虹裏img歴史資料館

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

17/05/27(土)01:22:26 【SS】... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

画像ファイル名:1495815746977.jpg 17/05/27(土)01:22:26 No.429613701

【SS】私の戦車道

1 17/05/27(土)01:22:42 No.429613762

「エリカ、黒森峰を頼むぞ」  それが、私の尊敬する隊長、西住まほが託してくれた、最後の言葉だった。  季節は秋。  殆どの高校で戦車道を行っている三年生が、受験の準備のために後輩に役職を引き継ぐ時期であり、それは機甲科という戦車道に重きをおいている科目がある黒森峰女学園でも同じことだった。  いくら戦車道に注力していたとしても、生徒達には生徒達のそれぞれの未来がある。  プロリーグが設立されるとはいえ、早めに進路への準備をしておくに越したことはなかった。  それゆえ、隊長も黒森峰の戦車隊からいなくなってしまう。  黒森峰の戦車道において多大な影響力を持った西住の娘ですら、いなくなってしまう。  その隊長が、私に黒森峰を頼むと言ってくれた。  私に、隊長職を譲ってくれた。  このことは、私にとって隊長がいなくなる悲しみを覆すほどに嬉しかった。 「はい……任せて下さい!」  私は涙を流しながらも、笑顔でそう隊長に言った。  隊長はそんな私を見ると、ふっと笑顔を浮かべて、私の肩を叩いた。

2 17/05/27(土)01:23:00 No.429613823

「ああ、期待しているぞ、エリカ」  期待している。  その言葉がどれだけ嬉しかったことか。  私はずっと隊長の背中を追って戦ってきた。  その隊長に、私は期待されている。  だからこそ、私は誓ったのだ。隊長の目の前で。 「 私が黒森峰に、再び優勝旗を取り戻してみせます! 大洗を……みほを倒して! 隊長から……いえ、まほさんから受け継いだ、私の戦車道で!」  そう、誓ったのだ。  そして私は、この誓いを果たせるものだと思っていた。  そう、このときは、まだ。

3 17/05/27(土)01:23:18 No.429613864

   ◇◆◇◆◇ 「全員、傾注!」  私の声で隊員達が一斉に身を引き締める。  この感触、悪くない。 「これよりプラウダとの練習試合を行う! この練習試合は、我が黒森峰が新体制になってからの初めての試合となる。総員、気を引き締めてかかれ!」 『はいっ!』  ぴったりと揃った声が私に帰ってくる。  先程も言ったように、今日はプラウダ高校との練習試合の日だ。  まだまほさんが隊長をやめてから一ヶ月も経っていない。急な試合だった。だがプラウダとは因縁浅からぬ仲、お互い新体制になってどれほど力が通用するか試したかった部分があり、すんなりと試合の日取りは決まった。  私は興奮していた。  今、私は初めて隊長として実戦の指揮を振るう。  私の指揮がどれほどにまで通用するのか、それを確かめるのがとても楽しみなのだ。  私は、いつの間にか自分の腕がわなわなと震えているのに気がついた。

4 17/05/27(土)01:23:34 No.429613937

 これが武者震いというやつか。  私はその手を隊員にバレないようにそっと押さえ込み、再び隊員達に視線を向ける。 「では総員、搭乗!」  私の一声で隊員達がそれぞれの戦車に乗っていく。  私もまた、自らの戦車へと入っていく。  戦車の中にはすでに乗り込んでいた他の乗員が今か今かと私の命令を待っていた。  私は全車に伝わるよう、マイク越しに、それでも大きな声でいった。 「これより所定の位置につく。全車、パンツァーフォー!」  私は思わず笑みを零した。  これから私の戦車道が始まる。  そう考えるだけで、私はどんどんと高揚していった。

5 17/05/27(土)01:24:02 No.429614028

 だが、いくら私の気分が天高く登ろうとも、非情な現実は私の目の前にそびえ立つ。  結果から言おう。私達は、負けた。  完膚なきまでに、敗北した。  完全にこちらの手の内を読まれていた。  私が展開した戦車の行く先々に、プラウダのソビエト製戦車が立ち塞がり、次々とこちらの戦車を撃破していった。  プラウダは今までのプラウダとは違った。  今までのプラウダは、私達黒森峰と近い、戦車の数と質で押す戦法を取っていた。  だが、今回のプラウダは、非情に柔軟に私達の動きに対応していた。  以前のプラウダに柔軟性がなかったわけではない。実際、前隊長のカチューシャは咄嗟の判断もこなせる難敵であった。  だが、今のプラウダにはそのカチューシャも、副官のノンナもいなくなったはずなのに、いや、いなくなったからこそなのか、動きが見違えるように変わっていた。  私は完全に判断を謝った。  相手をするのは、以前のプラウダだと思っていたのだ。  迂闊だった。

6 17/05/27(土)01:24:20 No.429614091

 隊長が変われば、戦術も変わるに決まっているじゃないか。  私は記念すべき隊の初試合を、黒星で染め上げてしまったのだ。 「クソっ……!」  私はプラウダとの礼を終え、戦車を格納庫に戻した後に、一人格納庫で戦車に自らの拳を叩きつけた。  鈍い音が格納庫に響き渡る。 「私が、もっとしっかりしていれば……!」  黒森峰は高校戦車道の王者。  決して敗北することなど許されない。  前回の大会では隊長の妹であり、かつての私の戦友、西住みほの手によって優勝旗を奪われたものの、来年の大会では必ず奪い返すつもりでいた。  今回の練習試合は、そのための地盤作り、王者のプライドを取り戻すための戦いのはずだった。  だが、私はそう考えるあまり、相手を侮っていたのかもしれない。  心の何処かに、奢りがあったのかもしれない。  それが、今回の敗北だ。

7 17/05/27(土)01:24:36 No.429614154

 実に情けない話であった。 「今度は、負けない……!」  今度は、決して油断などしたりはしない。  全身全霊を持って、相手と渡り合う。  そして、勝利して見せる。  それが、まほさんから黒森峰を託された、私の役目なのだから。 「絶対に勝ってみせる……私の、戦車道で!」  そう、まほさんから受け継いだ、私の戦車道で。  それを、全国に証明するのだ。  私の戦車道こそが、黒森峰の戦車道こそが、日本一であると。

8 17/05/27(土)01:25:04 No.429614238

   ◇◆◇◆◇ 「…………」  私は今、電灯が少ない薄汚れた資料室の中で、目の前に積まれた資料と向かい合っている。  その資料を目の前にして、私は思わず渋い顔をしてしまう。  資料の量は膨大だった。  だが、私の顔を歪ませているのはその量が問題なわけではない。  問題は、その内容だった。 「どうして……」  その資料はいわゆる戦譜というものだった。試合の事細かな内容が記された資料だ。  私の手元には、複数の戦譜が並べられている。それは、古いものと、新しいものとが混在していた。  私が主に目にしているのは、新しいほうの戦譜だ。 「どうして、勝てないのよっ!」

9 17/05/27(土)01:25:19 No.429614303

 私は机を力いっぱいに叩いた。  私が見ていたのは、つい最近の練習試合の結果が書かれた戦譜だった。  その結果は、どれも敗北。  相手は様々な高校だった。プラウダに敗北した後、私は様々な高校と次々に戦車道の練習試合を組んだ。黒森峰がかつての栄光を取り戻すには、実戦あるのみだと思ったからだ。  だが結果はというと、聖グロリアーナ、継続、サンダース……そのどの高校にも、黒森峰は負けていた。  勝利した相手など、戦車の質も数もないような、明らかな格下である高校相手ぐらいであった。  有名校相手には殆ど負けているのが、現状だった。 「どうしてよ……どうして……!」  分からなかった。  本当に分からなかった。  なぜ王者黒森峰が、ここまで無様な結果を残さなければならないのか。  私は何も間違った指揮はしていないはずだ。  まほさんからの教えを、西住流を、私なりに解釈し、まほさんが作り上げようとしていた「新たな黒森峰」を作ろうと私は努力してきた。

10 17/05/27(土)01:25:47 No.429614414

 戦車と数と質で押しながらも、足早に戦場を駆け巡り、戦車に乗った各員に状況ごとに独自に考えさせ戦う。  それが私とまほさんが新たに作り上げようとしている黒森峰の姿だ。  そしてそれは間違っていないはずだった。  だが、結果は連敗。  敗北という冷たい現実が、私の目の前に積み上がっていた。 「くそっ! くそっ! くそっ!」  私は机を何度も叩きつける。  私の何がいけないというのか。私は私なりに努力している。それでもまだ私の努力が足りないというのか?  ならば、もっと努力をするべきなのか。  正直、現在は隊員にもかなりきつい訓練をさせている自覚はある。  だがそれは、次代の黒森峰をより強固なものにするための基礎固めなのだ。みんな、それを分かってくれているはずだ。  だが、今こうして敗戦という結果が積み上がっている現実がある。それを改善するには、さらなる訓練しか……。 「……ふぅ」

11 17/05/27(土)01:26:02 No.429614477

 私はひとまず落ち着くために、軽く息を吐いた。  だめだ、興奮した頭でものを考えても何もいいことは思いつかない。  まずは冷静になろう。  そして、じっくりこの敗戦という結果と向き合わなければならない。  私はそう思い、部屋の隅にあるコピー機に戦譜を持っていくと、それをコピーした。  それなりの量があったため時間はかかったが、すべてをコピーし終えると、私は元の戦譜を本来置かれていた場所に戻し、机を綺麗にし直すと、コピーした戦譜を持って部屋を出た。 「あ、エリカさん……」  と、そこで私の名を呼ぶ声がした。  声の方向を見てみると、そこにいたのは私の長らくの戦友であり、現在副隊長を任せている、赤星小梅だった。 「あら小梅、どうしたの」 「エリカさんこそ……えっと、戦譜の確認ですか?」 「ええ、そんなところ」  私は笑って小梅に返す。  だが小梅は、心配そうな顔を私に見せてきた。 「その……大丈夫ですか、エリカさん?」

12 17/05/27(土)01:26:24 No.429614564

 そして、次に小梅は私にそんなことを聞いてきた。 「え? 大丈夫って、何がよ?」  私は質問に質問で返す。  小梅の質問の意味が分からなかったからだ。 「いえ、一人で背負い込みすぎてないかなって……私、副隊長なんですからいっぱい頼ってくれてもいいんですよ?」  ああ、何だと思えばそんなことか。  私は思わずふふっと笑いをこぼした。 「エリカさん?」 「ごめんなさい。随分深刻そうな顔で聞いてきたから、何かと思って……でも大丈夫よ。こんなの、無理のうちに入らないわ。だって、西住隊長はもっとたくさんの責務を一人でこなされてきたんですもの。その後継たる私が、これぐらいのことでへこたれるわけはないでしょ?」  私は小梅に力こぶを作って見せて笑いかける。  そんな私の姿に、小梅も一応の安心を見せたのか「分かりました……無理だけはしないでくださいよ?」と言って、私の横を通り過ぎていった。

13 17/05/27(土)01:26:42 No.429614637

「まったく、心配性ね」  私は誰もいなくなった廊下で一人呟いた。  まったくもって小梅は心配性だ。  私は一人でも大丈夫。  だって、まほさんだってずっと一人でやってきたんだから。  私が副隊長だったときには、作戦の確認以外のことは殆どまほさんがやっていた。自分が副隊長だということが疑わしくなるぐらいだった。  だから、私もそんなまほさんを見習って一人ですべてをこなさないといけない。  私がしっかりと黒森峰を受け継いだという証明をしなくてはならない。  それが、私が隊長になったときに誓った誓いの一つでもある。 「……よし!」  私は自分に気合を入れ直し、戦譜を確認しながら自室に戻ることにした。

14 17/05/27(土)01:27:07 No.429614725

 もう何回も見た戦譜。  それを見るたびに、敗北の苦味が口の中で広がっていく。 「……本当に、酷いものね」  しかし、私は先程よりも冷静にその戦譜を見ることができた。  小梅と話してリラックスできたのかもしれない。  後で小梅に感謝の言葉を言っておこう。 「それにしても、どの高校もらしくない戦い方をしているわね……やはり、新体制だとどこも色々と変わるものなのかしら」  戦譜から確認できる相手の戦術。  その部分を部屋に帰ったらよく吟味しなくてはと思いながら、私はゆっくりと歩みを進めるのであった。

15 17/05/27(土)01:27:24 No.429614784

   ◇◆◇◆◇ 「よし、今日の訓練はこれにて終了とする! 総員、解散!」  私は集まった隊員達の前で大きな声でそう告げる。  隊員達は、私の言葉に大きな声で「はい!」と応えると、それまでの緊張が抜け楽な姿勢になっていった。  連続した敗北から数週間。  私は結局、訓練をより困難なものとする道を選んだ。今日のこの訓練も、授業とは別の放課後の自主的な――と言っても、半ば強制の――訓練だ。  強固な体制は厳しい訓練から生まれる。私はそう信じている。  その過酷さからか、訓練を終えた隊員達の顔には大きな疲れが見えた。  一年生などはとてもぐったりしているようだった。  だが、これぐらいで音を上げてもらっては困る。私の理想とする黒森峰に至るには、もっと数多くの苦難を乗り越えてもらわねば困るからだ。

16 17/05/27(土)01:27:46 No.429614871

 私は互いに労う隊員達に背を向け、一人幹部用の作戦室に複数枚紙の挟まったクリップボードを持って入る。今日の訓練の内容をまとめた資料だ。隊長として、一日の訓練の内容を理解、把握しておかなければならない。 「ふむ……第一班の出来上がりは上々ね。第三班もまあまあ。第二班はもうちょっと頑張ってもらう必要があるかしら……。ああ、あと戦車の整備ももっと急がせないと。ちょっと過酷に使いすぎているとはいえ、ダメージが大きいのは問題よね」  私は資料を一枚一枚しっかりと確認していく。どれも大切な内容が書かれているため、見落としがあってはならない。 「んっ……!」  そうして私はすべての資料を見終えると、ぐっと体を伸ばした。  凝り固まった体を伸ばすとやはり気持ちがいい。  そして私は体を伸ばしながらふと時計を見る。すると、もう訓練の終了から一時間半が経っていた。 「あら、もうこんな時間……。そろそろ帰らないと」  時間を忘れるのは物事に集中している証拠だが、あまり学校に残りすぎてもあとから先生方に色々と言われてしまう。  私は荷物をまとめ、自分のロッカーへと向かった。

17 17/05/27(土)01:28:04 No.429614934

 そして、ロッカールームでタンクジャケットから学校の指定制服へと着替え、ロッカールームを出る。  そして、自分の寮へと戻ろうとしたときだった。 「そうだ……携帯、忘れちゃった」  私は作戦室に携帯電話を忘れたのを思い出した。  訓練のときは、普段携帯電話は鞄にしまっているのだが、今日はたまたま作戦室から他校との新たな練習試合との相談のために電話をかける必要があったため、作戦室に携帯電話を持ち込んでいたのだった。  もう日も落ちてきて暗くなってきたが、さすがに携帯電話を学校に置きっぱなしというのは気持ちが悪い。  私は携帯電話を持ち帰るために、作戦室へと向かった。  作戦室へと行くには、一旦格納庫を通る必要がある。そのために、私は一度帰った格納庫へと再び訪れた。 「ん……?」  そして格納庫へ入ろうとしたとき、私は頭を傾げた。  格納庫へと通ずる扉が、わずかにだが開いていたのだ。そして、うっすらと格納庫の中から光が漏れていた。

18 17/05/27(土)01:28:22 No.429614993

 確か、私が最後に出ていったときはしっかりと閉めたはずだし、電気も消したはずだ。  私は中を伺うようにそっと扉を開けた。  すると、そこには何人かの黒森峰の生徒がたむろしていた。しかも、よくよく見るとそれは隊の隊員であった。  隊員達は私に気づかずに何かを話している。  私は本来注意すべきだったのだが、何故か彼女らの話が気になり、戦車に身を隠しながらそっと彼女らの元へと近づいた。 「……でさー」 「へー」 「だよねー」  聞こえてくるのは普通の世間話。特に特別な内容ではない。  やはり注意すべきかと私は戦車の影から出ようとした。そのときだった。 「それにしてもさぁ、最近の隊長の訓練厳しすぎない?」 「っ!?」  それは私に関する話題だった。しかも、最近の訓練についてのだ。いわゆる陰口というやつを今、私は聞いているのだ。  私はその言葉を聞いた瞬間、体が固まり動き出すことができなくなった。

19 17/05/27(土)01:28:46 No.429615088

「あー分かる。なんか最近めっちゃ厳しくなったよね」 「多分練習試合で負けたことが響いてるんだと思うよぉ。逸見隊長、すっごい悔しそうだったもん」 「やっぱそれだよねぇ。でもさぁ、正直負けたのは隊長の指揮のせいだと思うんだよね」  ……え? 「うんそれ私もそう思う! 私達はベスト尽くしたよ! というか、みんなそれ思ってると思うよ? 悪いのは隊長なのに、こっちに責任擦り付けてるって」 「うわ、言うねぇあんた」 「いいじゃん別に。本人が聞いてるわけでもないし」 「はっ、それもそうかぁ! だって西住隊長のときはちゃんと勝ててたもん! それが急に勝てなくなるのって、やっぱ隊長に責任があるよねぇ」 「うんうんうんうん! もーマジありえない。うちら王者黒森峰だよ? それが今じゃ他校に普通に負ける有様……なんていうか、他の高校の進化に追いつけて無いっていうかさぁ」 「あっ、ソレ分かる! なんかいつまでも古臭いままって感じだよね!」 「ちょ、きっついねぇあんた! ははは!」  古臭い……? まほさんから受け継いだ、私の戦術が……!?

20 17/05/27(土)01:29:03 No.429615137

 私はその言葉を聞いた瞬間、思わずその場から飛び出して言った隊員を殴りに行きそうになった。  だって許せなかったのだ。  私のことはいい。だが、私の戦術が古臭いということはそれを教えてくれたまほさんを侮蔑してるのと同じだ。  そんなこと、絶対に許せなかった。  だが―― 「あーあ、西住隊長と西住副隊長なら……まほさんとみほさんならこんなことはなかったんだけどなぁ」  ……!?  その言葉で、私の動きは止まった。 「まほさんはまさに進化し続ける西住流って感じだし、みほさんは変幻自在の戦術を見せるって大洗で証明したし……なんていうか、格が違うよねぇ」 「まあね……だって逸見隊長、ぶっちゃけお下がりで副隊長になってそのまま繰り上がったみたいなものだし……」 「みほさんのほうがなんか正直うまくやれたんじゃないかなとは思うんだよね、なんとなくだけど」

21 17/05/27(土)01:29:25 No.429615197

「あっ、分かるーなんかそんなイメージある!」 「ま、言ってもどうにもならないことだけどねぇ」 「だねー。……そろそろ帰ろっか。私お腹空いちゃった」 「そうだね、帰ろっかー」 「帰ろ帰ろ」  彼女達はそこで唐突に話を切り上げ、帰路についていった。  私はというと、彼女達がいなくなったのに以前その場に立ち尽くしていた。 「私じゃなく、みほのほうが良いって言うの……? あの、裏切り者のほうが……!」  私は痛いほどに唇を噛んだ。  裏切り者。  私の口から出た言葉。  今でも本当にそう思っているわけじゃない。でも、昔は本当に思っていたことが、今、言葉として現れてしまった。  私はみほのことが嫌いだった。だって、彼女はすべての責任から逃げて、黒森峰から出ていったんだから。  家の事情があったのは分かる。あのときの判断を責める気もない。そもそも、本当に悪いのは水没した戦車に乗っていた私達だ。  でも、許せなかった。事情や経緯は関係なく、感情が彼女を拒絶した。

22 17/05/27(土)01:29:41 No.429615251

 大会を終えてそういった負の感情は消えたが、すべてのしこりがなくなったかと思えば嘘になる。今でも、敵として立ちはだかる彼女に思うところがある。  何より、私はみほに負けたくない。みほに勝ちたい。ずっとそう思ってやってきた。私が一方的にライバル視していると言えばそれまでなのだが、とにかくみほの背中を見たくはなかった。彼女と横並び、いや彼女に背中を見せるほどにはなりたいと常々思っている。  そう思っているのに、周りからの評価が今の会話だった。  私は、みほより下に見られている。  しかも、そう評価していたのは、顔と声から判断するに、我が隊のレギュラーの隊員だった。  つまり、主要なメンバーがそう思っているということは、他の隊員もそう思っていても何もおかしくないということだ。 「……くそっ!」  私は更に唇を噛む。  鋭い痛みが唇に走った。  どうやら出血してしまったらしい。  だが、心の痛みと比べれば、そんなもの痛くないのと変わらなかった。

23 17/05/27(土)01:30:10 No.429615350

「くそっ! くそっ! くそっ! 絶対に、絶対に見返してやる! 私の……戦車道で!」  そうだ。私の戦車道で、彼女らを見返してやるんだ。  私がまほさんから受け継ぎ、自分流に昇華させた私の戦車道で。  それは私自身の存在証明だ。逸見エリカここにありと、全国に喧伝するのだ。  それこそが私の夢であり、野望であった。 「……ふぅ」  決意を新たにすると、だんだんと落ち着きが戻ってきた。  そうだ。怒るようなことじゃない。ただ、私がもっと頑張ればいい話だ。そう、今はそれでいい。 「……ただ、訓練の内容はもっと見直したほうがいいかもしれないわね……」

24 17/05/27(土)01:30:28 No.429615412

 別に悪口を言われて日和ったわけではない。  ただ、現状レギュラーからすらも不満を持たれるような訓練内容ではいけないと思った、それだけだ。  それは、私自身の力量で黒森峰を勝利に導くということにも繋がる。私の実力の証明ともなるのだ。 「うん、明日からは少し訓練は緩くしましょう。その代わり、私の居残り時間をもっと増やすべきね」  私はそう言葉にして確認すると、携帯電話のことを思い出し、コツコツと足音を響かせながら作戦室へと向かったのであった。  心に残る一抹の不安をかき消すために。  続く

25 17/05/27(土)01:34:04 No.429616125

なんともエリカらしい…

26 17/05/27(土)01:38:48 No.429617026

このままズルズル堕ちるのか…光を見つけるのか…? クリフハンガーが心地良いぜ…

27 17/05/27(土)01:44:24 No.429618047

不穏だ…

28 17/05/27(土)01:51:53 No.429619724

きっと小梅ちゃんが護ってくれるし…

↑Top