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23/07/16(日)07:54:01 泥の衝... のスレッド詳細

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23/07/16(日)07:54:01 No.1079079961

泥の衝突事故

1 <a href="mailto:何回も立て直しぶつかってごめんなさい">23/07/16(日)07:55:00</a> [何回も立て直しぶつかってごめんなさい] No.1079080117

 アーチャー、オスカルは、本来重戦士とでもいうべき戦闘スタイルである。祖父から継いだヌァザの血に由来する能力で魔力を銀に変換し、鎧や弾丸などありとあらゆる攻防に転用する。火力も防御力も申し分ないが、問題はその機動力と燃費。大ぶりな得物である骸・螺旋剣(ゲル・ナ・グコラン)の取り回しの悪さと、常に魔力を放出して戦うが故の莫大な運用コスト。  そもそもが名のあるフィアナ騎士団の一員でありその中でも大火力を担っていた彼は、単騎で軍勢を一掃することすら可能だったが、それはあくまで生前の、マナに満ちた神代の話。サーヴァントとなれば、勝利にはリソース管理が必要な、少々扱いの難しいサーヴァントである。  ──あくまで、勝利には。  もし、彼が勝利を捨てたなら?  聖杯にどれほどの願いをかけようと、そんなものより優先する事項ができてしまったら?  そんな彼を全面的にバックアップし、踏み躙りさえするマスターが現れたなら?

2 23/07/16(日)07:55:36 No.1079080213

「ねぇ、ディルムッド」  令呪と泥のバックアップ、何より勝利の放棄。リソースという明確な弱点を埋められたオスカルは、まさしく──。 「ディルムッド。ディルムッド。ディルムッド。ディルムッド」  この亜種二連戦争最強の"狂戦士"と見て、ふさわしい。 「彼らが祖父のように騎士たりえないのなら、皆殺しにするべきよね──?」  喜劇は、しめやかに進む。

3 23/07/16(日)07:56:05 No.1079080277

「なんだあれ、出鱈目だ。ここに陣地を構えているのは不味いかもしれないね」 「魔術師の常道はどっしり構えて戦うことですけどね。……でも、あれとはちょっと分が悪そうです」 「誰でも一人じゃ荷が重いよ、あんなの」 「一応二人ですけどね」 「細かいことを気にするなあ」  キャスター、プロスペローと、その「精霊」、エアリアル。彼らはキャスターらしく、今後の戦闘に向けての拠点の作成を図っていた。そもそも彼らの策が功を奏し、『座長』陣営を敗退まで追いやったのである。今聖杯戦争屈指のトラブルメーカーを緒戦で落としたのは非常に大きい。あとは順当に守りを固め、万全を期してから"残影"陣営と戦えばいいだけだったのだ。皆が聖杯戦争において、勝利を目的としているという大前提があるのなら。  ──だがしかし、ここに例外が存在する。

4 23/07/16(日)07:56:41 No.1079080367

「……っ、気付かれたか」 「来ますよ、構えて!」 「構えられる戦力はキミだけだけどね、エアリアル!」 「余計な御託はいいです! くっ──」  勝利を捨てた、例外が。 「魔力解放。過剰供給。全弾、生成。……銃がなければ弾を込められないなどというのは、誰が決めたのかしら? 『凶を撃て、銀の弾丸(シルバーバレット・アガートラム)』!」  液状の銀に全身を包んだオスカルの身体から、無数の銀弾が放たれた。うねり蠢くまさしく泥のような塊から、飛沫が放射状に弾け飛ぶ。螺旋はなく、行く末はない。生まれ落ちるように。どこにもいけないように。ただ敵を、滅するように。  オスカルの本来の戦法は、果てたカラドボルグを銃身としての銀の弾丸の乱射。しかし今の狂えるオスカルは、その武器を持たない。ならどうするか、簡単なことだった。"己の身体を、砲塔とすればいい"。狂ったことにより、本能のようにその戦法に手を出した。

5 23/07/16(日)07:57:24 No.1079080453

「ある程度は耐えられる。時間を作って逃げ延びるか、最悪第二宝具の解禁も……!」 「それならお望み通り、時間を作ってきますよ、プロスペロー!」  プロスペローの陣地は強固だ。真正面から打ち破るには時間がかかる。銀弾は着実に結界を削り落としていくが、一点を集中して攻撃することはない。それがオスカルの戦法であり、高くない機動力で近づいてくるまでは守り切ることは決して不可能ではない。    「こっちですよ、アーチャーさん! "穏やかなる風よ、銀の嵐を吹き飛ばせ"!」  エアリアルが一陣の旋風を巻き起こす。舞い、舞い、空が荒れる。生半可な飛び道具をすべて巻き上げてしまう乱気流。加えて幻術を織り混ぜ、それ以外への攻撃への認識を僅かながら阻害する。必然、正気を失っているオスカルは、プロスペローの結界と、エアリアルの風壁の二つを同時に突破せねばならない。荒れ狂う風の音が、狂気の灯火に抗っていた。

6 23/07/16(日)07:58:15 No.1079080569

 一点集中の強固な防御は、生前のオスカルにとっても不得手なものだった。彼の得意とするのは、あくまで多対一の集団戦。カラドボルグによる一掃で、親友ディルムッド・オディナの道を切り拓くこと。そうやって戦ってきた。二人ならばどこまでも行けた。  そう。  狂える頭で弾き出せる答えなど、極めてシンプル。 「……そうね、ディルムッド」 「"あなたのように、なればいい"」  一人なら、二人になればいい。  銀が再び螺旋を描く。オスカルの体を包み、孵化を待つ卵のように閉じていく。人一人を包む銀の球体が、不意に戦場に現れる。つるつるとした光沢は、嵐の中でも微動だにしない。  胎動。  変容。  生まれ変わる。  オスカルという、英霊の写し身は。

7 23/07/16(日)07:59:10 No.1079080718

「一瞬で、仕留める。……『友と成れ、銀の我身(オーバーロード・アガートラム)』!!」  英霊であることよりも、騎士であることを選んだのだから。  ──一瞬で、そこにあった銀の殻は消え。  遥か寸前の結界の前まで、たどり着いていた。 「……っ、風の護りが、消えた……!? 下がってくださいプロスペロー、ここは私が」 「無駄よ」  何が起こったのだろうか。あっという間にあれだけ強かった風の壁は消え、オスカルは距離を詰めていた。存在しないはずの、瞬発的な敏捷で。必死にプロスペローとの間に入るエアリアルを、オスカルは銀腕のひとはらいで一蹴する。こうなればもはや騎士の間合い。騎士たりえない魔術師には、なす術もない。騎士たりえないなら、殺すしかない。 「……最後に二つ、聞かせてもらおうか」 「なにかしら。私には、時間がないのだけど」  それは確かだ。オスカルには他のサーヴァントを皆殺しにする責務がある。マスターのバックアップを受けられない今、時間は一刻でも惜しい。

8 23/07/16(日)07:59:34 No.1079080773

 けれど。 「何をして、この防御を突破したんだ」 「簡単よ。銀を足に纏わせて、ばねを作って跳躍した。魔力放出の延長。魔術師さんに語るには畏れ多いけれど、私もそれなりに魔術の心得はあるの。……土壇場でやってみたけど、上手く真似できてよかった」  "誰か"に少し近づけたことは、この上なく嬉しいから。   「……その姿は、なんだ」 「ああ、これ? ふふ、素敵でしょう? 銀を前より自在に操れると気づいたから、こうしてみたの」  その半身さえ、"誰か"に似通わせたから。

9 23/07/16(日)08:00:13 No.1079080861

「じゃあ」 「……まだ何枚か即席の防壁は残っているんだけどね」 「無意味よ」 「そうか。……せめてその悲劇に、幕引きがあることを」 「『偽・紅薔薇(ゲイ・ジャルグ・イコール)』。……ありがとう」  そこまで。なけなしの防壁ごと、魔力を強制的に己の銀に変換する「宝具」で、的確かつ冷酷にプロスペローの霊核を刺し貫いた。

10 <a href="mailto:おわりです">23/07/16(日)08:00:39</a> [おわりです] No.1079080927

「……ディルムッド」  身体を包む銀は、紛れもなくフィアナ騎士団もう一人の「騎士」の姿を模っている。ぼろぼろの肢体の半分から、傷一つない完璧な騎士の姿が生えている。たとえ歪なアシンメトリが、おぞましい気狂いの有り様にしか見えなかったとしても。オスカルにとって、己が己であることはもうさほど意味はない。 「これで、私たちは最高の騎士になれる」  友の力を借りて戦えることが、至福の喜びだった。  ありえてはいけない力で過去を取り戻そうとする彼は、この戦いでまた一つ壊れたのだ。  止まらない。  終わらない。  主に従う騎士であれ。

11 23/07/16(日)08:01:54 No.1079081119

https://seesaawiki.jp/kagemiya/d/%c2%f9%a4%ec%a4%eb%a5%a2%a5%ac%a1%bc%a5%c8%a5%e9%a5%e0 何回もスレぶつかってごめんね! 以上です オスカルの英雄譚はまだまだ続く

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