虹裏img歴史資料館

1 17/02/24(金)23:46:03 No.411005422

「アンタ進路決めたの？」 こころが顔をこちらに向けて囁くように尋ねてきた。 金曜日の放課後にワタシの部屋に来たいと言ったので泊まりに来させた。 こうして二人きりになれるのも久しぶりだ。 二人並んでワタシの好きな"メリー・ポピンズ"を観ている。 中古のレーザーソファは自慢の逸品。 こころはワタシの腕を抱いて、頭を肩に預けていた。 「ああ、そうね。音大か音楽短大に行こうと思ってるよ。小さい音楽教室でも良いから何か音楽関係の仕事がしたいんだ。あれ？アンタには言ってあったよね？」 一年生の頃、戦車道履修を決めた後に打ち明けたはずだった。 「あーうん…そうだね…聞いてたよ。大学は音大だよね。あのさ…お願いがあるんだよ。あさりに」 髪を下したこころなんて高校生になってから初めて見た。 右目にはワタシが知らない傷がついている。 その色の変わった瞳が不安に揺れている。 こんな内向的なコじゃなかった筈だ。

2 17/02/24(金)23:47:00 No.411005638

二人で離れて暮らした数年間は思いもよらぬ変化をお互いに与えていた。 「なんだか歯切れ悪いわね。お願い？進路の事？言ってみなよ？」 クッションを抱いたこころはおずおずと切り出した。 「あ、あのさ、大学行っても大学選抜で戦車道やってくれないかな？装填手じゃなくて良いんだよ。私もすぐ車長なんて成れないだろうし。だからね…その、同じ戦車にまた乗ってさ、通信手やってくれないかな？もし私が車長に成れたらアンタに私の通信手になって欲しい。もちろんプロまではお願いできないけど、でもその時またお願いするかもしれないから…そしたらまた考えて欲しいなって」 「はいはい、アンタ透子には自分の操縦手やってくれないかな？って言ったんだって？何でそんなに焦ってんの？」 三年生目前、澤先輩や優希先輩もすぐ居なくなってしまう。 その不安な日々はこころを異常に寂しがり屋で、臆病に変えていた。 今は一人で帰宅する事も難しい。

3 17/02/24(金)23:47:25 No.411005747

「怖い、怖いんだよ。好きな人がどんどん居なくなる。あさり、アンタだって同じ大学じゃなくて音大に行っちゃう。幼馴染で親友なのに」 「怖くなんかないよ。好きならまた会える。オレンジペコさんだってまた会いに来てくれたじゃない。ワタシも同じ。幼馴染で親友だから」 二人とも髪を下していると別人に見られる。 子供の頃、顔はいつでも一つだった。 「あー！だからアンタ髪下して、マフラーで顔隠してんの？そんなに不安なのかあ」 オレンジペコさんにもらったピーコートの襟を立て、立てた襟の上からマフラーを巻く。 白い髪と白いカシミアのマフラーで大きな瞳と高い鼻くらいしか出ていない。

4 17/02/24(金)23:47:48 No.411005807

「だってさ、ペコさんも…怖かったんだよ！？自分の知らないペコさんがいたんだよ！！ご挨拶に行って目の前に」 去年の年始のご挨拶から帰ってきたこころは酷く落ち込んで、週末は部屋に籠っていた。 小火事件があった翌年直ぐなので、西住隊長や澤先輩、各車長が週末に代わる代わる遊びに行って話を聞いてくれた。 無論ワタシはこころの家政婦となっていた。 "こころ週末引き籠り事件" 「人は変わっちゃうもん」 こころは俯いて悲しそうに呟いた。 「アンタさあ、一年生の時に廊下で先輩と喧嘩したの忘れたの？それとオレンジペコさんに"紅茶女"なんて酷い渾名つけたり！何から何まで小学校のこころじゃ想像できないよ！！アンタも変わってんの！！」 その変化前と後の姿を傍で見続けたワタシしか衝撃は解るまい。 こころの手を取ると酷く冷たい手をしていた。 「じゃあ、約束してよ！！あさりが音楽の先生になるまで私の傍に居てくれるって！！約束してよ！」 「音楽の先生かあ、それも良いかもね。良いわよ。でも一つだけ違うわね」 きょとんとして私を見つめるこころの瞳を見ながら続けた。

5 17/02/24(金)23:48:28 No.411005943

「"Till Death Do Us Part"死が二人を切り離すまで。ね？幼馴染でしょ？大学卒業間際位までにプロになろうってワタシを口説けば良いのよ。死ぬまで通信手してくれってさ？」 声を上げて泣き出したこころがワタシの胸に飛び込んできた時、胸で泣かれるなんて初めてでびっくりした。 これで別れの時期のナイーブな季節病が治ると良いのだが。 幼馴染の頭を胸で抱きとめ包み込んでそう思った。 もう少ししたら透子と好子も呼んで朝まで… いや今日は二人きりの時間を過ごそう。 泣き止んだら瞼をタオルで冷やして、ホットッミルクか。 『こころ？アンタはワタシがどれだけアンタを見つめてるか知らない』 表の顔は天使の様に大胆で、裏の顔は悪魔の様に繊細な幼馴染。 綺麗なプラチナブロンドの髪を撫でながらそう思った。

6 17/02/24(金)23:50:09 No.411006316

よろしければ読んでみてください su1764117.txt 　 関連作品 あさりコミュニュケーション su1764118.txt

7 17/02/25(土)00:27:56 No.411013899

あさりちゃんか…

8 17/02/25(土)00:29:46 No.411014227

幼なじみ…ｲｲ

9 17/02/25(土)00:31:18 No.411014568

ショートショートのあさりちゃん編だ！

10 17/02/25(土)00:32:55 No.411014893

おずおずしててもこころちゃんは相変わらずだな

11 17/02/25(土)00:36:01 [sage] No.411015518

トースト食ってる間にレスが！ありがとう！ >あさりちゃんか… あさりちゃんで書いて上げたかったんだ…ありがとう！ >幼なじみ…ｲｲ 誰とにしようか迷ったんだけど前のがこころちゃんとあさりちゃんのお話だったから…ありがとう！ >ショートショートのあさりちゃん編だ！ ようやくショートショート書けた…またよろしくね！ >おずおずしててもこころちゃんは相変わらずだな 200文字切ってるんだけど長台詞いれたよ！

12 17/02/25(土)00:40:34 No.411016493

>三年生目前、澤先輩や優希先輩もすぐ居なくなってしまう。 >怖い、怖いんだよ。好きな人がどんどん居なくなる みぽりんを送り出す時の澤ちゃん達も寂しさや不安が押し寄せてたんだろうな…と 澤ちゃんは泣く姿を見られまいとしたのだろうか みぽりんの見てない所で涙をこぼしていたのだろうか…うぅ あ…スレ画使ってくれてありがとう

13 17/02/25(土)00:40:40 No.411016515

あさりちゃんこういうとこで頼れる子でいいよなぁ 母性が出てきている こころちゃんは怪我もそうだけど、本当は弱い心を無理やり隠してるのが良い

14 17/02/25(土)00:41:56 No.411016780

あんこうとウサギさんとの別れはみんなそれぞれのカタチがありそう

15 17/02/25(土)00:42:36 No.411016913

澤ちゃんはみぽりんの前では泣かない気がする すぐに私も行きますから！ って言うんだけど、Ⅳ号の車長席で泣いちゃう

16 17/02/25(土)00:43:23 [sage] No.411017053

>みぽりんを送り出す時の澤ちゃん達も寂しさや不安が押し寄せてたんだろうな…と >澤ちゃんは泣く姿を見られまいとしたのだろうか >みぽりんの見てない所で涙をこぼしていたのだろうか…うぅ 澤ちゃんは人に見えないところでなくタイプだよね…顔つくるの大変だとも運だよね… >あ…スレ画使ってくれてありがとう いやこちらこそいつもありがとう！！また書くよ！！ありがとう！！ >あさりちゃんこういうとこで頼れる子でいいよなぁ 母性が出てきている >こころちゃんは怪我もそうだけど、本当は弱い心を無理やり隠してるのが良い そう二人の別な面をかければって思ってて！！ありがとう！！

17 17/02/25(土)00:43:26 No.411017066

今回は読み込んでたら時間になっちまった！

18 17/02/25(土)00:44:33 No.411017272

>また書くよ！！ じゃ俺もまた描くよ

19 17/02/25(土)00:44:41 [sage] No.411017306

>あんこうとウサギさんとの別れはみんなそれぞれのカタチがありそう 個性豊かだけど寂しいんだろうなあ… >って言うんだけど、Ⅳ号の車長席で泣いちゃう 車長席の椅子に項垂れて泣くんだよ…きっと…