23/07/01(土)01:25:33 泥のSS のスレッド詳細
削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。
画像ファイル名:1688142333418.jpg 23/07/01(土)01:25:33 No.1073418630
泥のSS
1 23/07/01(土)02:04:40 No.1073426922
>メスガキに負けたハム子 fu2322376.txt 書きました メスガキの鯖が確定してないので謎時空になってます
2 23/07/01(土)02:16:19 No.1073428991
へいわなせかい…
3 23/07/01(土)04:40:44 No.1073441723
すっかり遅くなってしまった。時刻は20時を回り、辺りはすっかり暗がりに包まれている。 自転車を漕ぐ身体には疲労感も残る。生徒会長の頼みとはいえ、流石にこの時間まで学校に残ってしまうのは考えものか。 ただ疲労感自体は心地よいものだった。誰かに必要とされたが故の疲れ、というのは何よりの自己証明となる。 その点で言えば……帰り際、先生の誘いを断ってしまったことは少々心残りではあった。 善意で提案してくれたのだろう、ということは分かっているけれど……車で送ってもらう、というのは申し訳ない。 学校側や何らかの事情で遅れたならまだしも、今回は完全に私の判断で学校に残ると決めたわけだし。 そういう事情もあり、断りを入れてしまった。残念そうな先生の表情が、疲労に紛れて脳裏を掠める。 ……心地よい疲労と尾を引く後悔を振り払うように、人通りもまばらな帰路を自転車で駆け抜けていく。
4 23/07/01(土)04:40:58 No.1073441735
水慧橋を抜け影宮町に入ると、人通りは一気に疎らとなる。 橋沿いの大通りは兎も角として、少し路地に入ると通行人の数は目に見えて減る。 新町の現代的な町並みに慣れているとどこかクラシカルさ、言い方は悪いが古臭さの残る住宅街。 未だ白熱灯を用いた街灯の明かりに照らされ、信号機の赤色に足を止めていると。 「…………?」 ふと、道路の片隅に違和感を覚えた。視線を感じた、とも言う。 電柱の影に隠れるようにしてこちらを眺めていたのは……トカゲ? 自転車を降り、身を屈ませて視線を落とす。こちらが近づいても逃げる様子はなく、つぶらな瞳をこちらへ向けている。 街灯の明かりに暗褐色の鱗を僅かに輝かせ、しなやかな尻尾を伝わせる……ちょっとかわいい。
5 23/07/01(土)04:41:09 No.1073441740
「トカゲなんて珍しいな……ふふ、おいでおいで」 人差し指を差し出すと、少しだけ様子を伺った後におそるおそる登り始めた。 手のひらどころか指のみで収まってしまいそうなほど小さな身体。そのまま顔のもとまで持ち上げ、しげしげと眺める。 爬虫類、両生類に忌避感はない。黒塗りのまなことしばし見つめ合い、観察を続けること十数秒。 「おっと……もう行かなきゃ。それじゃ……元気でね」 赤色の明かりが青に変わり、通行可を知らせる明かりが点った事に気が付き指先を地面へと近づけた。 するとトカゲも踵を返し、ぬるりと指から降りて地面へ。一度こちらを振り返るような仕草を見せて、自然へと帰っていく。 アニマルセラピー……ではないけど、ちょっとだけ癒やされたな。猫や犬もいいけど、ああいうのも可愛い。 思いがけぬ出会いに頬を綻ばせ、気持ち軽くなった身体で帰路へと戻る。
6 23/07/01(土)04:41:24 No.1073441759
────そしてふと。背筋を伝う、寒気にも似た違和感があった。 トカゲ?今は2月の半ばを過ぎた時期だ。まだ冬と言って良い。比較的温暖な地方とはいえ、寒さも厳しい折である。 であれば爬虫類は冬眠している時期のはず。活動的には動かない。ならば……あのトカゲは一体? 本能的な違和感というよりも、何らかの経験……培った知識から生じた違和感であった。 何故冬にトカゲが活動していたのか。自分を見つめていたのか。そこから視線を感じたのか。 ひとたび浮かび上がった疑問から、ふつふつと連鎖的な疑問が溢れ出る。なんだろう、何か引っかかるんだけど。 ……単なる思い過ごしであると思いたい。考えすぎだ、と自分を納得させたい。そのためには。
7 23/07/01(土)04:41:43 No.1073441777
「…………明日、先生に聞いてみようかな」 有識者に頼るのが一番だ。偶然にも、担任の白瀧先生は爬虫類に対して豊富な知識を持っている。 飼育もしているという。ならば生態にも詳しいだろう。先程のこともあるし……謝りがてら訪ねてみようか。 種族は違うが、熊も冬眠から目覚めて冬に活動する事があるという。ならトカゲにも同じようなことがあるのかも。 特に何の問題もない、あれはただ珍しいだけのトカゲなのだと────私は、燻る違和感に蓋をするように思考を打ち切った。 ──彼女にもう少し、魔術師としての経験があったならば。 ──出会った“それ”に含まれる魔力の残り香、生命としての違和感に気が付くことが出来たのかもしれない。 ――魔導書に記されていた、魔術師或いは魔術使いが扱う“使い魔”に属するものであると結び付けられたのかもしれない。 ──だが気が付かぬ事もまた僥倖。亞海は魔術に通じている、ということを悟られずに済むだろう。 ──寒空のもと、暗がりに消えていく少女の背中をトカゲは見送る。その瞳の奥に居る、或る魔術使いもまた同じく────。