虹裏img歴史資料館

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17/03/04(土)02:43:37 「よく... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1488563017404.jpg 17/03/04(土)02:43:37 No.412467271

「よくきた一年生。お前たちにはまず装填手からやってもらおう」  大学選抜チームが新一年生を初めて迎えたその日、島田愛里寿は壇上から言い放った。  広い講堂がざわつく。大学戦車道連盟加盟校から集められた選りすぐりの新兵――その中いたケイやダージリン、アンチョビ、西住まほなど、去年の夏、大学選抜を倒した面々は、動揺する周囲を無視して、愛里寿の口元を見つめ、次の言葉を待っていた。 「別に新人シゴキとかそういうつもりではありません、車長の側で”大学選抜の戦車道”に、直に触れてもらうのが目的」  何も言わぬ大隊長の代わりに、メグミが補足を入れる。  その時、新入生の中から手が挙がった。 「大隊長」 「誰だ、名前を言え」 「プラウダ高校隊長、カチューシャです」  カチューシャが手を挙げたままじっと愛里寿の目を見据える……ノンナが、ごく自然に肩車していた。 「では、島田大隊長も大学入学時は装填手をされていたのですか?」  上級生からもどよめきが上がった。  カチューシャはわずかに唇を歪めて、即座にきっと真一文字に結び直す。

1 17/03/04(土)02:44:29 No.412467401

 眉を顰めてアズミが声をあげようとした時――愛里寿の右手が静かに上がった。 「当然だ」 「私たちは主に車長や砲手が主体で装填手の経験が有るものは多くありません。ぜひ、大隊長が範を示して頂ければと思います」  新一年生と、上級生……主にプラウダと黒森峰のOGの視線が頭ひとつ飛び出たカチューシャに集まる。  島田流家元の娘、圧倒的な強さ、天才少女に食って掛かる者など、いなかったから……。  そして、カチューシャの慇懃な言葉が、その場の空気をより不穏なものにしていた。 「わかった」  睨み下すようなカチューシャの視線に一切動じることなく、愛里寿は短く言い切った。

2 17/03/04(土)02:44:56 No.412467450

「ここがM3戦車砲の装填練習場だ」 「パーシングに積まれている50口径90ミリ対戦車砲。APC弾の重量は11キロ弱」 「閉鎖機まで用意されているわけではないけれど、まぁ、持ち上げて装填する動作は試せるわね」  校舎を離れた大学選抜専用の格納庫。  パーシングの弾倉と同じ位置にずらりと模擬弾が並び、また、主砲の高さあたりにビールのケース状の鉄枠が多数並べられていた。 「実際の装填動作とは少し違うが、砲弾を抱えて込める動きはじゅうぶんに試せる。これを30分やる……そこの一年生、一緒にやるか?」 「カチューシャです!」  愛里寿よりもさらに小さな金髪の少女が、人の群れを掻き分けて練習台に近づく。 「……あの、無理なら無理って言っても大丈夫だからね?」 「ご心配ありがとうございます。しかし先輩、我がプラウダのKV-2やIS-2の砲弾重量はよくご存知かと」  不敵な笑みを浮かべたカチューシャを前に、得体の知れぬ気迫を感じたルミが後じさる。 「ま、やるってんなら止めないけど、本当にいいの? そこの保護者さん」

3 17/03/04(土)02:45:11 No.412467494

「ノンナです。カチューシャがやると言えば、私はただ従うだけです」 「ここは大学選抜よ? 個人的な服従関係はぬきにしてもらえる?」 「さっさとやるわよ!。ここにある砲弾を30分このケースに放り込み続ければいいのね?」 「そうだ。どちらが勝つか負けるかは関係ない。ここにいる全員、みんな何かあれば代役を務める覚悟と練習は積んでいる」 「それを大隊長みずから示してくれる、というわけね、……ありがとうございます」  小学校低学年くらいの背の低い少女が練習台の前に立った。  愛里寿は、反対側に立つ。  片や14歳の少女、片や18歳だが身長127cm。  とうてい、砲弾の装填に耐えうる身体ではない。  止めたほうが……無茶だよ……そんな囁きが聞こえる中、腕組みするカチューシャは大きく深呼吸した。

4 17/03/04(土)02:45:27 No.412467532

「用意、はじめ!」 ガコン! ガコン! ガランッ! ガラン! ガコン! ガラランッ!

5 17/03/04(土)02:45:44 No.412467556

 その場の全員が、二人の装填速度に釘付けになる。  10.94キロのM82 APC弾を模して作られた模擬弾を、リズミカルに持ち上げ、ケージに収めていく。  とても、細腕の少女がやっているとは思えない、軽々とした動作。  だが……アズミ・メグミ・ルミと、ノンナの四人だけは、さも当然、といった顔で平然と見守っていた。 「倒れたバイクを起こすのもそうだけど、力を込めるタイミングやバランスや動き……ちゃんとわかっていればできるのよね」 「装填手をやるって、隊長が言った時はびっくりしたけど、それはもう本当に見事なのよね」 「でも、カチューシャも同じことをすでに会得しています。装填手を勤めていた時期もありましたので」 「あらあら。で、あのおチビさんの腕前は?」 「私とともに、一試合で戦車十台撃破」  ノンナがふっ、と髪を撫でる。  一瞬、三人の中隊長が顔を見合わせた。 「ひゃくきゅうじゅはち、ひゃくきゅうじゅきゅう、にひゃくっ!」 「……二百……」

6 17/03/04(土)02:46:52 No.412467700

 ガコガコと金属のぶつかる音が響く中、愛里寿とカチューシャは少しずつ中央に移動していく。  すべての枠に模擬弾を入れたケースは動かせないので、ケースを横に並べて装填手が少しずつ移動していくようになっているのだ。  みるみるうちに背後の弾薬庫が空になり、また二人が半歩ずつ近づいていく。  そして……またどよめきが起き始めていた。  どちらも、装填のペースがおちないのだ。  3秒に1回、1分に20回、15分で300回。  どちらも額に汗を浮かべ、呼吸は浅くなっているが、目に疲れや苦痛は見られない。  淡々と、同じペースで砲弾を収めていく。    ガコン! ガコン! ガコン! ガコン!  金属音は近づき、重なりあい、やがて……1つとなった。  両者が頬をくっつけんばかりに近づき、1つのケージに砲弾を突っ込もうとする。

7 17/03/04(土)02:47:11 No.412467735

 ガガコンッ! 「そこまで!」  アズミがピーッ!と笛を吹いた。  愛里寿が、カチューシャより先に、最後の1つのケージに砲弾を収めていた。 「お見事ね、島田愛里寿大隊長」 「ほぼ同時だ。引き分けでもいいだろう」 「いいえ、大隊長の勝ちです」  501対499。  ケージが尽きたため、試合終了。島田愛里寿の、勝ち。  だが、勝ち負けなどどうでもよいだろう。  先輩の指を砲弾で潰さぬよう、カチューシャが一瞬装填速度を緩めただけなのだ。  どよめきは静まり返り、やがて、大きな拍手へと変わっていった。

8 17/03/04(土)02:47:27 No.412467770

「さすがです! 愛里寿隊長!」 「カチューシャも頑張ったわ!」 「どちらも凄いです! わたしも頑張らないと!!」

9 17/03/04(土)02:47:55 No.412467834

…………。 「いたたたた……いたっ!」 「少し無理をしましたね」 「無理なんかじゃないわよ! 最近やってなかったから腕が鈍ってただけよ」 「豆ができてませんか」 「大丈夫」  大学選抜寮の大浴場で、ノンナがパーに開いたカチューシャの手のひらを優しく揉みしだく。  すこし固くはなっていたが、血豆や指の爪の痛みはなかった。  ただし、筋肉が肩から腕までおおきく膨れ上がり、激しく熱を帯びていた。  湯船に腰掛けたカチューシャのたくましい上腕を、ノンナの手が滑らかに撫で回した。 「あの子が装填できるかどうかちょっと吹っかけてみたけど……あたたたた……さすがは島田流の娘ね」 「それはこっちのセリフよ」  脱衣場から、三人の女性に囲まれた少女が現れる。  タオルを巻いた彼女は……赤く腫れ上がった腕をだらんとさせていた。  カチューシャと同じく、筋骨たくましい腕となっているのを、首からかけたタオルで隠して、ちょっと面映そうな顔をしていた。

10 17/03/04(土)02:48:11 No.412467861

「隊長、お風呂で温まってゆっくりマッサージしましょうね……相変わらずお見事ですが、今日はちょっと長かったですかね」 「ああ……カチューシャも大丈夫か」 「ありがとうございます。おかげさまで、いたたた」 「あまり大丈夫じゃなさそうねー、湿布いる?」 「持っていますので、大丈夫です」 「そう……明日の練習に響かないようにゆっくり休んでね」  腕をマッサージされながら、愛里寿とカチューシャが視線を合わせる。 「どうか、お手柔らかに」 「今年の新人は面白そうだな。楽しみだ」  ニッと、カチューシャが片唇を上げて笑った。  愛里寿が……この日初めて、唇に笑みを浮かべた。

11 17/03/04(土)02:48:27 No.412467892

以上です

12 17/03/04(土)02:52:41 No.412468400

戦車を通じて語り合わなければわかりあえない不器用な戦車乙女の集まりの初っ端にこれはどちらの顔も立つよいレクリエーションだ 今年の大学選抜も強くなるだろう

13 17/03/04(土)02:55:30 No.412468703

喧嘩で仲が深まる番長同士みたいになってる…! がんばるちびっ子良い…

14 17/03/04(土)02:59:45 No.412469108

カチューシャはドワーフな気がしてたけど愛里寿ちゃんが出来るのは意外だな

15 17/03/04(土)03:02:44 No.412469417

みぽりんも最初のチーム分け練習試合の時に「操縦は苦手だけど」と言ってたから 逆に考えると砲手や装填手はそれほど苦手ではないって事だよな

16 17/03/04(土)03:03:21 No.412469473

忍者は指一本でも引っ掛けられれば垂直な崖登れるからね…

17 17/03/04(土)03:04:44 No.412469603

フェイズエリカでは違う感じだけど お姉ちゃんの装填手とかやってたらお姉ちゃんめっちゃ幸せなんだろうな…

18 17/03/04(土)03:06:58 No.412469833

解散後に残ってゆかりんに徹底的に装填を教えるみぽりんも良いかも

19 17/03/04(土)03:13:57 No.412470545

そりゃかーべーたん大好きなカチューシャが装填苦手な訳ないよね… 隊長はみんな車長やってる所しか描写されてないからこういうのは新鮮ですごく良い

20 17/03/04(土)03:14:23 No.412470599

そうか…人に囲まれた状態なら下手するとカチューシャは手を上げても見えない可能性もあるんだな…

21 17/03/04(土)03:20:46 No.412471268

プラウダを出てもアカくなりさらに隊内での指揮系統以外では対等なことを示し隊長まで赤化するとは… 思想教育の成果ですな同志!

22 17/03/04(土)03:21:27 No.412471342

こりゃまた珍しい組み合わせだ

23 17/03/04(土)03:28:24 No.412471938

最後の笑顔で愛里寿ちゃんも戦車馬鹿なんだなぁってなる

24 17/03/04(土)03:33:34 No.412472357

装填手って装填以外もある程度フォローできなきゃだめって聞いたことあるし 実はめっちゃハードワーカーっぽい

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