23/08/22(火)17:35:46 ティ... のスレッド詳細
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23/08/22(火)17:35:46 No.1093318871
ティートカップをよく拭いて消毒槽に入れ、腰の高さまである大きなミルク缶を台車に載せる。台車に積んだ缶の数をもう一度数えて、エルブン・フォレストメーカーは深いため息をついた。 「ぐぬ~。今週も対先月比マイナスかあ……」
1 23/08/22(火)17:36:30 No.1093319042
エルブン・フォレストメーカーをはじめとする一連の森林保護・育成用バイオロイド、いわゆるエルブンシリーズは、パブリックサーバントの中でも独自性の高い一種のサブブランドを形成しており、それを反映してオルカでもチームとしての共用部屋をひとつ与えられている。エルブンミルクの生産加工所も兼ねているためそこそこの広さがあるその部屋の内部は、セレスティアとセクメトの力で壁や床から木々が生い茂り、ふかふかの下草まで生えて、ちょっとした森の中の空き地といった風情にしつらえられている。はらり、と缶のフタに舞い落ちた一枚の木の葉を、エルブンは優しくつまんで捨てた。 「やっぱ箱舟に落ち着いちゃってからぱっとしないんだよなー。早くヨーロッパ本土に侵攻しないかなあ」
2 23/08/22(火)17:36:45 No.1093319120
「物騒なこと言うんじゃないわよ」木の根に腰かけてネイルの手入れをしていたダークエルブン・フォレストレンジャーが眉をひそめた。 「だってこの島、どこ行っても氷ばっかりで木が一本もないじゃない。箱舟の中は中で私たちの仕事全然ないし。おかしくない!? 自然といったらエルフでしょうが!」 「あの中はだって、水も光も温度も全部管理されてるじゃん。私らの出る幕なんかないでしょ」 「箱舟とやらは、生態系全体を保存して未来へ残すのが目的と聞きました。植物だけが繁茂しても、それはそれでバランスを欠くということなのでしょう」 黙々と料理書を読み込んでいたセクメトも目を上げ、しずかに言い添える。 「芝生潰してカフェやらバーやら建ててるくせにー!」 「そのカフェのおかげでミルクの消費も増えたんだから文句言わない。先月は例の選挙もやったし、ずいぶん売り上げ伸びたでしょ。それが元に戻っただけじゃないの」
3 23/08/22(火)17:37:05 No.1093319207
「元に戻っちゃダメでしょーが! そんな甘い考えじゃこの生き馬の目を抜くオルカで生き残れないよ!」 「オルカってそんな所だっけ?」 だんだん、とミルク缶のフタを叩いてエルブンは力説する。彼女たちエルブンシリーズに共通する特殊体質にして、余人に真似のできない独自商品であるところのエルブンミルク。日夜文字どおり身を削って生み出しているそのエルブンミルクの売り上げが、このところ芳しくないのだ。具体的には飲料用の売り上げがどうも落ち込んでいる。ダークエルブンの言うとおり、先月の「ミルク総選挙」イベントで健康飲料としての認知度が一気に上がったのはよかったが、ブームが去るとまた需要は落ち着いてしまった。 「なんか対策立てないと……だいたいあんたのせいでもあるんだからね。もっと新人どものおっぱいに危機感持ちなさいよ!」 「はあ!? 何それ!」 エルブンミルクのうたう効能の一つにバストアップ効果がある。それに説得力を与えているのが、そろって豊かなエルブン達のバストだ。とりわけダークエルブンの胸はオルカでもトップクラス、身長比の補正を入れれば単独首位であり、エルブンミルクの人気をおおいに高めていた。
4 23/08/22(火)17:37:41 No.1093319375
しかし最近、それはもう野放図に巨大なバストを備えた新人が立て続けに現れており、ダークエルブンの存在感は相対的に薄れつつある。エルブンミルクの消費低迷にはそのあたりが関係していると、エルブンは睨んでいるのだ。 「ただでさえ巨乳が渋滞してるところへバイソン女だの熊女だの忍者ママだの……あんたももっとミルクがぶがぶ飲みなさい!」 「毎日飲んでるわよ! だいたいミルクだけで胸が大きくなったら世話ないわ!」 「商品価値を根本から否定するなあ!」 「あらあら、賑やかですね~」 部屋の奥の木陰から、ミルク缶をかかえたセレスティアが頬を火照らせながら出てきた。 「今日の分のバナナミルク、できました。納品をお願いしますね~」 「セレスティア様! 聞いて下さいよ~!」 泣きつきにいくエルブン。話を聞いたセレスティアはおだやかに小首をかしげ、 「人気が落ちているのは悲しいですね~。でも、私たちのミルクに頼らなくてもみんなが健康で元気にしていられるのなら、それが一番かもしれませんね」
5 23/08/22(火)17:38:13 No.1093319520
「そういうことじゃなくてー! 私たちの存在が軽くなってるってことですよ! セレスティア様だって不満じゃないんですか!」 セレスティアは困ったように笑う。「むかしの時代や島にいた頃に比べれば、オルカは夢のように幸せですから、不満などはとても」 「う……」 旧時代から生き抜いてきた彼女にそういうことを言われると、復元組のエルブン達としては何も言えなくなってしまう。もちろんエルブン達とて苦労してこなかったわけではないし、今の環境に幸福を感じていないわけでもない。司令官が来るよりずっと前、戦いが一番厳しかった頃は、エルブンミルクは販売どころか軍需食糧として徴収されていたのだ。その頃に比べれば、確かに今のオルカは夢のようである。 「でもミルクの売り上げは、えーとほら、エルブンシリーズ全体の地位向上にもつながるんですよ! 向上心! そう向上心です! 不満でなく!」 「どんな命にも、それに似つかわしい地位と役割があるものですよ~」 「そうですよエルブン。高望みをするのは高貴ではありません。陛下のおそばに侍る者は、つねに謙虚でいなければ」セクメトまで本を置いてそういうことを言う。
6 23/08/22(火)17:38:37 No.1093319620
「うぐぐぐぐ」 どうもエルブンシリーズの上位モデルはみんな浮世離れしたところがあって、こういうことにはまるで頼りにならない。いったん諦めて出荷作業を済ませようと、エルブンは台車を押して部屋の出口に向かった。飲料用以外にも加工用、調理用、製菓用など、エルブンミルクにはいろいろな需要があるのだ。 ドアを開けると、緑色の壁が行く手をふさいでいた。 「あっ、すみません。こちらは、エルブンシリーズの皆様のお部屋とうかがったのですが」 「うげげっ!」 思わず素の声が出た。入口に立ち塞がっていたのは壁ではなく、一人のバイオロイドだった。たった今やり玉に挙げていたエルブンミルク低迷の元凶の一人、ガーディアンシリーズのフリッガである。熊の遺伝子を導入されたというその体躯は2メートル近くあり、エルブンとは大人と子供ほども違う。エルブンは思わず身構え、 「なななんなんなんですか! やろうってんですか!」 「いえ、あの……ご迷惑でしたら出直してまいります」
7 23/08/22(火)17:38:58 No.1093319722
「何やってんのよあんた」声を聞いたダークエルブンが出てきて、ひとまずミルクの台車を後ろに下げた。「お客さんじゃない。ごめんごめん、ちょっと驚いただけ。とりあえずどうぞ」 「お邪魔します……うわあ、素敵な部屋」 身をかがめておずおずと戸口をくぐってきたフリッガに、エルブンはあらためて息を呑んだ。 (でっっっか……) 背が高いだけでなく、左右にも前後にも大きい。骨格自体が大柄な上に、みっしりと筋肉がついているのだ。彼女がいるだけで部屋がちょっと狭くなったような気さえする。 (そりゃ胸もすごくなるわけだわ……) 「あら、珍しいお客様! ようこそいらっしゃいました」 セレスティアが立ち上がり、にこやかに両手を広げて歓迎の意を示した。「ミルクはいかがでしょう? 搾りたてがありますよ」 決して背の低い方ではないセレスティアだが、それでもフリッガの方が頭一つ以上大きい。気づけばダークエルブンも、まじまじとフリッガの胸を見つめていた。少しは危機感を抱け。
8 23/08/22(火)17:39:13 No.1093319798
「これは……カシの木? 本物なんですか?」 「ナノマシンでできた疑似植物です。でも本物と同じように呼吸や光合成をするし、季節になれば花も咲くんですよ」 「へええ……では、この地面も?」 「そちらは私のナノマシンで構成した疑似土壌系です。制御にコツがいりますが、有機物や埃を分解してくれる、便利なものですよ」 ひとしきり感心したフリッガは大きなマグカップで出されたバナナミルクを美味そうに飲み干し、大きく息をついてから口を開いた。 「実は、今日はお願いがあってうかがいました。こちらには、母性をイメージした牛柄の衣装があると聞いたのですが」 「別に母性をイメージしてませんが、牛柄ビキニならありますよ」 エルブンが答えると、フリッガはずいと身を乗り出した。 「それを一着、貸していただけないでしょうか?」 「……ほほ~う?」 肉の質量にちょっと後ずさりつつ、エルブンはニヤリと笑った。「ご自分で着るんですか?」 頬をさっと赤らめてうなずくフリッガ。エルブンの笑みがさらに深まる。
9 23/08/22(火)17:39:28 No.1093319865
オルカにおいて、ビキニを好んで着る隊員は非常に多い。中には単純に肌を出し、肉体美を誇示すること自体を楽しむ者もいるが、フリッガはどう見てもそういうタイプではない。にもかかわらず、あんな扇情的な衣装を着たがるとすれば、その理由は一つしかない。 「司令官様のためですね~?」 ニヤニヤしながらさらに斬り込んだエルブンは、しかしオヤ、と笑みを消した。反応が予想していたのと違う。 フリッガは頬を赤らめつつも唇をきゅっと引き結び、眉根を寄せていた。その表情からは欲望や期待というより、ある種の決意と悲壮さが感じられる。どうも、単に司令官を悩殺するために水着を欲しがっているわけではないようである。 「……まあいいですけど、あれって数があんまりないんですよね。背丈が違いすぎるから、貸したら伸びちゃうだろうし」 しかしいずれにせよ、理由はそれほど重要ではない。エルブンは思考を切り替えた。せっかく獲物が向こうから飛び込んできたのだ、遠慮なくたっぷり搾り取らせてもらおう。ミルクだけに。
10 23/08/22(火)17:39:40 No.1093319934
「私にできるお礼でしたら、何でもいたします」 「えー、それじゃ~あ~」 「エルブン?」 わざとらしく顎をさすってみせるエルブンの頭上から、セレスティアのしずかな声が降ってきた。 「私たちはエルブンミルクの生産にかかわって、いくつもの特権を司令官様からいただいています。この上、べつの代価を求めるのはよくないことですよ」 「う……はい」 「フリッガさん、私のビキニをお貸しします。紐の長さを調整すれば着られるでしょう、手袋とソックスは……」 「私用の予備がありますから、お譲りしましょう」セクメトが言い添えた。「何かただならぬ事情があると見ました。私の方は当面着る予定がありませんから、伸びてしまっても構いません」
11 23/08/22(火)17:39:52 No.1093319983
「ありがとうございます」フリッガは深々と頭を下げた。「何かお礼をさせて下さい。そうでないと私の気が済みません」 「そのようなことは~……」 「はいはい! お願いしたいことあります!」エルブンは慌てて手を上げた。こうなったら最初に思いついたアイデアだけでも実現させなくては。「フリッガさんもこう言ってるんだし、いいですよねセレスティア様!」 セレスティアが仕方ない、というようにうなずき、エルブンはガッツポーズをとった。 「じゃあですね、コトが済んだらでいいので……」
12 23/08/22(火)17:40:08 No.1093320074
「エルブンミルク、体によくてとっても美味しいエルブンミルクはいかがですか? 皆さんもエルブンミルクを飲んで、私のような健康で丈夫な体になりましょう」 「コーヒーミルクのホット二つ」 「プレーンください」 「こっちバナナミルクをLで」 「はい、はい。少しお待ちくださいね。あっ、プレーンミルクは今ので品切れです。申し訳ありません」 生態保存区域の広場の一角、朝から行列の絶えないミルクスタンド。少し離れたところからそれを見守るエルブンは得意絶頂だった。 「へっへーん! どうよ私のこの商才、この企画力!」 「はいはい、大したもんよ」 ダークエルブンが肩をすくめて賛同する。エルブンが要求したお礼とは、牛柄ビキニを着たフリッガにそのままエルブンミルクの販売係をやってもらうことだった。
13 23/08/22(火)17:40:35 No.1093320181
彼女が看板娘をつとめることで、バストアップ効果の説得力は前にも増して復権。そのうえ新たに、身長を伸ばしたい隊員達にも需要が広がり、売り上げはミルク選挙の時すら超える勢いだ。 「本日はご好評いただきまして完売です。ありがとうございました~、皆さん」 フリッガが一礼して、スタンドの後片付けを始めた。そこへやって来た子供組と何ごとか話していたと思うと、ピッチャーを手にこちらへそそくさと走ってくる。 「あのう、すみません。あの子たちのために一、二杯分だけ、どうにかならないでしょうか?」 「しょうがないな~。ここで出しちゃうから、貸してください」 今日も夕方前に完売してしまった。明日からは増産も考えるべきかもしれない。木立の影で胸をはだけながら、エルブンは鼻息も荒く考えをめぐらせる。 「アクアランドももうすぐできるし、あっち用の新商品もどんどん考えていかないとね。今晩も企画会議だからね、遅れずに来るのよ!」 「あんた本当にそういうの好きね……いいからはい、出して出して。フリッガさんもありがとうね」
14 23/08/22(火)17:40:45 No.1093320227
「いえ、やってみるととても楽しいです。小さい子たちも大勢来てくれますし」 フリッガの満ち足りた笑顔からは、先日の悲壮さは少しも感じられない。彼女があの「デート抽選会」の幸運な当選者の一人だったことを、エルブンは後から知った。ビキニを使って司令官とどんなデートをしたのか、さすがのエルブンもそこに立ち入る気はなかった。 「今度あのアイアスさんって人も紹介してくださいね。ライバルはどんどん取り込んでいかないと」 「ライバル?」 「いえこっちの話です。このままエルブンシリーズの地位を爆上げして、ゆくゆくはアクアランドの隣にフォレストランドを建設するのよ!」 「あ、それちょっと面白そう」 陽射しの下、エルブンの明るい笑い声に合わせて、白とコーヒー色の二すじのミルクがキラキラと揺れながら、それぞれのピッチャーに降り注いでいった。 この数日後、生態保存区域は夏周期に入り、タイミングを合わせてオープンしたムネモシュネのかき氷屋にエルブンミルクは人気を根こそぎ持っていかれることになるのだが、それはエルブン・フォレストメーカーのいまだあずかり知らぬことである。 End
15 23/08/22(火)17:52:45 No.1093323599
今回も面白かった…
16 23/08/22(火)17:57:04 No.1093324888
フリッガのデートイベは絶対エルブンが裏取引したよねと思って書いた まとめ fu2493281.txt
17 23/08/22(火)17:59:20 No.1093325582
いい話なのにところどころさいていな絵面が混じってくる!
18 23/08/22(火)17:59:59 No.1093325780
ありがとう
19 23/08/22(火)18:02:04 No.1093326413
ついに明日母乳YOROIの未確認おっぱいも来るしちょうどいいな!
20 23/08/22(火)18:03:53 No.1093326950
アイアスのカフェスキンも牛柄ビキニらしいんでエルブンが一枚噛んでると思う
21 23/08/22(火)18:05:07 No.1093327304
腹黒 ツンデレ 天然ママ 天然ママ 姉 エルブンシリーズは下っ端が苦労をしょい込むしかない構成
22 23/08/22(火)18:05:55 No.1093327564
エルヴン印の粉ミルクも箱で大量買いしてるしなフリッガ
23 23/08/22(火)18:16:19 No.1093331025
かき氷屋に練乳にして卸すことはできなかったのだろうか
24 23/08/22(火)18:19:31 No.1093332177
アクアランドには司令官のドリンク売りもあったもんな
25 23/08/22(火)18:19:44 No.1093332269
>アクアランドには司令官のドリンク売りもあったもんな 俺が出しました
26 23/08/22(火)18:24:19 No.1093333935
そういえば司令官の健康管理なんてコンちゃんやらソワンやらが全力を注いでそうなもんだけど ミルク選挙の時ずっと便秘だった司令官はなんでああなったんだろ
27 23/08/22(火)18:28:52 No.1093335575
ハトホルは何味なのか
28 23/08/22(火)18:32:59 No.1093336919
>ハトホルは何味なのか チョコとコーヒーがもうある上でと考えると難しいな きなこ?
29 23/08/22(火)18:33:21 No.1093337047
ココア味とか
30 23/08/22(火)18:46:14 No.1093341339
> 陽射しの下、エルブンの明るい笑い声に合わせて、白とコーヒー色の二すじのミルクがキラキラと揺れながら、それぞれのピッチャーに降り注いでいった。 素晴らしい