24/02/15(木)02:06:04 泥の深... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1707930364041.jpg 24/02/15(木)02:06:04 No.1157524305
泥の深夜・続 https://seesaawiki.jp/kagemiya/ https://zawazawa.jp/kagemiya/
1 24/02/15(木)02:09:28 No.1157524897
>>「ない。キャスターのことを私は好かなかったが、彼女は彼女なりに英霊としてその力を尽くした。それは認める。 >> キャスター、そしてライダーの決断に対して私が責任を感じればそれは彼らに対しての非礼となろう」 >キャスターが聞いてたら大笑いしそうなデレ でも根がクソ真面目で人間大好きなシャル子らしい愚かさと誇り高さでもあるから素敵
2 24/02/15(木)02:10:04 No.1157525018
ふと、やや肌寒さを感じたので、ぼくは机の上に置いてあったリモコンへ手を伸ばした。 動作に反してやや豪奢すぎるような電子音のチャイムが鳴り、頭上でファンが回る音が聞こえ始める。 ちょうど書斎の机の右横にある窓のカーテンを捲ってみると、白い綿雪がふわりと街を飾り付けていた。 7階のマンションの窓から見下ろす地方都市はまだアスファルトの色の方が多いけれど、この気温であれば、きっと夜になるまでには白の面積の方が多くなっているだろう。 日本国内としては有数の豪雪地帯に数えられるこの街に居を構えて、もう6年目になる。本当ならばもっと雪深い土地に住みたいと思ってはいるが、生活の利便性を考慮するとここぐらいが丁度いい落としどころだった。 カーテンを元に戻して、ぼくは再び目の前の原稿用紙へ向き直る。小説家の執筆ツールが紙からコンピュータへ置き換わってもう半世紀近い。だが、僕が物語を描く原体験はどうしても紙の上だった。すっかり文章作成ソフトと校閲ソフトを手足のように使いこなすようになった今になっても、このシリーズだけは紙へペンを走らせなければ、ぼくは世界を紡ぎ出すことができない。
3 24/02/15(木)02:10:54 No.1157525157
全ての始まりは一つのノートで、そこから始まった数奇な縁は今もまだ続いている。 原稿用紙の上を鉛筆が踊る。 そのカリカリという音と、柔らかなエアコンの駆動音だけが響く書斎で、けれどぼくはまた物思いに耽る。今日はどうにも集中できなくていけない。締め切りだって近いのに。もしかしたら今日新しく買ってきたこのアロマのせいかもしれない。鼻腔をくすぐるカモミールの香りは、学園時代の寮のバスルームのものとあまりにも似通っていたから。カモミールの芳香の文字列に懐かしさを刺激されたのがいけなかった。集中力を高めるつもりで買ったのに、否応なしにあの頃を思い出させてしまう。 ふと、脳裏にふわりとした桃色の髪がよぎる。 それから、しっとりと濡れた無防備な肩も。 ……顔が熱くなるのを感じる。もういい歳をして情けない。もっと特別なところだっていくらでも見たというのに、ぼくには進歩というものがないのだろうか。 いつだってぼくの心は、あの頃からきみに囚われたままだ。
4 24/02/15(木)02:11:21 No.1157525226
結局、魔術の道を歩むことはなかった。才能がなかったのだ、当たり前の話である。学園で学んだことは、何一つ今の人生に活きてはいない。 けれど、あの時学園へ通ったことは決して無駄ではなかった。 代わりの道を見つけたのだ。ぼくの生きる道を。一生をかけて追いかけていきたい背中を。抱きしめていたい肩を。 だからぼくは描くんだ。 きみの物語を。 きみの歩む道を。
5 24/02/15(木)02:11:45 No.1157525291
原稿用紙の上を鉛筆が踊る。 愛するきみの物語が紡がれていく。 そうやって、きみという存在が形作られていく。 あぁ、でも。 そろそろ帰ってきてよ、ジゼ。
6 <a href="mailto:蘭「」">24/02/15(木)02:13:33</a> [蘭「」] No.1157525618
お風呂イラストありがとうございました
7 24/02/15(木)02:14:30 No.1157525773
>お風呂イラストありがとうございました お風呂に入れる fu3138215.png
8 24/02/15(木)02:20:11 No.1157526739
更に蘭ちゃんをお風呂に入れる fu3138223.png
9 24/02/15(木)02:20:49 No.1157526850
お風呂狂だ
10 24/02/15(木)02:22:07 No.1157527078
綺羅星組もどんどん風呂に入れていけ…
11 24/02/15(木)02:22:25 No.1157527138
ありがたい…
12 24/02/15(木)02:24:36 No.1157527506
風呂の鍵開けられます キャスター
13 24/02/15(木)02:27:58 No.1157528084
風呂画像貼ってるのがキャスターな気がしてきた 魔女なら出来るだろう
14 24/02/15(木)03:11:15 No.1157533444
───そうして、またひとつの営みを守った。 ノルウェーにある丘の頂から街を見下ろす。 降雪によって閉ざされた街に灯る光が彼らの稀な無事を告げている。 意味がある行いではない。価値がある行いではない。故がある行いではない。“最後の魔女”にとってそれはすべき行いでもしたほうが良い行いでもない。 ただ、この身は世界と交わした契約上、ひとつところに留まれなくて。 忘れ去られるべき存在で。否定されるべき存在で。消え去るべき存在で。 それでたまたま辿り着いた先にあった結び目を解いて、世界全体からすればどうでもいいものを拾っただけだ。 溜め息を漏らす。零度を下回る外気によって吐息が凍りつき、白く濁って瞬く間に溶けていく。 その境界を見つめながら思いに耽った。 旅をした。旅をした。旅をした。 それが世界に拒まれた者への罰だとばかりに、醜いものをたくさん見た。 存在してはいけないものへの負債とばかりに、悲しいものをたくさん見た。 ひとつ救いだったのは汚いものを見つめるのには慣れてしまっていたことだ。 人間に対して高望みをしなかった一方で、中でも取り分け鈍く輝く者だっているという体験は私を長続きさせた。
15 24/02/15(木)03:11:32 No.1157533464
そうとも。薄く笑う。 どこかの馬鹿がある愚かな女のことを物語にしてしまったから、陽炎のように消え去るはずの女は今もこうして息を吐いている。 物語は語り継がれる限りには永遠だ。ああ、本当に余計なことをしてくれた。 お前だけに割きたかった時間はどうでもいい他人を助ける時間に化けた。お前と共にいるだけの時間を世界が許さなかったから。 どうでもいい他人はいつしか守ってやりたいものに化けていた。全部お前のせいだ。お前が私を物語にしてしまったから。 お前と共にいるために誰かを助けた。誰かを助けることは、お前と共にいた。いつしか誰かを助けることが私の有り様になっていた。 笑っちゃうよな。お前、私のことをそんなふうに見ていたのか。口さがなくても誰も見捨てられないような、そんな甘っちょろい女に。 ああ、でも。こうして守られた光を見つめて思う。 会いたいな。繰り返し会うたびに世界から睨まれて、共に過ごせる時間が少しずつ減っているのは分かっていても。 蘭。私そのもの。未来を諦めて俯いていた私に明日をくれた人。 「…ひと目だけなら、会いに行ってもいいかな」 たったそれだけ。可能性を囁くだけで、私の心は潤った。