虹裏img歴史資料館

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17/03/22(水)02:42:57 私は北... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1490118177313.png 17/03/22(水)02:42:57 No.416122491

私は北国の城下町のさる良家の令嬢の婿に入ることとなった。彼女の写真の一つも見ぬうちに将来の義父から送られてきた手紙には、古文書と見紛うような候文が書き連ねられており、その便箋にはやけに陰気な文様と一族の家紋とおぼしき透かしが刻まれていた。そうして上野発の列車に6時間揺られた先で出会った花嫁の父親は痩せぎすで顔色が悪い男だった。ハイカラめかした厚手の黒い燕尾服が、この世ならぬ不吉な印象をいっそう際立たせていた。男は私の顔を見るなり「よろすぐたのめすねし」ときつい北国訛で言った。これが土地では優美で上品な話し言葉のようだった。すると父親の後ろに控えていた娘が初めて私に姿を見せた。透けるような肌に長く艶やかな黒髪をたたえた花ざかりの年頃の美しい女だったが、陰惨な雰囲気を全身に纏っていた。彼女が舶来の絹織のブラウスを着こなし、洋笛をよくするのが、かえって雪に閉ざされた田舎で籠の鳥のように育てられた娘という印象を強くした。本邦古来の因習と西洋風の厳格な性道徳とが、彼女の体をがんじがらめにしているように見えた。私は祝言を迎える前から、こんな陰気な女とは一所に居たくないと思った。

1 17/03/22(水)02:44:18 No.416122627

何で贅沢な

2 17/03/22(水)02:44:22 No.416122632

婚礼の儀はしめやかに執り行われた。私は例の家紋と陰気な文様の入った紋付袴で立ち尽くし、白無垢に着替えた花嫁は幽霊のようだった。この土地の司祭を務めるという花嫁の叔父が奇妙な言語で一連の式を宰り、その後に彼女の生家に至る花嫁行列が行われた。花嫁の親族から下男下女までが私と花嫁を取り囲み、ちりんちりんと鈴を打ち鳴らしていた。道行人が私の顔を覗き込み、下男に睨まれるや怯えた様子で目を逸らすことが何度かあった。花嫁の家に近づくにつれて、低くうなる祝い唄の声が大きくなっていった。 へべぬさろむあれへむ へべぬさろむあれへむ へべぬさあろむあれへむ 私は何だかこのまま墓に葬られる気がした。そして今更ながら、歳が倍以上も離れた醜男を婿に迎えられた彼女の不憫を憐れんだ。きっと彼女は呪われているのだと、私は思った。 家に着く頃には日が暮れていた。義父母に形ばかりの挨拶を済ましたところ、おもむろに義父から錆鉄の鍵を手渡された。それは欧州の古い拷問器具を連想させた。その傍に坐っていた義母が「じきに分かる」と言いたげに目配せをしてきた。私は何とも厭な気分にさせられたまま、離れにある夫婦の床に向かった。

3 17/03/22(水)02:46:56 No.416122874

既に花嫁は身を浄めて、私を待ち受けていた。童貞の私はただ恐ろしくて床の上に坐していると、花嫁は白い襦袢をするりと脱ぎだした。みずみずしい果実のような乳房があらわになった。そして、「開けてくださらないのですか」と言った。彼女の腰には重く冷たげな貞操帯が巻きつけられていた。私の鍵は、貞操帯を開けるためだった。私は勇気をふりしぼって彼女の鍵穴に鍵の先を当ててみたが、手が震えていっこうに上手くいかなかった。次第に涙が溢れ、内臓を焼かれた何度も咳き込んで、布団の上に血のへばりついた痰を吐き出した。それは男女の交情の証と破瓜の血のように見えなくもなかったが、どうせ家人が何処かで一部始終を覗き見ているに違いなかった。事の初めは屠られる仔羊のようだった彼女の瞳は、今や冥府に至る洞穴のように暗かった。「開けてくださらないのですね」と言って、彼女は床の上に坐り込んだ。私はすぐさま厠へ駆け込んで、夜通し血と胃液ばかりの反吐を吐き戻した。 明け方、私はこの家を出奔することに決めたが、その道中、落石に遭って死んだ。林檎の花が爽やかに香る四月の事だった。

4 17/03/22(水)02:51:06 No.416123254

し…死んでる…

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