17/04/24(月)19:50:28 聖グロ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1493031028835.jpg 17/04/24(月)19:50:28 No.422956225
聖グロOG過去話 終章『帰還』 su1835182.txt1~9章 アンジー関のエッセイあり
1 17/04/24(月)19:52:07 No.422956634
終章 帰還 期待に応えるのは難しいことだ。 世界は必ずしも自分の希望通りにはならない。ちょっとした手違いで永劫の苦しみを味わうことになる。 第五十二回戦車道全国高校生大会の優勝校、マジノ女学院は、敗戦の重さに打ち震えていた。 今度は黒森峰相手に無様な惨敗を喫したのだ。 煙幕で接近した黒森峰重戦車に、深く掘った塹壕ごとマジノはことごとく踏み潰されて終わった。 “ちびっこ”は怒っていた。この屈辱的な敗北と、マジノ戦車隊から失われてしまった覇気に。 英雄でない者が、“英雄”のふりをするからこんなことになる。“英雄”と同じことをして、勝てるわけがないのだから。 「では、これからのマジノをどうするか、だが――」 偽物が、喋った。 反省会として車長たちが集まった会議室で、まがい物はいまだ隊長の役割を降りなかった。しかも周囲はそれを咎めない。 「理論としては正しい」 メンバーの一人が言った。
2 17/04/24(月)19:52:43 No.422956786
「そもそも、煙幕などで目を眩ませた黒森峰が卑怯だっただけだ。次の負けはない! マジノの壁を抜ける者はいない」 そうだ、そうだという散発な賛成の声。 苦々しい。“ちびっこ”は顔を背ける。 馬鹿め。正しければ、負けるものか。 黒森峰は、もう以前の黒森峰ではない。猪突猛進で真正面から当たれば恐ろしいが、裏をかかれると脆い猛獣軍団。それが今はより機能的に、機械的に襲い掛かるようになった。選手各々の個性よりも、勝利の歯車になるよう動く鉄の意志。 黒森峰の裏に、誰かが居る。黒森峰に必勝の策を与える何者かが。 “ちびっこ”は発言を許されない。マジノの戦略を根底から批判するからだ。そばかす顔の細い、小学生のような体形の、見栄えのしない娘というのもあったのかもしれない。 しかし今日こそは、自分の意見を通すこととしよう。意識を変えなければならない。“英雄”はもう帰ってこないのだから。
3 17/04/24(月)19:53:06 No.422956857
美しく、才気溢れる勇者。カーボンどころか戦車そのものの重量を削って軽くして、機動力を高め無傷のまま勝利を続けたマジノの“英雄”。 「ほかに、意見は」 無能が口を開いた。“ちびっこ”が名乗り出ようとした。そのときだった。 「やあ諸君!」 会議室の扉が開いて、快活な声が響いた。 誰もなにも言えなかった。 「どうした? 幽霊でも見たような顔をして。私だよ。私が帰って来たんだ!」 “ちびっこ”は立ち上がっていた。誰より早く駆け寄ると、その身体に抱き着いていた。 「エロ(英雄)・マジノ!」 とめどなく涙が溢れる。 「 “英雄”! あなたをお待ちしておりました!」 「泣くなよ“ちびっこ”。 私が来たからには、もう安心だ」 優しい手のひらが頭を撫でてくれる。ああ、帰ってきた。 「あ、あの、英雄……」
4 17/04/24(月)19:53:28 No.422956940
敗北者がおずおずと語り掛けると、“ちびっこ”を抱いたまま、美しい勇者は首を微かに傾けて言った。 「君は誰?」 半年前に、自分そっくりになれるようなメイクを教えてくれた人の言葉とは思えなかった。 ――美しい君こそマジノにふさわしい。次の英雄。もう一人の私。 そう口付けをくれた人の言葉とは到底。 「あの……わ、私、負けちゃって……」 謝罪の言葉を口にしようとした。 “英雄”は無視をした。 「みんな! 今回はしてやられたな」 「あの……」 「しかしもう大丈夫だ。私が帰ってきた!」 肩が軽く触れた。“英雄”のコピーが、よろよろと尻もちをついた。 「君たちに必勝の策を伝えよう。皆! 私についてきてくれるか!」 「う、うわあああああああっ!」 会議室に絶叫が響いた。
5 17/04/24(月)19:53:46 No.422957021
涙で、厚く塗ったメイクがどろどろに溶ける女が泣いていた。青ざめてそれを見ている車長の一人に、“英雄”はウィンクする。 「すまないが君、こちらのお嬢さんを外に連れ出してあげてくれないか? 部外者に聞かせる話じゃ、ないからね」 「あなたが! あなたの言う通りわたしは!」 “英雄”は無視して口を閉じた。 再び口を開いたのは、暴れる元隊長が皆の前から姿を消してからだった。“英雄”は優しく言う。 「 “ちびっこ”。 敗北の理由を述べてみなさい」 「あ、あなたのように、人は出来ないから……」 そう。万能の防御なんてないし、あなたほど華麗に戦場を舞えない。 次の戦術が必要だ。“ちびっこ”は思う。要塞戦術と組み合わせて使うための、マジノの新しい機動戦の形が。 “英雄”は力強く頷いて言った。 「そう。君たちは私と同じことなんて出来ない。それは勘違いだ。 命を張った囮戦術など不可能」 “英雄”は笑顔で言った。 「だからもっと、陣地は重厚にしないと駄目だ」
6 17/04/24(月)19:54:07 No.422957103
「え?」 「囮は止めだ。前回の黒森峰戦、あれじゃあダメだ。君たちは美しい射線のラインが出来ていなかった。それさえ出来れば、マジノは今までの何倍も強くなる!」 どういうことだ。 “ちびっこ”は混乱する。 皆は、熱狂した。 「 “英雄(エロ)”マジノ!」 歓声が上がった。 事態が呑み込めず、“ちびっこ”は周囲を見た。 何を言っているんだ。今回それで負けたじゃないか。隙を突かれ、不意を突かれ、砲弾の代わりに履帯で、腐った卵を踏み潰すように粉砕されたじゃないか、我がマジノは。正しかったら、負けるはずがない――。 「先輩! あなたは……」 目を見開く“ちびっこ”の言葉を、賞賛と受け取ったのか“英雄”はウィンクする。 「シッ、余計なことを言うな、私の“ちびっこ”」 彼女の声は甘い。 「皆、私の真似が出来るわけじゃないんだ。凡人には理解に時間が掛かるだけ。大丈夫。マジノはもっと強くなれる。より完璧な壁があれば」 “ちびっこ”は愕然とする。それじゃあ、今まで以上に、ただの固定砲塔のままいろと言うのか。
7 17/04/24(月)19:54:30 No.422957186
「判るだろう? “ちびっこ”」 囮もなく、ただ相手がふらふら無防備にやってくることだけを望んで待ち続けろと言うのか。 「皆、卵の中の雲雀なんだ」 意味がわからなかった。 何を言っているんだ、この人は。 ただ、“ちびっこ”はどうすればいいのか、ちゃんとわかっていた。 しっかりと言わなければならなかった。間違いは正されねばならなかった。 “ちびっこ”は言った。 「あなたに改めて言わなければならないことがあります」 「なんだい?」 少しの間静寂があった。“ちびっこ”は目を閉じて一瞬苦悶の表情になり、そして笑顔で告げた。 「おかえりなさい“英雄”。 私たちマジノは、常にあなたと共にあります」 “英雄”は言った。 「ただいま」
8 17/04/24(月)19:54:34 No.422957196
よしてくれないか 言葉を洪水のようにわっと浴びせるのは
9 17/04/24(月)19:54:50 No.422957258
会議室の感情が爆発した。 そうだ。“英雄”が居ればいいのだ。彼女は常に正しく、強く、そして美しい。 間違っていたのは、私の方なんだ。 過去の英雄が帰ってきた。 その威光にもう、誰も勝つことは出来ない。 * 「ありがとうございました」 の声を背中に受けつつ、聖グロリアーナ女学院“香辛料の世代(スパイシーズ)”のシナモン元帥は店を出た。その後にぞろぞろと付き従う人たち。 お寿司だった。 二時間近く、ニコニコ顔の職人さんからの握りたてを、一同はお腹いっぱい堪能した。 銀座のお寿司屋はすごいな、と知波単学園の戦車隊隊長、西絹代は思う。
10 17/04/24(月)19:55:11 No.422957355
まるで超能力でも持っているかのようだ。黙っていても、欲しいものがそっと出てくる。我々も戦車道をする上で、ああした心遣いが出来るようになりたい。 満ち足りた幸福感を味わっていると、先頭を歩く怜悧な顔が振り向いた。 確かこの御方は、シナモン殿。 「ご堪能いただけたかしら」 西は満面の笑顔でそれを受けた。 「ごちそうになりました!」 シナモンは、遠慮するなというように満足そうに首を横に振った。 学校は違えども、こういう溌溂とした笑顔はシナモン達も見ていて気持ちがいい。 ああ、高校生らしい。 実に高校生らしい笑顔だ。 それは西だけではなく、知波単学園の生徒たちに共通している。純朴で素直な子たちなのだ。 「玉子が美味しかったであります!」 眼鏡の少女が声を挙げると、髪を螺旋に巻いた少女が「秋刀魚をあれだけ様々にお出し出来るとは……感服しました」と言い、「穴子はふっくらしてましたね。今でもあの味が思い出されます」と追随する。 「流石は聖グロリアーナ女学院のOGの方々。素晴らしい名店への招待、ありがとうございました」
11 17/04/24(月)19:55:46 No.422957486
シナモンは何でも無いように答えた。 「いいえ。わたくしたち相手に奮闘した、あなたたちへのエールですわ。パーシング、しかもこの“香辛料の世代(スパイシーズ)”を相手に寡兵を柔軟に扱い圧倒せしめた戦術。それに対しての当然の報酬よ」 「しかし、このような名店に招待いただけるとは……」 そっと西の手を取り、その甲にキスをする。さっと顔が赤らんだ。素直な子だ。これは純白の紙と同じたぐいの。白く描かれれば聖人にも、黒く描かれれば悪魔にでもなるような。 シナモンは優しく言った。 「これくらいのお店、聖グロリアーナ女学院の元生徒なら押さえていて当然のお店よ。あなたも後輩たちにお寿司を奢れるくらいに精進努力なさい」 「は! そのお言葉胸に刻みました!」 ザ、と踵を合わせて敬礼する。 大学生とは、こんなに大人なのだな、と改めて西は思った。それとも聖グロリアーナは皆こうした人ばかりなのだろうか。ダージリンさんはどうだったろうか。
12 17/04/24(月)19:56:09 No.422957597
褐色の肌の御方、クローヴ殿という短髪巻き毛の元帥が爽やかに言った。 「西さん。実際の戦闘に参加した方々だけで申し訳なかったわね」 「いえ、よい土産話が出来ました」 いつか、知波単の皆でこうしたお店に訪れたい。同輩だけでなく、これから入ってくる後輩たちとも。 そのキラキラした想いは自然と西や他の隊員からも立ち上ってくる。その明るさにシナモンは改めて優しい笑顔を向けた。 「では、ごきげんよう」 踵を返す“香辛料の世代(スパイシーズ)”の諸氏。その背中を見ながら西は嘆息した。 「すばらしい御仁だ。戦いのなかにあって戦士であり、戦車を降りて淑女。 我々も見習わなくてはならんな……」 「全くであります!」 眼鏡の少女、福田が敬礼した。 皆、いつもの制服姿だ。せっかく聖グロリアーナの名だたる先輩が、先日の大学選抜戦での西たちの健闘を称え、お寿司を奢ってくれるというのだから、正装として制服で行くのがよいだろうという結論に達したからだ。 「御召し物がよかったですな! 大人びたスーツに、聖グロリアーナの緋色を使っておられました」
13 17/04/24(月)19:56:39 No.422957727
「眉一つ動かさず、さっとカードで一括払いを宣言されたのは、さすがにあか抜けておられましたね」 細見玉田を始め隊員がわいわいする中で、西が「気を付け!」と号令を飛ばした。ざわめきが止み、ぴたりと気を付けの姿勢をとる一同。 「先ほどの感激、我々の身分に余りある歓待であった。しかるに、一番の功労者がここにはいない。 我々にゲリラ戦法の妙技を伝えてくれた偉大なるアヒル殿にはいずれ直接、我々からの感謝をお伝えしたく思う」 大洗攻防戦の折、吶喊一筋で周りが見えていなかった知波単を導いてくれたのが大洗女子学園のアヒルさんチームの面々である。勝利のための布石を打つことを忘れない姿勢は、深く皆の心を打ったのだ。 実は彼女たちも誘ったのだけれど、上手く都合がつかなかったのだ。 西は言う。 「聖グロリアーナの先輩の方々は我々の戦いを称えて下さった。しかしそれはようやく我々が戦いの土俵に上がったことを示すものでしかない! 我々はその想いを胸に、停泊している学園艦まで走って帰ることを提案する!」 おおっと声が上がった。元気いっぱいだった。 「よし、福田!」 「はい!」
14 17/04/24(月)19:57:34 No.422957981
小さな手に取り出したのは、ピカピカのラッパだ。知波単の大先輩から譲り受けたラッパ。これを携えて、知波単は聖グロリアーナを猛追し、勝利をもぎ取ったという伝説もある。誇らしげに口に当てた福田は、夜の銀座の空高らかに。 トテトテタータタパッパラパッパッパーパ。 トテトテタータタパッパラパッパッパー。 進軍ラッパを吹いた。 「行けや進軍 高地を踏んで♪」 ぴったり揃って、縦列に駆け始める知波単の生徒たち。何事かと思って振り返る街の人々をしり目に、知波単魂はまっすぐ学園艦に向かって駆けて行くのだった。 「友は倒れる捨ててもおけず。 ここはいずくぞまだ敵の陣♪」 以下 txt su1835186.txt
15 17/04/24(月)20:01:15 No.422959015
印刷用の校閲校正済んだ原稿載せているので、ルビは()になっております su1835179.txt これが全文掲載分 https://www.youtube.com/watch?v=O4irXQhgMqg これがラストシーンにかけてほしい曲
16 17/04/24(月)20:09:32 No.422961230
一人語り 13万五千文字、原稿用紙換算約439枚分 構想は去年の学園祭終わった後、それから書き上げるまで約一年 というか終章だけで原稿用紙80枚換算とか配分おかしい でも全力はつくしました おそらく学園祭で本で出ます
17 17/04/24(月)20:10:33 No.422961436
なそ にん
18 17/04/24(月)20:18:23 No.422963296
去年頒布した聖グロ査問編もちょっと手を入れて学園祭に持っていきます イラストとかちょっと入ってる 誤字も直っているはず 今回は2スペース取っていて、ケイダジの人のケイダジシリーズ上下巻も置いてます 二巻セット売り ちょう素敵
19 17/04/24(月)20:25:54 No.422964863
十年前の聖グロリアーナを妄想する手助けになると幸いです 待っていてくれた人ありがとう また次のSSでお会いしましょう!
20 17/04/24(月)20:33:40 No.422966557
ちょっと待って!読むのに時間かかる!
21 17/04/24(月)20:34:50 No.422966813
だからウヴァ様はその髪型だったのね
22 17/04/24(月)20:35:54 No.422967045
ケイダジシリーズ上下巻でも全部入りじゃないんでしょう… 全部入りするとさらに2冊ほど増えるって聞いたが