23/10/09(月)22:05:49 グリッ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1696856749527.png 23/10/09(月)22:05:49 No.1110842382
グリッド135。パイプと鉄骨が作り出す無人地帯だと思われるかもしれないが、中心部にはこれでも街が存在してる。 高い天井の、少しばかり混んだ繁華街。そこを1人の男が、肩を揺らして歩いていた。 「クソッ、ヴォルタのやつ」 赤いラインの入った、ミリタリージャケットを羽織る男がつぶやく。彼はG5.イグアス。レッドガン部隊の5番手だ。 「クソ親父……」 この日、付近で行われた部隊の合同演習。ヴォルタとの連携がうまく行かず、ミシガンにさんざん腕立てをさせられて。
1 23/10/09(月)22:06:04 No.1110842504
恰好の付く負け方ではなかった。煙草の箱を取り出し、4本残ったうちの1つをくわえ、火をつける。その後、イグアスは誰とも顔を合わせる気にならず、基地を飛び出した。気づけばこのボロ街まで来ていたのだ。 疲労。鬱屈。ブーツが重い。こんな状態では、誰だって逃げたくもなるだろう?そう自分に言い聞かせ、強く煙を肺まで引き込む。喉が焼けるように熱い。 煙を吐き、目を開ける。前方からだ。バチバチとネオン看板から散る火花が、水溜まりに反射する。あてもなく暗い街を泳いでいた視線は、反射的に光に向けられていた。『元祖ルビコニアン牛丼』という文字が、そこで赤く光っていた。 ほぼ同時に腹が鳴る。そういえばあれから、何も食べていない。強化人間とあれど、三大欲求の前では単純な動物。気持ちも勝手に切り替わるというものだ。 流れ込むノスタルジア……ストリートの博打で大勝ちした時。無駄にトッピングを多く乗せた牛丼に、ありったけのスパイスをかけて頬張り、ビールで流し込む。あの頃は、これ以上のごちそうなどなかった。ミールワームのタンパク質を加工した肉だなんて、気にならなかった。
2 23/10/09(月)22:06:24 No.1110842682
そうだ、あの頃みたいにパーッとやろう。今は部隊も企業も忘れて。そうと決まれば、足取りも軽くなる。自動ドアをくぐり、早速券売機へ――。 「あっ……」 そこに立っていたのは、ほぼ銀髪と言っていいほど薄い色素の髪に、真っ白な肌の女性……少女と言っていいかもしれない。その薄色の目と、視線が交差する。 「の、野良犬ゥ!?」 「ぁ……ィグアス……」 強化人間C4-621「レイヴン」とは、彼女の事である。 イグアスにとって、最も会いたくない人物であった。仕事を共にした時から劣等感を抱き、その姿を見てからは1層気持ちが拗れてしまった。苛立ち?恐れ?同情?今の彼には分別がつかない。
3 23/10/09(月)22:06:40 No.1110842800
確かなのは、気楽な食事の機会が失われてしまったという事だ。頭が仕事に引き戻される……無断で外出している事や、忘れていた明日の予定まで思い出した。 「な、なんだよこんな所で……」 なるべく平静を装って尋ねると、621はただ牛丼のメニューを指差し、不満気な顔を見せた。 コイツは何が言いたい?発話が安定しない相手を問い詰める事は、さすがにイグアスでも控える。 「あ?もしかして――」 そういえば強化人間といえど、これほど人間味のない個体も珍しい。まともな生活を送っている姿はまるで想像できない。もしや。
4 23/10/09(月)22:06:55 No.1110842903
「注文の仕方がわからねぇのか……?」 「そのとおり」と言うようにうなづく621。図星を突いたらしく、イグアスはがっくりと肩の力が抜けた。 「これはな……」 戦場でこんな奴にムキになっていたなんて……とイグアスは、情けなさを覚えないわけではなかった。だが、教える立場というのも悪くない。 「ほら、ここに金を入れるんだ……持ってきてるよな?」 食券販売機の使い方を621いちいち新鮮そうに聞くのもあり、イグアスの声色も丁寧さを帯びる。まるで子供だ。淡々と任務を遂行する傭兵の、別の1面。 一通り説明を終え、席に着く2人。
5 23/10/09(月)22:07:11 No.1110843032
「ぁりがと……」 「あんな所に突っ立ってたら邪魔だしな」 並んでカウンター席に座る姿を見て、ルビコンの戦場で戦った者同士だと思う客はいないだろう。同僚にも見えず、兄妹が良いところだろう。共通の話題など当然なく、イグアスにとっては居心地の悪い時間が流れる……。 幸い調理は自動化されており、時間はかからない。ロボットアームが、2人分の食事を配膳した。イグアスには辛いソースの大盛に『ルビコンビール』の瓶が1本、621には並盛のチーズ牛丼だ。 「ぉお……」 「こんなの見たこと無い」と言いたげな621。普段は何を食べるのだろう。そもそも普通の食事をするのか?イグアスはビールを口に含みながら考えずにはいられなかった。
6 23/10/09(月)22:07:27 No.1110843153
少しづつ肉と米を別々にすくって、口に含む度に表情が緩む様子を見ていた。 感情が希薄な第4世代強化人間でも、食べる楽しみを取り戻したのだろうか。そういえば、自分も昔と比べてだいぶ人間らしくなったかもしれない。イグアスはまた、なつかしさに浸り始めた。 自分の牛丼には手をつけてないのに気づいたのだろう。621は自分の丼を持ち、イグアスの方に向き直る。 「たべる……?」 差し出されるスプーン。 「はぁ!?」 突然の事にイグアスはのけぞる。しかし無邪気な621の顔を見ると……なんだか、悪い気がしないのだ。
7 23/10/09(月)22:07:41 No.1110843269
(そうだ、俺は酔ってる。ついうっかり、らしくない事をしちまうかもしれない。それに、なにか裏があるわけでもなさそうだしな……) めいいっぱい胸の中で言い訳をしながら、イグアスが口を近づけた……その時だった。 Buzz Buzz!!通信機のビープ音だ。 「なんだよ畜生!」 酔いが嘘だったかのように引いた。 「こちらイグアス……あんだよ?」 顔を隠すように髪をかき上げるイグアス。後輩、G.6レッドからの通信だ。
8 23/10/09(月)22:08:01 No.1110843428
「先輩!今どこにいるんですか!?」 「どこって、牛丼屋だが……」 レッドの声色は只事ではないという調子だ。イグアスは思わず窓の外を見やった。 「そちらの都市に、その、ACが向かっています!」 「ACだぁ!?」 立ち上がるイグアス。また面倒事だというのか? 「説明しろレッド」 「所属は不明、おそらく独立傭兵。安っぽいパーツの黒いACです」 都市部にACが現れる、というのは大抵悪いニュースだ。イグアスはもう1度窓の外を見る。市民が一斉に逃げている……!
9 23/10/09(月)22:08:12 No.1110843509
「先輩のACは……」 「乗ってきてねぇよ……バイクしかねえぞ。ん?」 イグアスの袖を引っ張る621。真剣な表情だ。 「おまえ……ACあんのか……!?」 621は大きく頷いた。 * * * 「ふぅーム」 暗いコクピットの中、唸る男の姿があった。
10 23/10/09(月)22:08:27 No.1110843654
「そろそろ動きがあっても良いはずなんだかな……」 彼のAC『デプスチャージ』は大通りを2本の足でゆっくり歩行しながら、周囲をスキャンしていた。 「これで何も出なかったら報酬はどうなるのやら。AC動かした分くらいは貰えないと赤字になってしまうぞ」 手近な自動車を踏み潰してから、デプスチャージは右にある商業ビルにライフルを数発発砲した。民間施設に対する破壊。汚い仕事だ。 「ん……?」 何十回目のスキャンに、機影が映る。
11 23/10/09(月)22:08:43 No.1110843797
「ようやく出てきたか」 投げやりな破壊行為を中断し、デプスチャージは接近する反応に向き直る。 だが、どういう事か。狙っていた獲物よりも動きが速い。トリガーに指を置き、接触に備える。 飛び出してきたのは、タンクタイプのACであった……! * * * 「まさか、G.13も1緒だとは思いませんでしたよ」 「ただの偶然だ……しかし狭いな」 イグアスは621のAC『ストーンフラワー』のコクピットに乗せてもらっていた。当然、2人乗る事は想定されていない。
12 23/10/09(月)22:08:55 No.1110843907
「照合できました。ACデプスチャージ、パイロットは独立傭兵ヘッジホッグ」 レッドの通信が詳細を知らせる。 「聞いたことあるか野良犬?」 「ぅうん」 「だよな」 距離にして300メートル。左右のビル群を挟み、1直線な大通りで対峙する2機。621たちには、すでにチャージされたライフルが向けられていた。 「ほう、公安のMTを殺れとの依頼でしたが……ACが現れましたか」 きな臭い声が聞こえる。ヘッジホッグの無線だ。
13 23/10/09(月)22:09:08 No.1110844005
「まあいい……私の『デプスチャージ』の敵ではありません。消えろ。」 「おいどうする野良犬、こんな道じゃ左右に回避するなんて無理だぞ」 イグアスの言う通り、ここでは前後の移動以外は難しい。そして『ストーンフラワー』はレーザー兵器を主体とした軽量タンクACであり、シールドは装備していない。 「すすむ」 言うが早いか、タンクのACは最大速力で前進する。中途半端な姿勢のイグアスは、口が開けず疑問を挟むのをやめた。 「愚かな。そんな装甲で絶えられるものか」 『デプスチャージ』は両手のライフルを同時に発砲。621はこれを左にドリフト回避、ビル群へ衝突寸前だ!
14 23/10/09(月)22:09:40 No.1110844284
しかし弾丸は止まらない。次の2発を右へのジャンプ回避、621のACは空中に飛び出す。敵までの距離、160メートル。 「貰った!」 両手の武装をチャージし終えたヘッジホッグは勝ちを確信した。着地と同時に2発打ち込み、肩のグレネードでトドメだ! 「なわけ、ないじゃん」 だがタンクの履帯は地につかない。ブースターが光り、アサルトブーストをかけると、621はスピードに任せビル壁を横向きに走行した!ACは大きく高度を稼ぐ! 「馬鹿なッ!」
15 23/10/09(月)22:09:50 No.1110844361
ライフルのチャージを外したヘッジホッグは状況に気づき、クイックバーストで後方へ逃れようとする……もっとも、安っぽいジェネレーターとブースターでは、大した距離は稼げないが。 敵までの距離、50メートル。 「クソぉ!」 左手の武装をパージし、ブレードに持ち替えようとする。だかもう遅い。ビル壁から離れ、速度を保ったまま落下するタンク部に、頭部から衝突。バランスは崩れ、仰向けに転倒! ヘッジホッグが最後に見るのは、モニターに逆さに映る621のAC。最大限にチャージされ、青く光るレーザーライフルの銃口。 2度の閃光の後、脱出する間もなく、ヘッジホッグはACもろとも爆発四散したのだった。
16 23/10/09(月)22:10:06 No.1110844515
* * * 「ったくなんて無茶な機動しやがるんだ!俺まで殺す気かよ!」 姿勢を維持するのに必死だったイグアスは、爆発からしばらくして口を開いた。621は彼を指差すと「ぃま平気……」とだけつぶやいた。 そりゃ、結果的にはそうだが。イグアスが顔をしかめると、621は急に心配そうな顔になった。 「平気じゃなぃ……?」 コクピットのシートから立ち上がり、イグアスの目を覗き込む621。細い指が頬をなでる。 「よ、よせ、離れろ、顔が近い」
17 23/10/09(月)22:10:20 No.1110844638
この狭い空間に逃げ場はない。力で押しのける事はできるが、そんな事をしたらコイツはどう思う……?色素の薄い、大きな目に捕まり、イグアスの心臓は認めたくないほど早鐘を打っていた。こうなったらどうにでもなれ、何でも受け入れてやろうと目をつむった所だったのだが。 「先輩、ミシガン総長から無断外出についてのお言葉があるみたいですが……」 そういえば無線はまだ繋がっていた。レッドの声がやたら大きく聞こえ、2人して焦って距離を開けた。 「あーわかった!今から戻るから黙ってろ!!」 イグアスはコクピットのハッチを勝手に開け、621を最後に振り返り、バイクを留めた場所まで走っていった。
18 <a href="mailto:終">23/10/09(月)22:10:34</a> [終] No.1110844761
その後ミシガンにたっぷりしごかれたイグアスであったが、後日の演習ではヴォルタとの巧みな連携で好成績を勝ち取っていた。 本人によると、「タンクACの戦い方をこの前教わったのさ」という事であった。
19 <a href="mailto:s">23/10/09(月)22:12:05</a> [s] No.1110845413
イグアスと女621とかAC戦が書けて満足…
20 23/10/09(月)22:13:57 No.1110846224
素敵だ…ミルクトゥースも喜んでいます…♡
21 23/10/09(月)22:14:19 No.1110846369
「」13に伝達! 良い不可抗力の密着とAC戦描写だ! 以上!
22 23/10/09(月)22:18:31 No.1110848212
力作だ…
23 23/10/09(月)22:18:32 No.1110848224
イグアスと621の怪文書をありがとう 本当にありがとう…それしか言葉が見つからない…
24 23/10/09(月)22:19:30 No.1110848673
素敵だ… そうだねは何処だ…手向けなければ…
25 23/10/09(月)22:27:58 No.1110852495
忍殺怪文書だな そういう文脈だ
26 23/10/09(月)22:33:40 No.1110854811
621 コクピットに男を連れ込むのはまだ早い
27 23/10/09(月)22:42:01 No.1110858216
「トッピングは…よっつ」 「二つだ野良犬!二つで十分だよお前には!」
28 23/10/09(月)22:44:39 No.1110859231
たぶんヴォルタはそこそこ心配してたと思う
29 23/10/09(月)22:47:31 No.1110860414
>たぶんヴォルタはそこそこ心配してたと思う 所属不明ACが街に向かってると聞いてキャノンヘッドに飛び乗る寸前だったんだよね…
30 23/10/09(月)22:52:53 No.1110862682
こういう生活感のあるのもいいねぇ...
31 23/10/09(月)22:59:44 No.1110865596
>こういう生活感のあるのもいいねぇ... エルデンリングの主人公でマップをウロウロする動画を見たけどマジでデカいよねあらゆるものが ゲームでは繁華街とか出しようがないけど想像力を掻き立てられるな
32 23/10/09(月)23:10:45 No.1110870309
こういうゲームでは描かれない生活描写いい… 街に輝くネオンとかロボでオートメーション化されてる牛丼屋とかサイバーパンク風味あふれてて好きだ