17/05/07(日)01:19:50 SS ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1494087590697.jpg 17/05/07(日)01:19:50 No.425496696
SS れまみほ
1 17/05/07(日)01:20:22 No.425496807
西住みほ、高校二年の春。 いつも仲良しあんこうチームの五人は、しかしここのところ一緒にいられない機会が続いていた。 それというのも新生徒会に武部沙織、秋山優花里、そして五十鈴華の三人が任命され、毎夜仕事に追われていたためである。 それでも戦車道の練習には欠かさず顔を出していたし、放課後も出来る限り一緒に帰れるようにと心を砕いた。 しかし特にここのところは年度の変わり目ということもあり、前生徒会からの引き継ぎ等々で三人は連日深夜まで居残りの日々。 いきおい、みほは麻子と二人きりで帰る機会が多くなっていた。 こんな毎日を続けていくうちに、交流の減ったあんこうチームは徐々に空中分解。 みほも前ほど戦車道に打ち込めなくなり、大洗戦車道は弱体化の一途をたどる。 新入生も思うように集まらず、結局全国大会を待たずして戦車道は廃止になるとか──。 そんな事は、まるでない。 出会いからの時間こそ短くとも、全国を股にかけ大学選抜にも立ち向かったあんこうチームである。 戦車に乗らずとも乙女の心は通じ合っており、彼女らは暇さえあれば互いの家を行き来し、食事をともにするような相変わらずな関係を続けていた。
2 17/05/07(日)01:20:37 No.425496858
……とはいえ、みほの心に寂しさがないと言えば嘘になる。 ずっと変わらないと思っていたものが、実は少しずつ変わり始めているという寂寥感──とでも言えばいいのだろうか。 頻繁に連絡をくれ、会いたいと言ってくれる沙織のメールは嬉しい反面、気を使わせてしまっているようで少し心苦しかった。 幸いなことといえば、麻子と二人で帰る放課後の時間がみほにとって楽しいものだったことだろう。 五人の時ほどではないものの、二人きりの時の麻子は積極的にみほに話しかけてきてくれる。 ダウナーだが寡黙ではなく、どんな時も自然体な麻子との会話はみほの心に新鮮な刺激を与え、癒してくれていた。
3 17/05/07(日)01:21:07 No.425496996
きたのか!
4 17/05/07(日)01:22:01 No.425497183
◆ そして夕暮れ時、その日も二人の帰り道のことである。 みほは麻子が話す風紀委員面白話を聞き、くすくすと笑みをこぼしながら通学路を歩いていた。 「だから私は言ったんだ。『そど子、脚立を使え』とな」 「ふふ。麻子さん、それ本当?」 二人以上の集団になると麻子は専ら聞き役(というか居眠り役)に回るため、いつもはあまり聞く機会がない。 しかしこうして二人きりになると、麻子はみほへ意外なほどよく喋りかけてきてくれた。 話題はいろいろ。学校、生活、戦車、勉強、そど子……。 おかげで昔から人づきあいが苦手なところのあるみほでも、積極的に言葉を返したり、時には自分から話題を提供したりすることもできていた。
5 17/05/07(日)01:22:23 No.425497250
「……ああ、そう言えば麻子さん。今度から朝練のメニューを少し変えようと思うんだ」 「ほう」 ふと視線を合わせ、みほが麻子に提案する。 「今週は操縦面を強化していこうと思うの。えっと、難易度の高い操縦技術を学ぶんじゃなくて、基本的な操縦をより早く行う事を目標にして……」 「つまり、機動力の向上か」 「……そう! そういうこと。戦車によって一部変えていくつもりだけど、まず走行からの停止射撃と急発進、それとスラローム走行はやりたいなって」 「わかった、私が見よう。自動車部にも手伝わせるが、それでいいな」 「うん!」 打てば響くような麻子の言葉にみほは笑みを浮かべて答える。 自分の中でもぼんやりとした段階にあった朝練の計画が、麻子の言葉とともにはっきりとした輪郭を持って現れる。 操縦に関して確実に任せることのできる人物がいるというのは、みほの隊長としてのプレッシャーを大きく削るのに役立っていた。
6 17/05/07(日)01:22:41 No.425497305
「……しかし朝練か。もう長いこと戦車道に付き合ってはいるが、今だに苦手だ」 麻子はそう言うと、冗談めかして溜息をひとつ。 ここに沙織でもいれば、「低血圧は改善したって言ったじゃん!?」とでもツッコミを入れてくれるのだろうが── ツッコミ慣れしていないみほは、曖昧に苦笑しつつ呟くように言った。 「麻子さん、もう長い間朝練しているのに…」 「何度やろうとも眠いものは眠いのだ。人間は朝六時に起きられるように出来てはいない」 冷静そのものの表情であまりに子供っぽい事を言う麻子に可愛げを感じつつも、あくまで朝練を嫌がる麻子の言葉にみほは僅かな罪悪感を覚える。 なにせ、元々書道を取る予定だった麻子に戦車道を始めさせたのは他ならぬあんこうチームの四人であるのだから。 天才的な操縦技術を持つ冷泉麻子をあの時引き入れたのは間違いではないと思っているし、 以前もそして今も、麻子の操縦は大洗というチーム全体にとってなくてはならないものだ、と言っていい。
7 17/05/07(日)01:22:57 No.425497361
しかし、それでも──みほ自身が戦車道を始めた経緯もあり。 『やるつもりのなかった人に戦車道をさせた』という負い目は、みほの中にずっと隠れていた。 「……ねえ、麻子さん」 ふと、明日の天気を語るようにみほは麻子へ尋ねる。 思えば全国大会の時から、いや、最初に冷泉麻子をⅣ号戦車に乗せたあの練習試合から、ずっと心のどこかで気になっていた事を。 「戦車道は、楽しい?」 ストレートすぎる言葉に麻子は足を止めて小首をひねり、みほは自分の言ったことがあまりに率直過ぎた事に気づいて慌てて顔を背ける。 ……ただ、実際のところ気になっていたのは事実である。 優花里や華、沙織は言うまでもなく戦車を心から楽しんでくれているのが伝わる。しかし麻子だけは、もう長い付き合いになるものの未だにはっきりと「戦車が楽しい」とは聞いたことがなかった。
8 17/05/07(日)01:23:17 No.425497412
当然、全国まで同じ戦車に乗って勝ち上がったチームメイトである。 口に出さずとも分かる事はある。しかし、それでも。 「……戦車道が、楽しいか、か」 麻子はみほの言葉を噛んで含めるように繰り返し、少し目をつむって考え込むように唸った。 即答を期待したわけではないが──みほの心に不安の雲が掛かる。 「あ……い、いいのいいの。なんとなく聞いてみただけだから」 「いや……私は昔から、努力しないでもたいていの事をうまくやれる性質でな。 だからかは知らないが……何かをしていて、『楽しい』と感じた事はあまりない」 「えっ……?」 取りつくろうようなみほの言葉に、淡々として言葉を返す麻子。 言葉に含まれた感情がは寂しさなのか、悲しさなのか。あるいは何も含まれていないのか。
9 17/05/07(日)01:23:37 No.425497475
何も分からず、みほはただ驚いたように息を吐いた。 「戦車の操縦も、説明を読めば簡単だったしな」 「……そうだったね。麻子さん、Ⅳ号の動かし方すぐ覚えちゃって」 「もちろん、練習のあとの風呂やみんなで夕飯を食べるのは楽しい。 だが戦車道を楽しいかと聞かれれば……考えた事もなかった、としか答えられん」 「……そっか」 麻子さんらしいねと思いつつ、やはりみほの胸には一抹の寂しさと申し訳なさが現れる。 きっと、麻子は麻子なりに戦車道を楽しんでくれているのだと思う。そもそも出席のためとはいえ、猫のような彼女が楽しくもない事をずっと続けていられるはずもない。 だけど──やっぱり、楽しいと言ってもらえないのは、少し寂しい。 どこかわがままな気持ちをはらみつつそんな事を考えていると、そんなみほの顔をじっと見つめていた麻子が言葉を付け足すように呟いた。 「……楽しいかは分からないが、戦車道は好きだぞ」
10 17/05/07(日)01:23:59 No.425497546
「え?」 「楽だからな」 きっぱりと言い切る麻子。みほは少しだけ驚いたような顔をして、苦笑した。 「もう、楽って……」 「私のやることは、西住さんの指示を聞いて操縦棹を動かすだけだ。すごく楽じゃないか」 「確かにそうだけど」 そう言われてしまえば身も蓋もない。だったら装填手の仕事は弾を込めるだけだし、砲手の仕事は狙って撃つだけ、である。 「……でも、そんなに楽かなあ」
11 17/05/07(日)01:24:21 No.425497624
もちろん、みほは戦車道を楽な競技だなんて感じた事は一度もない。 かといってそれは違うと否定もできず、小首を傾げて控え目に疑問を投げかける。すると麻子はむしろ自信満々に頷き胸を張った。 「私はがんばるもの、がんばらなければならないもの全般が好きじゃないが、戦車道は別だ。 西住さんはいつも勝ちまでの道を示してくれる。 あとは私が戦車を動かせば、五十鈴さんと秋山さんが相手を倒してくれる。沙織もまあ……通信してくれる。それに、他のみんなもいる。 私が頑張れば、みんなが勝ちを目の前に転がしてくれるんだ。こんなに楽なこと、他にあるものか」 そう言って自慢げに体を反らす麻子。 みほは彼女の言葉を頭の中で反芻し……やがて、疑問の顔は微笑みに変わる。 麻子の言葉の裏にあるもの。何故彼女が、戦車道を楽な競技と感じているか。 それはみほにとって、ある意味「戦車道は楽しい」とストレートに答えてもらうより、よほど嬉しい答えだった。 「……麻子さん」
12 17/05/07(日)01:24:49 No.425497714
だから、彼女は言葉を紡ぐ。 麻子の目を見て笑みを浮かべ、今までの感謝とこれからへの祈りを語るように。 「それを楽だって感じられるのは、麻子さんが私たちのことを信じてくれているからだよ」 出会ったのはほんの一年前だというのに、みほはまるで十年来の友人と語らうように自然に語る。 麻子はみほの言葉に少しきょとんとした顔をすると、やがて気難しそうに唇をきゅっと結ぶ。短く「そうか」と呟くと、前を向いた。 「……それは、気づかなかったな」 どこか照れくさいのか、仄かに赤くなった頬を隠すように麻子は帰路へ再び歩き出す。 みほは何も言わずにその後ろを追いかけて歩き、自分よりずっと小さな麻子の背中を見つめていた。
13 17/05/07(日)01:25:43 No.425497903
チーム間の信頼関係は、戦車道においてもっとも重要とされることの一つである。 なにしろ3人から6人が集まってようやく一つ動かせる戦車である。互いの強い結びつきがなければ、いざという時に活躍できるはずもない。 であるがゆえに、戦車乗りは出来るだけ同車両のチームで行動し互いを理解していく……というのは、西住の家でみほが教わったことでもあった。 それを「自分の役割をこなしていれば勝てるのだから、楽」と言い切れるような者がいるとすれば、それは二種類に分けられる。 チームワークの大切さを理解していない愚か者か、あるいはチームメイトを心底信頼している者──。 みほは、ふっと息を吐く。 彼女はここまでついてきてくれた大切なチームメイトに疑うような事を言った自分を恥じ、そして……。 「ねえ麻子さん。もうちょっとだけ、お話してもいい?」 冷泉麻子というチームメイトについて、もっと知りたいと思うようになっていった。
14 17/05/07(日)01:25:58 No.425497954
◆ かくして生徒会の三人が仕事に忙殺されている間に、みほはどんどん麻子との仲を深めていく。 急激に接近する二人の距離に、優花里、華、沙織は別の意味で危機感を覚えるようになるのだが──それはまた、別の話。
15 17/05/07(日)01:26:43 No.425498093
テキスト! 最終章楽しみだね! su1852556.txt
16 17/05/07(日)01:27:02 No.425498147
れまみほだとぉ!?
17 17/05/07(日)01:28:51 No.425498458
いいね・・・
18 17/05/07(日)01:31:45 No.425498995
いい…
19 17/05/07(日)01:32:13 No.425499082
れま子が楽しいって言ってくれたらなんかこう…ほんわりするね 言えるようになってほしいね
20 17/05/07(日)01:32:24 No.425499125
いい…
21 17/05/07(日)01:33:35 No.425499337
めっっちゃよかった… れまみほ推しの人いてなんで…?って思ってたけど 俺れまみほのよさわかった!
22 17/05/07(日)01:35:09 No.425499649
あ…ああー!いけませんよこれは 気が付くと呼び方が西住さんからみほさんになってるやつですよこれ さおりんみたいに呼び捨てにはできないけどなんかめっちゃ距離感が近くなっちゃってるやつですよこれ
23 17/05/07(日)01:35:50 [sage] No.425499788
マニュアル読んで戦車をすぐ動かせる事よりも あの複雑な操縦指示を「ぉぅょ」の一言で意図通りにやり遂げるところが、れま子の真のすごさであって それはひとえに信頼があって初めて成り立っているのだな
24 17/05/07(日)01:36:37 No.425499950
>「だから私は言ったんだ。『そど子、脚立を使え』とな」 >「ふふ。麻子さん、それ本当?」 あと、この話の全容 すっげー気になる
25 17/05/07(日)01:38:21 No.425500277
生徒会の仕事を手伝うように誘い始める3人
26 17/05/07(日)01:41:13 No.425500806
>あと、この話の全容 >すっげー気になる 多分朝礼の点呼の時に演説台が行方不明か壊れちゃってたかして 地べたに立って点呼取ってたんだけどそんなに背が高い方でもないからどうにもきちんと一人一人確認できてるのか怪しくて ごもぱぞ辺りに肩車してもらいながら点呼してたけど明らかに下の人が辛そうになってきた所で助け舟だしたとかじゃないかな…
27 17/05/07(日)01:45:25 No.425501531
れまみほは作中でも天才同士のツーカー感があったけどやっぱりいい…
28 17/05/07(日)01:46:45 No.425501776
作中で一番最初にみぽりんに名前呼ばれたのれま子だからね・・・
29 17/05/07(日)01:47:26 No.425501917
>多分朝礼の点呼の時に演説台が行方不明か壊れちゃってたかして >地べたに立って点呼取ってたんだけどそんなに背が高い方でもないからどうにもきちんと一人一人確認できてるのか怪しくて >ごもぱぞ辺りに肩車してもらいながら点呼してたけど明らかに下の人が辛そうになってきた所で助け舟だしたとかじゃないかな… 想像力豊かだな「」ど子…