23/11/25(土)00:11:38 泥お休み のスレッド詳細
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23/11/25(土)00:11:38 No.1127908661
泥お休み
1 23/11/25(土)01:00:59 No.1127924196
「君はマスターから与えられるあの食事を拒まないんだね」 夕食後。 公輪家の居間のテレビは淡々とニュースを放映していた。いずこの地の紛争はどうのと世界は未だ平和ではないことをお茶の間の人々に知らしめている。 まるでそれを憂うように、静かに画面を見つめていたセイバーへライダーは話しかけた。 「キャスターみたいに逃げてしまえばいいだろうにさ」 公輪邸での奇妙な共同生活を厭ってか、キャスターの姿をここで見ることは稀だ。 ライダーと同じように現代風の衣服に身を包み、ぴんと背筋を伸ばして椅子に腰掛けるセイバーが問いかけに対して口を開くことはなかった。 ただ、ちらりと視線をテレビからライダーへやっただけだ。 分かっているだろう? とでも言いたげに。 ライダーは小さく嘆息した。ああ、それはひどく正しい。それは極めて“サーヴァントらしい”。 「分かるよ。君は食事の内容については実のところ二の次だ。そりゃ美味しいに越したことはないけれど。 でも食事そのものより、マスターと一緒にいることを重要視している。 ───セイバー、君はマスターを守っているんだね。同盟こそ結んだけれど決して私たちを信用はしてない」
2 23/11/25(土)01:01:21 No.1127924287
「当然の配慮だと考えるが、私は何か間違っているか。ライダー」 「いいや。とても正しいと思う。心を許すということはそう簡単であるべきではないよ」 セイバーに返事をしながらライダーはちらりと横目を振った。台所では3人のマスターが洗い物をしている。 ライダーと、セイバーと、キャスターのマスター。こうして様々な事情から一緒にいるけれど、それぞれが未だ聖杯を手にする権利を持っている。 あの中の誰かが怪しげな動きをした瞬間、セイバーなら一呼吸で即座に駆けつけられるだろう。 それはライダーも同じだ。この程度の距離はサーヴァントにとって至近距離に等しい。 良かった、とライダーは感じた。この家の持つ雰囲気がそうさせるのか、どうも公輪邸にいると弛緩した空気が流れてしまう。 一度ならず二度までも自分に土を付けた好敵手がその空気に応じつつも染まり切ってはいないことに安心した。 ああ、それならば。私だって、いつでもこの聖杯戦争を心置きなく再開することができる。 一瞬だけ、ちりりとセイバーとライダーの間に目には見えぬ火花が走る。それを理由に剣を握るのを堪える程度にはお互いのマスターの間で交わされた盟約を重視した。
3 23/11/25(土)01:01:41 No.1127924372
「───まあ、それはそれとして。よくあんな食事が毎日続くのに耐えられたね、君」 その緊張感を解いてライダーが尋ねると、セイバーがテレビに視線を集中させた。……目を逸らした、ともいえる。 「いや。以前はもっとひどかった」 「えっ」 聞き返すのをライダーはためらった。セイバーが遠い目でニュース番組の字面を追っていたから。
4 23/11/25(土)01:32:51 No.1127932545
何故こんな状態に私たちが至ったのかは、本当に色々と複雑な諸々が、それはもうマンダラ山とヴァースキの如く絡み合ったが故なので割愛するとして。 ここ数日のマスター……ここの家主である公輪ツグミの妹を自称したレネの顔つきはというと、日に日に以前の不敵さ───恐らくは自ら意識して作っていた面も含んでいただろう───を失いつつあった。 原因などは幾らでも挙げられる。端的に言えば私の不甲斐なさによってあのセイバーに敗北を喫した事、それが原因で彼女の母という女に受けた仕打ち、そして倒さんと息巻いていた相手の家に保護されるという巡り合わせ。 自ら選んだ道であったとしても、未成の身でありながら諸々を背負い込み自らを奮い立たせていた少女のプライドを揺らがせるには十分だっただろう。 が、それでも私が未だ契約を保たれている以上、マスターは戦う意志そのものを捨てた訳ではない。どういうプランでどこまで私を使うつもりかは別にしても、この儀式を投げ出そうとは考えていないはずなのだ。 では何故見るからに元気がないのか。 先にこの家で同居人となっていたセイバー、そしてあの教師の態度も鑑みれば、なんとなく察しはつくもの。
5 23/11/25(土)01:33:23 No.1127932691
───これは相当なことなんだよ。 初めてあの言葉を聞いた瞬間には驚愕した。米を赤く染める料理があるのかと、その発想に純粋に感心もした。あの時の私をちらと見たセイバーの視線の意味こそ分からなかったが、今となってはあのかつてないほど切れ味を失った眼が訴えたかった内容も理解できる。 おかしかったのはその次の日であり、そしてその次の日であり、そしてまた次の日であった。 同じものが出てくる。 これだけ聞けば、さて誰かが抗議の一つでもあげるだろうというものだが、そうもいかない。 夕餉時が近づいて来た時の、そして食卓が囲まれた時のこの家の……否、この家主が放つある種異様な妖気とも呼ぶべきモノがそれを許さない。 私のマスターが元気を無くしていく原因も、セイバーが何とも言えなさげな眼でこちらを見ていた真意も、きっとそれであるに違いない。 だが、私に何ができるのだろうか? この家に踏み込んでおきながら、食事が用意される様をただ見ているしかなかった時点で───私もまた、ここでは籠に納められた小鳥と大差ないのかもしれない。 それでも、また私たちは食卓を囲む。 その意味を、今一度確かめる価値はあるように思えた。
6 23/11/25(土)01:37:11 No.1127933574
何故食事一つでこれほどまでに殺伐としなければならないのか 何故この殺伐とした空気を醸し出している当の本人は善意に満ちているのか これが分からない
7 23/11/25(土)01:43:59 No.1127935148
マスター同士は仲良さそうにしててもサーヴァント間はバチバチなんだね