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17/01/13(金)04:24:03 武蘭怪... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1484249043408.jpg 17/01/13(金)04:24:03 No.402589551

武蘭怪文書を投下します 劇中にハチミツとクローバーのシーンをなぞった描写あります とうかそれがやりたくてこの怪文書完成させました 悲恋です 以下よりスタート

1 17/01/13(金)04:24:33 No.402589565

タクシーの車中で目的地に着くギリギリまでメイクの乗りや、前髪が万が一にも乱れてはいないだろうかという事を気にしながら、私は早鐘を打つ鼓動をなんとか落ち着かせる。 仕事が長引いてしまい、現場からタクシー乗り場まで走ったから……という理由だけではもちろん無いことを自覚しながら それでも私は私の身体が期待や不安を含んだ熱で高揚するのを抑えられなかった。 それが、例えどんなに実りのないものであったとしてもこればかりは身体がそうなってしまっているのだから仕様がない。 あの日、噴水の前で彼と言葉を交わし合ったあの時から、私という生き物の身体はそのように作り変えられてしまったのである。

2 17/01/13(金)04:26:23 No.402589622

タクシーが緩やかに停車したのを確認して、手早く料金を支払って降車し、店の戸口を前にする。 大丈夫。メイクも前髪もばっちり。服だって何日も前から悩んで選んできた落ち着きがありつつも決して地味になりすぎない大人っぽさを演出するものでまとめたはずだ。 髪は下ろして緩くウェーブをかけて子供っぽい印象はなくしたし、白のオフタートルネックとタイトシルエットの黒スカート、黒のタイツで、ゆったりとしながらも引き締める所は引き締めた。 数年前に親友の勧めで勇気を出して付け始めたピアスも大人の女性らしさを助けてくれていると思いたい。 踵が高い靴は歩きづらくて少し辛いけれど、オシャレは我慢だと莉嘉ちゃんが昔言っていたのを思い出す。まったくもってその通りだ。あの齢にしてそれを理解していたあの子は偉いし、すごい。

3 17/01/13(金)04:27:21 No.402589652

幾度かの深呼吸を終えて暖簾をくぐる。決して広くはない店内を見渡すと、奥の席から「こっちこっち」と私を見つけた手が高く上がるのを確認する。 この店はいわゆる“業界人の御用達”の店ということで、私たち以外のお客さんはまばらにしか席にいなかった。早足で声をかけられた席へとたどり着くと、改めて優しい声で出迎えられる。 「お疲れさま、蘭子ちゃん」 「美波さん、お疲れさまです」 新田美波さん。昔も今も変わらぬ暖かい笑顔で私を見守ってくれる彼女の瞳に、私は鼓動が一段階収まるのを感じた。 以前にも増して艶っぽさ、大人っぽさが増したその相貌に同性なのに引き込まれそうになる。うう、大人っぽいコーディネートを目指してきたつもりだったけど、美波さんと同じ土俵に立つには無謀すぎたかもしれないと僅かばかり後悔した。

4 17/01/13(金)04:28:17 No.402589671

「ごめんなさい。思ったより仕事が押しちゃって……」 「大丈夫だよ。私たちも10分くらい前に入ったばっかりだもん。そうですよね?」 「はい」 身体がピクリと跳ね上がる。もちろん私自身にしか分からない程度に収めたつもりだが、それでも美波さんのおかげで鎮まった鼓動がまた早く脈打つのを感じてしまう程度には、明確に何かのスイッチが私の中で入った。 「お久しぶりです、神崎さん。遅くまでお疲れ様でした」 「……はい、プロデューサーさん」 美波さんの向かいの席から体を振り返らせ、その威圧的なまでに大きな身体と彫りの深い貌からは想像もできないほど優しい微笑みを私に向けたのは むかし神崎蘭子という少女が心を奪われ、大人になった今に至っても尚、囚われ続ける……まるで、魔法使いのような、私の大好きな人だった。

5 17/01/13(金)04:30:29 No.402589756

φ 私が席に着いて改めて乾杯をした。プロデューサーさんはやはり出会ったあの頃と変わらないスーツ姿で、しかし少しだけ彫りを深めた表情でお猪口に注がれた日本酒をクイと煽って、ほうっと息をついた。その姿が、なんだか色っぽくて私もつられて息を吐いてしまう。 隣の美波さんから蘭子ちゃん?と声をかけられてそこでようやく私も自分の頼んだファジーネーブルに口を付けた。甘い。飲みやすい。もっと背伸びしたお酒にすればよかったかもしれなかった。 「アーニャちゃんも残念がってました。どうしても今日はお仕事で来れないと」 「私もアナスタシアさんから直接連絡を頂きました。また是非次の機会にと……」 「ぷ、プロデューサーさんは……アーニャさんとも最近は会えてないんですか?」 見惚れていたせいであまがみしたのを悟られないように努めて落ち着いて問う私にプロデューサーさんは「現場で何度か姿をお見かけすることはあるのですが、落ち着いた話はほとんど出来ていませんね」と寂しそうに微笑む。

6 17/01/13(金)04:31:28 No.402589794

そんな憂いを帯びた顔にまでまた例のスイッチを押されてしまって、私はどれだけこの人にいかれてしまっているのかと自分のことながら客観的に呆れてしまう。 私たちがシンデレラプロジェクトという名で世にデビューし、その14人が所謂“新人アイドル”と呼ばれていた頃も今では既に懐かしい。 その殆どが看板番組を持った経験や現在進行形でドラマの主演を頂いている現状は、あの頃がなければあり得なかったのだと思うと、当時の思い出の全てが夢のように綺麗に輝いて思えてしまう。不思議だ。辛いことだって結構あったはずなのに。 それはたぶん、そんな辛いことがたくさんあった時にでも、周りで支えてくれる美波さんやアーニャちゃんやプロジェクトのみんながいたから。 そして、こんな私を見放さず、“私の声”を聞いてくれたプロデューサーさんがいてくれたからだと私は思う。

7 17/01/13(金)04:33:56 No.402589869

「出来る事であれば、今のように仕事以外で時間を作ってゆっくりとお話をしたいとも思うのですが」 「……でも、プロデューサーさんもそういうのはもう難しいんじゃないですか?」 「そう、でしょうか」 「そうですよ。奥さんだって女性と頻繁に飲みに行くなんていい顔しないでしょう?」 「あの、新田さん……まだ入籍はしていませんので」 そんな、私の事を誰よりも理解してくれた私の大好きなプロデューサーさんは……もうすぐ、これからの人生をともに歩んでいくと決めた人と結婚する。 式は六月に行われるということで、私にも招待状は届く予定だ。 そう。私が大好きなプロデューサーさんはーーー私ではない人と手を繋いで、これから一生を歩んでいく。 φ Q.男女の友情はあると思う? A.我がともとの友情は永遠! ………ばかじゃないのかと。本当にばかじゃないのかと。しねばいいのにと。私は過去の自分を何度呪ったことか知れない。 私は私が紡いだ「友情」という言葉の分だけ、私が自由に飛ぶための翼を捥ぎ、同時に彼と私の間に厚く高く聳え立つ壁を作り上げたのだ。

8 17/01/13(金)04:35:17 No.402589910

そう。私はプロデューサーが好き。異性として、好き。もう、どうしようもないくらい好き。 何度、彼を夢に見たか知れない。夢の中の彼は私の髪を優しく撫で、指をそっと絡めて、その大きな身体で包み込むように私を抱きしめる。そしてお互いの瞳を見つめ合い、その瞳に映る自分の姿が近づいて行くのを意識しながらそっと目を閉じる。 そして次に目を開けるとそこには見慣れた自室の天井があって、私は枕に顔を埋めてベッドの上を泳ぐのである。 ーーー などという夢を見始めたのが、丁度冬の舞踏会が終わってシンデレラプロジェクトの活動が一旦の区切りを迎えた頃であっただろうか。 後で聞いた話だが、プロジェクトメンバーの中にはこの辺りから私のプロデューサーへの接し方にある種の危機感を覚えた者が何人かいたらしい。 その一人……というか、恐らくは一番最初にそれを抱いてくれていたのが美波さんだったのだと思う。 ある日、ラブライカとRosenburg Engel合同の仕事が終わって美波さんと二人きりになった時、苦虫を二十匹ほど一気に噛み潰したのではないかという表情をした彼女が切り出した。

9 17/01/13(金)04:36:46 No.402589951

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10 17/01/13(金)04:37:56 No.402589989

「ねぇ蘭子ちゃん……プロデューサーさんの事、異性としてどう思ってる?」 この時の美波さんの苦悩は、想像するに余りある。 きっと悩みに悩んで、ギリギリまで言わない事を選択肢に残した上で、それでも私の言動があんまりにもあんまりだったのだと思う。 ……思う、というか、自覚しかない。今だってもしタイムマシーンがあるなら過去に遡って十四歳当時に中二病と、中二病なんて比べものにならない大病を筆舌に尽くし難い面倒くささでこじらせた神崎蘭子に私は言ってやりたいのだ。 「お前が感じているそれは友情ではない。いや友情も確かにあるけれど、それだけじゃないという事を今の内に理解しろ。あと堕天使とか特殊能力とかが出てこない少女漫画をもっと読め」と それから 「貴女の我がともは、今から数年後に貴女ではない女性と結ばれてしまう。だから、出来得る限り後悔のないように日々を過ごしてほしいーーーお願いだから」

11 17/01/13(金)04:39:31 No.402590044

そんな風に、あの頃の何も理解っていない自分に縋れたら。どれだけ良いだろう。 φ プロデューサーさんがいずれ奥さんとなる人との婚約を私たちに伝えたのは、突然のことだった。 少なくとも、私にとっては頭が真っ白になってその日なにも手につかなくなってしまう程度には突然のことだったけれど、もしかしたら以前からその兆候はあって、馬鹿な私が気づいていなかっただけなのかもしれない。 これは完全に邪推だし本人にも聞いていないけれど、美波さんが私に“あの問い”をしてくれたのは、彼女がその気配に誰よりも早く気づいていたからかもしれなかった(この先も美波さんにそれを聞くつもりはない。聞いたってどうしようもないことだから)。 報告を受けたプロジェクトの反応は、みな一様に彼を祝福したり、からかったりして全員が今までの感謝を込めてのありがとうとおめでとうを送るといったものが表向きではあったけれど その中の何人かは、瞼を赤く腫らしているコもいて、それが嬉し泣きで作ったものじゃないことぐらいは、流石にその時の私は分かるようになっていた。

12 17/01/13(金)04:41:20 No.402590097

私はその時、実はまだ泣けていなくて プロデューサーをお祝いする会が終わって、何も考えられないまま電車にはしっかり乗って、部屋に戻ってきて プロデューサーの顔と、瞼を腫らした何人かの顔を思い出した時に、耐えきれずに泣いた。 声とか、それはもうめちゃくちゃに溢れてしまって。扉の外に嗚咽が漏れないように枕に顔を必死で埋めた。あとで枕カバーを捨てる他ないぐらい酷い状態にしてしまう訳だが、そんなことを気にしてる余裕なんて当然ある訳もなかった。 人間の身体はこんなにも水分を吐き出しても正常に動くのだなと思うぐらいにあらゆる液体を顔から吐き出した後で、お風呂に入ってシャワーを浴びながら泣いて、布団に入って、また少しだけ泣いてから寝た。 それがちょうど半年くらい前だろうか。“心の整理”というやつを……私はまだ欠片も出来ていない。 φ 「わがろもぉー! のんでりゅー!?」 「は、はい、神崎さん。しかし神崎さんは飲み過ぎでは」 「まどいのいずみのみじゅを、のみほしゅしれんぞ!!」

13 17/01/13(金)04:42:15 No.402590120

こうなる気はしてた、と新田美波は赤ワインのグラスを仰ぎながら思う。 先ほどまで隣に座っていた蘭子は今はプロデューサーの隣を陣取り、美波に対して一対二の構図となっている。 いや、事実上プロデューサーさんと蘭子ちゃんの一騎打ちで私は対岸の火事を眺めているようなものか。とどこか他人事のように思ってしまいながら先ほど出されほっけに箸をつけた。すごく美味しい。 プロデューサーさんはお酒に強いイメージがあったけれど、流石にもう昔ほどの勢いで飲むことはできないのか、はたまた別の理由か今日はかなり抑えめに飲んでいるようだった。 「ほほえみのめがみはのんでおりゅか!?」 「うん、ありがとう蘭子ちゃん」 「くるしゅうない!」

14 17/01/13(金)04:43:10 No.402590150

それはもう、ちょっと違うんじゃないかと思いながらも目の前で頬を赤らめて昔のように大仰な言葉と身振りを繰り返す年下の女の子を可愛らしく思う。 彼女がプライベートでの(小梅ちゃん曰く)熊本弁を自発的に話さなくなって久しいが、こんな風に自分らしさを発揮している蘭子ちゃんを見ると少しホッとする。 特に、プロデューサーさんの前ではどこか意識して抑えている部分があったように思えて(もちろんそれは彼女自身の意思でそうしているのだろうけど)、そのきっかけを作ってしまったであろう自分としては多少の負い目もあったから尚更だ。 “神崎蘭子がアルコールに弱い”という事実はシンデレラプロジェクトのメンバーなら全員が周知するところであり、当然のことながら美波も分かっていた。 何しろ一杯を飲み干さない内に顔が赤みを増し、口調は普段の倍速にまで跳ね上がり自制している熊本弁はその一切の抑えが効かなくなる。 本人がこれまた酔った時の事を漏れなく覚えているタイプなので、今日のこの席に蘭子を来るように説得するのも一苦労があった。

15 17/01/13(金)04:44:08 No.402590177

しかし“プロデューサーさんと会わずこのまま式の日を迎える可能性”と申し訳程度に“アルコールへの耐性も今なら付いてるかもしれない”という旨の事を言うと蘭子ちゃんも渋々ならが納得したようだった。 少し、荒療治が過ぎたかもしれないと思う部分もないではなかったが、彼女にプロデューサーへの気持ちを問いただした時と同じように、このまま彼女が、雁字搦めになって最後の最後に独りで泣くしかできなくなる前に……少しでも力になりたい想いがあった。 (……それも、過ぎたエゴなのかもしれないな) アーニャからも時々、美波はちょっと自分を蔑ろにして他の人に過保護すぎですね? と言われるし自分でもその通りだと思う。 ……私だって本当は、誰かのことを気にかけているような余裕はないのかもしれない。

16 17/01/13(金)04:44:49 No.402590190

「らいたいわがろともわぁ! むくなたましぃをのろむ目が曇っていゆ!」 「は、はい…」 「おぼえなきじひはときに罪ぞ!!」 「神崎さん、そろそろお水を飲まれては……」 「みじゅ?」 「はい…」 「……のむ!」 「そうですね。飲みましょう」 「うむ!」 けれど、こうしてプロデューサーさんと並んで久方ぶりにのびのびと思いの丈をぶつける蘭子ちゃんを見ていると、私はそれだけでなんだか救われた気持ちになった。 やっぱり、蘭子ちゃんは可愛い。本当の妹のように愛おしく思う。 だから彼女にはやはり、自分の心を自分で殺すような真似をしてほしくないと……私はどうしようもなく思ってしまうのだろう。 やっぱり、どうあってもエゴなのだろうな。 思考の堂々巡りに陥りかけた自分を引き戻すように、倒れこむように、私はワイングラスを傾けた。

17 17/01/13(金)04:46:11 No.402590233

φ 私がどれだけ手放していたか分からない意識をようやく取り戻した時、私は広くて逞しい背中に身体を預けていた。 それが誰の物なのかなんてことは、考えるまでもなくて、普段の私なら顔を真っ赤にして手足をばたつかせた末にゆっくりと下ろしてもらっていたところなのだろうが 酒で適度に熱を持った顔と脳は、妙な超越感を私に与えていて、酔ってる今くらいこの背中を私が独占するのは当然の権利だと自分の中の悪魔……いや、堕天使が囁いている気がした。 それはそれとして、鼓動はやっぱりトクントクンと恥ずかしいぐらいに胸を打ってはいるけれど 『プロデューサーさん……蘭子ちゃん、今は一人暮らしなの知ってますよね?』 『は、はい』 『その住まいがこの近くなのも知ってますよね』 『それは存じていますが』 『じゃあ、プロデューサーさんが送っていってあげてください』 『し、しかし…』 『お願いしますね。プロデューサーさん』

18 17/01/13(金)04:47:59 No.402590264

ああ。少しだけ思い出してきた。お酒に強くなんてやっぱりちっともなっていなかった私は、だいたい四杯目を飲み終わったあたりでふにゃふにゃと机に突っ伏して眠ってしまったのだ。 最後の記憶ではだいたい二十一時過ぎくらいだったろうか。 そこからあの二人がお店にあまり長居したとは考えづらいから、今は二十二時の数十分前というところかもしれない。 ああ、美波さんにもまた迷惑をかけてしまったな……いや、でも私がこうなった原因の半分くらいはあの人にある気もするけれど。 『なので、蘭子ちゃんのこと……きちんと、送って上げてくださいね。』 (……ああ、そうか) 美波さんには、たぶん沢山の心配を私はかけてしまっていたのだろう。 余計なお世話……と一蹴することはそれこそ簡単だけれど……けれど、私の事を昔から知ってるともなると、そうなってしまうのはやむなしと言った感じだ。 それは私が1番よく知っている。 よく、思い知っている。

19 17/01/13(金)04:49:00 No.402590290

「わがともぉ…」 「神崎さん、起こしてしまいましたか」 「ん……許そう。その黒き翼で我を安寧の地へと運ぶがよい」 「……はい。それまで神崎さんはご自分の翼を休めてください」 プロデューサーさんは、優しい。 ずっとそうだ。私の事を本当に大切に思って、私の事を理解してくれようとしているのだと、その声色・視線・振る舞いから、いつだって私は彼の優しさを感じる事が出来た。 彼は神崎蘭子の理解者であったが、“神崎蘭子の理解者である彼”を最も理解しているのは自分である……という自負が私にはある。 ーーーだから、分かってしまったんだ。 プロデューサーさんは、私の気持ちに気付いている。 その上で、私からその気持ちを受け取らないように立ち回っていると。

20 17/01/13(金)04:50:09 No.402590318

自分の気持ちを遅まきながらも自覚した私は、彼の婚約を知るまで、何も手をこまねいていた訳ではない。 もう子どもじゃないと分からせるためにファッションを見直した。 勇気を出して二人きりの食事に彼を誘った事だってあった。 そして、彼との絆だったーーー友情の証であった“言葉”を、少しずつ手放した。 けれど彼は、そんな私から距離を置いたのだ。 冷たくされたとは感じなかった。他の誰が見たとしても彼がそうしたとは一切気づかなかっただろう。でも私は気づいた。気づかない筈がなかったんだ。 だって私は……私の事を見てくれる貴方の事を……誰よりも知っているのだから。 それが、私が未だに心の整理を付けられていない理由であり、そして今夜……美波さんがどうしても私を彼に会わせようとした理由なのだろう。 「……神崎さん、今夜は月が半分の空ですね」

21 17/01/13(金)04:50:53 No.402590342

いましがた気づいたような彼の呟きに、瞳を空へと向けると、そこには確かに綺麗な半月の輝く空があった。 半分の月ーーー彼はそう言った。あんなにも、綺麗な月なのに。あんなにも輝いているのに。あの月は……どうしようもなく、半分なのだ。 どうしようもなく……満たされる事はないのだ。 「神崎さん。どうして……私を、好きになってしまったのですか」 胸が、ぎゅうと握りつぶされる錯覚を覚えた。 不意をつかれた訳ではない。分かっていた。この言葉で胸を貫かれることを私は分かっていた。 それでも、耐え難かった。今すぐ耳を塞いで、喚いて、この場から本気で走りさりたかった。ーーーそんなことは、絶対にしてはいけなかった。

22 17/01/13(金)04:52:02 No.402590370

「私は、神崎さんの事が……可愛いのです。だから、いつか貴女に『好き』だと伝えられたら……きちんと、断らなければならないと、思っていました。けれど、断ってしまったら貴女は、何処かへ行ってしまうのだと……そう、思っていました」 震えているのは……私の身体だろうか、それとも彼だろうか 「貴女の前で、貴女に望まれる自分でなくなる事が怖かったのかもしれません。貴女に……神崎さんに失望される事が、貴女を私の手で傷つけてしまう事が、怖かったのかもしれません」 やっぱり、まだ外気が少しだけ低いのかもしれなかった。 吐く息が、妙に暖かく感じるのだから。 「ですが。そんな事を思うこと自体が……心から高潔さを失わせてしまう行いであったのでしょう。 ーーー何より、私がそうやっていくら自分の心を飾り、何をどう言い訳したところで…………私が、あのヒトを諦める事は、出来ませんでした」

23 17/01/13(金)04:54:25 No.402590429

ぽたり 「か、神崎さん……その、よだれが」 ちがうもん。ばか。 「プロデューサー…………すき」 強く、強く強く強く抱きしめた。 彼の頬に縋った。彼の背中に縋った。 彼という今までの私を支えてくれた大きな存在に縋った。 もう二度と、それが出来ないと分かっているように。 強く抱きしめれば抱きしめるほど、激しい痛みが胸を抉る事が分かっているように。 分かってはいても、抱きしめ続けた。

24 17/01/13(金)05:00:20 No.402590567

ぽたり ぽたり ぽたりぽたり ぽたり、ぽたり、ぽたりと この“最後の時”が許される刻限。 それが残り僅かである事を知らせる砂時計のように 私の両の瞳からは、涙が零れ落ちて止まらなかった。

25 17/01/13(金)05:01:48 No.402590603

「……好き」 「…………はい」 「大好き」 「……はい」 「好き」 「……はい」 「プロデューサー……すきです」 「はい」 「……すき」 「はい」 「…………大好き」 「はい…………ありがとうございます」 私の口から雫のようにこぼれる“好き”という言葉たちを プロデューサーの背中と、空に輝いた半分の月だけが聞いていた。 (了)

26 17/01/13(金)05:03:07 No.402590641

>ちがうもん。ばか。 ティンときた

27 17/01/13(金)05:05:37 No.402590705

25レスも使ってた びっくりした ごめんね誰に一番ごめんってらんらんにごめんね

28 17/01/13(金)05:07:46 No.402590764

いやーこんな時間に突然始まってびっくりしたが読み終えれば非常に素晴らしい純愛の物語だった 蘭子がすごく可愛いし武Pへの恋に気づいて彼に相応しい女になろうと努力するのもいじらしくてキュンと来たよ

29 17/01/13(金)05:10:17 No.402590826

正直失恋したらんらんがものすごく可哀想だけど…まあ悲恋ものだからしょうがないよね… でもやっぱ悲恋は少なからずダメージ受けるから他のラブラブちゅっちゅして武蘭が結ばれるss読んで心を回復しないと…

30 17/01/13(金)05:18:18 No.402591069

らんらんが友情を豪語したまらまある程度の年齢まで行ってしまったらマズイよねという旨の話題がよく上がるので それを自分なりに形にしてみたいと思った次第で候

31 17/01/13(金)05:26:40 No.402591321

私はいいと思う

32 17/01/13(金)05:32:01 No.402591457

大作おつ いい話だけど辛いね…

33 17/01/13(金)05:32:32 No.402591472

私もいいと思う

34 17/01/13(金)05:37:16 No.402591592

「」感想ありがとうとても嬉しい… ちなみに元ネタになったシーンがこちらになります su1710615.jpg 恋をしている女の子の流す涙の魅力に取り憑かれてしまって久しい

35 17/01/13(金)05:40:59 No.402591707

寝る前にいい怪文書に出会えた ありがとう

36 17/01/13(金)06:49:35 No.402593700

朝早くにいいものが見れたよ…

37 17/01/13(金)06:50:42 No.402593739

モテスクたのちい?

38 17/01/13(金)06:53:17 No.402593837

いい… まるでワルツのようなんやな…

39 17/01/13(金)06:58:06 No.402593992

待ってたよ…悲恋だけど綺麗な話だった…

40 17/01/13(金)06:58:34 No.402594006

>モテスクたのちい? 管理人さん画像のスレ立ててその後正体指摘されスレ消した大蛇丸ホモおじさんのレス

41 17/01/13(金)06:59:14 No.402594026

朝から荒らすなよおっさん 恥ずかしくないのか

42 17/01/13(金)07:08:28 No.402594401

良い…怪文書です… 大人ぶるらんらんにキュンキュンした

43 17/01/13(金)07:21:57 No.402594958

少女である時もまた眼から雫が尽きる時に終わりを告げるのだろうか 朝から良い物読ませてもらったよ

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