17/05/23(火)23:32:08 まほチ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1495549928108.jpg 17/05/23(火)23:32:08 [su1875145.txt] No.429002758
まほチョビ怪文書
1 17/05/23(火)23:32:24 No.429002826
薄暗い、深夜のマンションの一室。細く、弱々しい声が響く。 「はやくかえってきて、あんざい」 「それじゃ、行ってくるからな」 「ああ、いってらっしゃい、安斎」 アンチョビこと安斎千代美はとんとんと、スニーカーの爪先を玄関に打ち付ける。片手には赤いスーツケース。西住まほは手を振りながらその大きな荷物を見つめた。 「車で送って行ってもいいのにな」 「駅まで? ありがとなー、でも近いから大丈夫だぞ」 「実家まで」 一瞬面食らったような表情をする千代美だったが、すぐに呆れたような笑いにかわる。なにを言っているんだか、この同居人は。 「またそれか! そこまでさせるわけにはいかないだろ! それに帰りは一人だぞ?」 「だから、どうせ練習はないんだ、私もそっちに泊まって一緒に帰ればいい」 笑いから今度はじっとりとした眼に変わり、千代美はまほを見つめる。このやりとりは、この数日で何度目かだ。何度目かの質問を繰り返す。 「それで、西住は三日間どうするつもりだ?」 「……やっぱり、安斎の部屋に泊まる?」
2 17/05/23(火)23:32:41 No.429002893
「バカ! またそれか! だめだだめだだめだ!」 「むう」 親族の結婚式があるとのことで、千代美は故郷の豊田に戻ることになっている。これから三日間、まほは一人だ。一緒に暮らしはじめてから、これだけの期間を一人きりで過ごすのは初めてだった。 「私がいなくてもちゃんとするんだぞ? ご飯もしっかり食べるんだぞ?」 「大丈夫だ。子どもじゃない」 「本当か〜?」 「本当だ」 千代美の声は揶揄いの色を帯びていたが、まほは素直に大きく頷く。千代美はそれを見てくすりと笑うと目を閉じた。 「ん!」 「うん?」 まほが首を傾げると、千代美は催促するように身体を揺らす。 「ほら、いってらっしゃいのチュー! チューだ!」 「ああ……ん……」 「ん……」 玄関先でキスを交わすと、千代美は何度も手を振りながら二人が暮らすマンションから旅立っていく。まほは千代美の姿がエレベーターに消えるまで見送って、はあ、と溜息をひとつついてドアを閉める。
3 17/05/23(火)23:33:00 No.429002977
「ちゃんとするんだぞ、か」 呟きながらリビングに戻る。テーブルの上には千代美が出る直前までつくってくれていた料理がラップされていた。丸文字のメモがその上に貼り付けてある。 「ちゃんと出来るさ」 料理を冷蔵庫にいれてから、『冷めてから冷蔵庫へ!』のメモに気がついて慌てて取り出す。 果たして本当にちゃんとできるのだろうか。まほは自分でも一瞬不安になった。 寂しくなったりしないだろうか。食事は。家事は。 首を大きく振って不安を吹き飛ばす。 いつも、甘えているわけにはいかないんだ。三日くらい、なんだ。黒森峰ではちゃんとやれてたじゃないか。寮だけど。……エリカが世話を焼いてくれていたけど。……ともかく、これから三日のことを考えよう。 今日は金曜日。まほがとっている講義は運良く休講。千代美は同じ授業を取る友人に代返を頼んだようだった。この週末は特にやることも予定もない。二人が所属する大学戦車道チームも試合を控えていないため、珍しく完全なオフとなっている。まほとしては、これだけ休みが重なるのならば本当は二人で旅行にでも行きたかったのだが、祝いごととなれば仕方ないと諦めた。
4 17/05/23(火)23:33:21 No.429003093
そういえば、みほはこの週末、エリカと秋山さんと旅行だとかいってたっけ。羨ましい。どこに行くんだったか。たしかどこかの温泉……。みほたちは最近なんだかよく旅行に行っている。私たちに触発されたのなら嬉しいんだけど。 そう思ってまほは口元を緩める。 『旅行、どこいくの』 携帯を取り出して、そんなメッセージを送ってみる。多分そのうち写真と一緒に返事が来るだろう。 みほたちが送ってくる写真やアルバムを見ながら、千代美と次の旅行を考えるのはまほにとって、とても安らぐ時間だった。ただ、ときどき三人の楽しそうな写真に妙なものが混ざっているのには閉口しているのだが。なんだかお化け屋敷のような荒れ放題の廃墟のなかに、みほが好きなクマのぬいぐるみが佇んでいる写真。腕が良いのかシチュエーションが良いのかまるで恐怖映画のポスターのような出来映えに、ホラーが得意ではないまほと千代美は怯えて目を逸らしてしまう。
5 17/05/23(火)23:33:40 No.429003175
みほはなにを考えてあれを送ってきているんだろう……。 意図が不明過ぎてなかなか聞けずにいるまほと千代美だった。恐ろし過ぎて、そんな写真撮っていないだなんてもし言われてしまったら、なんて怖いことも考えてしまう。 まあ、いい。変な想像はよそう。折角の予定のない休日だ。今日はゆっくりと過ごすことにしよう。写真の整理でもしてみようか。私たちの旅の。 まほは棚からアルバムを取り出した。 こちこちと時計の音が響く。 アルバムの整理は思いのほか難航した。最終的にやはり千代美がいるときでなければ、と思い直したのが、千代美の料理をチンして食べた夕食後。そのあとに戦車道の戦術検討をしはじめると、こちらは打って変わって熱中してしまった。ふと伸びをして時計を見ると、すでに日付が変わっている。 「……寝るか」 軽くストレッチをしてからベッドに入る。 こちこちと時計の音が響く。
6 17/05/23(火)23:33:58 No.429003290
……安斎はいまごろなにをしているだろう。 昼頃、実家に到着したというというメッセージがまほの携帯に入ってから、その後連絡はない。おそらく久々に会う家族と水入らずの時間を過ごしているのだと思うのだが、ほとんど連絡がない、というのはすこし寂しかった。 「あんざい……」 口に出すと、より寂しさが増すように思えた。もう一度、呼びかける。 「……千代美」 やはり返事はない。なんだかさきほどよりも時計の音が耳についた。 もう寝よう、そう考えて目を閉じる。 こちこち、と時計の音が響く。 なんだかいつも気にならないその音が、変に気になる。 ぼんやりと目を開けてしまう。薄暗闇の部屋の中、なんだかとりとめもないことを考えてしまってなかなか寝付くことができない。 千代美の部屋に行ってみようか。安心できるかもしれない。いや、なんだそれ変態みたいじゃないか? やめておこう。 眠れない夜は久しぶりだ。お母様にすぐ眠れるように訓練されたから……いやアレを思い出すのはやめよう。余計眠れなくなりそうだ。
7 17/05/23(火)23:34:20 No.429003396
こちこちと音がする。 思考が惑う。 お母様。お母様は最近優しくなられた。みほとももっと仲良くしたいようだ。そうあって欲しい。安斎がなにかお母様とみほにアドバイスをしていたな。 みほたちは今頃なにしているんだろうか? 送られてきた写真にはもうもうと湯気が出る露天風呂が写っていた。温泉の写真が撮れるだなんて、貸切なんだろうか。楽しそうだ。安斎とも温泉に行きたいな。 温泉といえばこの間、安斎が入浴剤を……。 ふふ。 まほは苦笑する。 だいたい私の想像には安斎が出てくるな。 早く帰ってこい、安斎。 眠りが浅かろうが短かろうが、目覚ましとともに起きてしまう。身についた習慣というのはすごいものだ、とまほは思う。 高校のときの早朝練習のおかげだろうか。あれに比べれば、この時間だって寝坊のうちだ。 ストレッチをして、日課のランニングに備えて軽い食事。千代美がつくってくれておいたオカズをチンして食べる。これで千代美が用意してくれた食事はおしまい。なんだか名残惜しくて、いつも以上によく噛んで食べる。
8 17/05/23(火)23:34:35 No.429003457
いつもランニングには、ねぼすけの千代美は付き合ってくれない。だから毎朝起きるか起きないかぼうっとしている千代美の頬にキスをしてから出かける。今日はできないけれど。走り終わって、ただいま、と玄関で声をかけてから、同居人がいないことに気づく。おかえりが帰ってこないのは、やっぱり変な感じだった。シャワーで汗を流しながら、まほは今日の予定を考える。 一人の時間は久しぶりだ。トレーニングをして……試合の検討をして……安斎がいないと、戦車しかないみたいだな、私。戦車以外のことをしてみようか。西住の人間はどうにも戦車戦車になってしまう。私もみほみたいに思考の枠を広げないといけない。戦術戦略の話だけ、ではなくて。戦車の外に。 それもある意味戦車道だ。 そうだ。みほ。 エリカと、秋山さんと、旅行を楽しんでいるだろうか? あの二人はみほに甘い。あまり迷惑をかけていないといいけれど。 そうか。旅行。旅行か。
9 17/05/23(火)23:34:50 No.429003535
いつも安斎と旅行しているけれど、安斎がいないからといって、旅行して悪いわけじゃない。ひとり旅、というのも、もしかしたらいいものかもしれない。やってみよう。いつもと違うことをやってみよう。これも戦車道だ。きっと。 さて、どこに行こうか。 愛車のダッシュボードから地図を取り出して、眺めながら運転席に沈み込む。 なんの準備もしていないし、明日の夕方には安斎が帰ってくる。日帰りが良い。とすると、関東近郊か。みほたちはどこに行っているんだったか? 携帯を取り出してメッセージの履歴を読む。 那須の温泉か。栃木県。みほと同じところではなくても、栃木はアリだ。十分行って帰ってこれる。 自分の携帯を眺めながら、まほはふと、妹の携帯に変なものがついていたことを思い出す。ストラップに、餃子のマスコットキャラクター。みほの溺愛するクマではなかったのが不思議で、妙に印象に残っている。 餃子。栃木。宇都宮。餃子はいいかもしれない。元気が出る。 「餃子、食べに行こう」 そう呟いてキーを回した。 都内から車で三時間。栃木県は宇都宮市、餃子の街にその一風変わった店はあった。
10 17/05/23(火)23:35:09 No.429003619
メニューは焼餃子と水餃子のみ。 アルコールはおろか白米すら置いていない。異様なほどストイックなその店には、以前に千代美と二人で訪れたことがあった。 大通りから一本入ったところ。まほが記憶を頼りにひょいと角を覗き込むと、昼前だというのに1ブロック先まで行列ができている。 列の最後尾について、一人、並ぶことしばし。携帯が震えた気がして取り出すと、千代美から写真が送られてきていた。 『花嫁さん綺麗だった! あと料理すごい!』 テーブルの上に並べられた豪勢な料理。 きっと料理のレシピを想像しながら食べているんだろうな。 口元を綻ばせて、まほも店の写真を送る。 『まえきたとこ』 『え? 宇都宮?』 『そう』 『ずるい! そこ超おいしかったじゃないか!』 『あんざいだってずるい。おいしそう』
11 17/05/23(火)23:35:27 No.429003732
そうこうしているうちに順番が来た。暖簾をくぐると、香ばしい匂いが鼻を刺激した。カウンターだけの小さな店の中、空いた席が丁寧に拭かれて、どうぞの声。店内をぐるりと見まわして、壁に貼られたメニューを見つける。逡巡するうちに、目の間に水が置かれる。 うん。迷ってどうする。選択肢はないじゃないか。西住流に乱れ無し、だ。 めまぐるしく働く店員に注文をすると、しばらくして料理が運ばれてくる。 水餃子と焼き餃子が一人前ずつ。 メニューにはこれしかない。というか、これを食べに来たんだ。これしかなくて、いい。さて、どちらから行こうか。本場では水餃子の方がメジャーなんだぞ、と安斎が言っていたな。水餃子からにしよう。たしか、ここはスープにタレをいれるんだった。
12 17/05/23(火)23:35:46 No.429003836
水餃子に醤油、酢と、ほんのちょっぴりだけラー油を入れる。レンゲを掴んで 先にスープを一口。ううん、タレが薄すぎたかも。でも餃子から滲み出た旨味を感じる。追加で醤油をスープにいれてみる。もうひとくち、スープをすする。うん、これでいい。そのままの勢いで餃子を齧る。スープと肉汁が渾然一体となって染み出してくる。野菜が甘く感じる。うん。こっちのほうがいい。 ひとつ食べ終わると、思わずほおと吐息がこぼれた。 さて次は焼き餃子だ。 まほは箸へと得物を持ちかえる。 こっちのタレは待っている間にもう配合は完璧だ。タレと酢とラー油がまほなりの黄金比で待ち構えている。 水餃子に浮気してからでもいまだ熱々のそれをつまむと、箸を通して皮の内側のタネの質感が伝わってくる。ちょん、とタレにつける。焦げ目にタレが伝わっていくのを視界に捉えながら、口に運ぶ。
13 17/05/23(火)23:36:03 No.429003921
餃子が口に広がった。 水餃子とはまた違った、パンチの効いた肉汁のエキスが、タレをアクセントにしてまほを攻める。 うん、次だ。次の餃子だ。 まずは焼き餃子を食べきってしまおう。 ああ、だめだお米が欲しい。餃子と水餃子だけだなんて、ストイックすぎるぞ、この店は。何考えてるんだ。でもうまい。持ち帰って家で白米と……いやだめだ三時間も我慢できない。きっと帰る間に食べたくなってしまうだろう。 焼き餃子をあっという間に平らげて、一呼吸いれながら水餃子を啜る。しかしそれがまほの腹に消えるのにも、それほど時間はかからなかった。 名残惜しい。もう終わってしまうのか。うまい。うまかった。このうまさを誰かと分け合いたい。 ほぼ無意識に左右をちらと見る。 安斎が、いない。 そうだ。いないんだ。 私、一人なんだ。 最後の水餃子を口に放り込む。 沁みる。美味しい。 でも、美味しいって言い合える人がいない。 ご馳走様でした、の声も一人分。会計を済ませ店を出る。
14 17/05/23(火)23:36:32 No.429004060
たしか安斎と来たときは、米が食いたい! と二人で話をしてもう一軒はしごしたんだった。そうして、そのあとは鬼怒川の温泉に行ったんだったか。キスのとき、餃子臭い! って二人で笑い合ったりして。……温泉。それもありかと思っていたけれど、そんな気分ではなくなってしまった。 「帰ろうか」 誰にともなくそう呟く。 帰ったところで、家には誰もいないのだけれども。 一人であることに耐えきれなさそうで、千代美に『おいしかった』とだけ、携帯でメッセージを送ってみた。
15 17/05/23(火)23:36:49 No.429004141
ながいのでつづきはテキストー su1875145.txt
16 17/05/23(火)23:45:23 No.429006997
まさかの飯テロ
17 17/05/23(火)23:45:40 No.429007061
きたのか!
18 17/05/23(火)23:47:15 No.429007508
お姉ちゃん可愛い、可愛いけど… >見様見真似でフランベに挑戦して壁を焦がしたり、パスタがのびて餅みたいになったあのときの私とは違う。 この一文のせいでもうモジャモジャ頭の鈴虫にしか思えなくなっちゃったじゃないか! でもこのお姉ちゃん可愛い…
19 17/05/23(火)23:51:17 No.429008787
>いってらっしゃいのチュー! チューだ! まほチョビ爆発しろ
20 17/05/23(火)23:51:20 No.429008808
>この一文のせいでもうモジャモジャ頭の鈴虫にしか思えなくなっちゃったじゃないか! おいあんざい ぱいくわないか
21 17/05/23(火)23:56:48 No.429010312
>>この一文のせいでもうモジャモジャ頭の鈴虫にしか思えなくなっちゃったじゃないか! >おいあんざい >ぱいくわないか ピストル鮨住へようこそ
22 17/05/23(火)23:59:46 No.429011015
いい…
23 17/05/24(水)00:00:16 No.429011119
お姉ちゃんも頑張ってるのが伝わってきてよかったです
24 17/05/24(水)00:00:40 No.429011221
チョビのまほ呼びいい…
25 17/05/24(水)00:01:45 No.429011489
>なんだかお化け屋敷のような荒れ放題の廃墟のなかに、みほが好きなクマのぬいぐるみが佇んでいる写真。 みぽりんなにしてるの…?
26 17/05/24(水)00:02:26 No.429011665
以前の話読んでたらここをキャンプ地とするが出て来てダメだった
27 17/05/24(水)00:08:58 No.429013189
>だってきっと、すぐ脱ぐんだと思ったから。 むっ
28 17/05/24(水)00:15:51 [sage] No.429014908
>ここをキャンプ地とする まほチョビに移動番組やらせたい…
29 17/05/24(水)00:20:04 No.429015916
>だってきっと、すぐ脱ぐんだと思ったから。 ここ素晴らしすぎると思うの
30 17/05/24(水)00:28:26 No.429017791
いい...
31 17/05/24(水)00:29:13 No.429017976
いいね
32 17/05/24(水)00:30:20 No.429018228
んんんん甘い… いい…