17/01/06(金)00:03:47 怪文書... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1483628627630.jpg 17/01/06(金)00:03:47 No.401125076
怪文書ですご注意ください
1 17/01/06(金)00:04:07 [1/8] No.401125160
梅雨が明けた夏の始め、ようやく暗くなってきた空を見ながら残っている生徒たちに帰宅を促す。 最初はチーム内でしか話さなかった皆が、他チームとも話し戦術や動かし方について真剣な表情で相談しあう。 チームになってきた悦びを噛み締めていると、後ろから誰かが近づいて来たことに気付く。 「小山先輩。聞きたい事があるんですが」 近くを歩いただけかな?と思って身体を避けた私は山郷さんにそう話しかけられ、彼女が私に質問してきた事にまず驚いた。 うさぎさんチームの皆は私よりも桃ちゃんに懐いている。そう思っていたからだ。 「学校生活で何かあったの?」 「いえ、生徒会の事で質問があるんです」 私たち生徒会は横暴な手法で好き勝手にしているという悪評が多く、どちらかと言えば敵の多い役職だ。 興味を示すということは生徒会に入りたいのだろうか? 「どうして河嶋先輩は片方だけの眼鏡をかけてるんですか?チームの皆と話題にしてから気になっちゃいまして」 なんだぁ、と脱力しつつも妙に真面目な顔をする彼女に笑いかける。 「桃ちゃんのモノクルはね、会長からの贈り物なのよ」 「会長が?干し芋以外にも興味があったんですか!?」
2 17/01/06(金)00:04:31 [2/8] No.401125249
彼女の持っている会長の印象に思わず吹き出してしまう。 「会長だってちゃんとする時はしてるのよ?そうね、長くなるかもしれないから座って話しましょうか」 両手を体の前で握りしめ、嬉しそうに「はい」と答える山郷さんとともにベンチに向かう。 ガチャンとジュースが落ちてくる音を聞き、自販機の抽選に少し胸を踊らせつつ飲み物を取り出す。 やっぱり外れ。卒業までに一度は当てたいな。そんな事を考えながらベンチに座る山郷さんに声をかける。 「お茶で良かったかしら」 「すみません聞きたいって言ったのは私の方なのに。お金、払います」 立ち上がって財布を出そうとする姿を制し、いいからと肩を叩いて座らせる。 「気にしないでいいのよ。あなたたちが戦車道を選んでくれただけで嬉しいんだから」 「そうなんですか?じゃあ、ごちそうになります」 ぺこりと頭を下げる山郷さんを見て、チームで見せるはしゃぐ姿だけじゃない一面を知りまた少し驚く。 「桃ちゃんのモノクルだったわね。どこから話せばいいかな。ちょうど一年前の今くらいだったっけ」 私はつい最近の事の様に昔を思い出す。桃ちゃんが声をあげて泣き続けてていたあの日の事を。
3 17/01/06(金)00:04:48 [3/8] No.401125303
私たち三人が生徒会に入ったのは別々だった。 一年の頃から続けているのが会長で、私と桃ちゃんは二年から。 その頃から桃ちゃんは頑張りすぎて背負い込んでは潰れちゃう、そんな危なっかしい子だった。 毎日先輩達以上に働こうと頑張ってる桃ちゃんを、会長は少しでも楽にさせようとしてくれていたのよ。 仕事を効率良くする様にやり方を教えたり、得意な先輩を教えてあげたり。 それでも桃ちゃんは、感謝よりも反骨心で会長に食ってかかったりもしたのよね。 そこまで伝えた時に隣の山郷さんに目を向けると、とても真剣な表情をしている事がわかったので相手をリラックスさせようとお茶をひとくち飲む。 「…そんなに緊張しながら聞かなくてもいいのよ?順序だてて話さないと私がわからなくなるだけだから」 「いえ、緊張とかじゃなくて知らない先輩たちの姿が面白くて聞き入っちゃいました」 そう言いながら、慌てて後を追う様に山郷さんもお茶を飲む。 「そっか、そう思ってもらえたならこっちも嬉しいわね」 「続き、もしよろしければ教えてください」 絵本が好きな子供と接するのってこんな感じなのかな?そんな事を思いながら私は思い出話に戻っていく。
4 17/01/06(金)00:05:05 [4/8] No.401125358
梅雨の長雨の中でも桃ちゃんは自分以上の物を背負っちゃって、回りのサポートを受けながらなんとかこなしてたわ。 えーとあれはやっぱり暑くなり始めた頃だから、やっぱり今くらいの時期ね。 桃ちゃんが大きな失敗をしてしまったの。何したのかは言わないでおくね。 それで私や会長だけじゃなく、先輩たちにもフォローしてもらう事になっちゃって。 桃ちゃんは凄く落ち込んでたわ。 負い目を感じたからかせめてもの償いなのか、準備室に一人で入って作業してたの。 手伝おうかなって思って私が行ったら、すすり上げる音が聞こえちゃって。 それで少し待って、それから一声かけて入ったわ。 そうしたら桃ちゃんがぽつぽつと話し始めたわ。 なんとかやってみせよう。迷惑をかけた分取り戻さないと。それなのに空回りしちゃう。 そう言ったらもう言葉にならなくて。 私はね、大丈夫って言って抱きしめてあげた。 それしか出来なかった。 そんな時に扉が開いて、会長が入ってきたんだ。 ずかずかと、力強く。そしてまっすぐな目をして。
5 17/01/06(金)00:05:40 [5/8] No.401125487
「河嶋、これ。こっちは小山のだ」 会長は真四角な宝石箱みたいなケースを二つ差し出してきてくれたわ。 そうそう。呼び方も今みたいにだらけた感じじゃなく、河嶋ってしっかり呼んでたのよ。 まあ、私は今も同じままだけど。 私たちも会長じゃなく角谷さんって呼んでた…あ、知ってるかわからないけど角谷って会長の名字ね。 「角谷さん。これは?」 しゃくりあげて聞けない桃ちゃんの背中をさすりながら、私が代わりにそう聞いたの。 「開けてみなよ。私からのプレゼント。噛み付いたりはしないよ」 会長はイタズラっぽく笑いながら、そう伝えてくれたわ。 桃ちゃんは涙をこらえながら、その箱を受け取ったわ。 開けると、その中にはモノクルが入ってた。 それを見ても私と桃ちゃんは何なのか理解出来ず、ただ呆然と見てたのを覚えてる。 「河嶋、それ掛けてみろ。小山はちょっと待て」 モノクルどころか眼鏡も掛けてない桃ちゃんは、四苦八苦しながらなんとか鼻に載せてたっけ
6 17/01/06(金)00:05:58 [6/8] No.401125557
「河嶋。今度からそれ掛けていこう」 会長からそう言われた私たちは、真意がわからずにただ聞いていた。 「お前はいつも一人で背負い込みすぎてる。だけどさ、私たちも居るんだって事を忘れないでくれ。 両目でしっかり見るんじゃなく、片方でぼんやり見るくらい気楽に行こう。忘れないように掛けておいてくれ。背負った分の半分くらいは私たちも手伝うから」 片手を目で覆い、笑いながら言ってくれた。 それを聞いた桃ちゃんはまた泣き出したんだ。 子供みたいに、ありがとうって何度も言いながら。 「小山と私は左目用。度は入ってないから安心して」 「ありがとう、角谷さん」 「まあ、つらくなった時に思い出してもらえればそれでいいからさ」 照れくさそうに頬を掻いた会長は、そのままひらひらと手を振って部屋を出て行ったわ。 その日から今も、桃ちゃんはずっとモノクルを付けているのよ。
7 17/01/06(金)00:06:15 [7/8] No.401125620
「これでおしまい。…思ったより長くなっちゃったね。ごめんね付き合わせちゃって」 暗くなる空を見ながらそう言うと、胸の前に手を出しながらブンブンと首を振る。 「いえ!凄く面白かったです。河嶋先輩の眼鏡の話とか、昔の会長さんとか」 「そう言ってもらえるなら良かったわ。そうだ、私からも質問が一つあるんだけど聞いてもいいかな?」 「はい、私にわかる事でしたら」 「どうして私に聞きにきたの?」 そう伝えると居心地が悪そうに手を合わせ、視線がキョロキョロと飛び回る。 その顔はほんのりと赤く、何か照れている様に見えた。 「ああ、怒ってるわけじゃないの。うさぎさんチームはみんな桃ちゃんに懐いていると思ってたから、どうして私だったのかなって」 「みんなで話してはいたんですけど、河嶋先輩に直接聞くのは失礼なのかなと思いまして…」 「そっか。まあ桃ちゃんは余計な事を気にするなーって怒るかもね」 クスクスと笑っている私に、山郷さんは先程よりも赤くなっている顔を向けてくる。 「あのっ!」 そう言われたものの、次の言葉は聞こえて来ない。 無理に聞くのも悪いと思い、私は彼女の言葉を待つ。
8 17/01/06(金)00:06:30 [8/8] No.401125680
数秒間の時間が過ぎ、山郷さんは意を決して息を吸い込む。 「あの!また話を伺いに来てもよろしいでしょうか!」 「そんなに楽しく聞いてくれたのなら嬉しいわ。そうね…二人に怒られない事なら教えてもいいかな?」 「はい!ありがとうございます!」 「私も生徒会の仕事があるし、暇な時にでも。あと、たまにでいいから一年生達の話もしてもらえると嬉しいな」 「わかりました!仕入れておきますのでよろしくおねがいします!」 「そんなかしこまらなくていいのよ。私も久しぶりに思い出せて楽しかったわ」 「はい、今日は本当にありがとうございました」 山郷さんはきちんと頭を下げ、カバンを胸に抱えて小走りで去っていく。 桃ちゃんに気を使ったみたいだし、一年生にしてはしっかりしてるなぁ。 頭の中にあった子供っぽいという評価を書きかえつつ、私は笑顔で手を振る。 生徒会役員である事で遠巻きに見られる事が増え、甘えて来るのは桃ちゃんくらいになっていた私はなんだか新鮮に感じてしまう。 今度は何の話をしてあげようかな。アレなら話しても大丈夫、あっちは駄目だよね。 次の機会にどこか心を踊らせながら、私は校門を後にした。
9 17/01/06(金)00:38:10 No.401131654
あら…いい過去話…
10 17/01/06(金)00:38:28 No.401131707
立場とさおりんの存在がでかすぎてあまり話題にならんけど柚子ちゃんもかなり母性あふれてるよね それに山郷ちゃんがメインでただただ嬉しいよ...
11 17/01/06(金)00:39:19 No.401131844
桃ちゃんらしい
12 17/01/06(金)00:40:06 No.401131976
生徒会の過去回想させるなら適任だよね
13 17/01/06(金)00:40:39 No.401132063
静かでしっとりと語られる雰囲気が 柚子ちゃんらしくて… いいじゃん!
14 17/01/06(金)00:42:15 No.401132340
ウサギさんチームと桃ちゃんの意外なでこぼこ関係いいよね 会長と柚ちゃん目線で見るときっと和む
15 17/01/06(金)00:45:19 No.401132913
よかったよ! ただ本編で柚子ちゃん本人が 「私達一年の時から生徒会やってて」 て台詞があったからそこだけ少し引っ掛かたかな
16 17/01/06(金)00:45:44 No.401132983
語り尽くせない想い出話をもっと聞きたい
17 17/01/06(金)00:49:09 No.401133519
中の人のタイミング的に柚子ちゃんの話来ないかなぁ と思ってのでいっぱい嬉しい
18 17/01/06(金)00:49:35 [sage] No.401133594
>よかったよ! >ただ本編で柚子ちゃん本人が >「私達一年の時から生徒会やってて」 >て台詞があったからそこだけ少し引っ掛かたかな mjk 内容はそんな影響無いのでまとめる側では直します 情報ありがとう
19 17/01/06(金)00:51:02 No.401133810
付けてるチョーカーについても秘密を山郷ちゃんに話してほしい きっと翌日にはウサギさんチーム全員に伝わる
20 17/01/06(金)00:53:19 No.401134199
聞き手が山郷ちゃんなのが上手いと思った 澤ちゃんだったらあえて聞こうとはしない感じがするし 他のメンバーなら桃ちゃんに直球で聞いてワチャワチャになりそうだし
21 17/01/06(金)00:54:19 [sage] No.401134353
3の最初の二行修正で >私たち三人が生徒会に入ったのは別々だった。 >一年の頃から続けているのが会長で、私と桃ちゃんは二年から。 を 私たち三人が生徒会に入ったのは同じ一年の時。 だけど、会長と桃ちゃんは反りがあわなくていつも意見が食い違ってたわ。 にしておきます
22 17/01/06(金)00:57:04 No.401134778
>mjk >内容はそんな影響無いのでまとめる側では直します >情報ありがとう いやいや…そんな恐縮しちゃう でも本当に良かったよ 優しい時間が流れているような描写が全編にあって
23 17/01/06(金)01:02:13 No.401135523
全体的にぽわっとしつつ緩みきらない適度な雰囲気 すき
24 17/01/06(金)01:02:18 No.401135536
>桃ちゃんは凄く落ち込んでたわ。 >負い目を感じたからかせめてもの償いなのか、準備室に一人で入って作業してたの。 >手伝おうかなって思って私が行ったら、すすり上げる音が聞こえちゃって。 桃ちゃん…いじましいやら可愛いやら 桃柚子コンビってかたく絆で結ばれてそうで大好きだ ありがとう…いい話読ませて貰った