泥のク... のスレッド詳細
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23/12/24(日)23:13:50 No.1138565464
泥のクリスマス https://seesaawiki.jp/kagemiya/
1 23/12/24(日)23:18:03 No.1138567153
爺様は最期まで私に謝らなかった。ただ一度だけ、ぽつりと言った。 『罪作りなことをした』───と。 それがどういう意味だったのか。知ったのは山を降りてからのことだ。 そのくらい深山の奥における私の命は充実していた。 日が昇れば目覚め、日が沈めば眠った。明るい内にするのは命を保つことと技を磨くこと。その繰り返し。それが全て。 時折外から人が来るから、山を降りた先に知らない社会があるのは知っていたけれど、それは私にとって往くことのない異国に過ぎない。 いつか仕事を果たすため山を降りることになる、というのは里の生産品として完成した者を社会へ順応させるために後から教えられることだったらしい。 だからその退崎の忍びの里が私にとっての世界であり、全てはそこで完結していた。それで満足だった。 それはそう。だって、行き詰まっていたから。どうしようもなく完成されていたから。 日々の生活に余白など一分もない。山で食料や水を調達することも、技をひとつひとつ磨いていくことも、全て生きることに直結していた。 たぶんそれが楽しかったのだと思う。熟せなかったなら迷いも生まれたのかもしれないけれど、私には才能があった。
2 23/12/24(日)23:18:21 No.1138567268
与えられる修行は厳しいものだったけれど、乗り越えられないと感じたことは一度も無かった。 朝露に濡れた山道を歩く時、与えられた術の使い方を学ぶ時、山の獣と命の遣り取りをする時、昨日よりもほんの少し研ぎ澄まされた自分という存在を感じ取る。 それで満ち足りていた。毎日顔を合わせる人間なんて爺様以外にいなかったけれど、それを寂しいと考えることさえ無かった。 当たり前のことだ。知らないのだから。この閉じた世界のこと以外を。だからそういった日々は私にとって正しいことだった。 後から聞かされた話だけれど、退崎の家はとうに忍びなんて求めていなくて、爺様が作り出してしまった最後の生産完了品である私をずっと持て余していたらしい。 だからどこにも連れ出されることもなく、外のことを教えられることもなく、もう外の社会には馴染めない爺様と一緒に深山へ残され続けていた。 そう。私はただそれだけで良かったんだ。そのままそうあれば、私は幸せだったのだろう。 ───そんな不足のない世界も爺様の死と共に砕け散った。 爺様が存在するというだけでどうにか保たれていた里は取り潰されることとなり、私は山を降りざるをえなくなった。
3 23/12/24(日)23:18:33 No.1138567354
そのために必要な知識を教えられ、戸籍を与えられ、私はひとりの忍びから“退崎数”という人間になった。 困惑する暇もない。押し寄せる圧倒的な情報量を手早く捌いて新しい人生を得ることに必死で、私は急速に社会へ埋没していった。 ううん。塗料で外見だけそれらしく整えただけ。中身はずっと戸惑ったままだ。 与えられた技で他者を把握し、適切な愛想を振りまく自分の歪さを発見するたび、山の日々を懐かしんだ。 君は自由なんだと、私を山から連れ出した人はそう私に諭したけれど。まるで自由という檻の中へ入られたように、私は感じた。 この中に閉じ込められて一生を終える。それを受け入れるしか無いという事実にぞっとする。 窮屈で息苦しい。この社会に比べればほんの僅かな面積しか無かった深山の里のほうが広々としていた。 ───真逆。その窒息こそが当たり前で、あの里での生活こそが異常。 それを知りながら未だに心の何処かが受け入れていない私は、きっと間違っているんだろう─── 『非常識的存在ということならお互い様だ。私はいわゆる魔術師という人種でね』 その男に出会ったのは、すっかり市井の生活にも溶け込んだ冬の日のことになる。
4 23/12/24(日)23:37:38 No.1138575028
また先生が女の子たらし込んでる…
5 23/12/24(日)23:52:34 No.1138581804
日本へ出張していった師が本物の忍者を連れて帰ってきました いかがでしたか?
6 23/12/25(月)00:04:22 No.1138586846
そんな拾い物したみたいな