虹裏img歴史資料館

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

17/04/23(日)13:39:09 キング... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

画像ファイル名:1492922349014.jpg 17/04/23(日)13:39:09 No.422692523

キング・ジョン 『獅子心王』 まとめsu1833634.txt

1 17/04/23(日)13:40:00 No.422692690

 紅いマントがひらめいた。  堂々たる体躯に力強い足音が入場する。 「いいねえ。ずいぶん煮えているね」  ライオンハートが高らかに声を響かせる。  腰にぶら下げた細身の剣が一本。豊かな胸元と腰回りがなければ、男性と見間違えたかも知れない。スタイルが良い。まるでモデルだ。ただ、モデルには向かない傷があった。  文字通り、額から口元まで切り裂かれた大きな傷跡。  キャンベルが口を開いた。 「今更何をしに来たの? “獅子心王”あなたたちは出席を拒んだでしょう」 「気が変わったのです。キャンベル殿。  しかし “聖グロリアーナの妖精”は相変わらず美しい」 「冗談は止めて! 一年で六キロ肥ったわ」  キャンベルは首を横に振った。 「あのパワフルな双子を育てるには、私だっていつまでも、かわいいエルフちゃんをやっているわけにはいかないの!  邪魔立てするつもりならお帰りライオンハート!」

2 17/04/23(日)13:40:30 No.422692759

 制止の言葉も聞き流して被告席の前を横切ると“獅子心王”はぐるりと舞台を見渡した。これから自分が務める舞台が、役不足のものでないか確かめているようだ。二三度頷くと、大仰な挨拶をしてみせる。 「これはこれは“絢爛”の伯母様。  健在で何よりです――。……ム。  こら、ダージリン! お前もさっさと来い!」  開ききった扉に向かって呼びかけると、ゆっくりとダージリンが顔を覗かせる。それから覚悟を決めたように入室した。  ダージリンは、黒いマントを羽織り、腰には剣をぶら下げている。ウヴァが悲鳴のような声を揚げた。 「 “提督”そのお顔の傷は!」  長い金髪を惜しげもなく垂らしたその女性の頬には、大きな傷がついていた。  全く、なんてことを。  けれど詩音はそれほどショックを受けなかった。おそらく、彼女がその道を選ぶのをどこかで判っていたからだ。頬の傷はその結果だ。

3 17/04/23(日)13:40:53 No.422692812

 気まずいのだろう、おどおどした声でダージリンは言った。 「ああ、うん。ウヴァ、久しぶり。この前は、贈り名への薔薇の花、ありがとう。あとローズヒップも、祝い状届いてた。お礼を書かなくて、悪かったね」  歯切れ悪い言葉に、去年の聖グロリアーナの英雄の姿は欠片もない。だから詩音は助け船を出した。 「白兵戦道、でしょう」 「え?」 「ダージリン様。白兵戦道なさっているのでしょう? 決闘道とでもお呼びしましょうか?」 「白兵戦道!?」  ウヴァとローズヒップの二人が声を上げる。一対一の戦いをむねとする白兵戦道。基本剣で戦う競技で、そのランクに応じて、室内から屋外までいろいろな場所で戦う。更に罠を仕掛けたり、手裏剣のような飛び道具を用意したりも出来る。

4 17/04/23(日)13:41:23 No.422692914

 それにしても二人はちゃんとお祝いメッセージなんか送っていたのか――。  詩音は反省する。不肖の跡継ぎで申し訳ない。 「白兵戦道……」  ローズヒップがうわずった声を揚げる。 「な、なんでそんなことが判るの、アッサム……」  「見ればわかるでしょう。ローズヒップ」  マントに帯刀は、白兵戦道の装いだ。個人戦は“決闘道”とも言う。性別ごとの区別は一応あるが、男女入り乱れて戦うこともある。相手に傷を負わせるか、それとも意識を失うまで戦いは続けられる。  マントは盾になり武器になり、暗器を隠す覆いとなり、剣は折れるまで戦い続ける。その激しい戦いぶりにファンも多いが、凄惨な試合になることもあってテレビ中継は不可能なスポーツ。安全に配慮はあるものの、人死にが出ても当然の競技だから。

5 17/04/23(日)13:41:42 No.422692988

アッサム“提督”に直接伺っていたの?」  ウヴァに、詩音は首を横に振った。 「いいえ。  お会いするのは卒業して初めてです」  後ろで話す後輩の声が聞こえたのか“獅子心王”は振り返って笑いかけた。 「そう! “提督”ダージリンは、白兵戦道を始めたんだ。こいつは中々筋がいい」 「戦車道はどうなさったんです!」  ウヴァが叫んだ。返答は“獅子心王”の興味なさそうな声だった。 「とっくに辞めたよ。なあ?」 「は、はぁ……」  バツの悪そうな顔で立つ“提督”ダージリン。そこにはもう、在学中に満ちていた輝きのようなものは消え失せた、傷ついた女性の姿があった。その肩を突然抱いて、“獅子心王”はにやっと凄味のある笑みを浮かべる。 「このように、今は私の愛人として次の人生を送っているところだ」

6 17/04/23(日)13:42:09 No.422693082

 それからすかさずその頬に唇を押し当てた。“提督”に嫌がる気配はない。ただ、面倒くさそうな顔をしている。  やれやれ。詩音は少し笑ってしまった。  ただウヴァ、ローズヒップの両名は別だ。目を大きく見開いて、泣きそうになっている。  無抵抗に受け入れている姿を見せつけるように顎をひかれて更に深いキスを送られても、“提督”は受け入れた。いや、ちょっとそれはやりすぎです。さすがにそこまでされては詩音も心乱される。  唖然として見つめる三人の後輩に“獅子心王”はつまらなそうに鼻を鳴らす。 「バカめ。そんな顔をするくらいなら、卒業する前に告っておけばよかったのだ」 「……あ、その、そんな……」

7 17/04/23(日)13:42:44 No.422693183

 口をパクパクさせている二人を横目に見て、さっきまでの糾弾者、オレンジペコが馴れ馴れしく詩音に囁いた。 「……なんかすごいのがきましたね」 「気をつけてオレンジペコ。あの御方はかき回すのがお好きな方なのよ」  詩音の言葉に“獅子心王”はにやりと笑った。 「なんの。  “不幸なる時代の重荷は我々が負わねばならぬ”だよ!」  芝居がかった声にオレンジペコ。 「リア王ですね」 「……ええ。シェイクスピアにも堪能でいらっしゃるの。  見かけによらず、才女なのよ」 以下テキスト~ su1833640.txt

8 17/04/23(日)14:12:16 No.422698580

きたのか!

↑Top