23/09/08(金)21:26:14 「トレ... のスレッド詳細
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23/09/08(金)21:26:14 No.1099457261
「トレーナーさん。プラネタリウムに行きましょう!」 入念なリサーチとクラスメイトのみんなからの情報を元に決めたデート先。それはプラネタリウムだった。トレーナーさんが星に興味があるかは分からないが、アヤベさんのお陰でちょっとした解説はできるし、それに何といってもそのプラネタリウムはカップル向けとして有名だった。ふかふかのビーズクッションに体をうずめながら、パートナーと見上げる星空。プログラムの内容とそれに関連する星の情報を頭にインプットし、プラネタリウムを出たあとはそのまま裏山へ行って実際に天体観測。星空がよく見える場所も事前に調べておいたし、計画は完璧……なはずだった。 「あ…………ア、ア、アヤベさん!?」 「……はぁ…………どうしてあなた達が……いえ、なんでも無いわ」 まさかの遭遇。アヤベさんとアヤベさんのトレーナーさんと入口でばったり出会ってしまった。流れる冷や汗。気まずい沈黙。 「あの、そのぉ……とりあえず、座ってきますね! また後で!」 逃げるようにトレーナーさんの手を握って購入したチケットに書かれた席へと向かう。
1 23/09/08(金)21:26:45 No.1099457532
水色のビーズクッションにトレーナーさんと腰掛けて天井を見上げる。カップル向けのプログラムということもあって、周りを見渡しても同じくらいの年齢の男女でいっぱいだった。クッションはゆったりとしているようで体重で少しずつ凹んで二人を中心に近づける。自然と二人の距離は近くなっていく。体温も共有してしまうくらいの近さだ。 「まるで星と星が惹かれ合うようね。あなたと私の距離も……あの時と違って、お互いに」 聞き慣れた声を耳にし、つい横の席を覗き込む。なんという偶然だろう。隣りにいるのはアヤベさんとそのトレーナーのペアだった。またもや、である。 「……トップロードさん。覗き見はやめて」 声のトーンを下げて、アヤベさんがこちらを睨む。 「すすす、すいませんでしたっ!」 再び背中に嫌な汗が伝う。平常心でいなければ、と思えば思うほどにアヤベさんの存在を意識してしまい、動きがぎこちなくなる。プログラム開始まではあと5分。必死に頭の中でシュミレーションした会話を思い出そうとするが、失敗。ただ黙ってトレーナーさんの肩に頭を乗せることしかできなくなってしまった。 「まぁ……こういう偶然もあるよ」
2 23/09/08(金)21:27:19 No.1099457824
トレーナーさんは笑って私の頭をそっと撫でてくれる。それ自体は嬉しいはずなのに、私の胸は不甲斐なさでいっぱいだ。トレーナーさんにもアヤベさんにも、申し訳ないと思ってしまう。 そうやって考え込んでいる間にプログラムは始まってしまった。 「……そうね。あの恒星のように、あなたは前から私についてきてくれた……ふふっ。私じゃなくて星を見ないとだめでしょう。もう……」 うわぁ……アヤベさん、強い……横から聞こえるのはアヤベさんカップルの甘い声。対してこちらは、緊張でなにも話せず、ただぎゅっとトレーナーさんの腕を掴むだけ。きれいな星空も解説も、全然頭に入らない。 「きれいだね」 「すごくきれいですね……なんかこう、パーっと光ってて、きれいです」 トレーナーさんの問いかけにも簡単な答えでしか反応できない。本当はあの星座にまつわる神話とかたくさん調べたのに。 けれど、穏やかなbgmときれいな星空。それに混ざりあった二人の体温でだんだんと私の意識は落ち着いていった。落ち着くというより、溶けるというか、深いところに落ちていくような……
3 23/09/08(金)21:27:38 No.1099457979
気がつくと、照明が明るくなっていた。星空は消え、周りのカップルは帰り始めている。 「おはよう。トップロード」 「あっ!? えっ!? 嘘……私、寝ちゃってました?」 「すごく落ち着いた雰囲気だったからね。しょうがないよ」 言葉にならないくらいの後悔が体を駆け巡って、思わず涙を溢しそうになる。けれど、ぐっと堪えて深呼吸。こんな時こそ一度気を静めて、冷静にならないと。 「あの! この後、一緒に星を見に行きませんか? 本物の。いい場所知ってるんです」 「もちろんいいけど……あの二人も同じ目的地かも」 トレーナーさんの目線の先にはいい感じの雰囲気のアヤベさんたち。もしまた行き先が同じだったら……という考えが頭をよぎる。けれど、むしろ私は頼るべきじゃないかと思った。アヤベさんは私よりもずっと星に詳しい。あと多分、トレーナーさんとどうやって仲を深めるかについても私より知っている。ここは恥ずかしがって気を遣わせるよりも、頼って前に進むべきだ。 「アヤベさん! 星のよく見える場所、教えてくれませんか?」
4 23/09/08(金)21:28:07 No.1099458225
「あなたは気負い過ぎなのよ。お互いに分かり合ってるのなら、共にいるだけで自然と距離は狭まるわ」 アヤベさんに案内してもらった裏山の山頂で、星を見ながらアヤベさんと語り合う。トレーナーさんたちも大人同士でなにか話し合っていた。 「やっぱりアヤベさんはすごいです! トレーナーさんとの雰囲気もこう……熟年夫婦って感じで」 「あの人とはそういうのじゃないわよ……」 「え? 違うんですか?」 「私はまだあの人のことを知らないわ。だから、もっと知りたいと思ってる。それだけよ」 きっとアヤベさんにはアヤベさんの距離感があるのだろう。羨ましいとも思ったけど、比べるようなことではないのかもしれない。 「うん。そろそろ星がきれいに見える時間よ。あなたのトレーナーのところへ行ってあげなさい」 「はい! アヤベさん、ありがとうございます!」 アヤベさんに見送られ、トレーナーさんへと駆け寄る。トレーナーさんの手を取って空を見上げれば、プラネタリウムと変わらない満天の星空がそこにはあった。
5 23/09/08(金)21:28:25 No.1099458381
私はアヤベさんのように自然とトレーナーさんに近づくことはできない。いつだってドキドキして、袖にシワができるほど緊張したりもする。だけど、それでもいいんだ。トレーナーさんはそんな私をいつだって笑って受け入れてくれているんだから。だから、悩むのはもうおしまい。 「トレーナーさん。あの星、すごく光っててきれいですよ!」 「本当だ。色もきれいだな」 「それと、こっちも……えーっと……名前を忘れちゃいましたけど、きれいです!」 「ははっ。トップロードと一緒に眺めると楽しいな」 「はい! 私も、すごく楽しいです!」 大丈夫。から回ることだってたくさんある私だけど、それでもこのままで。二人で進めれば、それでよしなんだ。 隣を見れば、アヤベさんたちも同じように夜空を見上げていた。たまにはこんな夜もいいと思った。みんなで同じ方向を眺めて、未来を思う。今度、またプラネタリウムにも行こう。 こんなにもドキドキして、楽しくて仕方がないんだから。きっと今度は眠れない。
6 23/09/08(金)21:29:11 No.1099458773
デート先で出会っちゃって気まずいトプロさんとアヤベさんを見たかったので書きました でもアヤベさんはあんまり気にせずいちゃつくと思う
7 23/09/08(金)21:31:59 No.1099460263
ダブルデートよ…
8 23/09/08(金)21:33:27 No.1099460995
>「おはよう。トップロード」 >「あっ!? えっ!? 嘘……私、寝ちゃってました?」 この時絶対トプトレは映し出された星空じゃなくトプロの寝顔をずっと見てたと思う
9 23/09/08(金)21:35:45 No.1099462177
無敵に見えるアヤベさんも逆にトプロ強い…って思ってるところがあるんだろうな…
10 23/09/08(金)22:15:58 No.1099481272
>対してこちらは、緊張でなにも話せず、ただぎゅっとトレーナーさんの腕を掴むだけ。 強い…