虹裏img歴史資料館

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24/03/13(水)00:56:24 泥の夜 ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1710258984472.jpg 24/03/13(水)00:56:24 No.1166981326

泥の夜 https://seesaawiki.jp/kagemiya/ https://zawazawa.jp/kagemiya/

1 24/03/13(水)00:58:21 No.1166981807

今日は風呂が多めで良き日だった

2 <a href="mailto:1/3">24/03/13(水)01:04:15</a> [1/3] No.1166983288

スミルグラ枢機卿は法務に使うデスクへ深く腰掛け、短く溜め息を漏らした。 今更大仰に眉間を揉んだり頭を抱えたりなどしない。本来慣れるべきことではないが、繰り返し続いてしまえば悟りもする。 そも今こうして執務机の前に立つ者を迎え入れた時から分かっていたことではある。こうなると。 「君は騎士団の面々とともに任地に向かったわけだね。オランダのマーストリヒトだ」 「はい、その通りです!」 「都市の郊外において吸血鬼の跋扈が確認されていた。半ば異界化していたとも聞く」 「はい、そんな感じでした!」 「……階梯にしてVI、完全に死徒として成立した強力な異端もいたそうだが」 「あぁ、確かに他よりちょっと強いのもいましたね」 ───“ちょっと”。 彼女の所属している騎士団がスミルグラへ泣きついてくるわけだった。 仮ではあるが育て親であり後見人という立場をしている彼へこうして彼女の苦情が寄せられるのは今に始まったことではない。 「つまり君は騎士団の包囲が完了するのも待たず吸血鬼どもの領域へ突入し、ひとりきりで全て滅したと……」 「はい、皆を待っている間に犠牲者が増えるのは主もお喜びにならないかと思いました」

3 <a href="mailto:2/3">24/03/13(水)01:04:33</a> [2/3] No.1166983359

「そうだろうな。君はそれが出来てしまう子だ」 そうとも。最初から分かっていた。この子の能力が異次元だなんて。 たまたまスミルグラが聖騎士団の管理を担う枢機卿であったから聖騎士にしただけで、本来ならば代行者向きの存在だ。 いや、この子の桁外れの実力ならば代行者として長じればいずれかの埋葬機関に列席したとしてもおかしくはない。 質ではなく数で圧倒するのが聖騎士団の本質だ───ひとりだけこのように突出している彼女を持て余すのも無理はなかった。 要約すると『うちではもう扱いきれない』という内容の、丁寧な文体に悲鳴が滲んでいるような通告書の上へ漫然と視線を滑らせる。 そしてスミルグラは目の前で背筋を伸ばして立っている、まだ少女の面影さえ残る女を見つめた。 飴細工を思わせる艶めかしい肌。月光を梳いた銀糸の髪。そして溶けた鉄のように妖しく光る紅い瞳。出会った頃から些かも変わっていない。 こうして彼女を抱え込んだことで様々な労苦を背負い込んだが、あの時の直感だけは神に誓って間違いはなかったと断言できる。 ───この子を繋ぎ止めねばならない。この子は我々にとって大いなる福音にも、夥しい災いにもなる───

4 <a href="mailto:3/3">24/03/13(水)01:04:47</a> [3/3] No.1166983418

他の枢機卿らと比べれば凡庸に過ぎるという自己判断を下すスミルグラにとって、その天啓こそが主より賜った唯一のものと確信できることだった。 「父上?お父上、どうなさいましたか?」 「……聖堂では父上ではなく枢機卿と呼ぶよう教えただろう。君は私の娘である前に聖騎士なのだ」 信徒としても些か軽薄な態度と言葉遣いの彼女に呼びかけられ、スミルグラは咳払いする。 再び所属の騎士団から追い出されたということを伝えても彼女は特に傷つきもしないだろうが、それはそれとして次の彼女の行く先を用意しなくてはならない。 あるいは我が元から手放して代行者に推挙するのも間違いではないのかもしれないが、それは最後の手段だった。 扱いに難儀するとはいえ彼女の戦闘力は聖騎士団にとっても惜しいし、それにこの“怪物”に対しても情がある。 こういうところが周りから憐憫卿だのと呼ばれてしまう理由かとまた嘆息したスミルグラはふと思いつきを口にした。 「いっそのこと、ひとりでひとつの騎士団というのはどうだろう」 「父上?」 「……父上はやめなさい」 雪降る12月にナンシーと名付けた名無しの娘はきょとんとした顔でスミルグラを見つめていた。

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