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17/06/07(水)01:11:03 怪文書 ... のスレッド詳細

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17/06/07(水)01:11:03 No.431879421

怪文書 みほゆか誕生日 遅刻しちゃったごめんね

1 17/06/07(水)01:11:21 No.431879481

コツン、コツンと、窓に何かが当たる音がした。 羽虫かなにかだろう。 この時期は特に誘光性のガやカナブンが増えだし、鬨の声をあげて窓ガラスへと吶喊作戦を敢行しだす。 秋山優花里は少し上気した風呂上がりの体をベッドに横たえ、なんの気もなしに雑誌をめくっていた。

2 17/06/07(水)01:12:18 No.431879607

カツン! 先程よりも僅かに強く、ガラスが叩かれる。 秋山優花里は訝しげに身を起こし、「ちよみの戦車道」のページを見開いたまま今月号の月刊パンツァーを枕元に放り投げた。

3 17/06/07(水)01:12:53 No.431879688

鍵を開け、網戸を巻き込まないようにしてスライドさせる。 飾り気のないアルミの窓枠が金切り声を上げ、夏の終わりの物憂げな夜風をかったるそうに招き入れると、その風鳴りに融けるようにして、聞きなれた声が秋山優花里の名を呼んだ。 「ゆかりさん…!」

4 17/06/07(水)01:13:15 No.431879727

目を凝らすと、自宅の向かいの電信柱に添うようにして隠れ、こちらに手を振っている人影。 その輪郭を、秋山優花里が見間違えるはずもない。 愛すべき、我らが大洗女子戦車道チームの隊長にして、救校の英雄。西住みほその人が、薄暗い街路灯に照らされ一人佇んでいた。 「えっ?西住殿!?」 「こんな夜更けにごめんね…!」

5 17/06/07(水)01:13:47 No.431879807

優花里は大急ぎで階段を駆け下り、彼女を自宅に招き入れようとした。 しかし、「おうちの人の迷惑になるから」と断られ、代わりにとバスケットボールほどの大きさの紙袋を手渡されたのだった。 「これは?」 「誕生日…だから。」 「…あっ」 「ほんとはね、みんなで渡そうねって話してたんだけど、ズルしちゃった。」 そう言って、西住みほははにかんで笑っていた。

6 17/06/07(水)01:14:35 No.431879936

当の優花里は、嬉しさのあまり言葉が出ないような、叫びだしたいような、バランスの怪しげな精神状態を行ったり来たりしながら、なんとかお礼の言葉を探そうとした。しかし、アワアワするばかりで気の利いた言葉が喉から出てこない。 そうこうしているうちに、みほは「じゃあ、私行くね。おやすみ。」と言って、足早に去っていってしまった。

7 17/06/07(水)01:15:26 No.431880064

フラフラになった優花里が六畳間の私室に帰りついたのは、それからわずか数分後のこと。 紙袋を抱えたままベッドに倒れ込み、仰向けになったまま「はあ」と大きなため息をついた。 枕元におかれた「ちよみの戦車道」で、見開き数ページを使って大判解説をされるような名選手が。 同い年でありながら、自分の持たない全てを持っている憧れの英雄が。 こうして、わたしの誕生日を祝ってくれたのだという事実に、実感を得られないままでいた。

8 17/06/07(水)01:16:39 No.431880220

気付けば、携帯電話のバッテリーがあがり、電源が落ちてしまっている。 なるほど、だから西住みほは窓から私を呼んだのか。 優花里は、携帯電話に充電ケーブルを刺しながら、可愛らしい花柄の紙袋を開けた。 中に入っていたのは、ぬいぐるみだった。 手作りのパンツァージャケットを着たもじゃもじゃヘアーのボコが、右手に砲弾を持っている。 それのモデルが誰なのか、もちろん、言うまでもない。

9 17/06/07(水)01:17:19 No.431880322

そして左手には、小さなメッセージカードが折りたたんでしまってあったのだ。 「信じてくれて ありがとう」 ピンクの水性ペンで書かれた短いメモ書きは、去年まで違う次元の違う星に住んでいた憧れのあの人の、本心からのありがとうだった。

10 17/06/07(水)01:17:43 No.431880381

ぱたり、ぱたりと音を立てて床にシミを作る涙。 彼女の頬をつたい、雪解けの清流のように溢れ出た感情の奔流。

11 17/06/07(水)01:18:22 No.431880491

気付けば、起動できる程度に電力を蓄えた携帯電話には、停電中に受信した百数十通のメッセージが絶え間なく降り注いでくるようになっていた。 「それは私のセリフですよ西住殿…!」 床から伝わる誕生祝いの着信バイブレーションはなり止む気配を見せない。

12 17/06/07(水)01:18:43 No.431880550

優花里はうわ言のように感謝の言葉を唱えながら、もらったばかりの愛らしいボコのぬいぐるみをいつまでもいつまでも抱きしめていた。

13 17/06/07(水)01:19:00 No.431880582

おわる おやすみ

14 17/06/07(水)01:19:12 No.431880609

キテル…

15 17/06/07(水)01:19:34 No.431880675

そうそう こういうのでいいんだよ こういうので

16 17/06/07(水)01:21:47 No.431880982

これぐらいの塩梅いいね…

17 17/06/07(水)01:29:06 No.431881897

ほっこりする…

18 17/06/07(水)01:35:35 No.431882784

>「信じてくれて ありがとう」 いいよね 本人がダメだと思ってた所を徹頭徹尾全肯定

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