虹裏img歴史資料館

1 17/02/01(水)01:51:05 No.406270250

　まほは今日の戦いを反芻して、フンスと鼻を鳴らした。見たか、と思う。安斎千代美隊長というオーダーは、くろがね工業をおおいに驚かせた。彼女らは当然、西住まほが部隊を率いてくると考えていただろうからだ。そこに無名の安斎選手だ。くみしやすし、という色さえ見えた。 「見たか」 　まほは今度は口に出して、地図の上に頭の中の両軍の動きを乗せてみせた。 　三個小隊一個中隊同士。 　安斎の戦術は練り上げられていた。 　この日のために、安斎とまほの二人はこの部屋のこのリビングで三日間徹夜した。 　くろがね工業のビデオをえんえん見直して、完全に研究した。その上で、彼女らが対西住まほにどんな作戦を取るかを、くろがね工業側になりきってシミュレーションする。 　それから、その上をゆく、西住まほ"らしくない"戦術を立案する。 　そしてそれは。 「ムフン」 　まほは含み笑いを漏らした。 　戦術はすべてうまく行った。 　社会人チームは面白いように罠にかかり、わけもわからないうちに壊滅した。

2 17/02/01(水)01:51:31 No.406270342

　見たか、と、まほは考える。 　これが安斎だ、安斎千代美だ。 　油断した戦車隊を潰させたら、三千世界で一等賞だ。 　安斎はと言えば、そのまほの評価にはくすぐったげに顔をしかめる。 「みほのほうがすごいよ。ってか、こうしないと勝てなかったからそういうの勉強したんだ。重戦車がたっぷりあるなら、私だって普通に高地取って陣地作るよ」 　それじゃあ面白くないだろう。と、まほは思うが、それは口にしない。 　前にそれを言って一度大喧嘩になったからだ。 　お前はそれでも西住流か、と、まるでおにばばのようなことを言って、安斎は怒った。お前は恵まれてるから言えるんだよ、と。 　まほは、安斎は例えいい戦車があっても立てる戦術は安斎だと確信していた。 「そうだろう？　そうだったじゃないか」 　だからまほは、地図を満足気に眺める。 　ずらりと並ぶ大学選抜の保有戦車を与えられてなお、安斎はまほの安斎のままだったからだ。 　何度も使える戦術じゃない。 　だがそれを惜しげもなく投入する安斎は、たしかに中学時代の安斎だったのだ。

3 17/02/01(水)01:52:05 No.406270479

　まほは嬉しくて、うきうきと地図を眺める。 　まほには思いつきもしないような作戦を次々思いつく。千変万化して尽きることはない。智謀湧くが如し、は褒めすぎか。 　安斎にとってはこのまほの賞賛が居心地悪く、上位者の余裕を感じて腹が立つのだが、まほはそれに気づかない。彼女は単純に、少女のように親友の手腕にあこがれているのだ。 　同居している家（同居している、と言うと同級生は、戦車漬けの戦車マシーンみたいに言うが、少なくともここ数日の我が家に関しては、これを否定できない）に戻る間、まほは安斎がうんざりするほど喋り続けていた。 「それで安斎、あの機動なんだが」 「わかった！　わかったから！　まずは風呂だ！　私が先に入るから、テーブルを片付けておけ！」 「ダージリンがああいう機動をすることは予測していたのか？」 「私が上がったら次はお前が風呂な！　その間に食事の準備をしておくから」 「結果としてはあのダージリンとケイのコンビネーションが勝ちにつながったわけだが、偶然ではあるまい？」 「ご飯のときには、とっておきのワインを開けような」 「ウン」 「……聞いてたのか」

4 17/02/01(水)01:52:25 No.406270576

　安斎は呆れたように笑って、まほに黒いエプロンを投げつけ、自分は脱衣所に消えていった。 　まほはテーブルを片付けながら、安斎が風呂から出るのを待っているのだが、片付けは遅々として進まない。 「ムフン」 　机上検討で使った戦車の模型を箱に収めながら、まほはまた思い出し笑いをした。 　隊長車にあえてカルロ・ベローチェを持ってきたのは安斎らしい。車高が低いタンケッテは、まして殲滅戦であれば、逃げに徹すればまず見つからない。安斎はそこから、まるで空から戦場を見下ろしているかのように指示を出したのだ。 「天の目か」 　ケイは、スカイ・アイと言っていた。 　安斎の小説家としての想像力かもしれない。読むのではなく、対戦相手や仲間を登場人物として設定したかのように動かして、想像して、指揮を執る。 「ムフン」 　みたか、これがあんざいだ。 　まほは片付かないテーブルの上にあった、安斎の眼鏡を手に取った。おおきな丸い眼鏡。ここで戦術立案をしていたときにずっと彼女がかけていた眼鏡だ。

5 17/02/01(水)01:52:46 No.406270668

　フレームが細くて眼鏡が大きいので、凹レンズのフチの部分はずいぶんと分厚くなっている。面取りをして薄く見えるようにしてはあるが、限界があるのだろう。 　まほはそれを、すっと自分の顔に当てた。 　視界がゆがむ。 　まほの視力は2.5をゆうに超える。 　安斎の視力がどのくらいかまでは知らないが、0.5を上回ることはないだろう。事実、安斎は操縦も砲撃もそれほど上手ではない。 　歪んで回る視界の中で、しかしまほはそれを楽しんだ。 「これが、安斎の見ている世界か」 　見慣れた部屋がまるで別世界のように見えて、まほは酒も入っていないのによっぱらった気分になった。 「ふふ」 　思わず笑みが溢れる。 　親友は世界をどういう風に見ているのだろう。 　彼女と同じ存在にはなれないが、もしそれをちょっとでも知れるのなら、それは嬉しいことだと思った。 　そんな風に他人を思えることが、嬉しいことだと思った。

6 17/02/01(水)01:53:02 No.406270731

「風呂あがったぞー……あ！　こら！　眼鏡かえせよー！」 「にあうか？」 「お前はなんでも似合うよ！　いいから返せよ」 「これが、あんざいのみているせかいなんだな」 「多分違うと思うけど、それがないと不便なんだよ、もぅ。かなり度がきついはずだぞ。あんまり長くかけてると……」 　湯上がりでほかほかの安斎が、かわいい起毛の部屋着で腰に手を当てる。髪はバスタオルで巻いてあって、いつもの同じシャンプーのにおいがした。 　まほはかぎなれたシャンプーのにおいをかいで。 「ぉぇ」 　急にめまいがして、思わずよろめいた。 「……酔った」 「ほら、言わんこっちゃない！」 　眼鏡を外してソファに再び腰掛けると、安斎が隣に座って、さっきまでまほのかけていた丸い大きな眼鏡をかける。 「……私は、安斎と同じ世界は見れないんだな……」 「……なんだそりゃ」 　がっくりとうなだれるまほに、安斎は呆れて言って、こめかみのあたりをさすってくれた。

7 17/02/01(水)01:53:28 No.406270793

　安斎の世界を垣間見た代償は、夕食の一時間の遅延だったが、安斎に連れられて湯船で温まったころには（安斎は結局お風呂に入り直した）すっかり良くなったまほは、再び安斎相手にワインを酌み交わしながら、疲れてふたりともそのまま寝てしまうまで喋り続けたのだった。 END

8 17/02/01(水)01:54:41 No.406271061

自慢気なまほいい…

9 17/02/01(水)01:55:04 No.406271120

su1732789.txt てきすとー めがねのお姉ちゃんとか、かわいくない？

10 17/02/01(水)01:55:42 No.406271244

>「今日は激しかったからな」 ナチュラルにおセックスの話だと思ってしまってすまなかったと懺悔しておく

11 17/02/01(水)01:57:12 No.406271571

>めがねのお姉ちゃんとか、かわいくない？ 可愛いけど一つだけ欠点が 大洗の誰かさんに似てしまう…

12 17/02/01(水)01:57:21 No.406271607

事あるごとに眼鏡をかけたがるもんだから伊達メガネ買うか？と聞いてくるあんざい ちがうそうじゃない

13 17/02/01(水)01:57:25 No.406271622

おっとお前だけに懺悔はさせねえぜ！

14 17/02/01(水)01:58:07 No.406271743

お姉ちゃんサングラスかけてみてほしい って蝶野だこれ

15 17/02/01(水)02:01:12 No.406272549

>（安斎は結局お風呂に入り直した） よって気持ち悪くなってるおねえちゃんを連れて一緒に入ったんですね

16 17/02/01(水)02:02:06 No.406272748

さすが安斎…

17 17/02/01(水)02:03:11 No.406272955

素晴らしいまほチョビですね。

18 17/02/01(水)02:03:43 No.406273025

お姉ちゃんは昼間に星が見えそうだな 暗いところで本や画面を見ないとか夜は星を見るトレーニングするとかしてそう

19 17/02/01(水)02:04:00 No.406273063

ハイテンションお姉ちゃん可愛い…

20 17/02/01(水)02:07:11 No.406273515

>暗いところで本や画面を見ないとか夜は星を見るトレーニングするとかしてそう 安斎と一緒に天体観測するけど安斎にはよくわかんなくて視線を同じにするため顔ぴったりくっつけたりするのか…

21 17/02/01(水)02:07:30 No.406273569

su1732808.jpg あんざいのせかいです！

22 17/02/01(水)02:07:49 No.406273612

>暗いところで本や画面を見ないとか夜は星を見るトレーニングするとかしてそう アスリートだもんね…

23 17/02/01(水)02:08:58 No.406273749

>su1732808.jpg >あんざいのせかいです！ 今描いたの！？それとも元ネタ？

24 17/02/01(水)02:09:51 No.406273860

戦車道用の眼鏡も持ってるかもしれないね 砂埃とかで消耗が激しそうだから

25 17/02/01(水)02:10:07 No.406273888

さきにえをかきました！ それをぶんにしました！ めがねおねえちゃんかわいいとおもいましたので！

26 17/02/01(水)02:11:08 No.406274006

ああ、たしかに戦車道用の眼鏡はありそうだ ゴムとかでずれないようになってるのもあるけど、戦車道女子の間では「かわいくない」と不評である、みたいなのも面白いなぁ

27 17/02/01(水)02:11:19 No.406274030

>さきにえをかきました！ >それをぶんにしました！ この両刀使いめ！ いい仕事だ！

28 17/02/01(水)02:12:11 No.406274136

>さきにえをかきました！ >それをぶんにしました！ >めがねおねえちゃんかわいいとおもいましたので！ そういうことか！絵も文もかわいいとはやるな畜生め！

29 17/02/01(水)02:13:48 No.406274327

>安斎にとってはこのまほの賞賛が居心地悪く、上位者の余裕を感じて腹が立つのだが、まほはそれに気づかない。彼女は単純に、少女のように親友の手腕にあこがれているのだ。 ちょっとすれ違ってるのがまほチョビのかわいいところ…

30 17/02/01(水)02:18:04 No.406274833

>戦車道用の眼鏡も持ってるかもしれないね >砂埃とかで消耗が激しそうだから ゴーグル持ってたのはペパっちゃんだったか お姉ちゃんはお金あるしオークリー等のスポーツグラス… そういうこと考えだすと本当にスポーツっぽい戦車道

31 17/02/01(水)02:19:03 No.406274946

>さきにえをかきました！ >それをぶんにしました！ >めがねおねえちゃんかわいいとおもいましたので！ グッジョブ！ ベリーナイス！

32 17/02/01(水)02:19:35 No.406275018

ヘッドセットとかも、自分で買うと高いんだろうな

33 17/02/01(水)02:20:06 No.406275078

お姉ちゃん 健康な目は宝ですよ…歳をとるとわかるよ…

34 17/02/01(水)02:21:12 No.406275169

温泉とか行くと、眼鏡ないと立ち往生するんだよね、目が悪いと… いつものお風呂だと配置を覚えてるから平気なんだけど

35 17/02/01(水)02:22:58 No.406275376

風呂用眼鏡をうっかり忘れてお姉ちゃんに手を引いて案内してもらう安斎か…

36 17/02/01(水)02:23:48 No.406275458

ラッキースケベですって！？

37 17/02/01(水)02:25:12 No.406275625

>風呂用眼鏡をうっかり忘れてお姉ちゃんに手を引いて案内してもらう安斎か… かわいい… 「にしじゅみぃ……手、離すなよ……」 「よしよし。露天風呂行こうな」 「楽しんでないか？」 「わるいか」

38 17/02/01(水)02:28:20 No.406275972

>ラッキースケベですって！？ 手探りで（3_3）みたいな目になりながら歩いてて、おねえちゃんの胸に顔をぼすってやっちゃうあんざい…

39 17/02/01(水)02:41:42 No.406277232

あんざいはわたしがついてないとだめだな…

40 17/02/01(水)02:45:02 No.406277488

>あんざいはわたしがついてないとだめだな…（安斎が作ったご飯をおかわりしながら）

41 17/02/01(水)02:46:02 No.406277566

はいはい デザートあるからあまり食べすぎるなよ西住

42 17/02/01(水)02:59:39 No.406278548

安斎の活躍を自分の活躍以上に喜んで自慢げに鼻を鳴らすお姉ちゃんかわいい… >ちょっとすれ違ってるのがまほチョビのかわいいところ… このすれ違いが大きくなってくると2人の関係が楔を打ち込まれた戦線のように瓦解しかねないけど それを乗り越えられるかどうかで2人の仲がこれ以上進展するかどうかの切っ掛けになる…とかあるかなぁ

43 17/02/01(水)03:07:20 No.406279083

あるさ ただすれ違いを解消するのかすれ違いをも許容して歩んでゆくのかは趣味が出るネ