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17/05/28(日)01:24:01 【SS】... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1495902241474.jpg 17/05/28(日)01:24:01 No.429849177

【SS】私の戦車道 前回までのお話 su1880168.txt

1 17/05/28(日)01:24:30 No.429849278

「全車、一〇〇メートル前進! その後、第一中隊と第二中隊で左右に別れ対象を包囲せよ!」  この日は、それぞれ隊を二つに分けての実戦訓練だ。私の指揮する大隊と、小梅の指揮する大隊との模擬戦闘である。  私は開けた平野で小梅の大隊を鶴翼の陣で包囲殲滅する手段を取ることにした。  数量、質ともに同じではあるが、私はあえて数量と質、そして速さで圧倒する動きを取った。  これこそが黒森峰の伝統的な戦い方であり、私の好む私の戦い方であった。つまり、私の戦車道だ。  私は自分自身のやり方を貫き通す。そうすることにした。それがいつかきっと勝利に繋がるはずだと、私は信じていた。  もちろん、戦術、戦略は状況によって様々な色をつける。だが、基本は変えない。量、質、速さを揃えた西住流の戦い方だ。それこそが、私の信じる道なのだ。  私の隊が小梅の隊を素早く囲み始める。完全に囲んでしまえば私の勝ちも同然だ。そして、小梅の隊は依然動きを見せない。  私は勝利を確信した。  が――

2 17/05/28(日)01:24:50 No.429849356

「なっ!?」  ついに我が隊が小梅隊を囲もうとしたその瞬間、小梅隊の一斉砲撃が右翼を襲った。  それは見事なタイミングであった。その代わり、左翼側の攻撃を受け、小梅隊もただではすまない。だが、小梅隊はそれをもろともせず、撃破した右翼側から着実に車両を撃破していき、中央に迫ってきた。 「まさか、読まれてた……!?」  私は驚愕する。  確かに小梅とは長く一緒にいたし、今は副隊長として戦略について色々話したりもする。だが、まさかここまで完璧に読まれていたとは思ってもいなかったのだ。  だが、いつまでも驚愕しているわけにもいかない。  私は指揮を飛ばした。 「第二中隊! 突撃してくる小梅隊に攻撃! 雑魚には構うな! フラッグ車のみを狙え!」  相手は蜂矢の陣で突撃してくる。フラッグ車はその真ん中にいた。一気に中央を突破するつもりらしい。  だが、後方には私の展開した左翼の部隊がいる。それが後ろに回れば一気に壊滅できる。  なら私のすることは、中央でできるだけ時間稼ぎをすることだ。

3 17/05/28(日)01:25:23 No.429849482

「我ら第三中隊は後進しながら迎撃する! フラッグ車を狙いつつも、深追いはするな! 注意を引ければいい!」  小梅の速さが勝つか私の守りが勝つか。時間との戦いだった。  急いで後方を追う左翼の部隊。それから逃げるように中央を突破しようとする小梅。そして、迎撃する私。  じりじりと状況は変化していく。まるで追いかけっこのように。  そして、小梅の隊の先鋒が我が部隊の中央を突破しようとしたそのときだった。  後方からの部隊が追いつき、小梅のフラッグ車に一斉射撃を浴びせかけた。  そこで、勝負は決まった。  ついに後方の部隊が小梅のフラッグ車を捉えたのだ。私はなんとか勝利を収めた。  私達は互いに撃破された戦車を運搬し、戦車を格納庫へと戻していく。  そして、その後大作戦室へと全員で移り、反省会を行った。  反省会では、主に小梅チームの敗因と、互いの全体的な戦略、戦術の確認を行った。私のチームは勝利側だったため、あまり全体から意見を取る際において顧みられることはなかった。

4 17/05/28(日)01:25:39 No.429849551

 それは、私が我が方のチームについての意見を求めたときも変わらなかった。  だが、私はもっと意見が欲しかった。勝利したとはいえ、私の作戦が完全に読まれていたのだ。気になるのは当然のことだと思った。  それゆえ、私は反省会が終わった後、小梅にひっそりと聞いてみることにした。 「え? 何故エリカさんの作戦が分かったか、ですか?」 「ええ」 「そうですね……」  小梅は考え込むように顎に手を置く。そして、少しの間を置いて、こう答えた。 「なんというか……エリカさんの戦法は、よく知っている戦法なんですよね。あ、別に悪い意味で言っているわけじゃないですよ! とても伝統的というか、馴染み深いというか……そう、西住隊長に近い感じがするんですよ!」  西住隊長に近い。

5 17/05/28(日)01:25:57 No.429849627

 そう言われて、私は喜んでいいのか分からなかった。  憧れの人に近いと言ってもらえることは嬉しい。だが、それが分かりやすいと言われていることは、あまり良いこととは思えなかった。私の戦法がまほさんに近いというのなら、なぜそれでああも敗北の危機が訪れるのだろうか? 私に何か、足りないところでもあるのだろうか。  私は、自分自身の欠点が見いだせずにいた。それは、選手としては三流もいいところだ。私は自分で自分が恥ずかしくなる。  こうなれば、ゆっくりと自分の欠点を見つけるために向き合うしか無いと、模擬戦の映像を撮っている記録班に出向こうと思い、私は資料室へと足を向けた。

6 17/05/28(日)01:26:23 No.429849706

 その日の夜、私は戦譜と撮影した映像のコピーを突き合わせて見ながらじっくりと自分の欠点について考えた。  映像は、ヘリで撮影した上空からの俯瞰視点での戦車の動きが映し出されており、互いの全体的な動きが見て取れた。  私はそれを何度も巻き戻して見る。そして、戦譜と突き合わせ、ノートに色々とメモ書きをする。  このときの判断は正しかったのか、戦略的に見逃していることはないか、各員の練度はいかほどのものか、などを記入し、総合的な見地から自分の戦車道を見つめ直そうという試みだ。  そうしていくことで、自分の欠点というものがだんだんと見えてくるような感覚があった。 「ふむ……ここは少し取り乱しすぎたかしら……もうちょっと判断のスピードを早くして……」  そんなときだった。  何の前触れもなく、ピンポーンという、インターホンの音が部屋に鳴り響いたのだ。 「ん……? 誰かしら、こんな時間に」  私は時計を見る。  時間はもう夜の七時を回っていた。

7 17/05/28(日)01:26:43 No.429849806

 私は手元にあったノートを開いたまま机の上に置き、パソコンで再生している映像を一旦止めて玄関に向かった。 「はい、今出ます」  私は無造作に扉を開ける。すると、そこには一人の女性が立っていた。その女性の出で立ちは、なんというか、学園艦には不似合いだった。  灰色のスカートスーツを纏ったその姿はどこかの秘書か何かのようで、学生が主体で動かす学園艦らしくなかった。  髪は長く背中まで届いており、前髪が目にまで掛かっておりその瞳を疑うことが出来ない。 「あの……」 「こんばんは、逸見エリカさん。私は陸上自衛隊に所属している黒田といいます」 「陸上自衛隊!?」  なぜ自衛官がこんなところに!?  そんな私の驚愕が顔に出ていたのか、それとも私の質問を先に読んでいたのか、目の前の黒田という女性は微笑みながら口を開いた。 「落ち着いて下さい。逸見エリカさん。私は今日黒森峰のOGとしてあなたに会いに来たのです。詳しい話はこちらで」 「黒森峰の、OG……?」  そう言うと黒田は玄関の外、寮の手すり壁の下に見える黒塗りの車を指差した。

8 17/05/28(日)01:27:00 No.429849865

 私は混乱しながらも、その黒田という女性についていくことにした。  黒森峰のOGという彼女が、わざわざ私に会いに来たと言うのだ。何か重要な話があるのは火を見るより明らかだった。 「は、はい……」  私は彼女の後ろについていく。  そして、彼女に促されるまま、車の後部座席に座った。黒田もまた、車の後部座席、私の隣に座る。  車の運転席には深く帽子を被った運転手が座っていた。その運転手が車を出す。車は、学園艦の広大な敷地をゆっくりと移動していた。 「…………」 「…………」  沈黙が支配する。黒田は笑みを浮かべ私の隣に座っているだけだった。私はどうしていいか分からず、妙に座り心地のいいその後部座席で座っているのみだった。 「ときに」  と、私は外の明かりに目を移し出したときに、黒田は口を開いた。 「は、はい!」

9 17/05/28(日)01:27:28 No.429849962

「ときに、この度の練習試合では勝利を収めたようですね、おめでとうございます」 「あ、ありがとうございます……」  私は軽く頭を下げる。 「しかし」  しかし、そこで黒田は言った。 「随分と危ない試合運びだったようですね……黒森峰の隊長として、それはどうなのでしょう」 「え……?」  私は黒田の言葉の意味が分からなかった。いや、分からないふりをしていたというのが正しいかもしれない。これから黒田の言うことが予想できているからこそ、その言葉を信じたくなかったのかもしれない。 「そもそも、最近の練習試合は敗戦ばかり……。王者黒森峰も、随分と落ちぶれてしまいました」  彼女は一緒だ。  口調は丁寧だが、私の陰口を叩いていた隊員らと同じく、私を責めているのだ。  隊員からの陰口はまだ耐えられた。だが、彼女は黒森峰のOGだ。その彼女が、わざわざ私のところに来たということは、つまりそういうことなのだ。

10 17/05/28(日)01:27:43 No.429850011

 黒森峰の後援会たるOG会――黒森峰が戦車道をやっていくに際して、大きな助力をしてくれている彼女らが皆、私が隊長をしているということに不満を持っているということなのだ。 「あ……わたし、は……」 「黒森峰の戦車道は王者の戦車道。そこに敗北という文字は許されません。それが、昨年の大会からというもの、その地位は地に落ちてしまいました。それはとてもとても悲しいことです……」  喉が渇く。手が震える。視界がぼやける。私の足元にある土台がどんどんと崩れ去っていく音が聞こえる。  隠すことのない直接的な悪意。大人から向けられるその悪意に、私の体は耐えられなかった。 「すみません、私は物事をはっきりと言う人間でして。だからこそ私がメッセンジャーとして選ばれたのでしょう」  依然として黒田は笑みをたたえていた。  その言葉には謝罪の意思は感じられない。むしろ、当然のことを言っているかのような口ぶりだった。 「それは……私に隊長を辞めろ、ということなのでしょうか」 「いいえ、そこまでは言っていません」

11 17/05/28(日)01:27:58 No.429850061

 黒田はゆっくりと首を一回振るう。 「私達はあなたが努力していることも分かっています。あなたの戦い方は、実に伝統的な黒森峰の戦い方です。それこそ、少し前なら問題なく戦えたでしょう」  そこまで言うと「ですが」と黒田は言った。 「あなたの戦い方は、もはや過去の遺物なのです。今戦車道は新たな変化のときを迎えている。それに、逸見さんの戦い方はついていけないのです」 「そんな……!?」  私は言葉を失った。  私の戦い方が古い……!? 黒森峰の伝統的で、まほさんから受け継いだ戦い方が……!? 「私の戦い方は……まほさんの、黒森峰の……」 「ええ、承知しています」  私がかろうじて振り絞った勇気で反論しようとすると、黒田はそれを止めた。  そして、私に諭すように話し出す。 「しかし、西住まほはすでに新たな戦い方を模索しています。彼女の本家たる西住流もその変化に対応した教えをし始めている。各校も、どんどんと新しい戦い方を模索している。あなただけですよ? 取り残されているのは」

12 17/05/28(日)01:28:23 No.429850166

「そんな……」  私の戦車道は、もはや通じない。  つまりはそういうことを彼女は言っているのだった。  それは、私にとってあまりに衝撃的だった。 「私は……私の戦車道で勝利を……」 「ええ、それは戦車乗りなら誰でも憧れることでしょう。自らの力で、勝利を掴み取る。みんなが夢想することです。ですが、それを行えるものは一握りの天才だけなのですよ……西住みほのようにね」 「っ!?」  またか、またみほか!  彼女の影がまた私にちらつく。彼女は常に私の前に現れる。私がいくら彼女の前を走ろうとも、彼女と肩を並べようとも、まず追いつくことすらできず私の前にちらつく。  それが、西住みほ。  私の中で、黒田に責められている絶望の黒と共に、怒りの赤が混じり始めた。 「私は、選ばれていない人間だと言うんですか……!」 「はい」  黒田はあまりにもはっきりとそう言った。 「残念ながら逸見エリカさん。あなたは、『よく出来る凡人』なのです。天才ではないのです。あなたはそれを理解しないといけません」

13 17/05/28(日)01:28:46 No.429850246

「……っ!」  黒田は本当に歯に衣を着せぬ言いようだった。  そこまで言われてしまうと、もはや相手が目上の人間だろうと感情が高ぶってくる。 「では、私にどうしろと言うんですか! 私の戦いが今の戦いに合わないというのなら、辞めないでどうしろと言うのですか!」  私はもはやヤケになって言った。本当に辞めたいわけではない。だが、まるで辞めろと言わんばかりの黒田の言い方に、私は口を開かざるをえなかった。 「ええ、だから私が来たのです」  黒田はそう言うと、側に置いてあった鞄から、数冊の本を取り出した。それは、丁寧に装丁された黒革張りの本で、表紙と思われる場所の端に『黒森峰OG会著』と書かれていた。 「これは……?」 「これは、我々OG会が長年の研究によって生み出した、戦略、戦術論です。あなたにはこれを憶えてもらいます」 「これを?」 「ええ。これを頭に叩き込めば、あらゆる状況に対応できるようになるでしょう。それこそ、今変化しつつある戦車道にも」  これは、それほどの代物なのか。  私は恐る恐る本を手に取り、表紙を捲る。そこには、図付きで事細かに様々な戦い方が記載されていた。

14 17/05/28(日)01:30:12 No.429850513

「す、凄い……」 「でしょう。これを覚えれば、あとは機械的に状況に対応する戦術、戦略を選ぶだけでいいのです。いわばプログラムのようなものですね。これさえあれば、あなたは考える必要はありません」 「考える必要が、ない……?」 「はい。あなたはその本に従えばいい。考えを捨てて単純作業として戦車道を行えばいい。それこそが、この集合知の力。凡人が天才に勝つための手段。この集合知に、プログラムに従えば、少なくとも高校戦車道ではあなたは勝者となりえるでしょう」  黒田の言うことは、あまりにも信じられない言葉だった。  だって、彼女はこう言っているのだ。  お前は機械になれ。人間を辞めろ。黒森峰のための道具と化せ。  と。  それは決して冗談ではないと、黒田の前髪から覗き見える、口元とは反対に笑っていない冷たい瞳からも窺い知れた。 「そ、そんなこと……!」 「受け入れられませんか? それはそうでしょうね、拒否感があるでしょうね。でも、このまま黒森峰を敗北者とするわけにはいかないんです。少なくとも、あなたが勝利を収められない現状では」

15 17/05/28(日)01:31:15 No.429850707

「う……!」  私は言葉に詰まった。確かに私は勝てていない。黒森峰は転落の一途を辿っている。  だが、だからと言って。 「……だったら、勝てばいいんですね!」  私の口は、いつの間にかそんな言葉をこぼしていた。 「……ほう?」 「ならば、私は勝ちます! 次の練習試合で、勝ってみせます! そうすれば、この話はなかったことにしてもらえますね!」  私は黒田相手に啖呵を切った。まるでみほやライバル達に言うかのように、大きな声で言った。目上の人間に対する態度ではとてもなかった。  だが、黒田はそんな私を見て、ふふっと笑った。 「……分かりました」  その言葉は無駄なあがきと思ってのことなのか、それとも必死に抗う私に期待してのことなのか分からなかった。 「それで、どこなのですか? 次の練習試合の相手は。弱小校では証明になりませんよ?」 「それは大丈夫です。次の練習試合の相手は……」

16 17/05/28(日)01:31:33 No.429850758

 私は一旦呼吸をしてから、その高校の名前を言った。 「大洗女子学園、です……!」  続く

17 17/05/28(日)01:32:43 No.429850968

よかった

18 17/05/28(日)01:33:09 No.429851051

よかった

19 17/05/28(日)01:44:52 No.429852969

破滅へ向かい突き進む運命

20 17/05/28(日)01:45:58 No.429853162

念入りにへし折られるやつ過ぎる

21 17/05/28(日)01:49:04 No.429853655

まずこの人本当に黒森峰OGで現役自衛官なの?って所を疑ってしまったが流石に穿ち過ぎか…

22 17/05/28(日)01:50:34 No.429853897

きっと小梅ちゃんが護ってくれるし…大丈夫だし… 次は勝てるし…

23 17/05/28(日)01:59:54 No.429855321

きたのか!

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