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17/06/07(水)02:18:09 No.431887497
ゆかりん誕生日おめでとう怪文書 みほゆかが付き合って大分経過したゆかエリ飲み会
1 17/06/07(水)02:18:25 No.431887522
「誕生日なんですよ。来週」 「へえ、そう。で?」 そんなことは知っている。あの子の偏執狂的な記憶力には劣るけれども、友だ……知人の誕生日くらい覚えている。去年は知り合ってすらいなかったから、祝えなかったけれども。……一応、知り合ってはいたか。ただし、あのころ私、逸見エリカはこの子たちの憎まれ役、いやなやつだった。久しぶりに再会した同級生、そして好きな人に、自分の感情を整理できなくて、こともあろうに嫌味をぶつけていた。それに反論してきたのがこの目の前にいるもじゃもじゃだ。 もじゃもじゃ。大洗女学園、Ⅳ号装填手。秋山優花里。西住みほの恋人。 「で? って! 逸見殿ひどい!」 そう。ひどい女だ。だから西住みほにはきっと相応しくないのだ。あんなぽわぽわした女の子には。ぽわぽわともじゃもじゃで早いところ幸せになっていろ。せいぜい悪ぶった笑みを浮かべてあげる。麦ジュースが泡立つグラスを虫眼鏡のように顔にあてて、黄金色の液体越しに秋山優花里を見つめる。いつも以上に髪の毛がぐにゃぐにゃだった。酩酊していることもあって、なんだかすごくそれが面白い。
2 17/06/07(水)02:18:43 No.431887549
酩酊? していない。しているなんてことはない。高校生、それも武道の大会に出る強豪チームの隊長が未成年飲酒だなんて、公になったら大問題だ。だから、公にならないように、今日は私の部屋から出な い。こいつも出さない。優花里の恋の相談に乗るようになってから、これで何回目だったろうか。数を数えることも忘れてしまった、二人っきりの宴会だ。 なんの話だったか。 たしか、こいつの誕生日だ。 「ひどいってなによ。ちゃんと聞いてあげてるじゃない」 「その、おめでとう、とか」 「はいはいおめでとう」 「逸見殿はいじわるです」 そう。いじわるだ。私は私が性格が悪いことを知っている。だから、私と西住みほは結ばれるべきじゃないと思ったし、秋山優花里を応援することに決めたのだ。まあ応援するまでもなく、西住みほは秋山優花里のことが好きだったのだけれども。両想い。良かったね。 「なによ、気持ち悪いわよあなた。何が言いたいのよ」 「だから、誕生日に、祝って欲しいなって」 「いやよ。その日大洗行かないし。試合近くて忙しいし。それに、あなた誕生日はあの子と過ごすでしょうよ」 「……そうですけど」
3 17/06/07(水)02:18:59 No.431887572
優花里がほんのちょっぴり口元を尖らせて視線を逸らす。ふんわりとした髪が揺れる。お預けをくらって拗ねた大型犬を連想して、声を出さずに息だけで私は笑う。 「爆発しろ。ほら、いつどう祝えっての。え? なに? なにか欲しいわけ? 友だち同士でプレゼントとか重くない? 」 「いやいやいや、そんな! そんな大それたことじゃなくて、その、たとえば……その、誕生日になったらメッセージを送ってくれるとか」 上目遣いでそんなことをねだってくる。目の前で手でも組んでいればあざとかったのかもしれないけれど、手に持っているのが麦ジュースの瓶では効果も半減だ。ん? それちゃんとグラスに注いだ方が香りがいいのに……まあいいや。 しかしずいぶんかわいらしい頼みだ。こういう相手の立場が下のときに、せいぜい自分の性格の悪さを発揮させてもらおう。にいぃと口角をつりあげて、精一杯悪い顔をしてみせる。
4 17/06/07(水)02:19:35 No.431887641
「いやよ。なんでそんなことしなきゃいけないのよ」 「去年、はじめてやってもらったんです。あんこうチームのみんなに。私、いままで友だちいなかったから、それが、なんだか嬉しくって」 「ああ、そう。でも今年はやらないと思うわよ。みんな。私もやりたくないし」 「なんでですか!?」 優花里が目を見開いて食ってかかる。相当な勢いだ。それだけ、友だちに祝ってもらうのが大事だし、去年のそれが嬉しかったのだろう。いままで友だちが少なかった、という話は聞いていたし、だからこそ。私も友だち少ないから、わからなくはない。いいな。私もみほと一緒に、そんな誕生日過ごしたかった。恋人同士でなくても、せめて友だち同士で。 「去年は、その、誕生日になった瞬間にみんなから……」 「だって、あなたたち誕生日になった瞬間、その……セ……え……イチャイチャしてるでしょうよ」
5 17/06/07(水)02:20:02 No.431887685
あの三人、とくに武部沙織はそういったことに気を遣うだろう。その、恋人同士が夜ひとつの部屋にいたら、それは邪魔しないのが空気を読むってやつじゃないのか。 言わせる気か。ああ、嫌だ嫌だ。自分がかませ犬だって自覚してしまう。だいたいなんでこいつとみほがくっついたのに私はこいつと友だちやってるんだ。違う、友だちじゃない。知人だ。危ない。せめて飲み仲間だ。 「いつもイチャイチャはしていますが」 「うるさい爆発しろ。じゃなくて! どうせ誕生日になった瞬間とか、部屋で一緒にいるでしょう!?」 「誕生日の前日は……多分、そうなりますね」 「みんな、気をきかせてくれてるのよ? あんたたちがなにしてるのか」 「え?」 あれ? こいつ、本気でわかっていない? その、恋人同士が……夜……二人きりだったら……。 「だからぁ……そ、その……」 ああ、恥ずかしい。なんで私こんな恥ずかしい思いしなきゃいけないんだ。馬鹿。馬鹿もじゃ。 「だからどういうことなんですかぁ」
6 17/06/07(水)02:20:18 No.431887708
「だああああ! だから! セ、セ、セッ……ああ! えっち! するでしょうが! あなたたち!」 「え」 優花里が硬直する。顔がどんどんと紅潮していく。 人ってこんなに赤くなるんだ。健康的にすこし陽に焼けた肌だから、あんまり目立たないんじゃないかと思ったけれど、そうでもないな。私はそんなどうでもいいことを考えて逃避していた。友人同士のセックスなんか想像したくなかった。 「ええええ!? ちょ、ちょっと、その、えええええ! やだ、はず、はずかっ」 「もう、その……したんでしょ?」 以前、もう結構前だけど、みほの家に遊びにいったときに、しれっと合鍵でドアを開けていたのを思い出す。いくら恋人同士とはいえ、何かがあったに違いない、と私は踏んでいた。 果たして優花里は真っ赤になったまま俯いて、こくんと一度頷いた。ふわりと髪の毛が揺れる。もじもじと上着の裾を引っ張って、女の子座りした腿の上でなんだか指を組んだり外したり忙しない。 「おめでとう」
7 17/06/07(水)02:20:44 No.431887750
私はほとんど空になったグラスに手酌でビールを注ぐ。それから大洗の方向を探そうと思って航路を計算しはじめたが、酔った頭でそんな上等なことができるわけがなくて諦めた。適当な方角に向けてグラスを掲げる。 私の友だちと、好きだったひとに、乾杯。 ああ、感傷的になっている。酔っている。グラスを一気に半分くらい空ける。 「あの、あの、逸見殿、逸見殿のおかげで」 「ああ、はいはい、みじめになるから黙ってて」 「うう、その、あの」 感情のコントロールが利いていない。いまのはさすがに性格が悪かったか。 「ごめんって言ったらぶっ殺すからね」 できるだけふざけた口調でそう言い放つ。 「あ、あう……ありがとうございます」 「ん。よし。おめでと」 おめでとう。ありがとう。それでいい。それでいいはずだこの関係は。グラスをぐっと煽って、空にした。優花里が瓶を両手で持つから、ん、と声だか何だかわからない音を出して差し出す。とくとくと液体の注がれる音だけが二人の間を支配する。
8 17/06/07(水)02:21:00 No.431887784
「その……どういう、感じなの? そういうのって」 「え、ええとですねぇ……っていやですよ! なんで人に言わなきゃいけないんですか!」 ふと口をついて出た、何の気なしの質問に、また優花里が顔を赤くする。 「とんだドスケベですね! 黒森峰では人のえっちまで情報収集するんですか! すけべ! 逸見エロカ!」 「ち、ちがっ! うるさい! 死ねモジャモジャ!」 別に夜の話を聞きたかったわけじゃなくて、恋人同士の関係を聞きたかっただけなんだけど。 だって、そんな、友だち同士のえっちとか、想像しちゃいけないだろう。 みほと、優花里が裸で睦みあっている状況なんて。 ぽやぽやした性格をして、意外と引き締まった身体をした二人だ。絵にはなるだろう。 とろんとした眼をした優花里が首を傾げながらこちらを見て笑ったりして、なんだか可愛らしいのか扇情的なのかわからない表情で……そう、こういう酔ったときに見せるような……。 あれ? 私、こいつの裸を想像してないか? なにを馬鹿なことを。 好きだったみほならともかく……なんでこんなやつの裸を考えなきゃいけないんだ。 「悪魔よ去れ」 「どうしました?」
9 17/06/07(水)02:21:20 No.431887817
「なんでもない……とにかく爆発しろ」 もう一度、グラスを呷る。もう、飲もう。飲んでいろいろと忘れよう。 「そんなリア充相手みたいな……」 「リア充でしょうが! 恋人と……その……誕生日に……シて……夜の……」 「逸見殿、そのもってまわったいい方逆にえろいですからね」 今度は私が顔を赤くする番だった。 「うるさい! ああ! もう! 絶対、誕生日なんか祝わないからね! 勝手に二人でサカってろ! スケベ!」 「ひどい!」 「なにしてるんですか?」 翌日。私は隊長の執務室で作業をしていたところを、赤星小梅に覗き込まれた。反射的に手元を隠す。 「うっ……なんでもない」 「ほら、隠したってダメですよ」 強引にぐいぐいと顔を寄せてくる小梅に、降参、といったように手をあげる。 「ん……みんなには内緒よ。これ。秋山の誕生日の」
10 17/06/07(水)02:21:39 No.431887845
「ああ、バースデーカードですか?」 「来週なんですって。なんか、アプリでってのも素気ないじゃない? 重いかしら」 「モノによっては結構重いと思いますよ」 「ほんと? やめよっかなあ。なに書いていいかわかんないし。もう何枚かダメにしたわ」 なんだかなにを書いても違和感があって、ぐしゃぐしゃにしてしまったものが足元ごみ箱の中に収まっている。もう残りはこれ一枚だ。 「何人かでやれば友だちから、になるんじゃないですか? 一緒に買いに行きましょうか」 「ほんと?」 書き損じできない状況だ。予備があるならそれに越したことはない。小梅にデザインやメッセージも相談してみよう。 「助かるわ」 「秋山さんは私にとっても大事な友だちですから」 ハメられたことに私が気づくのは、もう少し先のことだった。 「優花里さん。これはなんですか」
11 17/06/07(水)02:22:04 No.431887882
西住みほは目の前で正座する秋山優花里を見下ろしていた。 秋山優花里の部屋を訪れたみほは一枚の紙片を見つけた。この内容について問いたださねばならない、と切り出したところ、急に焦りはじめた優花里が自主的に正座し、おどおどと視線を惑わせ始めたのだ。みほはなにか悪さが発覚しながらも、それを隠そうとする大型犬を連想した。 「メッセージカード……です」 「バースデーカード、だよね」 「はい」 先日、優花里は誕生日を迎えた。みほはあの素晴らしい一日を回想する。誕生日を迎えた瞬間の、二人だけのキス。誕生日、この優花里の部屋であんこうチームで行った誕生日パーティ。そしてまた、夜。素晴らしい一日だったと思う。学校でも皆に祝福されていた。恋人が皆に祝福されているのは、自分のことのように嬉しかった。 だから、バースデーカードはいいのだ。問題は優花里がなぜかそれを隠していたこと。そして、差出人。 「E.Iさん。誰かなこれ」 「い、いすず、え、えりさん……」 「誰それ。華さんのお母さんは百合さんだよ?」 五十鈴百合からこんなバースデーカードが届いていたとしたら、それはそれで理由が知りたいけれども。
12 17/06/07(水)02:22:26 No.431887926
みほはちらと視線を移す。テーブルの上に置かれたカードは、黒に金の箔押しがなされた上品なもの。繊細な花の意匠が美しい。綺麗だ、と素直に思った。みほ自身もこんなバースデーカードを優花里からもらえたらきっと喜んだだろう。恋人から。 そう。まるで、恋人に贈るような雰囲気のものだった。 『いつもありがとう。E.I』 丁寧な、几帳面な、みほのよく見知った筆致でそんなメッセージが記されていた。 「なんで、隠してたのかな? 届いたの」 「こ! これは罠です! なんかガチっぽいのが一通届いたから、きっと逸見殿のイタズラだと思って!」 「ふぅ~ん、私に見られるとよくないと思ったんですね。ふぅ~ん」 「その、いや、だって」 「まったく! エリカさんは油断ならない人です!」 黒森峰から、わざわざ一通だけ。大会も近いっていうのに。 私だってバースデーカードもらったことなんてないのに。 優花里さんずるい。 みほは首を傾げる。 あれ? 私、なにが不満なんだろう? 「西住殿?」
13 17/06/07(水)02:22:45 No.431887952
不安そうな上目遣いで優花里がみほを見上げる。その濡れた瞳が、みほには溜まらなく愛らしく見えた。 そうだ。このかわいい恋人を、あの美しいひとがとっていってしまう。それが、怖いんだ。 ずるい。エリカさんずるい。 わたしのもの、とらないで。 わたしに、やさしくして。 「とにかく! あの人はジゴロなんです! 女の敵なんです! 隊長になってますますモテてるんですから! 優花里さん騙されちゃ、浮気しちゃダメですからね!」 「ねえ、小梅、なんかみほからすっごい通知入ってるんだけど……なんなのこれ……怖くて見れないから一緒に見てくれない?」 「うふふ。なんでしょうねえ。なにがあったんでしょうねえ」
14 17/06/07(水)02:23:26 No.431888010
おしまい ハワイ時間でセーフ! 塩落ちてたんだね…
15 17/06/07(水)02:26:01 No.431888219
きたのか!
16 17/06/07(水)02:40:50 No.431889497
これはみほゆかなのかゆかエリなのかみほエリなのか…
17 17/06/07(水)02:41:33 No.431889547
ゆかりんの誕生日なのに主役はエリカだ
18 17/06/07(水)02:46:31 No.431889963
ゆかりんがモテてるからいいんだきっと
19 17/06/07(水)02:56:17 No.431890673
おめでとさん
20 17/06/07(水)04:36:33 No.431896027
これは…将来的にみほ優花エリサンド…
21 17/06/07(水)04:43:39 No.431896274
ああ…これ赤星も一緒に書いて出しておきますねって預かってやつのだけポストに入れたのか…
22 17/06/07(水)04:49:22 No.431896454
赤星はさぁ 赤星はさぁ
23 17/06/07(水)04:50:33 No.431896499
この本人同士も薄皮一枚危うい関係な自覚があるんだか無いんだかわからん感じがとても好きですこういうの好きです
24 17/06/07(水)04:54:41 No.431896626
黒森峰の寮は所々ノンアルコールじゃないビール臭がするけど寮の外に出ない限りは見逃されてるんだろうな… これゆかりんがやつにお祝いをねだったことをみぽりんが知ったら…大変なことになりますね