虹裏img歴史資料館

画像ファイル名:1489410717713.jpg 17/03/13(月)22:11:57 No.414458555

奥州街道を歩いていると、坂道の前で女がしゃがんでいた。女は、問いもしないのに、「この荷を持って坂を越えねばなりませんのに、足を挫いてしまいました」と云った。見れば四方一尺ばかりの白い木箱を抱えていて、左の足袋には血が滲んでいた。放って先を行くわけにもいかず、荷を代わって抱えて女とともに坂を上った。女は足を庇うように摺足気味で私の傍を歩いた。美しい瓜実顔をしていたが、肺病病みのように白かった。「ああ、よかった。道行の方に親切にしていただいて、この子もきっと倖いでしょう」と云った。女は荼毘の帰りで、箱の中味は骨のようだった。女が「この坂の上に桑の木があるのです。桑の下にこの子を寝かせてやるのです」と云った。坂の上を見上げると、桑の木の枝に白い札のようなものが掛かっていた。いよいよ私は恐ろしくなり、こんな陰気な女と一所に居るのは厭だと思った。すると箱がからからと乾いた音を立てて、犬の頭に変わった。手を離そうとしたが、犬は私の右腕に噛みついた。女は真黒な影だけ残して姿を消していた。私は驚いて坂を駆け上がり、桑の木の下に坐って、どうして犬を葬ってやろうものか、泣きながら思案に暮れた。