17/04/26(水)01:01:26 SS「口... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1493136086646.jpg 17/04/26(水)01:01:26 [1/12] No.423219051
SS「口さびしい時には」 「ナオミさんは、にんにく料理がお好きですか?」 ノンナが唐突におかしなことをいいだした。 「え、まあ、別に嫌いじゃないけど、特別好きってわけでもないわね」 質問自体はさして妙なものではない。例えば食事の場で、私がスタミナ料理ばかりを山盛り注文して、烈火の如く鱈腹頬張っていたのなら出てきて当然だろう。 しかし、今は食事の時間ではないし、話題だって先週見た映画についてひとしきりしゃべり終えたところだ。 「そうですか」 だから、そんなあての外れたような顔をされても困る。
1 17/04/26(水)01:01:48 [sage 2/12] No.423219109
プラウダ高校のノンナといえば、ブリザードのふたつ名をいただくほどだから、ぶっきらぼうさは私とどっこい……といいたいが、実際のところ割合表情自体は豊かだ。 所属する戦車道チームが称揚されれば喜ぶし、隊長のカチューシャから叱責されれば子犬のような哀しげな顔をする。その同い年の隊長さんのうっかり話なんてするときは、とても楽しそうに顔を輝かして、侮辱されたと判断するや眉を吊り上げて憤りを露わにする。 まあ、感情の現れるのが、眉とまなじり程度で派手さの薄いってことと、主にその対象が戦車道チームの、更に絞られてカチューシャさんにかかわるものばかりということは否定しきれないけど…… 「では、納豆が大好きだとか」 なにが「では」なのか見当もつかない。 「食べないわけじゃないけど、自分からチョイスすることは少ないかな」 「ブルーチーズは」 「お酒のあてを嗜めるほど、まだ出来上がってないつもりだけど」 「くさやなんて……」 「いやいや、なんでそんなにおいのきつい食べ物ばかり聞いてくるわけ?」 けど、そのときみたいな、判断を決めかねる、逡巡の表情は初めて目にした気がする。
2 17/04/26(水)01:02:07 [sage 3/12] No.423219153
試合の内と外を混同するのは嫌だけれど、砲手を務める子の多くはさっぱりした性格の持ち主が多いように思える。 一瞬の判断ミスが試合の結果を大きく左右するのだから、決めたからには行動までに間をおかないし、そもそも決断を下すのにも迷いがない。そういう性格の子が砲手に抜擢されるのか、砲手になったからそういう性格になっていくのかはわからないが、少なくとも私とノンナは初めて会ったときから、どこか似たものを感じてウマが合った。 今年の戦車道全国高校生大会が終わって――つまり私たちの戦車道チームとしての高校生活がほぼ終わって――しばらくしてから行われた、プラウダ高校との親善試合以来、私とノンナは互いに連絡を取って、たまにこうして学外でいっしょにだらだら過ごす機会を持っている。 私から誘うこともあればその逆もあって、その都度都度で異なるけれども、寄港地の喫茶店の一室を借りるというのが定番になっていた。 ふたりともあんまりおしゃべりな性質でもないけれども、かわりに沈黙にも慣れているから、会話なく同室していても気詰まりも感じない。
3 17/04/26(水)01:02:23 [sage 4/12] No.423219195
必要なことを必要なだけ話して終わり。結果的にそれが他愛ない内容のこともあるけれど、それを口にすることが必要だったと思えるから、時間を無駄にしたという意識はない。 だからふたり共に過ごして、特になにがあったといえなかったとしても、なんとなく満足してその日を終えることができる。ノンナも同じようなものだろうと、漠然とではあるがそう思っていた。 けれども、そのときのノンナの態度は異質だった。どこか上の空で、心ここにあらずというのが明白に見てとれた。 はじめのうちは、そういう日もあるのだろうとさして気にしていなかったのだが、次第に違和が募り、そして先ほどの質問だった。 わけがわからなかった。 私の嗜好をたずねたかったわけではないだろうことは容易に見てとれた。しかし、どうしてそんな持ってまわった手段をとっているのかがわからない。 聞きたかったら核心部分を突いてくればいい。およそ婉曲的に物事を進めるなんて、ノンナの柄とも合致しなかった。 そうした収まりのつかないもやもやが気持ちわるく、とうとう私はそのものズバリをたずねてしまった。 「どうかしたの? おかしいわよ、今日のノンナ」
4 17/04/26(水)01:02:38 [sage 5/12] No.423219239
その直後のノンナの所作こそ見ものだった。 顔を輝かせたかと思ったのも束の間ただちに首を横に振り両の手を慌ただしげにいろいろ細かく動かした挙げ句ひとつため息をついて制服の胸元をまさぐりだした。 多分だけど、こういうことじゃないだろうか。私が水を向けたことに喜んだものの思い直して自分なりに説明をしようと試みたがうまい言葉が見当たらずとうとう観念してなんらかの決定的な代物を提示しようとしている。 そして、案の定、ノンナが制服の内ポケットから、なにやら一枚のプリントを差し出してきた。 「なによ、これ……ハア!?」 ノンナの細くて長い指でつままれたプリントの冒頭には「全学園艦対象タバコの似合う生徒ランキング:戦車道部門」なる真面目だか不真面目だか判断しかねる文字が躍っていた。そしてすらりと細い指の指し示していたズラリと列挙された名前の堂々トップを飾っていたのは、紛れもなく私だった。
5 17/04/26(水)01:02:57 [sage 6/12] No.423219279
「あくまでイメージですから、気にする必要もないと思ったのです。けれども、ひとつ心に引っ掛かりを覚えてしまいますと、如何とも仕様がありません。ナオミさん、あなたはどうしていつもガムを噛んでいるのですか」 眉間に憂いをこめて、ノンナが思い詰めた様子でたずねてきた。 「どうしてもなにも、落ち着くからだけど」 「逆にいえば噛まないと落ち着かないのですね。やはりそうしてにおいを消すために」 「いやいや、待って待って、そんなエチケット用に噛んでるわけじゃないから。意識を集中させるためだから」 「逆にいえば、なにかくわえていないと集中ができない。口寂しいのをごまかす必要があるという……」 「逆にいうのやめて……」 私は手のひらを開いて見せて、ノンナを制した。 「つまり、アレね。私がガムを噛んでいるのは、タバコのにおい消しじゃないか。こう思ったってわけね」 「ありていに申し上げますと」 普段の私ならジョークのひとつでも飛ばすなり、一喝でもするなりして終わりだったろう。けれども、このときは少々違った。あやふやなまま事を収めるのにひどい抵抗を覚えたのだ。
6 17/04/26(水)01:03:14 [sage 7/12] No.423219323
「違うわよ。そもそも私がガムを使っているのは試合中だけ。あなたと会ってるとき、口を動かしたりしてた?」 たしかにサンダース大付属は、アメリカナイズされたおおらかな校風が売りではあるが、それは非礼や無秩序とイコールではない。 「いえ。ですが、ということは、ここ一番というときに、禁断症状が出て心の平静が乱れてしまわないように……」 「あのねえ、タバコの代用にガムを噛むっていうのは、その時点でもうイライラが出ているからでしょう。そんな状態でまともな射撃なんてできるわけがないじゃない」 「そんな機微にまでお詳しいだなんて、やはり……」 「ああ、もう!」 どういっても真意の伝わらぬもどかしさに、私は木製の椅子を後ろに倒して立ち上がっていた。 訝しげに目を向けてくるノンナのもとに大股で歩み寄り、おもむろに手を伸ばして、 「ナオミさん?」 その言葉に耳を貸さず、親指と人さし指で顎をくいと上げさせると、そのまま唇と唇を重ねた。
7 17/04/26(水)01:03:30 [sage 8/12] No.423219354
瞬間、ノンナの目が大きく開かれたが、それも束の間で、いつもの眼差しに戻ると黙って私のされるにまかせていた。 少しは抵抗があると思っていたものだから、それで離れるきっかけを失い、しばらく私は想像以上に熱く、やわらかなノンナの唇を堪能してしまった。 「どう、これで。タバコのにおいが少しでもした?」 危うく初期の目的を忘れてしまいそうになったところで、ほとんど無理矢理体ごとノンナを引き剥がした。 「いえ。やっぱり思った通り、ナオミさんはそのような方ではありませんでした」 少し頬を上気させて見えたのは気のせいだったろうか。 いや、それより、やっぱり? 思った通り? 「……ノンナ、あなた、はめてくれたわね」 「すいません、つい懸命に弁解されるナオミさんをうかがっておりますと、止めどころを見失いまして」 まだ私の唾液の名残りをきらめかせ、艶やかな唇で薄く微笑み、ノンナは小首を傾げさせた。
8 17/04/26(水)01:03:47 [sage 9/12] No.423219391
「まったく、なにが『全学園艦対象タバコの似合う生徒ランキング』よ。ご丁寧にこんなものまで作っちゃって」 「いえ、それは、アッサムさんよりおあずかりいたしました、正真正銘の本物ですよ」 「なにやってんの、GI6は! 暇なの!?」 照れ隠しも相まって、ついついもうひとりの懇意にしている他校砲手に悪態をついてしまう。だが、いわれてみれば、単に名前ばかりでなく、所属や各校での在籍番号など細かな分類は、聖グロリアーナ女学院のリボンの宰相を彷彿とさせるものがある。 「というか、よく見たら私の次、ノンナ、あなたじゃないの!」 さきほどは視線の誘導と、驚き呆れたあまりにしっかりと眺めている暇がなかったが、ランキングで私の次に堂々と順位を占めていたのはノンナそのひとだった。 「ばれてしまいましたか」 さらりと涼しい顔でいってくる。悪びれる様子がまったくないあたり、流石というかなんというか。 しかし、このままでは、私の腹の虫がおさまらない。 「いいの? こんなのがバレたらカチューシャさんびっくりしちゃわない?」 せめて一矢報いるつもりで、せいぜい悪い顔をしてやったつもりだった。
9 17/04/26(水)01:04:03 [sage 10/12] No.423219433
「え?」 ところが、結果は想像以上で、ノンナの顔色は一転かき曇るや、身も世も無いほどに絶望しだした。 「そ、そんなことがあるでしょうか……。私はカチューシャを信頼していますし、カチューシャだって私のことを理解してくれています。このような根も葉もないゴシップの塊は一笑に付してくれるでしょう。けれども、彼女はスネグーラチカの如き純粋ではかない心を持っています。もしかしたら、その未踏の白い雪のような崇高な自意識を一点廃油のようなシミが汚してしまったら、たちまちドス黒い汚穢は四方に伝播してしまうのではないでしょうか。それどころか、これまで組み上げられてきた、淡雪の結晶の複合体ともいえる精神の伽藍が、一粒の汚れに端を発して土台からどろどろと溶けだして、とうとう崩壊の憂き目を見るなどということになってしまったら……。ああ、駄目です! そのようなこと、とても堪えられません!」 いつもの鷹揚な口調をかなぐり捨てて、早口でまくし立ててくる。私に詰め寄り、振り乱した髪の奥にの狼狽の極みの表情は、初めて目にするものだった。 ここまでてき面に効果が現れるとは思いだにもせず、慌ててノンナの肩をとった。
10 17/04/26(水)01:04:19 [sage 11/12] No.423219476
それが失敗だった。 とにかく一旦落ち着かせようと、こちらに向かせた。その途端、ノンナの顔が近づいてきたのも、混乱からくる咄嗟の行動だと一瞬だが考えてしまった。そのコンマ数秒にも満たない判断の錯誤は、取り返しのつかない遅れを生んだ。次の瞬間、私の両頬は冷やりとしたノンナの両手に包まれていて、底の知れぬラピスラズリの瞳が視界いっぱいに広がるのをただ見ていることしかできなかった。 そして私は唇をノンナに奪われていた。 ノンナは、私の唇をすべて口に含んでしまった。執拗に舌で上下の唇をノックし、そんなことをせずとも開いたままなのに、歯茎を突き舐り、わざわざこじ開けて侵入してきた。口蓋を舌が触れるたびにドキンドキンと胸が高鳴り苦しいほどだった。 両手が頬に添えられていて視線を外すこともできず、かといってノンナの眼に射すくめられていると瞼さえ閉じられない。 それから彼女の気のすむまで、お互いの荒い鼻息と、舌が絡められ唾液が混ざり合ってたつ水音を耳に、食い入るように瞳の奥を見つめ合いながら、私は口中を貪られた。
11 17/04/26(水)01:04:36 [sage 12/12] No.423219510
「ぅぁ……」 その声をたてたのがどちらだったのか、もう覚えていない。ようやく口腔を味わい尽くしたノンナの舌が、唾液の橋を渡して引き抜かれた後も、私は首を反らせて舌を出しつつ喘いでいることしかできなかった。 「これで私がタバコに手を出していないことを証言していただけますよね」 私の息の整うのを待った後で、おもむろにノンナはそう口を開いた。その顔はいつもの、感情の細波すら認められない凪ぎきったものだった。 「わ、私は、もっと軽めだった、わよ……」 懸命に眼差しを鋭角にしようと努めるものの、悔しいがまだ息が上がりっぱなしなのは自分でもわかった。 「では、もう一度確かめさせていただけますか?」 ノンナの薄い唇を、臙脂の唇が舌舐めずりをしていく。 いたずらっぽく目を細め口もとをほころばせる、ノンナの蠱惑的な笑みもまた、私の初めて目にするものだった。
12 17/04/26(水)01:13:19 No.423220810
ノンナオとは!
13 17/04/26(水)01:27:08 No.423222623
めっちゃキテル…
14 17/04/26(水)01:34:46 [sage] No.423223722
というわけで今年初のスレ立てとなりました 今年もよろしくお願いいたします こんな感じなようでこんな感じじゃないちょっとこんな感じのノンナナオミアッサムの三砲手話にて ふたば学園祭の虹裏ガルパン合同『Amasanプライム』 の末席を汚しております こちらも是非とも!
15 17/04/26(水)02:09:01 No.423228477
益々虹裏合同が楽しみになったよ