ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
23/07/07(金)23:30:36 No.1076010057
ルビー、明日も朝から仕事じゃないのか?」 「……まあね」 日付がもう少しで変わりそうな七夕の夜。 家のバルコニーの手すりに頬杖をついて曇り空を眺めているルビーに声をかけた。 「……空を見ていたのか?」 俺の問いに、彼女はうんともううんともよくわからない声を返した後、こうつぶやく。 「どのみち、ここからじゃ晴れてても星は見えないか」 「こんな街中じゃあな。月とか金星ならともかく」 「……七夕って、好きじゃないな」 「……」 ぽつり、と雨音が落ちたようなその一言に何故?との問いは発しにくかった。
1 23/07/07(金)23:31:59 No.1076010701
七夕。牛郎と織女の逢瀬を祝う祭。 機織りの上手い織姫にあやかって織物の上達を祈るのが、いつしか色々な願いを星に込める夜になった。 ルビーのこと。その前世である天童寺さりなのこと。 彼女の境遇を思えば、"何故七夕が嫌いか"を訊くのははばかられた。 願ったところで、天でも地でもどうにも変わらない現実――――。 「訊かないんだね、アクアは」 「なんとなく、酷な話に思えたんだよ。さりなちゃんに七夕の短冊を書かせることが」 「あ~……」 バルコニーに出て隣に並んだ俺に、ルビーはちょっと困った顔をした。 「それはあんまり気にしてなかったかな?」 「そうか……」 「別に何を書こうが自由だしね。それに責任を負うこともないし。言いたい放題だよ。そんなことより」
2 23/07/07(金)23:33:46 No.1076011390
そう言いかけて、彼女はずいと顔を近づける。 「酷い話だと思わない?いくら身分が違うからって、いったんは結ばれたのに結局は天帝の怒りに触れて 天の川で隔てられるなんてさあ」 「気に入らんのは、七夕伝説の内容だったか」 「無力。あ~無力」 半分くらい、織姫ではなく自らに言ってるような口調に俺が黙っていると、 「でも、せんせーは私の彦星じゃないよね?」 微笑を浮かべる彼女。 「どういうことだ」 俺の問いに、ルビーはこちらの手を取って握り、瞳を潤ませる。 「彦星と違って、アクアは私の願いを叶えてくれたから」 「……俺は自分がやりたいようにやってただけだ。それにルビー本人の努力なしにはどうにもならん」 照れを隠せなかった自分を見て、彼女はニヤリとする。そして、こちらを肘でうりゃうりゃと小突き、
3 23/07/07(金)23:34:32 No.1076011701
「このツンデレお兄ちゃんめ。私、知ってるんだからね?」 「何を」 「ミヤコさんから色々聴いちゃった」 「くそっ……。本人には言うなって釘を刺しておいたのに」 「私を変な事務所に入らないように誘導してたんでしょ?」 俺は顔が熱くなるのを感じ、思わずこめかみを指で掻く。その様子を見たルビーも紅潮する。 「……ありがと」 「どう……いたしまして」 「……」 「……」 「……結果的に回り道させただけかもしれない。他の事務所ならもっと早く活躍できたかも」
4 23/07/07(金)23:35:33 No.1076012120
「苺プロで良かったよ、私は。メンバーも良かったし。B小町の名前で活動もできたし」 「そうか……」 "自己満足"と言い聞かせて今までルビーのアイドル活動を応援してきたが、やはり本人から直接こう 言われると「報われた」と感じる。 「だから、せんせーは彦星じゃないの。それに、今までずっと一緒にいてくれた」 「それは、たまたまだ。俺が願ったことですらない」 「それなら、私も別に生まれ変わりを願ってたわけじゃないよ?」 「――――」 どうなんだろう、それは。 確かに俺の場合は、事故のような形で死んで何が何やらよくわからないうちに"転生"していた。 だが、彼女は?臨終の間際の「もし私が生まれ変わっても――」のセリフが脳裏をよぎる。
5 23/07/07(金)23:36:34 No.1076012544
そんなことはおかまいなしに、 「さっきの"回り道"で思い出したけど、他にもあったあった。七夕の気に入らないところ」 「なんだ」 「ただでさえ悲恋の話なのに、七夕って七月七日なのに、ちっとも晴れないじゃん!会えないじゃん!」 「それは、人間の都合のせいだな」 「どゆこと?」 俺は簡単に、明治改暦によって季節行事がズレて七夕も一か月ぐらい前倒しになったことを説明した。 ルビーが詳細まで全て把握しきったとは思えないが、時々相槌を打って聴いてくれた。 「せんせーは博識ですなあ」 「何の役にも立たん知識だけどな」 「今、役に立ったよ?」 ニコっと笑って、キラめく瞳で俺を見る。まるで雲を突き抜けて星が目の前に現れたみたいだ。
6 23/07/07(金)23:38:09 No.1076013144
「昔も、こうやって色々お話ししてくれたよね、せんせ」 「そうだったかな」 「そうだよ!それなのに"お兄ちゃん"になってからは……全然じゃん。ちょっと、寂しかった……」 「いや……兄が妹にそういうことしてもウザがられるだけかと思って……」 「なるほどそういう言い分ですか。まあわかりました。でも、もうお互いに正体わかってるんだから、ね?」 「お、おう……」 なし崩し的に、俺はルビーに寝る前に"お話し"する時間を作るように約束させられてしまった。 「……今日はそろそろ寝るよ」 「ああ」 ルビーが背中を向けてバルコニーから部屋に入ろうとしたその時、ドンという音がして、
7 23/07/07(金)23:38:16 No.1076013195
流れキテル…
8 23/07/07(金)23:40:14 No.1076013873
「あいたっ」 「おい、大丈夫か――」 ルビーは自分がガラス戸を開けてそのままにしたので、俺が閉めてるとも気づかずに頭をぶつけてしまう。 慌てた俺が駆け寄った瞬間、振り向く。口に何かが当たる。 チュッ 反射的に互いに近づいて当たったので、また離れる。でも今度は"自分の意志"で俺を外に追い込む。 俺の両側に腕を伸ばし、彼女は手すりを掴んで目を瞑る。また顔を突き出すのでもう避けられない。 観念して彼女の背中に手を回して"意志"を受け入れた。 唇と唇が、絡み合う。
9 23/07/07(金)23:41:16 No.1076014278
インモラル・スレッド立ちすぎじゃない?
10 23/07/07(金)23:41:20 No.1076014304
アクルビは目の保養にいい
11 23/07/07(金)23:41:31 No.1076014396
もっとインモラルしようや…
12 23/07/07(金)23:42:22 No.1076014781
今日も視力が上がった
13 23/07/07(金)23:42:39 No.1076014884
二人とも寝る前だったので、少しミントの匂いがする。鼻息の音が聞こえる。 かすかに目を開けると、彼女の長い睫毛が間近に見える。 何度か口を触れたり離したりした後、少し落ち着いたので互いに距離を開ける。 完熟したリンゴみたいに真っ赤になったルビーの顔が見える。息が上がったのか肩が上下する。 「……」 「……まさかアクシデント系とはなー」 「えっ!?一言目がそれ!?」 さりなの"怒気"が、俺の顔に当たった。いや、すまん。だって―――― 「まあ……前に言ってたもんね?『そういう場を用意する』って」
14 23/07/07(金)23:43:29 No.1076015255
都会からでも織姫と彦星見えるぐらい視力上がる…
15 23/07/07(金)23:43:56 No.1076015446
俺は以前、キスの誘いを断る理由に"特別な雰囲気を作りたい"と言って彼女からも了承を得ていた。 それが意図せず、こんな形でルビーのファーストキスを奪ってしまった。 「――悪かった。ちゃんと"用意"できなかった」 「謝らないで」 「す――」 反射的にまた謝ってしまいそうになる俺の口を、ルビーは指で塞いだ。 「ごめんより、ありがとうが欲しいな。それに私、さっきせんせーにキスした時……嬉しかった。 拒否――――されるかもしれないって思ったから。アクアは?」 「良かった。ルビーと――さりなと、キス出来て。嬉しかった。予定外だったけど」 彼女の"拒否"という言葉を聴いて、俺はルビーを再び抱きしめた。普段より強めに。
16 23/07/07(金)23:44:42 No.1076015727
「不安にさせたことは謝る。ちゃんと、その……受け入れたいと思っているから。ルビーの気持ちに」 「うん……」 「……」 「私、思ったんだけどね……。『特別な何か』を用意してもらわなくてもいいんじゃないかって」 「と、言うと?」 「アクアは『ただの日常』に落としたくないと思ってる。私といる時間を。だから何か用意したい」 「そう、なるのかな」 「でも、私にとっては『ただの日常』そのものが『特別』だったから……」 俺は思わず、上体を引いて彼女の顔を見る。その表情に思わず息を呑む。
17 23/07/07(金)23:45:31 No.1076016048
微笑み。 ただ、少しの喜びの感情が顔に"乗っている"のではない。 哀しみ。苦しみ。怒り。喜び。様々な感情がすべて"乗っている"。 それらをすべて足して尚、喜びがほんの少し優っている。そんな微笑みだった。 何か。 何かもう少し言えることがあるはずだ。『特別なただの日常』であるだけでなく。 謎の焦燥感が俺を襲う。このまま七夕が終わってはいけないような。 「さっきのことはさ、こう考えたらどうだ?」 「?」 思わず、口から言葉が出る。
18 23/07/07(金)23:46:52 No.1076016570
「あんまりお前が七夕をdisるものだからさ、イタズラされたんだよ。俺たちは」 「神様のイタズラってこと?」 「まあ、そんな感じ」 手を口の前に当て、ふふっと笑うルビー。 「何それ。じゃあ、いい人達じゃん?織姫と彦星って」 「そう……かもな」 「もしかして、私が七夕好きじゃないって言ってたの、気にしてた?」 「……たぶん」 「大丈夫だよ、お兄ちゃん。これから先、七夕が来るたびに今日のこと……思い出すから」 曇り空の夜なのに、"太陽"がそこにあった。 【ベガとアルタイルのイタズラ】 おわり
19 23/07/07(金)23:47:39 No.1076016864
七夕ネタで何か書きたかった 原作の作中の季節との整合性はあんまり気にしないでおくれ
20 23/07/07(金)23:48:38 No.1076017224
ありがたい…
21 23/07/07(金)23:49:13 No.1076017444
抱け~!
22 23/07/07(金)23:49:27 No.1076017525
視力がどんどん上がっていく
23 23/07/07(金)23:49:59 No.1076017726
アクルビの誕生日七夕ならいいな
24 23/07/07(金)23:51:08 No.1076018188
fu2342904.txt 一応、前回自分が書いた奴を挙げておきます
25 23/07/07(金)23:54:41 No.1076019639
>アクルビの誕生日七夕ならいいな 誕生日っていつかわからないのか....
26 23/07/07(金)23:54:56 No.1076019731
作中の季節っていつぐらいだっけ
27 23/07/07(金)23:58:10 No.1076020858
ありがたい… 視力がまた上がる…
28 23/07/08(土)00:00:56 No.1076021951
バルコニーだと誰かに撮られるかもわからんぞ!ロマンチックだから仕方ないけど!
29 23/07/08(土)00:02:37 No.1076022613
>バルコニーだと誰かに撮られるかもわからんぞ!ロマンチックだから仕方ないけど! 至近距離でもなければ誤魔化せるやろ....
30 23/07/08(土)00:03:12 No.1076022833
>バルコニーだと誰かに撮られるかもわからんぞ!ロマンチックだから仕方ないけど! どうにも言い逃れできないキス写真だとしてもこう言えばいいのさ 「キスシーンの練習してた」って