ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
17/06/26(月)23:04:52 No.436023678
SS 西ダジ
1 17/06/26(月)23:06:09 No.436024013
西さんがわたくしのところにスパイに来るというので、観察することにした。 おそらく来週の合同練習試合に向けてのことだろう。知波単らしい公明正大さと言うべきか、ご丁寧に時候の挨拶と詳しい日取りまで書かれた丁寧な封書が届いたのがつい先日のこと。 わたくしたちもその正直さに報いるべく、学園艦中のあらゆる場所に戦車道履修生を配備し万全の警戒で迎え撃つ。 しかし流石は西さん。こんな不敵な封書を出してくるだけの事はあり、警備の間を縫って華麗に潜入し──。 なんてことがあるはずもなく、コンビニ船から何食わぬ顔で侵入しようとしたところをあっさり見つかった。 今は、ローズヒップ率いるクルセイダー部隊に走って追いかけ回されている。 わたくしはそれを隊長室の窓から眺めながら、こみ上げる可笑しさを抑えつつ紅茶をこくりと口にした。
2 17/06/26(月)23:06:24 No.436024073
一応こっそり侵入する気はあったのか、聖グロリアーナの校章が入った青い制服を身に着けてはいるようだ。 しかし純日本風かつ印象的な黒髪の長髪を持つ西さんには、あまりにわたくしの高校の制服は似合わない。 仮に潜入に成功したとしても、あんな恰好で堂々と歩いていてはすぐに見つかってしまうだろう。 ……わたくしがそんな事を考えながら追いかけっこの様子を眺めていると、走りに限界が来たのか西さんは脇道の森の中に身を隠す。 追いかけるローズヒップが立ち止まった。どうやら、見失ってしまったらしい。 犬のようにすんすんと鼻を鳴らすローズヒップを横目に、わたくしは窓から見える景色全体をぼんやりと眺めあの黒髪を探した。
3 17/06/26(月)23:07:38 No.436024397
──いた。 脇道の森から少し離れた小さな教会の近く、葉っぱにまみれながら西さんが姿勢を低くして現れる。 近くには、ちょうど塀の塗り替え作業をしていたペンキ屋の若い女職人。西さんは彼女に近づき、何事か話すと……ああ、なんてこと!? なぜか西さんは聖グロリアーナの青い制服を脱ぎ、シャツ姿になると──おもむろに服をペンキ缶の中で洗いはじめた! こんな格言を知ってる? 服装とは生き方そのもの(イヴ・サン=ローラン/1936~2008)。 制服は学園艦に通う高校生にとって命とも言えるくらい大切なもの。それをペンキに浸してしまうなんて…… そうわたくしが思った矢先、西さんは更にそのコスチュームを身にまといはじめた。 ペンキの色は黒。真っ黒に染めた制服を着用する西さんは……なんてことでしょう、あれは牧師の格好! なるほど、とわたくしは息をのむ。 西さんの制服姿は目立ってしまい逆にローズヒップを刺激してしまうが、神の使いである牧師の格好ならうまく忍びこめるかもしれない。 ああ、なんという冷静で的確な判断力でしょう!
4 17/06/26(月)23:07:55 No.436024470
西さんはそれから近くを警戒するローズヒップの声を聞き、あくまで堂々とした態度で教会の中へ隠れる。 ローズヒップは近くを通りかかったが、何を気にすることもなくそのまま明後日の方向へ行ってしまった。 わたくしは、気がつけばカップを置き立ち上がっていた。いてもたっても居られない、とはこんな気分なんだろうか。 ジャケットを着て、外へ。 目指すのはもちろん、隊長室の窓からそう遠くない森の中の教会だ。
5 17/06/26(月)23:09:16 No.436024806
◆■◆ 陽光差し込むステンドグラスがモノクロの色彩に七色の輝きを与えて光を落とす。修道服を着た宗教委員の生徒が数人いるばかりの教会はしんとして厳かな雰囲気に包まれていた。 紅茶を嗜み聖書の話に花を咲かす彼女たちを横目に、わたくしはあの黒髪の牧師様を探す。あたりをぐるりと見まわしたがどこにもその影はなく、ただ教会の最奥に立てられた主のシンボルの横に、ひっそりと扉の閉じた懺悔室があるばかりである。 明確な根拠があったわけではないのだけれど、わたくしはなんとなく気にかかりその電話ボックスを二つ繋げたくらいの小さな懺悔室の扉を開いた。 中は狭く、椅子がひとつと肘置きだけ。部屋の真ん中にはカーテンのかかった小窓がある。 小さな窓がの向こうには人の気配があり、わたくしが扉をあけると仕切りの向こうで誰かがびくりと動揺して動くのが見えた。 ……わたくしはしばらく懺悔室の反対側にいるであろう西さんに思いを馳せてから、ゆっくりと着席する。自分でもわかるほど、口元にはいやらしい笑みが浮かんでいた。
6 17/06/26(月)23:09:51 No.436024964
「……牧師様」 「は、はいっ。……どうかなされましたか、まよ、迷える?子羊どの…?」 か細く名を呼ぶと、いやに自信なさげな聞き慣れた声が返ってくる。 わたくしは苦笑しながら、少し芝居がかった調子で言葉を紡いだ。 「……どうか、この哀れなわたくしの懺悔をお聞き下さい。わたくしには今──どうしようもなく、身を焦がすほどに愛おしい人が居りますの」 「なんと……」 西さんはまだわたくしの事に気づいていないのか、自分の立場も忘れ深刻そうに息をのむ。 わたくしがこの倒錯的な状況に妙な興奮を覚えていると、向こうから励ますような優しげな声が返ってきた。 「い、いえ、ですが人が人を愛する事は素晴らしい事です! 恐れながら、何も罪を感じることはないかと!」 「ええ、わたくしもそう思います。ですが……嗚呼! わたくしの恋は道ならぬ恋。 かの愛しの君は我が聖グロリアーナからは遠い地にありて……そして、あろうことかわたくしとその方は、争い合うべき敵同士なのです」
7 17/06/26(月)23:10:46 No.436025203
「それは……!」 狭い懺悔室の中、わたくしはロイヤル・オペラ・ハウスの女優のように高らかに悲恋を歌う。 すると西さんの声は雷に打たれたようにぴたりと止まる。動揺した様子がなんとも可愛らしい。 ……とはいえ、少しからかいすぎたかもしれない。 そろそろ捕まえて差し上げましょうかと思い、わたくしは小窓から顔を覗かせようと着席する。 しかしわたくしが正体を明かすよりも先に、西さんの真剣身を帯びた声が仕切りの向こうからわたくしに届いた。 「……いえッ! それでも貴方は、悔いることなどありません!」
8 17/06/26(月)23:11:32 No.436025417
その勢いに押され、思わずわたくしは答える。 「にしさ…いえ、牧師様…?」 「たとえ敵同士だろうと、道ならぬものであろうとも、愛とはそれ自体が美しく、尊い。 貴方が自らの愛を悔いれば、それは貴方自身を偽っている事になってしまう。 ひとたび恋に落ちたなら、迷わず邁進し、心のままに……突撃するほかないのではないかと!」 あまりある熱量に、仕切り板の向こうの西さんの姿が目に浮かぶ。 こぶしを振り上げ、あの勇ましくも爽やかな顔立ちで凛と指示する彼女の姿。わたくしはその姿に見惚れしばし言葉を失っていた。
9 17/06/26(月)23:11:50 No.436025504
「……実は、貴方のような心に私も覚えがあるのです。その方はいつも優雅で美しく博識で、私の憧れでありわたしの──」 「西さん、西さん」 しかしすぐにはっと我に返り、まだ言葉を続けんとしている西さんに慌てて口を挟む。 不意に自分の名を呼ばれた西さんは驚いたように口を開いたまま固まり、そして声の主に思い当たると慌てて仕切りカーテンを開いた。 「え……だっ、ダージリン殿ッ!? なぜここに!」 「気づくのが遅くてよ、もう……」 おかげで恥ずかしい言葉まで聞かせられてしまったじゃない。と唇の裏で呟き、わたくしは呆れたように肩をすくめるのだった。
10 17/06/26(月)23:12:39 No.436025717
■◆■ 懺悔室を出て、宗教委員の少女らを横目に教会の大扉を開く。薄暗い建物の外に出たせいか、燦々と照りつける太陽の光が眩しい。 本来なら逃げるべき立場の西さんはもうすでに観念したのか、わたくしが繋いだ手を振り払おうともせず隣で手をかざし空を仰いでいる。 ……真っ黒な牧師の姿は、和製美人の西さんの佇まいをより落ち着いたものにしている。改めて見ると、本当によく似合っていた。 「ねえ西さん、こんな格言を知っている? 人は、その制服の通りの人間になる……」 「はいっ、皆目見当もつきません!」 「ナポレオンの言葉よ。人というものは自ら変わるのではなく、環境やその他の要因によって変えられていくものという意味ね」 「なるほど! つまり聖グロリアーナの制服を着て過ごせば、私も外来語や紅茶の銘柄に明るくなれるという事でしょうか!」 「……面白い考え方ね。それならわたくしは大洗の制服を着て、あんこうの捌き方を覚えようかしら」 「似合っている」の一言が言いたかったのだが、いつも通り会話は明後日の方向へ。 こういうところは、本当に、全く、何もかもがいつもの西さん。
11 17/06/26(月)23:13:00 No.436025823
まあ、そこが面白いのだけれど、もう少しこう……と、わたくしはひとつ溜息のような言葉を吐いた。 「……そう言えば、先程は随分と熱の入った牧師ぶりでしたわね。 確か……『ひとたび恋に落ちたなら、心のままに突撃するほかない』だったかしら?」 その言葉に、西さんはぼっと顔を真っ赤にして目を伏せる。 「そっ、それはっ! ……ダージリン殿っ、そこはひとつ、忘れてはいただけないでしょうか!」 「あらあら、恥ずかしかった? とても真摯で、わたくし、思わず感心させられてしまったのだけれど」 「あれは……その、本当に恋に悩める女性がいると思っていたものですから、思わず……ええと」 柄にもなく縮こまる西さんの姿が愛おしい。 きっと、あの状況をやり過ごす方法ならいくらでもあった。 けれど彼女はそれを出来なかったのだろう。真剣に悩みを打ち明けにきた女性を、放っておくことなどできない人だ。
12 17/06/26(月)23:13:43 No.436026015
「……口をついて出たというか、なのでその、あの時の言葉はあまり気になさらないでほしいというか、そのう……」 西絹代らしからぬ歯切れの悪さで、彼女はちらりとこちらを盗み見る。 窺うような視線は、きっと思わず口走ったあの言葉の事を意識してのことだろう。 「……ふふ、西さん」 そんないつになく弱った様子が、わたくしにはたまらなく愛おしくて。 「わたくし“も”、貴方の事は嫌いではなくてよ」 「な!」 ハイビスカスティーのように顔を真っ赤にする西さんに、にっこりと笑みを浮かべて答える。 一本取ってやったことに子供じみた優越感を感じながら、わたくしはさしあたってこの捕虜をどうもてなして差し上げようかしら、と他愛ないことを考えていた。
13 17/06/26(月)23:15:58 No.436026627
テキスト! su1915535.txt ぶっちゃけ牧師の西さんがやりたかっただけとも言える!
14 17/06/26(月)23:25:00 No.436029185
私はいいと思う
15 17/06/26(月)23:32:39 No.436031243
西さんもがっつり惚れてるパターンの西ダジいい…
16 17/06/26(月)23:41:30 No.436033819
想像してみたけどシスター西さんもいいな…と思ったら牧師だった それにしても……随分とペンキ臭い牧師様だこと!
17 17/06/26(月)23:47:40 No.436035728
ロビンパワー全開!で割れたガラスからベルを作るが如く 知波単魂全開!でただのペンキ塗れの制服を牧師さんの服にするのか… でもこれこの後ローズヒップに嗅ぎつけられて半裸に剥かれてしまう流れなのでは? ああ!いけないわローズヒップ!