虹裏img歴史資料館

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24/02/14(水)16:56:57  かる... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1707897417824.jpg 24/02/14(水)16:56:57 No.1157333501

 かるくお尻を突き出すようにして、腰部ソケットにアームを接続する。  モジュールにデータが流れ込んでくるのを確認し、エンジンに火を入れる。ソロヴィヨーフD99ターボファンエンジンの重い振動が、すぐに空気を引き裂く甲高い唸りに変わっていく。  まわりでも次々に暖気がはじまる。無数のエンジン音が、夜明け前の薄闇を下から持ち上げていくような、この瞬間がエクスプレス76・3128は好きだった。

1 24/02/14(水)16:57:08 No.1157333554

「今日、どこ?」 「南沙諸島。最初は」 「じゃ、いっしょだ」  通りすがりに声をかけてきた姉妹が、ニコッと笑って隣のユニットにつく。大型貨物用のウラジミール・エアギア拡張フレーム3Lタイプは大きすぎて、飛行ユニットを背負っているというより、飛行機の先端に人がくっついているように見える。自分もそう見えているのだろうな、と思いながらバイザーを下ろすと、隅の方で光っていた黄色のインジケーターが、ちょうど緑色にかわった。離陸許可の合図だ。 「じゃ、行きますか!」  エンジンの唸りがさらに一段高くなり、17人のエクスプレス76と、183機のドローンが一斉にニャチャンの空へ舞い上がる。そしてくるり、と全員で管制塔のまわりを一周してから、めいめいの目指す方角へ出発した。  南シナ海は今日も晴れ。配達日和だ。

2 24/02/14(水)16:57:27 No.1157333639

 人類抵抗軍オルカの拠点は、アジアを中心として世界各地に存在する。それぞれの拠点は農畜水産、採鉱、食品加工、機械製造など抵抗軍を支えるための役割を担っていると同時に、隊員たちの生活の場でもある。生産した物資はオルカへ運ぶが、それだけでなく拠点どうしの間にも需要と供給が発生する。そのため抵抗軍には数百人のエクスプレスと、数千機のドローンからなる輸送隊が存在し、日夜世界の空を飛び交っているのだ。 〈G8f、A2v、D9o、S9v……〉  無線から流れてくる暗号通信を、手もとのタブレットの解読キーと照合し、地図と見比べる。どの拠点からどの拠点へ行くにも必ず複数のコースが設定されており、天候や風向き、そして鉄虫とレモネード勢力の動向に応じて最善のコースを選択する必要がある。 「今週ずっと荷物多すぎない?」 「大きな作戦が近いらしいよ。あとほら、クリスマスが来るし」 「クリスマスかあ。南半球行くとぜんぜん暑いのにねー」

3 24/02/14(水)16:57:37 No.1157333685

 とはいえ今日の最初の目的地まではせいぜい二、三百キロ。東向きのジェット気流に乗ってしまえば、雑談をしながらでもあっという間だ。オレンジ色のバイザーにするどい光がさし、エクスプレス3128は目を上げた。飛行速度のぶんだけ加速のついた朝日が、みるみる昇ってくる。眼下を流れていた何か暗いもやもやしたものが橙色になり、すぐに真っ白の雲海に変わる。おかしいくらいの速度で夜が朝になる、この光景もエクスプレス3128は好きだった。  雲の切れ間から、目を射るような濃い藍色の海と、そこへ緑のかけらを撒いたようなちっぽけな島々が見えてきた。そのかけらの間にぬっと立つ鉄灰色のプラットフォームへ向けて、エクスプレス隊は降下コースに入った。

4 24/02/14(水)16:57:49 No.1157333727

「やあ、待ってたよ」  ヘリポートでは、くわえタバコのダッチガールが出迎えてくれた。挨拶もそこそこに、ウラジミールからコンテナを下ろしてチェックを始める。 「えーっと、小麦粉20袋、冷凍豚肉と冷凍野菜が5ケースずつ」 「米10袋、缶詰セット50カートンに、機械油と洗浄液と……」 「タバコあるかな」 「カップ麺頼んだんだけど」  ほかのダッチガールがわらわらと寄ってくる。ここのヘリポートにはいつ来ても、タバコ休憩中のダッチガールが何人かたむろしている。原油の採掘をしているから、建物内は火気厳禁なのだろう。 「砂糖が先週より多い気がする」 「そうなの!」3128はにっこりした。「フーイエンの製糖工場の改修がやっと終わって、増産第一号よ」 「それは嬉しいな。お菓子のメニューが増えるかな」ダッチガールは破顔した。笑うと年相応の子供っぽさが見える。海上採掘プラットフォームは外界から隔離された苛酷な労働環境で、しかも働いているのは大半がダッチガールだ。食料、特に嗜好品類は優先して配給するようオルカから指示が出ており、皆もそう心がけている。

5 24/02/14(水)16:58:06 No.1157333780

「あとこれね、今週分」  最後に、小型コンテナから大きな郵便袋を取り出すと、遠巻きに見ていたダッチガール達がわっと寄せてきた。 「待った、待った! こっちでいったん預かって、ちゃんと配るから」  受付担当のダッチガールがあわてて皆をせき止める。拠点間はもちろん通信ネットワークで繋がっており、メールや通話は自由にできるのだが、それでも物理的な手紙のやりとりを好むバイオロイドは一定数いる。個人的な買い物や贈り物なども、意外とあったりする。  エクスプレス的には、そういった細々とした品こそきちんと一人一人に届けたいのだが、仕事の量を考えればそうも言っていられない。現に今も、次の配送の時間が迫っている。 「このあとヨッカイチに行くのって、どっち?」 「私」エンジンの回転を上げながら3128が手を上げると、ダッチガールは隅にあった小さなトランクを差し出した。 「これ、向こうのフォーチュンに渡しておいてくれるかな。先週当たった新しい地層のサンプル。よさそうな石があったら、本式に採掘するから。うちらも増産、効くと思うよ」 「ありがと、了解。じゃまた!」

6 24/02/14(水)16:58:18 No.1157333827

 南沙諸島から海を越えて、ミンドロ島の農業拠点へ。ニャチャンから一緒だったエクスプレスとはここで別れ、別の姉妹と合流して、イリオモテ島のサトウキビ農園へ。オキナワの牧場で別のもう一隊と合流し、海上をさらに北東へ一千キロ。明け方から正午まで、地面に足をつけていたのは合計しても一時間に満たない。 「交代します」 「お願いね」  編隊を組んで長距離を飛ぶときは、縦列になって風の抵抗を減らす。先頭は寒いので、定期的に交代する。旧時代から変わらず受け継がれてきたノウハウだ。 「私サッポロ所属なんだけどさ」風よけができたので昼食のキンパを取り出して頬張りながら、3128は後ろのエクスプレスに話しかけた。 「今年は雪まつりっていうのやるんだって。みんなで雪像を作るの。あなたのとこ、クリスマス何かやる?」 「普通にパーティかなあ。うちアウローラさんがいるから、ケーキ超美味しいんだ」 「えー! いいなあ。ドローンさんとこは?」 「マニラ拠点では隠し芸大会が行われます。ノースカロライナ工場第二組立ラインに伝わる一発芸『四輪駆動』を披露する予定です」 「何それ超気になる」

7 24/02/14(水)16:58:35 No.1157333906

「前方、雲が切れてます。迂回しますか?」  先頭のエクスプレスc96T1の声に、みな雑談を止めて一斉に前を向く。 「あそこ、シアーあるね。低気圧速いな」 「上昇して飛び越えますか」 「今ちょうどジェット気流の下だからねえ。これだけ人数がいれば突っ込めない?」 「いやー、北回りでよけよう。みんな、密集隊形ー! 雲の中入るよ!」  ウラジミール・エアギアは大型航空機による空輸よりもはるかに燃料効率にすぐれ、小回りがきくのが強みだが、小型なぶん風に弱い。航空機の何倍も慎重に天気図を読みながら飛ばなくてはならない。 「うひー」  襟首をつかんで上下に振り回してくるような風に、なんとか水平を保ちながら前のコンテナを追いかける。航空用バイオロイドの強化された肺でも、凍てつくような雲の中で呼吸するのは楽ではない。 「結局私たち、いつでもどこでもやること変わってないよねえ」まとわりつく冷たい水滴を振り払いながら、3128は思わず近距離通信でぼやいた。

8 24/02/14(水)16:58:52 No.1157333976

 旧時代からずっと、平時でも戦時でも変わらず、エクスプレスは空を飛び、荷物を届けつづけてきた。滅亡戦争では武器を持ち、前線で戦った姉妹もいくらかはいたが、主な任務はやはり輸送だった。主人が誰であろうと、運ぶものが何であろうと、エクスプレスのすることはずっと変わらない。 「それだけ我々の役割が普遍的だということです」とドローン。 「どこでも同じなんてことはないですよ」エクスプレスc96T1が言った。「オルカは素敵です。他のどこよりも、ずっと」  c96T1は北米にいたエクスプレスだ。バンクーバー作戦で救出され、その後志願して輸送隊に加わった。彼女の言葉はさすがに重みが違う。3128は頭を振り、雲の暗さと寒さがもたらしたふいの憂鬱を振り払った。エクスプレス型は人なつこい性格に設定されているゆえに、孤独に弱い傾向がある。昔から単独での長距離輸送には向かないとされ、その分野ではドローンが主流だった。

9 24/02/14(水)16:59:13 No.1157334055

「c96T1はさ、いまの所属どこ?」 「グアムです」 「そっかー。グアムいいらしいね、年中あったかくて」 「はい。妖精村の皆さんが、とても良くしてくれて……明日帰るのが楽しみです」  c96T1の声からは、ほころぶような微笑みが伝わってくる。今は孤独ではない。エクスプレスはバイザーをもう一度引き下ろし、周囲の雲に目を配った。オルカにいるかぎり、誰も孤独ではない。

10 24/02/14(水)16:59:48 No.1157334217

長いのでつづき fu3136019.txt

11 24/02/14(水)17:02:17 No.1157334787

エクスプレスの怪文書初めて見た

12 24/02/14(水)17:04:29 No.1157335332

>エクスプレスの怪文書初めて見た そうなんだよ性格いいし制服スケベだし可愛いのに全然スポットが当たらないので前から書きたかった まとめ fu3136020.txt

13 24/02/14(水)17:05:26 No.1157335562

お茶って前書いてたやつだ!

14 24/02/14(水)17:09:03 No.1157336403

>長いのでつづき >fu3136019.txt 良いもの読ませていただきました ピョンテしまくるのも好きだけどこういうのも好き

15 24/02/14(水)17:11:53 No.1157337079

大量のドローンで輸送するの工場作るゲームみたいな風景になりそう

16 24/02/14(水)17:13:23 No.1157337484

>まとめ >fu3136020.txt 待ってくれないか急にワッと怪文書の洪水を浴びせかけるのは 少しづつ読ませてもらうね有難う

17 24/02/14(水)17:15:42 No.1157338080

>大量のドローンで輸送するの工場作るゲームみたいな風景になりそう Factorioで実際に大量のドローンが飛んでる光景実現できた気がする

18 24/02/14(水)17:16:27 No.1157338261

>待ってくれないか急にワッと怪文書の洪水を浴びせかけるのは >少しづつ読ませてもらうね有難う このまとめに入ってないやつも渋とか役に立たないwikiにあるぞ 全部で70本くらいある

19 24/02/14(水)17:23:26 No.1157340166

>このまとめに入ってないやつも渋とか役に立たないwikiにあるぞ >全部で70本くらいある そな んに

20 24/02/14(水)17:23:40 No.1157340224

兵站や輸送部隊は最重要だからな…

21 24/02/14(水)17:24:22 No.1157340399

>お茶って前書いてたやつだ! 基本的にどこからでも拾い読めるようにしたいから続き物要素は入れないようにしてるんだけど つい我慢できず…ごめん…

22 24/02/14(水)17:24:47 No.1157340517

あれ? ひょっとしてある日のオルカって「」産だっったの!?

23 24/02/14(水)17:25:27 No.1157340698

>あれ? >ひょっとしてある日のオルカって「」産だっったの!? さい らま

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