17/01/06(金)00:51:47 「うー... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1483631507335.png 17/01/06(金)00:51:47 [バミューダとゆく年くる年] No.401133935
「うーい、かんぱぁい……」 『乾杯……』 がちん、とやる気なさげにグラスがぶつかり、それぞれがまるで死にかけの蝿のような軌道をたどってから、三人の口元へとたどり着いた。 メグミ、アズミ、ルミの三人は大学選抜大晦日恒例の地獄の殲滅戦大会を最後まで勝ち残り、半日に渡ってお互いに睨み合う悪夢の膠着状態をなんとか打破し、息も絶え絶え最後のミーティングを締めることに成功した。それから当然のように選抜メンバー全員で忘年会へ行きましょうという流れになった。酒の席で普段のしごきの借りを返してやろうと意気込む『上級生の部下たち』のプレッシャーに敗北した弱冠二十歳の中隊長三人娘は、無礼講を謳う第二の戦場で死闘を繰り広げた。10時半。終戦を告げる女神(店員さん)の登場によって戦いは終息し、戦士たちは各々の新天地(二次会)へと旅立った。メグミたちは今度こそ落ち着いて飲みましょう、と近くにあるアズミの家へとなだれ込むこととなった。 それからの話である。
1 17/01/06(金)00:52:22 No.401134035
「お邪魔するわね」 「おっ邪魔しゃーす」 「散らかさないでよ?」 両手にコンビニの袋を下げたメグミとルミのふたりは、アズミに招かれるままにずかずかと部屋に上がり込んだ。勝手知ったる第二の我が家と言わんばかりに遠慮なく冷蔵庫を開いて、スカスカの空間に買ってきた缶ビール、チーズ、ポテトサラダなどを詰め込んだ。そして慣れた様子でクローゼットからハンガーを取り出して、厚手のコートとマフラーをかけてからしまい直した。 洗面所で手を洗っていたアズミは居間に戻るや否やふたりを見て、ちょっとイタズラっぽく言った。 「あら。今日はちゃんとコートかけたのね。偉い偉い」 「馬鹿にして。私たちだってやればできるわよ。ねえルミ」 「まあ一年も注意され続けりゃね……」 きちんと手洗いうがいを済ませた三人は、居間の中央に我が物顔で鎮座する物体に視線を送り、同時ににやりと笑みを浮かべた。 その物体の名は、冬を支配する神の社、すなわち炬燵である。
2 17/01/06(金)00:53:02 No.401134157
「コタツ、スイッチオーーーーン!!」 『イエーーイ!!』 スイッチを付けた瞬間、ソックスを脱ぎ捨てた三人の足が同時に炬燵内に滑り込んだ。もちろんまだ温かいはずもないのだが、少しでもその恩恵に預かろうというのだろうか。炬燵内で六本の足ががっちりと絡み合い、互いの体温がゆっくりと伝わり合う。チームワークに優れた彼女たちは自らのスペースを確保しようと蹴り合ったりすることはない。というより、足が離れて冷たい空気に触れるのが嫌なのだ。 暗黙の了解のうちに下半身を微動だにさせず数分間を待つと、ようやく炬燵からじんわりと、凍った足を溶かすような恵みの熱が出始めた。その熱が彼女たちの心まで溶かしたかのごとく、三人の表情はふにゃっとほぐれていった。 「あったかいわぁ……」 「ルミあんた、寒いとこ慣れてんじゃないの? 継続でしょ?」 「あー、陸の寒さはなんか違うんだよね……。芯まで冷える感じだわ」 「そういうもん?」 「さあ」
3 17/01/06(金)00:53:26 No.401134212
長崎の高校出身のメグミ、岡山の高校出身のアズミにはピンとこないようで首をかしげた。ルミはふたりの反応には興味なさげに、両手を炬燵に突っ込んで体をぶるりと震わせた。 少したって、部屋の中まで温まってきた頃。メグミはえいっと炬燵から抜け出して、冷蔵庫からビールとつまみを取り出してきた。誰が炬燵から 出て取りに行くのかという定番の争いが起きなかったことに、アズミとルミは驚愕の表情を浮かべた。如何にしてじゃんけんを制してやろうかという幼稚な試みが打ち砕かれたことで、ふたりはメグミに後光が差したのを確かに見た。 「メグミ、あなた……」 「女神? 女神なの?」 「まーまー。もっと褒めていいわよ。まあ私? これでも? リーダーだし? 偶にはいいところ見せておこうかなって」 ふたりは、ははぁーっ、と頭を下げて拝み倒した。もちろん下半身は炬燵の中でだらけきっているのだが、メグミはそのような些事は気にも止めない、といった懐の深さを見せている。もしかすると単にそこまで気が回っていないだけかもしれないが、三人の誰にとってもどうでもいいことであった。
4 17/01/06(金)00:54:53 No.401134435
夜もさらに深まり、乾杯の音頭もなくなあなあでアルコールが入り始めてからしばらくたち、時計の針が11時半を示した。ルミはだらけきった体勢で、大晦日にしか流れない過激なバラエティ番組を見ながら笑っている。メグミは既に悪い酔い方をしているのか、座った目つきで空のビール缶を握りながらぼそぼそと不穏な単語を呟いている。 友人たちのいつもの醜態を見たアズミがそういえば、とぽつりと漏らした。 「年越しそば、買ったっけ?」 寝転がっていたルミがアッ、と声をあげて起き上がった。 「そうだ……。何か忘れてると思ったらそれだったかぁ……」 「どうする? 今からコンビニで買ってくる?」 「無理無理このめちゃ寒いのに外出たくないって! アズミ! 買いためてあったりしない!?」 「え? ええと……ちょっと待ってて」
5 17/01/06(金)00:55:22 No.401134514
アズミはカップ麺なんてあったかしら……とつぶやきながら台所を漁り始めた。ルミは「自炊できない大学生なんだからカップ麺くらい絶対ある」と力説し、同じく自炊のできない大学生であるメグミも深く頷いた。それを聞いたアズミはむっとして、失礼しちゃうわ、と言ったが、台所から分厚い円盤状の物体を発見すると、ごまかすように苦笑を浮かべた。 「お湯を沸かして」 「注いで」 「3分待って」 『いただきます!』 三人で手を合わせて、同時に勢いよくずずっとすする。まだ熱かったようで、三人そろってあち、あち、と騒いで、笑う。 ルミは湯気で曇った眼鏡が邪魔だと喚き、アズミは今年こそお節料理が食べたいわねぇとぼやき、メグミはこの麺あんまり美味しくないな、と思いながら、変わらないふたりの様子に安心を覚えた。
6 17/01/06(金)00:55:58 No.401134603
結局今年も、もてない女三人で年越しかぁ。ちゅるん、と麺をすすって目を開くと、ふたりがいる。 私以外のふたりのこと。 別の高校出身で、大学も別。一年生の後半に選抜入りして、そこで初めて出会った。二年生になって、同時に中隊長に選ばれた。二年生にして中隊長に選ばれるなんてすごいことではあるけれど、なんでこいつらと、って何度も思った。私の方がすごいんだ、って、子供じみた考えね。 今にして思えば、私たちをそういう競争関係に置きたかったのかな、家元は。 お酒が大好き。モテない。戦車のことが大好きで、勉強なんて知ったことじゃない。まあ、それは私もだけれど。あと、愛里寿隊長を溺愛している。まあ、私が一番愛里寿隊長のことが好きだけど。 気が合うのは確かだけれど、戦車のこと以外じゃあ趣味も合わない。世間ではバミューダ三姉妹だなんて持て囃されてはいるが、選抜を離れればライバルだ。今年だって、何度も何度も、勝っては負けた。 きっと心の底では誰よりも通じあっているけれど、だからこそ、誰よりも負けたくない。 来年こそは、私が勝つ。 『…………』 まあ、でも。今くらいは、ね。
7 17/01/06(金)00:56:20 No.401134653
『ねえ、ふたりとも』 『あっ』 声が重なる。あまりのタイミングの良さに、揃って噴き出す。まったく、どれだけ仲が良いんだか、私たち。 アイコンタクトを交わす。 じゃあ今度は、同時に行きましょうか。オッケー。いいわね。 時計が0時ぴったりを示す。新しい年が来た。 せーの、で。 『今年もよろしくね!』
8 17/01/06(金)00:56:49 No.401134745
と、まぁ。 これが大晦日が終わるまでのお話。 28時間後。 「うーい、かんぱぁい……」 『乾杯……』 がちん、とやる気なさげにグラスがぶつかり、それぞれがまるで死にかけの蝿のような軌道をたどってから、三人の口元へとたどり着いた。
9 17/01/06(金)00:57:08 No.401134784
あれから妙にテンションの上がった三人は、体力の続く限り宴を続けた。浴びるように酒を飲み、手当たり次第に食べ物をかっ喰らった。酒がきれてはコンビニへ走り、つまみがきれてはコンビニに走り。寝て。起きて。また飲んで。 再び日付が変わる頃には、死んだ目で酒を啜り呑むゾンビとなり果てていた。 「……ぅぇっ」 「おい」 「ちょっとメグミ……私の家よ。吐くならトイレ行っ、うっ」 「おい、アズミ」 「……っぐん。だい、だいじょぶ。大丈夫よ」 「やめろってお前……。貰いゲロしそうになるから」 「ぅぇろ、ろっ、うっろろろろ」 「うーわメグミ吐いた。おい。アズミ。大丈夫?」 「いやもう無理。トイレ行くわ」 「おう……」
10 17/01/06(金)00:57:55 No.401134910
ルミはこの惨状の中、比較的無事な方であった。彼女は日頃から度数の高いお酒に慣れており、加えて体質的な要因もあるのか、三人の中では最もお酒に強かった。加えて芯の芯では冷めたところもあるルミのこと、三人が三人とも酔い潰れる可能性も考慮していた。場のテンションには(比較的)飲まれずに、累計で普段の飲み会の2倍弱程度しか飲んでいない。 冷静だったルミですら普段の2倍。アズミ、メグミたちについては言うまでもない。 アズミは日中に一度ピークを迎え、その時には部屋中に上半身のすべての衣服が投げ捨てられていた。笑っていたかと思えば急に泣き出し、何事かを悲痛な面持ちでさめざめと嘆いたりした。最終的には、メグミの胸元に泣きついて一度吐いた。そこからはある程度冷静さを取り戻し、メグミを見守る立場に着いた。 メグミはさらに酷かった。端的に言えば、ゲロだ。泣いて、起きて、吐く。少し落ち着いたかと思えば、ルミの静止も聞かずに飲む。これを24時間に渡って繰り返した。 地獄だった。 (普段どれだけストレス貯めてたらこうなるんだ、こいつら)
11 17/01/06(金)00:58:18 No.401134966
ルミは水を呷りながら呆れた目でふたりを眺めた。部屋に散乱した吐瀉物はすべてルミが処理した。親友のものとはいえ気持ち悪いのは確かだが、こういうことは助け合いの精神でいこう、と自分を鼓舞してやりきった。 さてふたりは寝てるし、暇つぶしにケータイでもいじろうか、と画面を覗くと、そこに表示されていた連絡に心の臓を掴まれた。 「……え?」 「ふぁぁ……?」 「ねえ! ちょっ……これ! これ見なってメグミ寝てないで起きろっ」 「なになぁにルミぃ……。ちょっと寝かせてよ。もう飲まないから……」 「ふぁ……どうしたのルミ? それ……ライン?」 「いやマジでこれ……」 要領を得ないルミに困惑したメグミとアズミは、言われるがままルミのケータイの画面を覗き込んだ。 そこには。
12 17/01/06(金)00:58:54 No.401135055
『明けましておめでとうございます。ちょうど愛里寿と一緒に近くに寄ることになりました。アズミさんのお宅にいらっしゃるんですってね。隊員のみんなに聞いたわ。2日の午前中に伺いますから、お掃除よろしくね💛』 「島田、千代、より……」 『…………………………………………』
13 17/01/06(金)00:59:19 No.401135120
「ルミィ! 今何時ぃ!?」 「5時! 下手したら9時には来るよね家元!?」 「間に合わないっての! ルミあんた、んな大事な連絡ならさっさとしなさいよ!」 「知るか! 潰れてんのが悪いんだろ!」 「頭痛いいいぃ!」 「うるさい!!」 『あーもう!』 『来年は、絶対絶対ぜ~ったい! 彼氏つくって!』 『こいつらとは年越しなんてしなーーーーい!!!!』 おわり
14 17/01/06(金)01:00:29 No.401135288
テキスト su1701392.txt
15 17/01/06(金)01:02:31 No.401135577
炬燵いいよね…
16 17/01/06(金)01:03:38 No.401135721
どうしようもねぇなこいつら!…でも大学生ってこんな馬鹿やるな…
17 17/01/06(金)01:04:38 No.401135872
戦車から離れたら普通の女子大生だから仕方ないね…
18 17/01/06(金)01:10:03 No.401136554
ゲロまみれの正月とは…
19 17/01/06(金)01:14:42 No.401137120
いい...
20 17/01/06(金)01:15:15 No.401137189
>「おっ邪魔しゃーす」 ルミのセリフだとすぐわかる
21 17/01/06(金)01:17:37 No.401137500
らぶらぶ作戦の 選抜なんて一部の女子にしかモテませーん! の叫びが全編に渡って響いておられる
22 17/01/06(金)01:18:37 No.401137636
このままずっとずるずる独身のまま行くんだろうな…
23 17/01/06(金)01:20:46 No.401137914
この三人はほんとにこんな感じだろうな…
24 17/01/06(金)01:25:14 No.401138493
お母さまは全部わかった上でわざわざ行こうって言い出したな
25 17/01/06(金)01:26:30 No.401138642
>勝手知ったる第二の我が家と言わんばかりに遠慮なく冷蔵庫を開いて、スカスカの空間に買ってきた缶ビール、チーズ、ポテトサラダなどを詰め込んだ。 この感じ…よくわかるなァ… 学校終わって居酒屋行って更に二次会三次会 それから仲間の部屋で朝まで飲んで笑って男も女も皆で雑魚寝 あの楽しい時間がずっと続けばいいって思ってたっけ… 自分の大学時代思い出して少し切なくなっちまった…
26 17/01/06(金)01:29:51 No.401139035
愉しい話だけどよォ… この歳になるとよォ…いけねえな ちょっと泣く…
27 17/01/06(金)01:32:14 No.401139328
>『あーもう!』 >『来年は、絶対絶対ぜ~ったい! 彼氏つくって!』 >『こいつらとは年越しなんてしなーーーーい!!!!』 多分去年も言ったし来年も言うだろうな
28 17/01/06(金)01:35:18 No.401139714
>戦士たちは各々の新天地(二次会)へと旅立った 焦土作戦すぎる
29 17/01/06(金)01:40:50 No.401140414
この3人が数年後には審判3人組みたいになって 戦車おでんの屋台でクダ巻くようになる
30 17/01/06(金)01:44:41 No.401140812
大学生ってこういういきものだよな… ちょっと懐かしい
31 17/01/06(金)01:48:41 No.401141283
コンビニで安い赤玉ワインとか杏酒とか買い込んでワイワイやるのよ
32 17/01/06(金)01:54:58 No.401141958
>このままずっとずるずる独身のまま行くんだろうな… 救いは無いんですか!(恋愛的な意味で
33 17/01/06(金)01:58:12 No.401142295
>>このままずっとずるずる独身のまま行くんだろうな… >救いは無いんですか!(恋愛的な意味で 援軍来たらず!無条件降伏!