虹裏img歴史資料館

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23/12/09(土)22:41:24 「……メ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1702129284360.jpg 23/12/09(土)22:41:24 No.1133143472

「……メイケイエール。アレ、持ってきたか?」 「もちろんです。どうぞ」 エールからアタシへ、紙袋を持っていない方の手のひらの上に青いカプセル一錠が手渡された アスリートに薬とは、一見人聞きの悪いような言葉の並び。当然、何か犯罪行為や学園の規約違反をしているわけではない ただ、アタシたちにとってこの薬は、最後の頼みの綱だったのだ 「炭酸で流し込んでもちゃんと効き目あるんでしたっけ」 「わからない。カプセルの力を信じるしか無いな」 「……そうですか。では、打ち合わせ通りのタイミングで」 「ああ」 間違っても落とさないよう、ポケットの中にカプセルをそっとしまっておく どうして栗東寮の廊下で、コソコソと怪しいことをやらなくてはいけなかったのか。答えはこの寮室の扉の向こうにあったのだ エールは心の準備をするよう深呼吸をしたあと、寮室の扉を思いっきり開け、エールの同居人……もとい、"全ての元凶"にただいまの挨拶をした

1 23/12/09(土)22:41:42 No.1133143616

「ソングラインちゃん呼んできました!」 「あ、やっと来たし……」 「もう帰りたいぞ……」 カーテンが閉まった寮室の奥には、天井から白いプロジェクタースクリーンが垂れ下がっており、見やすいよう手前の位置にクッションが並んでいる。そこに全ての元凶、白毛の女王ソダシ様が座っていた テーブルの上には三人分のポップコーンと飲み物が並んでいる 「でもよかったし。もう逃げちゃったかと思ってたし」 「許されるなら今頃寮の退去届叩きつけて名古屋に逃げ帰ってます!!」 「エールにこんなセリフ言わせるの相当だぞ」 軽口を叩き合いながら、渋々ソダシとエールの寮室の中へ進んでいく そう。今日はソダシ主催の映画上映会の予定だったのだ

2 23/12/09(土)22:42:49 No.1133144079

……何も知らない無垢なウマ娘なら、きっと「あのソダシ様主催の上映会!?なんだか楽しそう~✨」と思うのかもしれない だがそのイベントの本性を知っているアタシとエールにとっては、その言葉を聞いただけで身の毛がよだってしまう程に最悪だった なぜって、彼女の映画チョイスがな……毎度見せられる作品がその、なんていうか、うん…… ……ただ一言、「つまらない」で片付くのなら、どれほど救われていたことだろうか Z級映画といえども、怪作のベクトルが多種多様 例えば奇抜な衣装を着た役者の謎踊りを延々と見せられる虚無みたいな映像だったり、ギャグ系映画なのに肝心のギャグが悉く滑っていて地獄だったり、サメ映画系は大体が雑CGと無茶苦茶展開からの爆発オチだったり……あぁ、詳しくなってしまっている自分が恐ろしい……

3 23/12/09(土)22:42:59 No.1133144139

そんな、どう面白がればいいのかわからない作品を、クソ映画ハンターソダシによって数時間分見せられるのだ。拷問のような時間だった おかげでエロやスプラッター描写には慣れたが、エールは同室ということもあってアタシ以上に見ているらしい 今日まで正気を保てている彼女を褒めてあげたいぐらいだった (ソングちゃん……どうしてこんなことになっちゃったんでしょうかね……) (くそう、あそこであいつの口車に乗せられなければな……)

4 23/12/09(土)22:43:14 No.1133144258

■ ──それは先月、景色が綺麗と噂のアドベンチャー施設に三人で遊びに行った時のことだった 花畑や風車などの綺麗な写真をひとしきり撮り、近くに設置されていた森のアスレチックなんかも一緒に巡った後のこと エールがミニゴルフエリアを見つけ、そこで遊ぶことになったのだ 『ふふ……プロゴルファーソダシちゃんがホールインワン決めて圧勝するし』 『やけに自信ありげだな』 『……いえ、あまり馬鹿にできないですよソングちゃん!!!!!!!!!』 『なっ、どうしてだメイケイエール。さっきアスレチック競争で勝ったからって天狗になってるだけだろ』 『プロゴルファーは流石に嘘だと思いますが……彼女は軽井沢にある白雪家の別荘に住んでいた時期に、ゴルフ教室に通っていた過去があります!!!!!!!!!』

5 23/12/09(土)22:43:26 No.1133144336

『マジでか!?いやでも、本当のゴルフとミニゴルフでは多少勝手が違うんじゃないか?』 『……このコースだと、腕が鈍ってなければ余裕で圧勝できちゃうし』 『流石ソダシちゃんです!!!!!!!!』 『本当かぁ?』 『でもこれじゃあ二人ともつまんないと思うから、特別にハンデをやるし。今回は私一人とメイソンチームのレイド戦。メイソンチームは二人のうち良い方をチームのスコアとして認めるし』 『あまりハンデっぽくありません!!!!!!!!!』 『ふふ、話はまだ終わってないし。そして今回……私のスコアは、全て"2倍"にしていいし』 『えーっと……それってすごいのか?』 『すごいハンデです!!!!!!!!!打数が少ないほど良いので!!!!!!!!!』 『あー、そんなルールだったっけか。舐めてくれるじゃないかソダシ』

6 23/12/09(土)22:43:43 No.1133144459

『最後にもう一つ……プロに素人が負けるなんて恥だし。よって私が負けたら、二人の言う事なんでも聞くし』 『本当ですか!!!!!!!!?』 『いやまてメイケイエール。何か裏があるだろ』 『ただし、圧倒的なハンデと罰ゲームを背負っている私に、貴女達が負けたら……私の言いたいこと、分かってるし?』 『…………………………嫌です。わかりません。帰ります』 『ちょっ、エールちゃん!?私まだ何も言ってないし』 ……いやぁ、ハンデのおかげもあって、途中までいい勝負をしていたんだけどな 後半からプロゴルファーソダシがこれ見よがしにスマホで映画チョイスを始めたせいで、エールがトラウマを再発して半分涙目になってしまった。今思えば立派な妨害行為だろこれ アタシもコースアウト連発で上手くいかず、結果は惨敗 ───そして今に至る

7 23/12/09(土)22:43:58 No.1133144556

「……でもエールちゃんがちょっとだけ元気を取り戻してくれたようでまた良かったし。帰りのバスであれほど死んだ魚のような目をしていたのに」 「元凶のくせによく言うよ」 「ソダシちゃんのために心を入れ替えたんです!この際パッと見てパッと終わりましょう!!」 「流石私のエールちゃん……優しい子だし……」 「お前のわがままに付き合ってくれるエールに感謝した方がいいぞソダシ。いや本当に」 いち早くクッションに座ったエールは、ずっとポケットの中に手を突っ込んだまま。薬をなくさないようにしているようだ あの薬のおかげもあってか、どうやらエールは幾分かの精神的に余裕を持っているようだ アタシはクッションの前に置かれたテーブルの上に、持ち込んでいた紙袋をそっと置いた 「あれ。ソングちゃん、何か持ってきてるし?」 「あぁ、オルフェーヴル先輩にも上映会の話をしたら、せっかくならってお菓子を持たせてくれてな」

8 23/12/09(土)22:44:20 No.1133144730

来客用の食器棚から皿を勝手に拝借し、紙袋に入っていたお菓子をいくつかテーブルに乗せてみる 「お!!!!!!!!!!!!この甘くて香ばしい匂いは!!!!!!!!!」 感嘆符少なめだったエールは、そのお菓子の匂いでより元気になってきたようだ それは、映画館の定番お菓子のチェロス なんと味変用に、チョコ味と苺味のジャムまでついている 「わぁ……とても美味しそう……」 「先輩の手作りだ!美味しさはアタシらプレハブ後輩sの折り紙つきだぞ!」 「ふふ……あとで三人でお返しを考えなきゃだし」 「ですね!!!!!!!!!!」 ……まあ本当は、ソダシの上映会の噂を知っていたオルフェ先輩が、アタシとエールを心配して作ってくれたものなんだがな…… いやはや、先輩には毎度何かと助けられた。このお菓子がなかったら、きっとエールは虚な目で上映会に挑むことになっただろうし……

9 23/12/09(土)22:44:31 No.1133144821

「二人とも、粋で優しい先輩を持ったし」 「そうでしょう!!!!?そうなのです!!!!!!!オルフェ先輩はいつでも頼りになる自慢の先輩です!!!!!!!!!」 「……そうだ。もし先輩も興味があったら、上映会に連れてきてほしいし」 「…………………せ、先輩は映画を一人で見たい派だった覚えがあります」 「あら、残念だし。結構私とも話が通じる方だと思っていたのだけれど」 先輩に恩を仇で返さまいとして、咄嗟に嘘をつくメイケイエール 先輩に限らずこんな苦行、他の子にさせるわけにはいかない。苦しむのはエールとアタシの二人だけで十分だ 準備を終えたので、アタシも上映会の特設シートであるクッションにゆっくり腰掛けた

10 23/12/09(土)22:44:42 No.1133144902

「じゃん、今日見る映画のDVDジャケットだし……ふ……ふふふふふ……もう面白いし」 ジャケットをとりだして見せたソダシは、いつものニヤケ顔が笑いで崩れかけていた ジャケットの画像は、ウマミミが生えた全身緑の人型クリーチャーと、触手の生えたサメがたくさん切り貼りされたアクの強い絵面だ 今回見る「エイリアンウマ娘VSクトゥルフシャーク3」は、Z級映画界の巨匠が作ったシリーズの最終章 エイリアンウマ娘軍とクトゥルフシャークの大群と人類による最後の戦い、《ハルマゲドン》を描いた作品なのだとか 「ふふふっ、キャッチフレーズは……"もう結果だけ教えろ!"」 「ほんとだよ」 「また敵勢力のアジトが爆発してエンドロールなんじゃないですかね?」 「きっとそうだろう。てかもうさ、爆発オチかどうかだけネットで検索したら解散にしないか?」 「うわ。ソングちゃんってもしかしてファスト映画派だし?見損なったし」

11 23/12/09(土)22:44:53 No.1133144984

……実をいうと、1と2は既に上映会で視聴済み。だからこのシリーズのシナリオのぶっ飛び加減は身をもって知っていた そもそも前前作からエイリアンウマ娘vsクトゥルフシャークと名乗っているくせして、その勢力同士で戦うシーンは映画のほんの一瞬しかないのだ。なんでこのタイトルにしたんだ監督は 上映会主催の女王様は、慣れた手つきでプロジェクターにDVDを挿入する 「ソダシちゃんと何度も上映会をやっていると、ファスト映画を見る方の気持ちが段々わかるようになってきます!」 「え、エールちゃんまで……?そんなのダメだし。アレをありがたがるなんて、タイパ重視で何でも過程を飛ばそうとする若者みたいだし。これはもう、いち早くエールちゃんの目を醒ませてあげないとだし」 「そう思うなら尚のこと中止にしたほうがいいだろ。余計悪化するぞ」 「あーあー。聞こえないし」

12 23/12/09(土)22:45:06 No.1133145108

プロジェクターの操作を終えたソダシは、部屋の照明を落とすために立ち上がる 彼女がこの場を離れたその瞬間を───アタシとエールは見逃さなかった (……エール) (わかってます……!) 悪魔の居ない一瞬の間に、アタシたちはスカートのポケットから青のカプセル───ドラッグストアで売っている普通の眠剤を取り出し、急いで自分の口に放り込む。そしてそれを、テーブルにあったコーラで流し込んだ 発案者はメイケイエール。この眠剤を使って上映中に眠ってしまえば、長い時間クソ映画を見なくて済む。そういう算段だった パチン、と部屋の中は暗転し、スクリーンだけがはっきりと映し出される 戻ってきたソダシは私たちに割り込むよう座り、上映会特設シートはメイソダソンという並びになる いよいよ、地獄のクソ映画上映会が始まってしまった……

13 23/12/09(土)22:45:21 No.1133145238

■ 「……前作のあらすじから入る感じか?」 「みたいだし。前作の展開を忘れた人にも優しい良心設計だし」 「ずっと話が無茶苦茶過ぎて何も覚えてないぞ」 「なんなら忘れたままにしておきたかったですね!」 「まあ、前作の内容なんて覚えてなくても大丈夫だし。どうせシナリオはめちゃくちゃなんだし」 「えぇ……?お前だけは監督のことを信じてやれよ」 「ソダシちゃんは一体何目的でこの映画を……?」 「逆だし。めちゃくちゃなのが面白いから見るんだし」

14 23/12/09(土)22:45:31 No.1133145328

「海に雷が落ちましたね」 「……映像エフェクト素材をそのままはっつけたような雑さ加減だな」 「ふふ……やっぱこれだし。雑CG見るだけで実家に帰ったかのような安心感があるし」 「もう実家から出てこないでほしいぞ。クソ映画の中からな」 「……嘘ついたし。私の本当の実家はエールちゃんの隣だし。ねー、エールちゃん」 「……………………」 「……ふふ……露骨に嫌な顔するのやめてほしいし……いつもの……冗談にも元気よく同意してくれるエールちゃんに戻ってほしいし……」 「お前がそうさせたんだろう……」

15 23/12/09(土)22:45:42 No.1133145421

「……そういえばなんですけど!なんだかんだ三作目まで続いてるのって、もしかして低予算で出来るからなんですかね!!?」 「低予算といえど、映画作るのって最低百万単位の金が必要なんじゃなかったか?」 「この映画には1000万ぐらいかけてるらしいし」 「あ、やっぱ結構かかるんだ」 「映画にしてはだいぶ良心価格ですね!!!」 「ちなみにこの映画の制作費、多くがクラファンで集めたものだし」 「えぇ…?一体誰が出資したんだそれ……」 「……ソングちゃん!出資しそうな人、すぐ隣にいるじゃないですか!!」 「そりゃいるけど……って、まさか本当に!?」 「……正解は、エンドロールの出資者コーナーにて発表だし。二人の楽しみが増えたし♪」 「知ったところでより引くだけだが……」 「モデル活動で稼いだお金がクソ映画に渡ってるって知ったら、ファンの人きっと泣いちゃいますよ……?」

16 23/12/09(土)22:45:53 No.1133145505

「エイリアンウマ娘だ。緑の安っぽい被り物なのは前作そのままなんだな」 「ふ、ふふふふっ……これダメだし。笑っちゃうし」 「……わ。耳がぴょこぴょこ動くようになってます!」 「お、流石私のエールちゃん。鋭いし……エールちゃんもクソ映画オタクになってきたんじゃないし?」 「……それ、とんでもない不名誉ですよ」 「エールちゃん今日ちょっと私に辛辣すぎないし?」 「むしろ何度もクソ映画に付き合わせてるのに普段の好感度はそのままなこと、エールに感謝した方がいいと思うぞ」 「……あの、この被り物ってダ○ソーに売ってませんでした?」 「どう見てもド○キの奴だろ」 「二人とも不正解だし。正解はビレ○ンで買った奴だし」 「被り物買ったら、手軽にエイリアンウマ娘ごっこが出来ますね!」 「なんでちょっと乗り気なんだよメイケイエール……」

17 23/12/09(土)22:46:05 No.1133145604

「……ヒレ来たし!!ついにクトゥルフシャークだし!!」 「そんな盛り上がる?……てかエール、大丈夫そうか?」 「血流表現のことならもう大丈夫ですが……こんな形で慣れたくなかったですね……」 「うお、鮫の捕食シーンの血がいつにも増してすごいな」 「最終章だから出血大サービスなんだし」 「これやっぱりすごく……すごいアレですね!」 「お前も安っぽい雑CGって言っちゃっていいんだぞメイケイエール」 「ふふふふっふひっ、ダメ。これ本当ダメだし……」 「……これそんな腹抱えるぐらい笑えるシーンなのか!?」 「だってほら、サメのCGが前作同様あまりにも雑で、ふひっ、もうダメだし、ミステリアスな女王様キャラが壊れちゃうし」 「それはもうとっくのとうに崩壊してますよ!」

18 23/12/09(土)22:46:23 No.1133145743

■ 「………」 「………」 「すー………すー………」 ………上映開始から、大体40分ぐらいが経っただろうか ウマ娘の子供を連れた主人公の男が、誰かと会話しているシーンが映っている ……最初はアクションシーンが多めで、なんだかんだ話題も尽きなかったのだが、ついに面白くない会話のシーンが中心の映像になってしまった みんな口を閉ざしてしまっている。チェロスとポップコーンも総量の半分ぐらいまで食べてしまった

19 23/12/09(土)22:46:51 No.1133145962

「すー………すー………」 先に眠剤が効いてきたメイケイエールが、静かな寝息を立ててソダシに寄りかかっている 一方、アタシの方は未だに薬が効いてこない。眠剤飲むのはこれで初めてだから耐性が出来てない分すぐに眠れると思ったのだが、そうもいかないみたいだ 「……ソングちゃん」 「ん?」 突然、ソダシはアタシに、エールを起こさないようシルクのような小さな声で囁いた 「ソングちゃんって、昔はどんな子供だったし?」 「……おいおい。なんで突然そんなこと聞くんだ?」 「そう言えば聞いてなかったなって」

20 23/12/09(土)22:47:03 No.1133146053

突拍子がなさすぎてびっくりしたが……まっ、なんでもいいか。退屈凌ぎにもなるだろうし 「母さんに同じこと聞いた時は……"いつも強がってるけど、中身は結構繊細な子だった"って言ってたっけな」 「ふうん……」 「ウマ娘の例に漏れず、アタシも小さな頃からかけっこが好きでさ よく地元が一緒だったシュネルに『しょうぶだ!』って言って絡んだんだけど、当時は全然相手にされないぐらいには敵わなくって でも、どうしてもアイツに勝ちたくて、表向きには何度も何度も強気にしょうぶしろ!って突っかかったんだけども それでも全然勝てないのがすごく悔しくって、家では隠れてしくしく泣いていたんだ」 「ソングちゃんが強がりで負けず嫌いだったのは、昔からなんだ……」 「まあね。でもまあ……普段はシュネルや他の友達と仲良くやってたよ。公園とかで遊んだりさ」 「……やっぱり、羨ましいなぁ……」 「……良いとこ育ちのやつは不思議とみんな同じこと言うよ」 「いいえ……これはお世辞なんかじゃないし」

21 23/12/09(土)22:47:25 No.1133146231

乾燥した口を潤すためにアタシはコップに手を伸ばす それを尻目に、ソダシも自分の身の上話を始めた 「私は……小さい頃から才能を見込まれていてね ゴルフに限らず、ピアノ、バイオリン、書道に花道に、エトセトラ……当時実権を握っていた叔母様の指示によって、学校と睡眠以外の時間は全部、習い事をやらされていたんだし」 「それはなんというか、キツそうだな……」 「自分で言うのもなんだけど、私は人より飲み込みが早い方だったから、習うことそのものは辛くなかったし けれど、習い事で身につけたその技術のどれもが、ハッキリ言ってなんだか全て空虚に思っていた 畢竟、"育ちの良さ"を他所に見せるためだけのオーナメント。他所の家の子供達よりも、自分の子供が一番特別であると誇示するための勲章 ただでさえ貴重な自分の時間をこんな事に奪われてしまって、本当に不愉快だったし」

22 23/12/09(土)22:47:49 No.1133146392

そうか……きっと彼女も、今まで相当キツイ期待と重圧を大人から背負わされたんだろうな…… 過ぎたことだし、というふうにさらっと話してくれていたが……そりゃ羨ましがるわけだ 今までアタシも、良いとこのお嬢様であったソダシとメイケイエールに何度も嫉妬したりしたが、大金を手に入れる代わりに自由な時間を奪われるか、あるいは自由に生きられる代わりに貧乏生活かの二択なら、間違いなく後者を選ぶだろう 自分で好きにしていい自由な時間が奪われるのは……アタシだって絶対嫌だったから その上ソダシはそんな重圧を抱えてもなお、嫌な顔を一瞬たりとも表に出さない。その逞しさが、アタシがこっそり彼女をとても尊敬している理由でもあった 「そして数年後……あの手この手で白雪家の実権を握り、ついに念願の自由を手に入れたソダシちゃんは、いつのまにかクソ映画ハンターになっていたとさ……」 「ははっ……なんだそれ……」 少し暗くなった空気を察知し、冗談で中和する 嫌々言いながらも、アタシがなんだかんだソダシに付き合っているのは、こういうところが憎めなかったから

23 23/12/09(土)22:48:26 No.1133146648

「……やっぱりクソ映画は最高だし。なんてったって、何者にも縛られていない」 「アタシとエールはお前に縛られてるけどな」 「ふふ……私と関わったのが運の尽きだし」 「ふっ……そうかもしれないな……」 思わずアタシは鼻で笑ってしまった……が…… あれ……なんだか………… いまになってけっこう……ねむけが…… ………… …… … 「……え。ソングちゃんまで寝ちゃったし」

24 23/12/09(土)22:48:43 No.1133146786

■ 「……ん……ふぁ……」 眠りから覚醒へと緩やかに移る間に思ったことは、ほのかにエールの良い匂いがするなぁ、ということだった それは当たっていたようで、目を開けると確かにアタシはメイケイエールのベッドの中にいた えっと……さっきまで三人で映画を見て、それで、エールが寝た後に軽くソダシと話をして、それで…… あっ、そうか。上映会の途中で眠ったんだった よかった、どうやら眠剤作戦に成功したみたいだ 「ようやくお目覚めだし?」 「うん……なんだか久々にぐっすり寝れたみた        」 ……ウマ娘特有の第六感がすかさずアタシに危機的状況であることを告げたのは、汗ダラダラで気まずそうに正座するメイケイエールが目に入ったからだ さてはバレたか?いやいや、飲んだ瞬間は見られていない筈。ならば絶対バレようがないだろ……

25 23/12/09(土)22:48:55 No.1133146872

「あら?突然固まってどうしたのソングちゃん。何か不都合なことでもあったし?」 「いや……なんでも……」 「…………………!!!!!!!!!…………!!!!!!」 アタシに気づいたメイケイエールは、汗を垂らしながら必死に唇を動かし始めた。声は出さずに、何かを伝えようとしている。アタシは唇の動きを読み取ろうと必死になった えーと、なになに…… ば・れ・た!!!!!!!!! に・げ・て!!!!!!!!!!! ───オーケー、状況はわかった

26 23/12/09(土)22:49:16 No.1133147041

整理しよう。少なくともソダシは、アタシたちに懐疑の目を向けているようだ しかしアタシたちが眠剤を飲んだことなど、胃の中をこじ開けでもしない限りわからないはず 確かめる術がないんだ、ならばどうにでもなるはずだ と、思っていたのだがな…… ニヤリと笑う白毛の女王様は、揺るがぬ証拠をポケットから取り出しやがった! 「それとも……この箱に見覚えがあったりして?」 手に持っていたそれは、青のカプセルがあしらわれた眠剤のパッケージ アタシはカプセルしか受け取ってないから知らなかったが、おそらくエールが買って持っていたものだろう 決定的な物的証拠だった。対上映会用に結託したメイソンコンビは、既に主催の女王様に王手をかけられた後だった

27 23/12/09(土)22:49:38 No.1133147214

……ごめんっ!メイケイエール!!!お前の意思は無駄にはしないぞ!!! 「あ!!二人とも悪い!!!門限やばいから帰るな!!!!!」 「大丈夫だしソングちゃん。美浦寮の門限ならあと一時間もあるみたいだし」 「あーーー……そうだ急用!!急用思い出したんだ!!!それじゃ!!!」 「そうくると思って、勝手だけどソングちゃんのスマホをこっちに預かっておいたし」 ニヤケ面がより一層深くなるソダシは、アロハ柄のケースが目印のスマホを見せつけてきやがった それは間違いなくアタシのスマホ。寝ている合間にポケットから抜き取ったな!?おのれソダシ!!小癪なことをする!! 「スマホにはなんの通知も来ていないみたいだから安心して欲しいし。もちろん、しっかり者のソングちゃんなら必ず登録しているはずの、急用スケジュールの通知でさえも」 「お前っ、デリカシーってのは無いのかっ!!」 「それはこっちのセリフだし。人がせっかく企画した上映会中、睡眠薬使って強引に眠るなんて」 そ、それはごもっともだが、こんな企画を仕組んだお前にも非があるだろ!?

28 23/12/09(土)22:49:58 No.1133147362

「まあでも、別に私は怒ってないし。むしろ、丁度いい口実がまた出来て嬉しいくらいだし」 悪魔の女王様は一転して嬉しそうな表情にかわる。刹那、身体によぎった嫌な予感はエールも感じ取っていたらしく、二人して同時に身震いした 「「まっ、まさか……」」 「……決まってるし。次は未視聴のウマシャークシリーズを全作ハシゴだし♪」 「「えぇ~~~……!」」

29 23/12/09(土)22:50:08 No.1133147439

あーあ……最悪の一日だ どうやら、エールとアタシの二人は、明日もソダシのクソ映画呪縛から逃れられられないらしい 今度はどうやって逃げようか……そんなことを考えながら、アタシは大きなため息を吐いてしまった 「大丈夫だし二人とも。次見るのはスピルバーグ監督の作品だから」 「それウマミミ付いてる方のスピルバーグだよな絶対!!!!」 「そっちの方も人気だし。カルト的人気だけど」 「それが嫌なんです!!!!!!!本物のスピルバーグ作品を見せてください!!!!!」 「今度は寝れないよう、時計じかけのオレンジで出てきた"目を開いたままにして固定する装置"を持ってくるし」 「それ洗脳装置ですよね!!!!!!!?」 「どうしてそこまでして見せたいんだお前は!?!?!?」

30 23/12/09(土)22:50:50 No.1133147760

先週のプレハブ読んで思いついちゃったので書いた

31 23/12/09(土)22:53:14 No.1133148829

>先週のプレハブ読んで思いついちゃったので書いた ありがとう 良いメイソンダシです

32 23/12/09(土)22:54:21 No.1133149347

楽しそうだなこの短距離牝馬たち

33 23/12/09(土)22:55:56 No.1133149957

なんだかんだこのメンツが同期なのも凄いな… エールちゃんもGⅠ勝って引退してくれい…

34 23/12/09(土)23:03:57 No.1133153288

いいものを見させてもらった

35 23/12/09(土)23:09:06 No.1133155648

ああスピルバーグってそっちの…

36 23/12/09(土)23:13:32 No.1133157662

12世代が出演しているスピルバーグ作品

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