でしたの?」 「はい」 オレンジペコはお湯の入ったポットをテーブルへと運ぶ。 ハパンシラッカは別段悪い事などしていないのに、悪戯を見咎められた子供のようにもじもじとし始めた。
9 17/06/28(水)00:48:04 No.436242137
「継続高校のハパンシラッカさんです。こちらは、ローズヒップとジャスミンです」 「ローズヒップですわ。はじめましてですわー」 「ジャスミンです。ごきげんよう」 「ハ、ハパンシラッカでふ。ハパンでもシラッカでも好きなように呼んでくだせぇ」 突然複数のお嬢様(ハパンシラッカにはそう見える)に囲まれて、緊張するハパンシラッカ。 オレンジペコは優しく、ハパンシラッカを席につかせて言った。 「折角ですから、ダージリン様が戻られるまで、みんなでお茶にしましょう」 「いいですわね!ペコさんわたくし上手に飲めるようになってきたんですのよ!」 「あら、カップが足りないわね。取ってくるわ」 ローズヒップははしゃぎながら席につき、ジャスミンは後から来た自分たちのカップを取りに行く。 人数分のカップを並べて紅茶を注ぐ。部屋中に爽やかな香りがたちこめた。
10 17/06/28(水)00:48:28 No.436242211
香りは人の心を落ち着かせる。オレンジペコは、ずびびーと落ち着きのない紅茶が飲み干される音を無視しながら、客人の様子を観察していた。 ハパンシラッカは、紅茶を口へ運ぶごとに、少しずつ緊張がほぐれるのが見て取れる。 人付き合いが上手ではなさそうな客人であったが、ここまでは何とかうまくもてなせたと感じ、オレンジペコはほっと一息ついた。 人懐っこいローズヒップの力もあって、ハパンシラッカは次第に打ち解けていく。 「あっ、そういえばお土産を持ってきてたんでした」 「なんですの?なんですの?」 ハパンシラッカは鞄の中から、一抱えもある大きな白い紙箱を取り出して、テーブルへ置いた。 ローズヒップはその箱を食い入るように見つめる。 「ケーキ?それとも和菓子?」 「ちょっとローズヒップ。はしたないわよ」 ジャスミンが窘めるが、聞くローズヒップではない。
11 17/06/28(水)00:49:00 No.436242328
「これパイなんですぅ~。わたすが焼いたんですよ~」 「ハパンシラッカさん、お料理されるんですね」 「いやぁ~。食べるのが好きで、趣味でやる程度なんですが~」 褒められて照れるハパンシラッカ。 ジャスミンがいち早く気を利かせて皿を持ってくる。こういうところは本当に早く、オレンジペコはいつも感心していた。 オレンジペコは、受け取った皿にパイを盛りつけて皆に配る。 「いっぱい焼いてきたから、沢山たべてくだせ~」 「ほんっと綺麗に焼けてますわ」 「へぇ、美味しそうね」 「えへへ~、わたすの得意料理なんですよぉ~」 「何のパイですの?」 「ニシンだよぉ~」
12 17/06/28(水)00:50:08 No.436242604
ニシンのパイ。 その単語を聞いた時、聖グロリアーナの生徒ならばまず、あのパイを思い浮かべるだろう。 パイから突き出したニシンの頭が星々を見上げる様は、インパクト絶大で一度見れば二度と忘れられない。 しかし、目の前にあるニシンのパイは魚が丸々入っている様子もなく、聖グロリアーナ生の3人は普通に食べられそうだと胸をなでおろした。 気持ちの緩んだオレンジペコたちの様子を見て、気に入ってくれたと思ったハパンシラッカは更に饒舌になる。 「好きなんですよね~、魚。だから、よその学校の魚料理にもすっごい興味あるんだぁ~」 オレンジペコは、この無邪気に笑うハパンシラッカがイギリス式のニシンのパイをみたら、驚くだろうか、それとも嘆き悲しむのではないか、等と心配し始めていたいた。
13 17/06/28(水)00:51:00 No.436242791
「そうそう、実はわたす、聖グロへのおつかい引き受けたのは個人的な理由があって」 パイを愛おしそうに持ちながら、ハパンシラッカは続ける。 「以前、友達にお土産で貰ったうなぎゼリーがおいしくって、それで」 「はい?」 不可思議な言葉を聞いて、思わず素っ頓狂な返事をしたオレンジペコは、パイを持った手をピタリと止めた。ジャスミンも怪訝な表情で停止している。 「えっ?ですから、ここの名物うなぎゼリーが」 「あはは!ご冗談をですわ、ハパンシラッカさん」 ローズヒップは心から可笑しそうに笑っている。 「あんなものとても食べられたものではありませんわ」 そう言った口で、ローズヒップはパイに齧りついた。
14 17/06/28(水)00:52:12 No.436243036
すると何ということでしょう。ローズヒップの顔が一瞬にして凍り付き、比喩でもなんでもなく青ざめて脂汗を流し始める。 「ふご!ふぐぐおごご!?」 「ローズヒップさん!?」 床に倒れてもがき苦しむローズヒップに、オレンジペコが駆け寄る。 「ローズヒップさんほら出して!えっ、なんです!?」 「ひぐどくひにひふぇは食へほのふぁはひふぁふぁなふぃふゅぐぃでぐほぉ!」 「一度口に入れた食べ物は吐き出さない主義とかそういうの今はいいですから!」 ハパンシラッカは、目の前で繰り広げられるオレンジペコとローズヒップのやり取りが理解できず、パイを口にしたまま、目を丸くして固まっている。
15 17/06/28(水)00:52:38 No.436243132
ジャスミンは急に苦しみだした仲間に呆気に取られていたが、はっとしてハパンシラッカを睨みつけた。 「貴様っ!まさかローズヒップに毒を!?」 「えっ、違っ!わたすそんなつもりじゃ……」 「待ってジャスミンさん!恐らく違いますから!」 オレンジペコは、ジャスミンを静止しようとするが、それは叶わなかった。 クルセイダー隊の一番槍、ジャスミン。彼女の決断の速さは(正確かどうかはさておき)恐らく聖グロリアーナの中で最も早い。スタートだけは、現在もがき苦しんでいるスピード自慢ローズヒップよりも速いのだ。 彼女が一度走り出してしまうともう止める者はいない。 「曲者め!神妙にお縄につけ!」 「ひいぃぃぃ!」 襲い掛かるジャスミンに、逃げ惑うハパンシラッカ。2人はそのまま部屋を飛び出してしまう。 残されたオレンジペコは呆然とするしかなかった。
16 17/06/28(水)00:53:14 No.436243283
しかし、すぐにローズヒップの様態が変わったことに気づく。 「ふー……、ふー……。うおぇ……、うっむぇ……」 「わーっ!!ローズヒップさんここで戻してはダメです!!」 部屋を汚さないようにするため、オレンジペコはローズヒップの体をお姫様抱っこで抱え上げて部屋を飛び出した。 斯くして、応接間には紅茶の香りとパイが置き去りになった。
17 17/06/28(水)00:53:33 No.436243362
「あら?扉が開けっ放しになっているわね」 「もうっ!またローズヒップかしら。後できつく言っておかないと」 「アッサム。決めつけはよくなくってよ」 「でも、ダージリン。こんな事するのはあの子しかいないでしょ」 「同感」 開け放たれたままの扉から、2人の少女が応接間に入る。 つい先ほど惨劇の起こった部屋なのだが、その痕跡はほぼ残っていなかった。 テーブルの上には4人分のパイと紅茶。そのうち、2このパイは食べかけのまま残されている。 そして、パイが大量に詰められた白い紙箱。 ダージリンはテーブルの下に置かれた鞄から許可証を拾い上げた。 そこには、まだ幼さの残る少女の写真が貼ってあった。
18 17/06/28(水)00:54:16 No.436243516
「ずいぶんと可愛らしいお客様が来ているようね」 「前に話していた継続の?」 「ええ。待ちくたびれて、うちの子たちと散歩にでも出かけたのかしら」 「ダージリンが会議で余計なこと言うから遅くなるのよ」 「あら、いいじゃない。それより、このパイでお茶にしましょ。私もう疲れてお腹ペコペコなの」 「まったく……。でも勝手に頂いていいのかしら?」 「私たちへの御礼ですもの。構わないわ」 地獄への道は善意で舗装されている。 おわり。
19 17/06/28(水)00:58:04 No.436244318
テロじゃねーかこれ!
20 17/06/28(水)00:59:13 [sage] No.436244534
テキスト~ su1916756.txt そういえばまだ食べた事ないんだよなあニシンのパイ
21 17/06/28(水)01:03:28 No.436245319
ペコちゃんさりげなく力あるな...さすが装填手
22 17/06/28(水)01:18:55 No.436247935
これは例のスマホの件の意趣返しではないだろうか……
23 17/06/28(水)01:19:28 No.436248020
第二次聖ゲロ事件が起きてしまう…
24 17/06/28(水)01:20:17 No.436248118
ダージリンだけはなんとか気合で耐えそう アッサムは耐えきれなさそう
25 17/06/28(水)01:20:21 No.436248134
>そういえばまだ食べた事ないんだよなあニシンのパイ あ…味はいいはずなんだ…きっと…いや多分
26 17/06/28(水)01:21:06 No.436248239
なんで東北訛りなんだろう…
27 17/06/28(水)01:23:23 No.436248589
死んだ目をしたニシンがアッサムを恐怖させるまであと3分
28 17/06/28(水)01:25:40 No.436248941
ああ…ハパンシラッカってあの塩漬けのことなのか…
29 17/06/28(水)01:29:24 No.436249546
イワシのパイもいいぞ! 間違いなく鬼も逃げ出す
30 17/06/28(水)01:31:08 No.436249798
さあダージリン様、せっかくのご好意ですから責任もって全部召し上がって下さいね… su1916776.jpg
31 17/06/28(水)01:34:13 No.436250239
>クルセイダー隊の一番槍、ジャスミン。 ああ…ジャスミンさんクルセイダー隊モブ唯一のCV持ちか
32 17/06/28(水)01:34:51 No.436250327
ダージリン様ぁ知っるでしょう… お パ い イ ! 食 わ ね え か
33 17/06/28(水)01:35:52 No.436250460
一度は飲み込んだのか… ローズヒップは偉いな
34 17/06/28(水)01:36:46 No.436250567
こんな言葉を知ってるかな? 自業自得(ポロロン
35 17/06/28(水)01:38:22 No.436250774
そうか…周りと味覚が合わないから自分で作るしかないんだな… そう考えるとちょっと不憫だな
36 17/06/28(水)01:38:45 No.436250820
>以前、友達にお土産で貰ったうなぎゼリーがおいしくって、それで 友達…誰なんだ一体