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17/05/29(月)01:41:51 【SS】... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1495989711237.jpg 17/05/29(月)01:41:51 No.430100326

【SS】私の戦車道 前回まで su1881557.txt

1 17/05/29(月)01:42:38 No.430100447

「……エリカさん、あんまり無理をしないほうが……」  椅子に座り、机の上の資料と向き合う私に、小梅が心配するように言った。  私はその言葉をまったく意に介すつもりはない。私は私のやることをやるだけだ。 「……エリカさん!」 「……うるさいわね。私は勝たないといけないのよ、大洗に」 「でも、でも……」  小梅はおどおどとした声で、しかしはっきりと言う。 「エリカさん、もう三日は寝てないじゃないですか……!」  私は黒田と約束してから、ずっと対大洗戦のことを考えていた。  どうすれば大洗に勝利することができるかだけを思案していた。  大洗も三年生が抜けて弱体化するはずだ。だが、私はどのチームが三年生なのかを詳しく知らない。  それゆえ、あらゆるパターンを考えて作戦を構築しなければいけない。そのためには、いくら時間があっても足りないのだ。  しかし、それはそれとして気になることはあった。 「……あなた、どうして私が寝てないこと知ってるのよ」 「そんなの、顔を見れば分かります……目の下のクマ、ひどいですよ……」

2 17/05/29(月)01:42:58 No.430100489

「…………」  小梅は妙なところで観察力がある。それゆえ小梅にはバレたのだろう。だが、いくら小梅に言われてもこれだけはやめることはできない。  私の戦車道がかかっているのだ。寝ている暇などない。 「どうしてそこまで勝ちにこだわるんですか。確かに大洗は因縁の相手です。ですけど、ここまでするほどじゃないと思うんです……!」 「……確かに、ね」  確かに普通に見ればそうだろう。誰も私と黒田との間で交わした契約を知らないのだから。  私と黒田の契約は誰にも話してはいけない決まりになっている。それゆえ、私はなぜこうまでなっているのかの理由を話すことができない。 「だったら――」 「でも」  私はそこで小梅の言葉を遮った。 「私は今回の試合はどうしても勝ちたいの。練習試合とはいえ相手は大洗。黒森峰にとって因縁の相手。今まで敗北続きの黒森峰に、もはや敗北は許されない。だから、私達は勝利する必要があるの」  もちろん、これで誤魔化せたとは思っていない。  小梅の複雑そうな顔が、それを物語っている。だが私が、やはり真実を話すことはできない。だから、先程言ったでっち上げの理由で押し通すしかないのだ。

3 17/05/29(月)01:43:13 No.430100530

「そういうことなのよ、小梅。分かった?」 「……分かりました」  絞り出すような声が小梅の喉から漏れる。それは明らかに納得していないという態度の現れのようであったが、私はあえて無視した。  そこを私が突っ込んでも何も意味はないだろう。 「じゃあこれで――」 「でも!」  今度は小梅が私の言葉を遮ってきた。  私はつい驚いた顔をしてしまう。 「今日、今このときだけはどうしても休憩を取ってもらいます! これは副隊長として隊長への進言です! 隊長が体を崩してしまっては元も子もないですから!」  小梅の言葉からは非情に硬い意思が感じられた。どうやら覆そうにない。  私は「……はぁ」と軽く溜息をつくと、机の上に広げていた資料をそのままに、椅子から立ち上がった。 「分かったわよ。時間が勿体無いから、とりあえず今だけよ。そうね、お腹が空いたからどこかに何か食べに行きましょうか」 「……はい!」  小梅はとても明るい笑みを私に見せて返事をした。そんな小梅に、私は思わず苦笑いを浮かべる。思うに、この子は私のことをとてもよく想ってくれているのだと思う。ならば、一応それに私も答えなければいけないだろう。

4 17/05/29(月)01:43:32 No.430100587

「それじゃあ、最近できたファミレスに行ってみましょうよ! エリカさんの好きなハンバーグが美味しいそうですよ!」 「あら、それは楽しみね」  こうして私は、小梅と一緒にファミリーレストランへと向かうこととなった。久々に食べたハンバーグの味は、よく分からなかった。

5 17/05/29(月)01:43:53 No.430100641

「……んん」  酷い眠気の中、私は目を覚ます。窓からは太陽の明かりが差し込み、私の目を刺激する。 「えっと……私、いつの間に寝たのかしら」  私は目をこすりながら周囲を確認する。どうやら、私は自室のベッドの上にいるようだった。だが、私はベッドに入った記憶も、そもそも寮の自室に帰った記憶もない。とりあえず、私は時計で時間を確認する。 「って、ちょ!? もう朝練の時間じゃない!?」  私は飛び起きた。  なんで!? どうしてこんな時間まで眠っていた!? 大洗対策はどうした!?  私は必死で昨日のことを思い出す。もちろん、出発の準備をしながらだが。  ええと確か、昨日は小梅と一緒にファミリーレストランに行って、それでハンバーグを食べて、それから……それから?  そこから、私の記憶がない。  私は不思議に思いつつもとにかく学校に行かなければと家を出て、学校まで走った。学校に着くと、すでに早朝訓練は始まっていた。 「しまった……!」

6 17/05/29(月)01:44:12 No.430100693

 隊長が遅れるなんて、なんてことだ。みんなにどう謝ろう。いや、そもそも私抜きだと、色々と指揮がいかなくなり大変なはずだ。だというのに、皆訓練を行っている。こうして私抜きで訓練を進められるということは、私の変わりに指示を出している人間がいるということだ。  今の隊でそれができる人間は、一人しかいない。  私が着いてから少しして、戦車が格納庫に戻ってきた。そして、戦車からそれぞれ隊員達が降りてくる。  降りてきた隊員達は私を見ると普通に「おはようございます」と挨拶をしてきた。  そして、最後にやってきた戦車から降りてきたのは、小梅だった。 「おはようございますエリカさん」 「……これはどういうこと、小梅」  私は小梅を問い詰める。 「どういうこと、というと……」 「昨日私に何があったのか、そしてどうして訓練が始まっているか、ということよ」  私の言葉を聞くと、小梅は笑顔で答え始めた。

7 17/05/29(月)01:44:40 No.430100762

「ああそのことですか。昨日エリカさん食事の途中で寝ちゃって……。それで、昨日はエリカさんを家まで運んだんですよ。起こしても悪いと思って。そして今日はエリカさんには朝休養を取ってもらうということで勝手に訓練を始めさせてもらいました。本当は伝えられたらよかったんですが、手段がなくて……」 「どうして……」 「え?」 「どうして、そんな勝手なことするのよ!」  私は大きな声で小梅を怒鳴りつけた。  小梅や周りの隊員は唖然としていたが、そんなのは関係なかった。 「寝たなら無理にでも起こしてよ! 私は小休止のつもりだったのに! それが朝になるまで寝てしまい、しかも朝練をすっぽかすことになるなんて、とんだ失態だわ……! 私はもっと研究と、それをもとにした訓練をしたかったのに……! 昨日あなたの言葉に乗ったのは間違いだったわ!」   「エリカ、さん……」  私は肩で息をする。小梅はわなわなと震えている。周りの隊員はただただ私達を見ている。嫌な静寂が、一体を支配した。

8 17/05/29(月)01:45:07 No.430100822

「ごめんなさいエリカさん、私、そんなつもりじゃ……」  うつむきながら謝る小梅だったが、私はそんな小梅に背中を向け、早足で格納庫を出ていくことにした。  もう彼女の顔も見たくなかった。  そして、出て行く際に私は小梅に言い放った。 「戦車道では頼りにしているわ。でも、それ以外でもう私におせっかいを焼こうとしないで。私も、もう戦車道以外のことであなたの助言を聞く気なんてないから」  そのとき、小梅のはっと息を呑む声が聞こえたが、背を向けているため顔までは見えなかった。  だがどうでもよかった。どうせ見たって不快になるだけだ。  私は扉を叩きつけるように閉めて、格納庫を出た。

9 17/05/29(月)01:45:25 No.430100863

   ◇◆◇◆◇  それからしばらくの間、私と小梅は殆ど口はきかなかった。会話は、戦車道に関連する事務的な内容のみ。小梅は時折チラチラとこちらのほうを見て何か言いたげにしていたが、私はその小梅をあえて無視した。  勢いでものを言ってしまったのを反省はしている。だが、現状でそこから関係改善をする気にもなれなかった。また休憩を取れなど、言われたくなかったからだ。  隊員達からも好奇の視線で見られた。だが、それも叱責する気にはなれなかった。身から出た錆である。甘んじて受け入れいることにした。  そうしていくうちにあっという間に時間は流れていく。  私は研究と訓練をとことん重ねた。我ながら、万全な状態を整えた。  そうしてついに、大洗との練習試合の日がやってきた。

10 17/05/29(月)01:45:40 No.430100912

「今日はよろしくお願いします!」  互いのチームの隊員と戦車が横並びに並ぶ中、大洗の隊長であるみほが、笑顔で私に頭を下げてきた。  私も礼儀としてみほに礼を返す。戦車道は礼に始まり礼に終わるのだ。 「……よろしくお願いします」  そして頭を上げると、みほは笑顔のまま私を見て、「ふふっ」と笑い声を出した。 「……何よ、何かおかしいの?」  私は少し癇に障り、あたりの強い言葉でそう聞く。 「あ、ごめんなさい! でも、エリ……逸見さんとこうして試合ができるのが嬉しくて……今日はいい試合にしようね、逸見さん!」  みほはそう言うと、右手を差し出してきた。どうやら握手したいということらしい。  正直それに応じたくなかった。今のみほは、私にとって倒すべき敵でしかない。だから握手を拒否することもできたが、それはあまりにも態度が悪すぎる。  私は渋々握手に応じた。 「……ええ、互いに頑張りましょう」 「うん!」  私の社交辞令に、みほは本当に嬉しそうに頷いた。

11 17/05/29(月)01:45:57 No.430100956

 イライラする。  何故この子はこんなに楽しそうなんだ。どうして戦車道でここまで笑顔になれるんだ。分からない。私には、分からない。  そんな感情がうずまきつつも、私達は互いに自分達の戦車に乗り、それぞれの初期配置についた。  さあ……いよいよ試合だ。この試合に勝って、私達は、私は勝利を手に入れ、私の戦車道を貫き通す。それが、今回の目的だ。  私は頬を両手で挟み込むように叩き、自分に気合を入れ直す。  相手の戦車はいくつか欠けていた。特に、大会で苦しめられたポルシェティーガーがないことがとても印象深かった。  これはとても幸先が良い。厄介な相手がいなければ、勝率はぐんと高まる。  私は様々にシミュレートした内容を頭に浮かべながら、高らかと宣言される試合の開始コールを耳にした。 「さあ、行くわよ……全車、パンツァーフォー!」

12 17/05/29(月)01:46:12 No.430100986

 激戦になると予想していた。  色々な作戦を立てた。夜も眠れなかった。不安で仕方がなかった。  負けてしまうかもしれない、そんな恐怖がつきまとう試合だった。  そのはず、だった。 「…………」  私の目の前には、白旗を上げた一台の戦車が横たわっていた。その戦車には、ピンと伸びるフラッグがつけられていた。 「……勝った、の?」  私は信じられなかった。  試合はあっさりと勝敗がついてしまった。  私は全力で挑んだ。大洗に数と質、速さの古典的と言われた私の戦法で挑んだ。大洗はどんな奇策で挑んでくるかと非常に慎重に戦いを進めた。  だが、圧殺できてしまった。数と質で、押し切れてしまった。  それは、あまりにもあっけなかった。  勝利の実感はなかった。ただ私にあるのは、虚無感と、徒労のみ。

13 17/05/29(月)01:46:34 No.430101046

 私は戦車を降り、みほと試合後の挨拶をする。みほは負けたというのに笑顔だった。そして私に言った。 「うーん負けちゃた。やっぱり逸見さんは強いや。私ももっと頑張らないと」  頑張る? 私の全力を相手にして、出た感想がそれだけ? そんな、笑って流せるような内容だったの?  私がそう思っていると、みほの周りに彼女の友人達が集まってきた。 「負けちゃったねぇみぽりん。やっぱ三年生の先輩方が抜けた穴は大きかったねぇ」 「ですねぇ。でも、黒森峰と再び試合ができて楽しかったです!」 「はい、撃破できた車両はわずかでしたが、とても心震えました……」 「こちらの手の内は前の大会で知られているからな。もっと新しい戦い方をしていく必要があるだろう」  わいわいと話す彼女らは、とても楽しそうだった。ひとりぼっちの私とは、まるで違った。  そして、みほは言った。 「うん、そうだね。でもやっぱり、戦車道は楽しいね! ここでやる戦車道が、私の戦車道なんだなって、改めて思ったよ!」

14 17/05/29(月)01:46:52 No.430101078

 私の……戦車道?  みほの、のびのびとした、負けても笑顔でいられる戦いが、彼女の戦車道とでも言うのか? 自分の戦車道を貫いた結果が、笑顔なのか? ああ、そうなんだろう。誰だって、自分の好きにやれたら、楽しいに決まってる。では、私はどうだ? 私は私の戦い方をした。そして勝った。でも、そこに残ったのはなんだ。何もない。あるのはただの虚しさと疲れのみ。みほは楽しく戦車道をやった。私は苦しみながら全力をかけて戦車道をやった。お互い自分の戦車道をしたはずなのにこの差はなんだ……? ああ、そうか、これが……これが……。 「これが、天才と、凡人の、差、なのね……」  自分のやりたいようにやって楽しく戦える。そしてその戦い方が新たな道を切り開く。それが天才の歩む道。地べたを這いずり回る凡人には、決して歩めない道。  私の戦車道は対してどうだ。先人の、天才の作った道を辿っているだけ。しかも、辿っているだけなのにひどく苦しい。とてつもなく痛い。考えれば考えるほど、努力すればするほど、出血していく。こんなの、耐えられるはずがない。

15 17/05/29(月)01:47:20 No.430101157

 ああ、そうか……だからなのか。だから彼女らは、あの本を作ったのか。 「ん? エリカさん? どうしたの?」  みほが不思議そうな顔でこちらを見た。  私はそんなみほに、優しく笑いかける。 「いいえ、なんでもないの。ありがとうみほ、今日はとてもいい試合だったわ。おかげで、私も踏ん切りがついた」 「え、踏ん切りって……」  みほへの返答をすることなく、私はみほに背を向けた。  そして、それぞれ話している隊員達の間をすり抜け、殆ど人のいない観客席へと向かう。そこにいる、一人の女性と話すために。 「おめでとうございます。素晴らしい勝利でしたね」  観客席にぽつんと座っていた女、黒田は私に言った。 「では、約束通りあなたはあなたの戦車道をする、ということで――」 「待って」  私は黒田を制止する。  黒田はそれが分かっていたかのように、私に笑みを見せる。

16 17/05/29(月)01:47:38 No.430101194

「はい、なんでしょうか?」 「その本を……あなたたちが研究してきたという戦いを、私に教えて」 「……いいのですか?」  白々しい。大洗と戦うとなったときから、こうなることは分かっていただろうに。 「……ええ、いいのよ。だって」  私は、先程思った正直な気持ちを、彼女に伝えた。 「もう、馬鹿馬鹿しくなったのよ。考えること。努力すること。何が私の戦車道よ。そんなもの、はじめから無かったんだわ。だから、私をもう楽にさせてちょうだい……私を、考えなくていい人形にして……」  黒田は私の告白を聞くと、こくりと頷いた。その一瞬見えた瞳は、笑っていた。嘲りではなく、自愛に満ちたような印象を受ける瞳で。 「はい、それでは……」  黒田の手元から、本が渡される。  私はそれを、しっかりと受け取った。  こうして私は、戦車道において、思考することを放棄した。

17 17/05/29(月)01:47:53 No.430101227

   ◇◆◇◆◇  ――一年後。 『黒森峰女学園の勝利!』  試合会場に高らかな声が響き渡る。  場所は、全国戦車道高校生大会決勝戦会場。  我が黒森峰が、久々に優勝旗を取り戻した瞬間だった。 『わあああああああああああ!』  隊員達が勝利の喜びを分かち合うかのように、戦車から降り互いに抱き合ったり、笑いあったり、泣きあったりする。  副隊長の小梅も、自分の戦車の乗組員と一緒に、涙を流しながら喜びを分かち合っているところだった。  皆、本当に嬉しそうだった。それはそうだろう。およそ二年ぶりの優勝だ。黒森峰が、王者黒森峰としての栄冠を再び手にしたのだ。嬉しくないわけがないだろう。  だが、私は正直どうでもよかった。それよりも、早く帰ってネットサーフィンをしたいという気持ちのほうが強かった。 「やりましたね! 隊長!」

18 17/05/29(月)01:48:20 No.430101288

「え? ああうん……」  私は話しかけてきた隊員に生返事をする。  面倒臭い……早く終わらないかしら……。  私はそんな気持ちで勝利後の撤収作業に移る。そして、優勝旗を受け取り、相手校との礼を済ませ、いち早く帰路につこうとする。 「エリカ」  そのとき、私の名を呼ぶ声がした。その声はとても懐かしい声で、私は思わず振り返ってしまう。そこにいたのは―― 「まほさん……」 「久しぶりだな、エリカ」  そこにいたのは、今は大学戦車道や世界大会で活躍している、まほさんだった。  まほさんは以前よりも自然な柔和な笑みを私に見せた。 「ええ、久しぶりですね」  しかし何故だろう、久々の再会だと言うのに、私の心は突き動かされなかった。 「さっそくだが、優勝おめでとう。見事な試合だった」 「ありがとうございます」 「それにしても、随分と戦い方が変わったな。以前のお前はもっと攻撃的な戦法をとっていたが、今では変幻自在の戦い方をするようになった」

19 17/05/29(月)01:48:35 No.430101338

 それはそうでしょう。私は教本によって指示されている戦い方に従っているだけなんですから。  そう言いたかったが、私はなんとかそれを飲み込んだ。OG会からの本については、時代の隊長に受け継ぐときまで誰にも秘密ということになっている。明かしていいのは次代の隊長のみ。  そのため、私は適当に誤魔化すことにした。 「あー……そうですね、はい。まあいろいろと」 「そうか。……しかし、優勝したというのにあまり嬉しそうにないな、何か思うところでもあるのか?」 「それは……」  まほさんの質問に、私は詰まった。私自身にも、よく分からないことだったからだ。あの本を手にすると決めてから、何に関しても無感動になってしまった。心を動かされるということがなくなってしまったのだ。  まあ、それもどうでもいいことなのだが。  ただ、そんなことが言えるわけもない。 「いやまあ、喜んでいますよ。ただ表に出すのが恥ずかしいだけです」  なので、私は嘘をつくことにした。  今はとにかくまほさんとの話を終わらせたかった。

20 17/05/29(月)01:49:08 No.430101429

「なるほど、可愛いところがあるじゃないか、エリカ。フフフ」  そんな私の言葉を信じたまほさんは微笑む。  まほさんは私の言うことをすべて信じている。それほど私のことを信頼しているということなのだろう。昔の私なら、心が痛みつつも喜んだかもしれない。  だが、今はただそうなのかと思うだけだった。 「しかし、本当に良かった……私の変わりに黒森峰を優勝させてくれてありがとうエリカ。見つけたんだな、お前の戦車道を」 「私の、戦車道……」  私の戦車道。  その言葉が、それまで無関心だった私のこころにチクリとした痛みをもたらす。  この痛みは一体何だ? 「ん? どうかしたのか?」 「……私の戦車道なんて、ありませんよ」  私の口から、そんな言葉が自然と漏れていた。 「エリカ……?」 「……失礼しました。それでは私はいろいろと業務があるのでこれで」

21 17/05/29(月)01:49:25 No.430101468

 私はハッとし、まほさんから逃げるように背を向けた。  どうしてあんなことを口にしたのかは分からない。  ただ、有り体に言うなら、イラついたのかもしれない。まほさんの、さっきの言葉に。  私の戦車道なんてない。  それを持てるのは、一部の選ばれた人間だけだ。私のような凡人には、関係のない話なんだ。  一体この世の中に、自分の生きたいように生きられる人間がどれほどいるのか。自分で自分の進む道を選べる人間が、どれほどいるのか。  道を切り開くのは、選ばれたものだけ。私達はその出来上がった道を歩いて行く。ただ、それだけ。

22 17/05/29(月)01:49:43 No.430101510

「……そう、それでいい。それでいいのよ」  私はそうして生きていく。  自分で考えて頑張るなんて馬鹿馬鹿しい。これからは、用意された道を歩いて、生きていく。  これからどんな道を歩んでいくかは分からない。  少なくとも黒田が、卒業後の進路は保証すると言ってくれた。恐らくその道に沿って進んでいくことになるだろう。  私は振り返る。そこにはすでにまほさんはおらず、あるのは運搬されている戦車のみ。  それを一瞥した後、私は再び歩き出した。  私の道は、そこにはない。  おわり

23 17/05/29(月)01:54:30 No.430102208

読んでいただきありがとうございました su1881569.txt 過去作もよかったら ・シリーズもの su1881575.txt ・短編集 su1881578.txt

24 17/05/29(月)01:58:59 No.430102802

これはその後のみぽりんの反応とかが気になる…

25 17/05/29(月)02:05:02 No.430103531

こ…こ…小梅ちゃんが護って…

26 17/05/29(月)02:06:00 No.430103645

好きだったこともお仕事になっちゃうと楽しくないよね…なんでだろう…

27 17/05/29(月)02:17:01 [す] No.430104800

ちなみに今回で50作目となりました ありがとうございます

28 17/05/29(月)02:28:38 No.430105846

なそ にん

29 17/05/29(月)02:35:58 No.430106502

過去作でエリカ死んでて駄目だった

30 17/05/29(月)02:37:09 No.430106598

なそ にん …「仮想幸福世界」好きです お姉ちゃん子供の頃からいっぱい我慢してきたもんね…仕方ないよね…

31 17/05/29(月)02:43:55 No.430107197

いいよね…

32 17/05/29(月)03:07:27 No.430109257

黒田さん階級だけは凄いんだろうな…

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