24/01/14(日)00:15:40 泥の夜 ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1705158940025.jpg 24/01/14(日)00:15:40 No.1145963404
泥の夜 https://seesaawiki.jp/kagemiya/
1 <a href="mailto:1/3">24/01/14(日)00:50:30</a> [1/3] No.1145975231
「そういえば、なんですけども」 格式ばった木机に乱雑に積まれた大量のヌードルは、海外……日本へ派遣されていた一人の魔術師が持ち帰った土産の品だった。 どれが良いかと決めきれず目についた物を片っ端から買い込んだその女が、やや勿体つけたような口調で切り出す。 「なんだい?報告書ならしかと受け取ったけども、付け加えときたいエトセトラでも?」 「ああいや、そういう面倒そうな問題は全部書き留めたはず。これ以降追加で発生する分はわたしの領分ではないでしょ?そんな事じゃなくて、コレの話がしたくてさ」 肩から下げた小さな鞄から取り出されたのは。 「……缶詰かい?ラベルが無いみたいだが」 「ラベルはないわけじゃあないの。ほら」 その言葉と共に開かれた上蓋の隙間から、暗闇を覗く。 「内側にラベルが……なるほどね、裏返してあるわけだ」 「そういう芸術品を日本で見たので。ちょちょっとレプリカを拵えてみた次第」 「ふむふむ、して、お題は?」 そう、それが本題です、と言わんばかりの顔を目の前の魔術師はしてみせる。持ち帰った土産話を、折角だからと長引かせるつもりらしい。 「中身が何か、が主題だね」 「流石にロード、ご明察」
2 <a href="mailto:2/3">24/01/14(日)00:50:51</a> [2/3] No.1145975336
「これは……かに、と書いてあるのかな」 「元はカニ缶だったみたいですね。それを裏返して作っている」 目の前にあるのは魔女の作ったレプリカだが、元の作品でも中は空。内と外を裏返した、単なる缶詰だ。 「……宇宙、だね」 「うっわ、一発で当てるとか。もう少し味わっても良いでしょ?」 「中身も無いのに?」 宇宙の缶詰。この缶詰のラベルのない面に向き合っていたのが中身なら、ラベルが向き合っていたのは世界。それが内側を向くのなら、閉じ込められているのは世界───そして宇宙。だから、宇宙の缶詰。 「いやー、流石に声出たよ。こんなものがポンとお出しされてて良いのって」 「『世界卵』だもんねえ。天体科か創造科の教室にでも置いといたら1日くらいは楽しめそうだ」 魔術とは関係のない世界で生まれた、一つの意味を持った芸術。 だけどもしコレがその通りの意味を持ったなら、この缶詰は缶詰の外の全て───遥か彼方までの「全て」をその裡に収めている事になる。 「僕ら風にいうなら『根源の缶詰』か」 「怒られそー……わたし知ーらない」 「持ち込んでおいてそれとは。だが確かに、これは僕らには関係のない代物だ。その方が良いだろう」
3 <a href="mailto:3/3">24/01/14(日)00:51:20</a> [3/3] No.1145975512
「と、いうわけでこれ、見なかったことにしちゃいましょう」 「賛成だ。しかしそれなら、なんでそんな物を見せてくれたのかな?大方その新品の刀だろう?アーリン君がそれを工房から持ち出したのは、今回の函館行きが初めてだったとは思うが」 「……誰かが踏んだ轍でもなんでも、良さげならやってみるくらいの雑食なので。ロードも、好き嫌いせず食べてくださいね~っと」 話を終え、自前の缶詰を乱雑に仕舞って部屋を後にする女。積まれた土産物はちゃんと食べろと、適当な挨拶と共に去っていった。 特に、この後何があったわけでもない。 例の缶詰レプリカが宇宙由来の呪物と化したりも、あるいは本当に創造科の建物で展示されてしまったりという事もなく、本当に何の意味も、取り留めもない話で終わったのであった。 「何せ、缶詰で真に大事だったはずの中身は───すでにどこかに、放り出されてしまったのだからね」