17/01/19(木)23:39:50 SS『あ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1484836790195.jpg 17/01/19(木)23:39:50 No.403899715
SS『あさりコミュニュケーション』 ~あさりゃんと素晴らしい世界~ 新カメさんチームの通信手兼装填手、上杉あさりちゃんのお話です *2~3回予定です
1 17/01/19(木)23:40:13 No.403899803
「あさりちゃん!?優希ちゃんは!?」 沙織先輩がお手伝いに来たアタシに訊ねる。 土曜日なのに仕事が山積みで終わる気配が見えない。 「今日はお休みでアリサさんのトコ遊びに行ってますよ。明日一人で作業するって言ってました」デイバッグからノートPCを出しながら答える。 「またー!?もうやだー!!」眼鏡を外して頭を抱える沙織先輩。 土曜日恒例、いつものやり取りだ。 優希先輩はアリサさんとナオミさんが大好きで、 去年の冬は週末毎にサンダースから迎えのヘリが来て遊びに行っていた事もあったらしい。 お二人は身内の様に優希先輩を可愛がり、一時はサンダースに転校する気かもしれないと本気で心配されていた。 都度、大洗の"グランマ"が深刻に心配するので『優希ママは生粋の沙織先輩っコ』だと私が宥める。 アタシはアタシでアリサさんがくれるお土産をいつも楽しみにしていた。
2 17/01/19(木)23:40:46 No.403899947
「ワタシと名前の似た"アーミッシュ"のアニーに。ユウキ、お願いね?いつでも遊びにおいでって。そう伝えて」 パパと同じようにアタシをアニーと呼び、手作りのパウンドケーキや、 耳に優しい自作のヘッドセットやらをお土産に持たせてくれる。 孫娘を心配するグランマの様な柔和な笑顔でそう言うらしい。 「あさりちゃ~ん!今度アリサさんのお部屋行こうよ~!きっと喜ぶから~!」 優希ママは毎日の様に私を誘ってくれる。 "ママ"が居ない間、"グランマ"はものすごく優しくしてくれる。 手作りのお菓子やお弁当を校庭の日が良く当たる場所まで行って、食べる時間がアタシはすごく好きだった。 そんな時間を楽しみにしている"グランマ"を置いて"ママ"とサンダースへ遊びには行けない。 でも、本音はサンダースの学園艦にはすごく興味があるし、アリサさんにも会いたい。 「やだもー!あのコはあさりちゃんまでサンダース付大に連れてく気かしら!?」 優希先輩が言うには沙織先輩は広報になってから心配症が病気の様に酷くなっているそうだ。
3 17/01/19(木)23:41:14 No.403900048
ある事がなければサンダース大学付属高校か黒森峰女学園に進学しようかとも考えていた。 大きな学校には音楽科も併設されている。 それに三代前のお婆様がサンダースの学園艦に乗っていた。 ジョニー・ライトが唄っていて、シューレス・ジョーがまだ存命だった頃。 ジョー・ディマジオは現役だった。 アタシが大洗女子学園の学園艦に乗った理由。 愛澤こころ。お幼馴染の彼女が帰ってきたから。 色素の薄い髪をなびかせ、高く筋の通った鼻を上に向け、不器用に生きる彼女が帰ってきたから。 『生きずらいだろうな』彼女を初めて見た時、子供心にそう思った。 才能に恵まれすぎて、羨望の的だった事もある。 手の届きそうな才能を生まれつき持っている人間を人は羨み、妬む。 容姿も人並み以上だし、本来の素養に加え努力家な事がそれに拍車をかける。
4 17/01/19(木)23:41:40 No.403900150
西住隊長くらい図抜けていればそんな事は起こらない。 むしろ周りが助けてくれることの方が多い筈だ。 その厚意を本人は不思議に思うだろうが、そういうものだ。 努力にも才能で種類がある。 澤副隊長こそ異質中の異質だ。 今そこにあるものが全てとばかりに事にあたり、 出来なければ限界まで努力してモノにしていく。 自分がたどり着いた場所が「誰にも届かない」くらいになって始めて異常に気付く。 本人は強く否定するだろうが、努力故の挫折知らずと人は言うだろう。 そんな特殊性がある怪人だ。 図抜けた天才と図抜けた怪人。 その後を継ぐ秀才のこころ。 大洗に逸材を集めて神様は何をなされるおつもりなのだろうか。
5 17/01/19(木)23:41:58 No.403900224
数代前にアーミッシュ…ドイツ系移民で敬虔なクリスチャンをルーツに持っていても平凡な容姿、 絶対音感があっても作曲すらしない凡人のアタシには至極関係のない話ではあるが。 好子が視覚で世界をとらえる、そう言っていた事がある。 アタシの世界は全てが音符に変換される。 絶対音感を持つと言うのはそういう世界だ。 物が落ちる音や人の話し声まで音符に置き換わる。 アタシは自分の少し張り出しているオデコが嫌いで、前髪を下しているし、 うっすら浮いているソバカスが嫌いなので、薄くファンデーションを塗っていた。 日焼けすると赤くなり、痛む体質が嫌いだった。 鼻なんて突然突起してきたみたいに顔の真ん中に置かれていて、 ママはもう少し丁寧に造れなかったんだろうかと鏡を見る度に思う。 『ジンジャーみたい』と言われるのが嫌で、小学校では髪を黒に染めていた。 ジンジャーの意味を知らないコが言う事なので気にする必要はないのだが、言い訳をする自分が嫌だった。
6 17/01/19(木)23:42:15 No.403900299
そんなある日、白に近いプラチナブロンドの愛澤こころがお父様の転勤で、水戸の小学校に転校してきた。 その髪の色や高い鼻、大きな瞳を皆が珍しがりハーフなのかと尋ねた事がある。 「全然。私、日本人だから。足も短いし、手も長くない。それを言うなら上杉さんの方がモデル体型だよ」 窓際で鉢植えに水をやっていたアタシに話題が振られ、クラス全員の視線が私に集まった。 それまでは音楽の時間、先生の代わりにオルガンを弾いたり、合唱コンクールの時にピアノを弾く位しか視線は集まらなかった。 確かにアタシは手足が長い。 それも異様に。そしてそんなトコも嫌いだった。 筋肉が付きにくい体質なのが子供の頃からの悩みの種だ。 逆上がりもこころが転校していった後の高学年になるまで出来なかった。 目立つこころがアタシの名前を出したことが切っ掛けで、 軽いファッションショーみたいなお着替え会がこころのお家で開かれた。 皆がアタシに自分の持つ一番可愛らしいお洋服を着せようとする。
7 17/01/19(木)23:42:36 No.403900398
でも上は袖丈、下はレングスが致命的に合わない。すべからく短いのだ。 パンツはウエストというよりヒップの位置が合わない。 持参したステージ用の赤いドレスを着た時、黄色い悲鳴がこころの家に響き渡った。 「ね?上杉さんのスタイルは学校一だよ。それに瞳の色なんてライトブラウンに青混じりだし。誰も持ってない瞳の色でしょ?」 それからアタシはこころと仲良くなり、何をするのもこころと二人でする様になっていた。 ― 戦車道を除いて。 アタシは戦車道どころか、争い事になりそうなモノすべてを禁止されていた。 「大爺様が悲しむから」 パパやママの口癖だった。 信仰とそれまでの生活を捨てて、大婆様と一緒に日本に来て生活を始めて、慣れない日本語で苦労をしながら正直に生活をしてきた大爺様。 騙されると解っていても人を信じ続けて「ボクが信じたかったんだ」そう言って大婆様に謝ったという。 その苦労を無にするような事はするな。それが我が家の家訓でもあった。
8 17/01/19(木)23:43:05 No.403900510
「あさり。あのさ、今度大工町の映画館に来る映画一緒に行こうよ!"アーミッシュ"のお話なんでしょ?」 こころはアタシのご先祖様がどんな生活をしてきたかに興味がある様だった。 ママに相談して初めて二人だけで映画館に行った。 チケット売り場で演目を言ってお姉さんからチケットを買って、映画館に入る。 持参した飲み物を飲んでいけないのはその時知った。 二人でおこずかいを出し合って一番大きなコーラを買って二人で交換しながら飲んだ。 売店のお姉さんが「首から下げてるペットボトル、隠しちゃいなさい。コーラ無くなったら容器に移して飲めばわかんないから」 そう教えてくれたが、私はお礼を言ってからお姉さんに自分の分のペットボトルを預けた。 古い映画なので、人が少なかった。 真ん中の一番良い席に二人並んで座り、劇場が暗くなるのを待った。 劇場が暗くなると、こころがバッグからチョコバーを出して私に咥えさせたので、少し齧ってから返した。 ブレードランナーに出ていたハリソンフォードも若く、アーミッシュの男の子がすごく可愛かった。
9 17/01/19(木)23:43:42 No.403900666
映画の主人公は大爺様と違い、それまでの生活を捨てられなかった。 映画のヒロインは大婆様と違い、自分の生活に相手を招き入れられなかった。 「ご先祖様はあんな生活してたんだ。今もしてるんだよね…」 「うん。何だかいい刺激?になったよ。でも変化しないってどうなんだろう…私は怖いな…」 子供心にアタシとこころの間にある見えない川を想像させた。 そこにルーツを持つアタシと持たないこころ。こころには理解できない事の方が多い筈だ。 「私さ、あさりが戦車道できなくても良いんだ。神様の事はよく解んないけど、音楽聴くのも好きになってきてるから演奏会に必ず行くよ!大丈夫だよ!」 こころはアタシの演奏会に来られないまま転校して行って、中学生になったある日大怪我をした。 新聞で読んだパパが「ほら危ない事はしないに限るんだ」そう言った日曜日、生まれて初めて教会に行くのを拒否した。 アタシには神様より友達が怪我をした事の方が大きかったし、 アタシの大事な物は家族も大事に想ってくれる、そんな幻想が壊れたのもショックだった。
10 17/01/19(木)23:44:18 No.403900824
それからこころが再び大洗に現れるまで、一度たりとも教会には行かなかった。 寝る前のお祈りもしなかった。 あの日、二人だけで観た映画の曲ばかりピアノで弾いていた。 解らない英語を音階で唄いながら、一人泣きながら鍵盤を叩いた。 サンダースの学園艦に乗っていたお婆様はサム・クックが好きだった。 それを聞いたのはこころが大洗に現れた日の夜、鍵盤を叩く私にパパが「すまなかった、アニー」と詫びてくれた後だった。
11 17/01/19(木)23:46:01 No.403901213
よろしければ読んでみてください su1718344.txt *関連シリーズお直し中です…ごめんさない
12 17/01/20(金)00:25:38 No.403910064
あさりちゃんにめっちゃ肉が付いてる…すごいなこれ もう少し軽いラインから来るかと思ってたら意外とがっつり来たなぁ 続きを楽しみに待ってるよ!
13 17/01/20(金)00:32:04 [sage] No.403911384
>あさりちゃんにめっちゃ肉が付いてる…すごいなこれ >もう少し軽いラインから来るかと思ってたら意外とがっつり来たなぁ >続きを楽しみに待ってるよ! ありがとう!今日は出す日じゃなかったんだけど我慢できなくて… 宇津木ちゃんのお話書いてる途中なんだけど入れちゃった… あさりちゃんのお話書き出したら止まんなくなっちゃった