虹裏img歴史資料館

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23/11/28(火)17:03:22 「あ、... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1701158602056.jpg 23/11/28(火)17:03:22 No.1129208892

「あ、雪……」  おれいの声に、弥一郎はふとんの中から目を上げた。  ほそく開けた板障子の先、ほんのりと薄明るくなりかけた京の空に、ちらり、ちらりと、白いものが舞っている。 (どうりで、冷えるはずだ)  弥一郎は口の中でつぶやき、寝返りをうって、おれいの白い肌に手をはわせた。

1 23/11/28(火)17:03:41 No.1129208981

「あれ、弥一郎さま」 (もうじき、師走だものな……)  まだ眠気ののこる頭でうすぼんやりと考えながら、むっちりとした乳房のあいだに顔をうずめる。 「もう、夜が明けますよ……」 「なに、まだ……あたたかいな、おまえの肌は……」  昨夜、あれほどむさぼるようにかき抱いた肌身だというのに、おれいの肢体はなんどでも弥一郎をとりこにして離さない。 「いけません、いけません……あ、あ……」 「おれい……ああ、おれい……」  おれいは、美馬弥一郎が遊里で出会った女である。  まじめ一辺倒の弥一郎は、それまで「そうした店」に足を踏み入れたことがなかった。ある時たまたま、気がむいて同僚のさそいに乗ってみたら、入った店におれいがいた。  とびきり美しいというわけではない。しかしふしぎと品のある顔立ちで、それが笑うと花の咲くようにやわらかくなる。何ごとにつけよく気がつき、酔客のあしらいもうまく、ふとした受け答えにはしっかりした教養を感じさせた。

2 23/11/28(火)17:04:12 No.1129209102

 このおれいに、弥一郎は、すっかりまいってしまった。本人のいうのに、 (一目ぼれ)  で、あったという。  そこから毎日のように通いつめ、一月もたたぬうちに、乏しいたくわえをはたいて請け出してしまったのだ。  おれいもまた、よく弥一郎に尽くした。寵愛をいいことに肉欲におぼれさせるような真似はけっしてしなかった。それどころか、 「弥一郎さま、お起きになってくださいませ。出仕に遅れます」 「弥一郎さま、そのようなお召し物ではいけません。繕っておきますので、お着替えください」 「む、むう……」  むしろ弥一郎の尻をたたくようにして、前よりも仕事に励ませる。かえって主家の評判も上がったほどである。  遊女を家にむかえたことによい顔をしなかった家人や同僚も、 「美馬のやつ、まことよい女を引き当てた……」  と、ほどもなくおれいを認めるようになった。  今ではおれいは、美馬の家のことをすっかりまかされている。祝言こそまだあげてはいないが、ほとんど正妻も同然である。

3 23/11/28(火)17:04:59 No.1129209291

「さ、お召し上がりくださいませ」 「うむ。うまい、うまいな……」  麦飯と菜の汁、漬物だけの質素な朝餉を、弥一郎はもりもりとかき込む。白湯を一杯、うまそうにすすってから、隣にひかえているおれいへ目をやった。 「そうだ、まえの日記を出しておいてくれ」 「はい」素直にこたえてから、おれいが不思議そうな顔をした。「前のでございますか?」 「うん。今日はすこし、書きものをするのだ」弥一郎は愉快そうな顔をした。「お前にも関係のあることゆえ、見てみるか。ふふ……」  この時代、紙はまだ高級品である。日記をつけるなどというのは、弥三郎の身分では贅沢といえるが、きちょうめんな弥三郎は毎日、その日おきた色々なことをこまかく書きとめていた。  板の間へ文机をすえて、弥一郎は先月の日記をひろげ、真新しい紙を横において、何ごとか書きうつしはじめる。その手もとをのぞき込んだおれいが、 「ま……」  頬をぱっと赤らめて、顔をふせた。  弥一郎が書きうつしているのは、おれいが毎夜どのような技巧をつかい、どのように弥一郎をよろこばせたか。要するに、閨事の記録であったからだ。

4 23/11/28(火)17:05:13 No.1129209352

「みょうに思うであろうな」弥一郎も、さすがに苦笑した。 「だがな、これが本当に務めなのだ。三好さまの、末の娘御がな。まだ子宝を授からぬそうな」 「は……」  三好さま、とは弥一郎の主君、三好長之のことである。讃州細川家に代々つかえている、歴史ある武家だ。  讃州細川といえば、いまを時めく天下の管領・細川家の分家である。三好家はそのいち陪臣にすぎないが、それでも家格はそれなり以上のものだ。領国である阿波のほかに、この京にも屋敷をもっており、弥一郎は京屋敷をあずかる奉公人のひとりである。 「おまえのことを、三好さまがご存じでな。閨の技に詳しかろうから、手本がほしいと、直々に頼まれた。このようなこと、人に知らせるものではないが、な……」 「恥ずかしゅうございます……」  袖で顔をおおって下がろうとするおれいを、弥一郎は笑いながらひきとめる。 「そう言うな。さ、ちょっと読んでみて、間違いなどあれば言ってくれ」 「あれ、もう……ご勘弁下さいまし……」

5 23/11/28(火)17:05:46 No.1129209497

 その夜、深更のことである。  京の冬は寒い。夜ともなればいっそうのことだ。足元から立ちのぼり、からみついてくるような冷気のことを、みやこ人は、 「京の底冷え」  と呼びならわしてきた。  寒気の沼に首までとっぷりとつかり、凍てついたように動かぬ町並みを、とある寺院の屋根から見下ろす一つの影があった。  おれいである。  いや、おれいであって、おれいではない。  檜皮色の麻の小袖は、黒い布を体にまきつけただけの動きやすい装束にかわり、白くなまめかしい脚にはうすい鋼の脚絆を巻いている。唐輪にまとめていた黒髪は頭のうしろで高く束ね上げられ、白い鉢金が月光をはねかえす。何より、やわらかく愛嬌のあったおれいの面立ちは別人のように冷たく引きしまり、殺気すらまといつかせているではないか。  おれいの本当の名を、 〈ゼロ〉  といった。

6 23/11/28(火)17:06:07 No.1129209574

めちゃ長くなったので続き fu2847334.txt

7 23/11/28(火)17:15:17 No.1129211871

スレ画間違えてない?と思ったら間違ってなかった びっくりした

8 23/11/28(火)17:18:08 No.1129212608

ゼロの名前が出るまで全くわからんかった…にしても力作だ なんだかんだ姉してるカエンさんいいね…

9 23/11/28(火)17:19:22 No.1129212928

まとめ fu2847329.txt 時代劇っぽい文章にしようとすると改行が増えて長くなる… あと「枯れ果てた室町の花」は荒廃した花の御所のことじゃないかと 書いてる最中に思いつきました

10 23/11/28(火)17:21:54 No.1129213580

あ、ゼロだからお零なのか

11 23/11/28(火)17:26:23 No.1129214742

時代小説風もいいな

12 23/11/28(火)17:28:06 No.1129215193

ラスオリ特有のそういうの気にする概念の話だった

13 23/11/28(火)17:34:41 No.1129216916

真面目な話なのにそう書くと途端にさいていな感じになるからやめろ!

14 23/11/28(火)17:38:53 No.1129218034

なお大戦乱は「フュージョン時代劇」だそうなので 本当はなんかSFっぽい要素も入ってるのかもしれないけど それを入れるとどうやってもニンジャスレイヤーになるので断念しました

15 23/11/28(火)17:39:29 No.1129218195

えっちな話だ!と思ったらいい話だった… 最後のアルマンのセリフも良いなぁ

16 23/11/28(火)18:16:20 No.1129228916

>それを入れるとどうやってもニンジャスレイヤーになるので断念しました しかし今日はいいニバの日でもありますので……

17 23/11/28(火)18:33:02 No.1129234494

忍殺ネタ一回がっつりやってるしね…

18 23/11/28(火)18:36:21 No.1129235576

カエンがひらがなで「えっち」と言うのはとてもよい カエンとえっちなことしたい

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