虹裏img歴史資料館

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24/01/01(月)00:13:17 年末。 ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1704035597412.jpg 24/01/01(月)00:13:17 No.1141151863

年末。 1年が終わり、また次の1年を迎えようとする時期。 だけど、ブルーには関係がなかった。 両親との再会をいまだ果たせない状況。 こんな時に休んでなどいられない。 だから、この日もブルーは情報収集や商売に精を出していた。 「はぁ…」 とはいえ、疲れはする。 10代の若い身体故の体力はあれども、心は疲弊する。

1 24/01/01(月)00:13:49 No.1141152096

いつまでこうする。 いつになれば終わりが来る。 先の見えない、長い長い旅路。 手元のポケモン図鑑を見る。 自分の力で手に入れたもの。 最初こそ盗品だったが、今は正式に譲り受けている。 ここ数年で得た成果。 ようやく得た自分の誇り。 それでも、まだこれだけしか手に入れていない。 これだって、苦労の末に獲得できたもの。 それなのに、これ以上のものが手に入るには。 果たしてどれほどの努力と幸運が必要なのか。

2 24/01/01(月)00:14:09 No.1141152255

一度心に生まれた不安は、なかなか払えない。 ため息もまた無意識に出てくる。 負の連鎖。 暗い気持ちに沈みそうになる。 ふと、そこで目に入るものがあった。 見慣れた姿。 視認性の高い赤い帽子と上着。 レッドだ。 自分と同じ図鑑所有者。 買い物帰りなのか、レジ袋を下げて歩いている。

3 24/01/01(月)00:14:25 No.1141152383

声をかけようか、それとも放っておこうか。 躊躇していると、向こうと目があった。 手を振りながらこちらに近づいてくる。 さすがにこうなれば無視はできない。 軽く手を振り、自分からも歩み寄る。 「よぉブルー。大晦日でも仕事か?」 「ええ。もう終わったけどね」 広げていたアイテムを風呂敷に包む。 まだ昼間だが、店仕舞いしてもいい頃合いだろう。 大晦日にアイテムをどうしても欲しがるような用事は無いと考える。

4 24/01/01(月)00:15:05 No.1141152693

「ここであったのも何かの縁だし、ちょっとお茶しない? レッドの奢りで♡」 「お前なぁ…」 軽い冗談。 受けてもらえるならよし、断られてもそれで終わって追求しない。 そのつもりだった。 が、レッドの返答は予想と違っていた。 「そうだ。 今日の晩飯年越し蕎麦にするんだけど、ブルーも食べるか?」 「…え?」

5 24/01/01(月)00:16:00 No.1141153081

意外な申し出。 驚きはするが、ブルーの頭の中で即座に計算が始まる。 これで夕飯の食費が浮く。 わずかなれどもレッドの家で過ごすことで光熱費も節約になる。 上手くいけば泊めてもらうこともできるかもしれない。 そこまでの打算をして、笑顔で答えた。

6 24/01/01(月)00:16:27 No.1141153286

「じゃあお願いしようかな」 「よっし。じゃあ行くか」 歩き出したレッドについていく。 お金浮いてラッキー、と思いながら赤い背を追いかけた。

7 24/01/01(月)00:17:58 No.1141153989

そこからしばらく歩いて。 レッドの家につく。 「ただいまー」 「お邪魔しまーす」 リビングにまで通されると、ソファに腰掛けた。 キョロキョロと、室内を見回す。 極端に清潔、とまではいかなくともそれなりに片付いている。 漫画や雑貨など年頃の男の子なら持っていそうなものはあるが、そこまで乱雑に置かれているというわけでもない。 多分、平均的な男子の家。 ブルーはそう判断した。

8 24/01/01(月)00:18:40 No.1141154276

目の前に何かが置かれる。 お茶の入った湯呑みだ。 「急いでポットであっためたんだけど」 「うん」 火傷しないように注意して湯呑みを持って飲む。 あったかい。 寒空の下で冷えた身体に、茶の熱さが染み渡る。 「それじゃオレ、買ってきたもの冷蔵庫に入れてくるから。 そこでくつろいどいてよ」 「ええ、ありがとう」

9 24/01/01(月)00:18:59 No.1141154427

レッドが立ち去った後、どうしようかと思う。 テーブルの上のリモコンを手に取って、電源を入れてみる。 年末特有のバラエティ番組が流れる。 ジョウト地方の名物の紹介をしていた。 シルバーも今はここにいるんだろうかと弟のことを思い浮かべる。 最初は興味を持っていたが、段々と飽きてきて近くに置いていた漫画を手にする。 適当にパラパラと読む。

10 24/01/01(月)00:20:42 No.1141155235

バトル中心の物語。 レッドらしいと思いつつも、キャラ描写につい心惹かれるものがある。 世界設定も、思いの外作りこまれている。 気まぐれで読み始めたが、止まらない。 いつのまにか10巻まで読み進めていた。 「ブルー?」 「…え!なに!?」 呼ばれていたことに気づいて、返事をする。 「もしかしてさっきから呼んでた?」 「ああ。食い入るみたいに漫画見てた」

11 24/01/01(月)00:21:00 No.1141155346

指摘されると、恥ずかしくなる。 自分がそこまで漫画に夢中になるなんて。 「読み終わってないなら、後で貸そうか?」 「あ、いいの?」 「ああ。その漫画の話できる奴が増えるのはいいことだしな」 「…いえ、やめておく」 未練はあるが、自分の目的が最優先だ。 娯楽もいいが、そればかりに気を取られていては余計にゴールが遠くなる。

12 24/01/01(月)00:21:17 No.1141155483

「そっか。それはそうと蕎麦できたから食うか」 「…うん」 追求してこないことがありがたい。 あまり人に話して楽しい話題でもない。 目の前に蕎麦の入った器が置かれると、自分の気持ちを誤魔化すように手を合わせて大きな音を立てる。 「それじゃ、いただきます」 「お、おう」 驚かせたことを申し訳なく思いつつ、蕎麦を啜った。

13 24/01/01(月)00:22:07 No.1141155820

夕食を終えて。 「片付けやらなくていいのに」 「いいのよ。 美味しいお蕎麦いただいたんだからこれくらいやらせて」 あまりにお客様扱いされるのも気が引ける。 少しくらいは手伝いはしておかないと、と思ってしまう。 何から何まで世話になるつもりだったのに。 どういう心境の変化だろうと自分でも思う。

14 24/01/01(月)00:22:28 No.1141155981

「風呂そろそろ沸くし、先に入るか?」 レッドの言い出したことに、眉を上げる。 「それって…、アタシにいやらしいことを」 「違うって!もう遅いから泊まってけってことだから!」 「オホホ、わかってるわよ」 慌てて弁明するレッドに笑いかける。 そういう意味だろうとは理解してはいた。 だけどついからかってしまう。 「それじゃ片付け終わったら、先にお風呂いただくわねー」 軽口を叩きながら、皿を洗う作業を続けた。

15 24/01/01(月)00:22:43 No.1141156115

「ふぅ…」 片付け後の風呂場。 湯船に浸かってブルーは一息ついていた。 久しぶりの風呂。 最近はシャワーで済ませることが多く、こうして湯船で手足を伸ばすのもいつぶりか。 これが普通。 これが、誰にでもある生活。 TVを見て、漫画を読んで。 ご飯を食べて風呂に入る。 屋外に立った家で、誰かと過ごす日々。 これが、普通の女の子なら当たり前のこと。 異性の男の子の家というところは特殊なのかもしれないが、それでも自分の普段の生活よりは普通に近いだろう。

16 24/01/01(月)00:22:58 No.1141156245

お湯に、雫が落ちる。 一つ、二つ。 涙。 自分の目元から溢れた、悲しみ。 悔しさ。 なんで自分は。 そう思うと涙が止まらない。 だけど、それだけじゃない。 自分にこれをくれたレッド。 彼への感謝の気持ちもあった。 妬みがないわけではない。 でも、彼にとっての当たり前を。 自分にも味合わせてくれた。 そのことへのありがとうという気持ち。 それが、ブルーの中で大きくなっていた。

17 24/01/01(月)00:23:17 No.1141156416

風呂から上がって、レッドもそうした後。 突然、彼から言われた。 「ありがとな。ブルー」 「え?」 急なお礼の言葉。 意味がわからなくて、つい聞き返す。 「アタシ、なにかお礼されることした?」 「ああ。してくれたよ」 穏やかに微笑んで、彼は言う。 「オレ、両親いないからさ。 転勤で海外暮らしで。 だから、誰かと家で過ごすの久しぶりなんだ」

18 24/01/01(月)00:23:37 No.1141156551

息を飲む。 事情は自分とは異なる。 だけど、彼も1人。 家族のいない生活をしていた。 「ご家族と連絡は?」 「あんまり。 たまにはするけど、お互い忙しくて。 だから、ついブルーを誘ったんだ」 孤独。 1人の部屋。 そのことへの苦しみ、淋しさ。 それは、自分が1番よくわかっている。

19 24/01/01(月)00:23:52 No.1141156679

そっと、彼の手を握る。 固い手。 彼も男の子だと実感しつつ、その手を包み込む。 「今は、アタシがいるよ。 レッドと同じ家に、アタシが。 だから、寂しくないよね」 「うん…」 彼からも、手を握り返される。

20 24/01/01(月)00:24:07 No.1141156797

親のいない年末。 寂しさに苦しむ子供。 でも、今だけは。 この苦しみを癒し合う。 2人で、相手の傷を塞ぎ合う。 そんな、1年の最後を過ごそう。 TVの声が聞こえる。 1年の終わりを告げる、カウントダウン。 5、4、3、2、1。 ゼロを宣言されると、レッドと向き合う。

21 24/01/01(月)00:24:21 No.1141156912

「あけましておめでとう、レッド」 「あけましておめでとう、ブルー」 新年を迎えて、真っ先に。 祝いの言葉を交換し合った。

22 24/01/01(月)00:25:27 No.1141157445

それから、2日後。 「それじゃ、お世話になったわ。 ありがとう」 「もうちょっといてもいいんだけどな」 レッドの家の玄関。 彼の見送りを受け、宿泊を終えようとしていた。 「あんまりのんびりしてたら、休み明けが辛くなっちゃうわ。 これでも休みすぎたって思うもの」 一泊のつもりが二泊もしてしまった。 我ながら弛んでしまったと反省する。

23 24/01/01(月)00:25:48 No.1141157617

「そっか。 じゃあオレもそろそろトレーニングでもするかな」 軽くストレッチをして、レッドが言った。 去ろうとする直前。 「レッド」 「どうした?」 振り返って、訪ねる。 「もし、もしもだけど。 今年の年末も、アタシがパパとママと会えなかったら。 また、この家に来ていい?」

24 24/01/01(月)00:26:11 No.1141157805

少しの不安を抱きながらの質問。 それに対して、レッドは肩を落とす。 「もちろん。 年末じゃなくても、いつでもいいよ」 「…ありがとう」 普段なら、軽口やジョークを言ったかもしれない。 でも、そんな気になれない。 力の抜けた、笑みしか出てこなかった。

25 24/01/01(月)00:26:24 No.1141157911

「それじゃ」 「ああ」 短い応答の後、改めて背を向けた。 もう振り返らない。 誰もいない部屋だけじゃない。 来てくれるのを、待っている人。 その家にまた来れる。 そう思うと、気が楽になる。

26 24/01/01(月)00:26:38 No.1141158035

羽を休める場所。 それがあることが、どれだけ慰めになるか。 また頑張れる。 身体に活力が湧いてくる。 「ありがとう、レッド」 もう彼には聞こえなくても。 そう呟きブルーは歩き出した。

27 24/01/01(月)00:26:55 No.1141158185

以上です 閲覧ありがとうございました

28 24/01/01(月)00:27:52 No.1141158648

まずは新年あけましておめでとうございます 今年もレブル書いていくのでよろしくお願いします

29 24/01/01(月)00:28:29 No.1141158901

新年早々のレブルありがたい…

30 24/01/01(月)00:30:34 No.1141159887

今回のは両親と別居設定のレッドで書いてみました 途中まで死別にしようとしたけどそれで幸せな気分で新年迎えるとか無理だと気づいて修正しました

31 24/01/01(月)00:40:04 No.1141164071

>バトル中心の物語。 >レッドらしいと思いつつも、キャラ描写につい心惹かれるものがある。 >世界設定も、思いの外作りこまれている。 >気まぐれで読み始めたが、止まらない。 >いつのまにか10巻まで読み進めていた。 ブルー先輩もあれ読んだことあったんスか!?オレは10巻から出てくる足技キャラが好きなんですよ~

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