虹裏img歴史資料館

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23/06/23(金)20:25:45 「oh,Ar... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1687519545707.jpg 23/06/23(金)20:25:45 No.1070735336

「oh,Are you OK?」 ある日のこと。街中を歩いてたら急に力が抜けて躓いてしまい、偶々近くにいたウマ娘にぶつかってしまった。危うくドミノ倒しになるかと思ったが、相手の体幹が非常に強いのか、柔らかな肌によってしっかりと受け止められた。整った顔立ちと青い瞳が至近距離で覗き込んでくる。 「す、すみません!」 キョドりながら姿勢を正すと、そのウマ娘はくすりと笑って立ち去っていった。身長は180cmくらいあるだろうか。俺よりも10cmは背が高く、綺麗な金髪の持ち主で、多分アメリカのウマ娘なのだろう。まだトレーナーを目指す身ではあるが、いつかあんな子をスカウトしてみたいものだ。 彼女の後ろ姿と残り香を記憶に焼き付けながら見送ると──俺の足元に、何かが落ちていることに気が付いた。 パスポートだ。United statesのパスポート。多分彼女の物に違いない。慌ててそれを拾い上げ、彼女の背中に追い付く。落とし物ですよ、と── 「……それはココで学んだジョーク? これ、君のパスポートだよ」 ──オベイユアマスターが開いて見せたパスポートには、金髪で、彼女とは違うウマ娘の写真が載っていた。

1 23/06/23(金)20:26:49 No.1070735715

「誰の影響かな? タマモクロス? オグリキャップ? それとも他の海外ウマ娘?」 オベイユアマスターが妙に親しげに絡んでくる。彼女とはこれが初対面の筈で、たったさっきぶつかって落とし物を渡したに過ぎない。 なのにまるで10年来の親友に接するかのような距離感。彼女の向けた人差し指が俺の顎先をつう、と撫でた。 彼女の個性なのか、それともアメリカのウマ娘はみんなこうなのか。いや、そもそもオベイユアマスターはこんなキャラだったか── 「……?」 ふと、奇妙なことに気が付いた。 さっきまで見上げていたオベイの目線が真っ正面にある。別に彼女が膝を曲げている訳じゃない。オレも背伸びをしているわけじゃない。なのに目線が真っ直ぐ合っている。 それに、風が吹くたびに肩や背中をサラサラとした何かが擽るしイイ匂いがする。クラスの髪の長い女子とすれ違った時のような、シャンプーの香りのような……。

2 23/06/23(金)20:27:19 No.1070735917

「えっ、えっと……俺のじゃない、です……だって、オレ、パスポート持てナイし……」 「うーん。笑いどころがわからないな、ニポンのジョークは……じゃあ、この名前はなに?」 緊張のせいか、舌が上手く回らずカタコトになってしまう。そんなオレに、彼女の人差し指がパスポートの名前欄を指差す。そこに書いてある名前は勿論、知らない名前。 「Pay the──あ、ホント、オレの……エ?」 なのに、スラスラ読めた。 「ン……まだ疲労が残っているのかな?」 「アー……」 ──そう。レース疲れか、さっきから少しぼんやりしてしまう。それでさっきも、この国の少年とぶつかってしまった。少し顔が赤かったが、彼は大丈夫だっただろうか──

3 23/06/23(金)20:28:45 No.1070736467

「what's……?」 ──さっきから何かがおかしい。オベイにぶつかってパスポートを拾ってから、歯車が一つズレたような感覚がある。頭がぼうっとする。それに、街の景色も何かおかしい。看板の文字や周りから聴こえてくる言葉がわからない。見慣れた街中の景色の筈なのに、突然遠い異国の地に放り込まれたような。 もしかして知らない間に異世界に迷い込んでしまったのか。そんなことすら大真面目に考えてしまう。 「oh……?」 キョロキョロしていると、また奇妙なものを見つけた。近くのビルのガラスに映る景色。オベイと──もう一人、背の高いウマ娘が並んで立っている。長い金髪で、大きな胸と尻で、オベイとよく似ている。瓜二つとまでは言わないが、雰囲気が似ている。よく見るとパスポートの写真と同じ顔。 だが、鏡面となっているガラスには一人足りていない。日本人の男性が、『俺』が映っていない。オレがいるべき場所に、金髪のウマ娘が立っている。 「……No way……」 ガラスから目を背けて、下を向く。肩にかかる金髪。大きく、山のように膨らんだ胸。再びガラスを見る。金髪のウマ娘が、オレを見ている。 これじゃあ、まるで、オレがパスポートの──

4 23/06/23(金)20:29:03 No.1070736563

「君■は……ど■■した■か?」 ガラスから目を離す。突然馴れ馴れしく話かけて来たのはオグリキャップ。今日本で最も有名と言っても過言ではないスター。 「……やあ、オグリキャップ! ミーのパートナーが疲れているみたいでね」 「……オグリ……キャップ……」 そんな相手が目の前にいるのに、どうしてか驚きを感じない。いや、驚いてはいるが、それ以上に強い感情──勝負相手に対する、リスペクトのような気持ちが湧き上がってくる。 さらに不思議なことに、オグリキャップの言葉が所々聞き取れない。彼女は何語を話しているんだ?

5 23/06/23(金)20:29:32 No.1070736754

「■■なら、■■■はど■だろ■か?」 「アー……■■、ね」 オグリキャップとオベイが何を話しているのかがわからない。一体彼女達は何語を話しているのだろうか。非常に複雑な言葉で、しかし聞き覚えもあるような気もする、不思議な言語。 やっぱりオレは、違う世界に迷い込んでしまったのだろうか? 置いてけぼりにされていると、オベイがこちらに振り向いてウインクをした。 「ああ、ゴメンね? キミはこの国の言葉ばまだ勉強中だったね……この国の言葉は本当に複雑怪奇だ」 「この、国……?」 「ニポン語は本当にカオスだね」 「……エ?」 ニポン語。オレの聞き間違えでなければ、彼女達は日本語を話している? 嘘だ、そんな筈はない。だってオレは日本人で、日本語なら聞き取れない筈が──

6 23/06/23(金)20:29:49 No.1070736867

「あの看板一つにしてもそう。カタカナ・ヒラガナ・カンジ。まるで言語のジャパンカップだ」 ──わからない。オベイが指差した看板に書いてある文字が、読めない。カンジやヒラガナなら読める筈なのに。グニャグニャした複雑怪奇な文字の連なりが、まるで理解できない。 「■れで、■■■■? 案■するぞ」 「ああ、そうだね。じゃあ、ここはお言葉に甘えようかな?」 オレは、どうなってるんだ? 彼女達は、オベイは、オレをどこに連れて行こうとしているんだ──?

7 23/06/23(金)20:31:27 No.1070737544

──オグリキャップとオベイに連れられて来た場所はなんてことのない、健康ランドだった。 「確か言ってたよね。『ジャパンのONSENに興味がある』って。ここもまぁ……似たようなものかな?」 そうだ。確かに言った気がする。ジャパンカップへの出走を決めた時、折角日本に行くなら暇があれば行ってみたいと。レースでの疲労も残っていることだし、確かにちょうど良い機会かもしれない。 「帰る前にちょっとしたバカンスも悪くないんじゃない?」 「……ウン……?」 オベイに促されて脱衣所で服を脱ぐ。ジャケットとシャツを脱ぐと、白い肌に大きな胸。引き締まった腹筋が露わになる。どうしてだろう。オベイの前で脱ぐのはいつものことなのに、どうしてこんなにも恥ずかしいのか。 続けてジーンズに手をかけ下着も脱ぐ。そしてオレの分身とも呼ぶべき相棒が── 「……a……」 ──無い。オレのモノが、無い!

8 23/06/23(金)20:32:24 No.1070737933

「What the f──!?」 そのあまりの衝撃で、頭のモヤモヤが晴れた。 やっぱり、オレの身体がウマ娘になっている! 日本人男性の平均的な体型が──背が高く、金髪で、青い瞳で、少し筋肉質な──オベイと一緒に鍛え続けてきた肉体になっている。オベイと出会って、まるで他人のような気がしなくて、チームを組んで鍛え続けてきて。 一緒に出走したジャパンカップで、まさかの同着勝利を決めて── 「……No……No,way……」 知らない記憶が次々と浮かんでくる。違う、オレはアメリカのウマ娘じゃない。オレは日本の新人トレーナーで、まだ担当はいないけどいつかスカウトして ── 「さ、行こうか。ナビゲーターが待ってる」 「oh……!」 ──オベイに手を引かれて、オグリキャップが待つ健康ランドへと脚を踏み入れた。

9 23/06/23(金)20:32:59 No.1070738199

「hm……」 オグリキャップに案内され、サウナや水風呂、岩盤浴、温泉を満喫する。すれ違う美しいウマ娘達の肢体に目を奪われてはオベイに肘で小突かれ── 「……No……No……!」 ──汗が伝うたびに、自分の身体を認識するたびに、そしてオグリキャップの身体を観察するたびに、レースで勝つために切磋琢磨してきた日々が記憶に浮かんでくる。 レースでの思い出が、勝利の感覚が胸を酔わせ、そして目の前のオグリキャップ──素晴らしい身体付きのウマ娘だが、オレとオベイは彼女に勝ったのだという誇らしい気持ちが湧き上がってくる。 トレーナーになるために必死に勉強をしているのだから、ターフで駆け抜けたことなんて無い筈はのに。オレ自身が走りたいんじゃなくて、俺はただ彼女達を応援したかっただけなのに── 「フフ……『イイユダナ』って言うんだってさ」 「そうなんだ……『イイユダナ』……♪」 ──今はただ、オベイと一緒にここまで来られたということが、何よりも嬉しい。

10 23/06/23(金)20:33:14 No.1070738308

「案内ありがとう、オグリキャップ。お陰でリフレッシュできたよ」 「それは■■■■。い■■ま■■■に■■■」 結局、健康ランドを端から端まで堪能してしまった。今オレがやるべきことはそうじゃない。一刻も早くこの異常な事態から抜け出すこと。そうじゃないと、きっとオレは本当にアメリカのウマ娘になってしまう。早く、早く帰らないと── 「ホラ。キミも」 「ah……アリガト、オグリキャップ」 ──まずいとわかっているのに、止められない。オレは、オグリキャップにお礼と別れを告げて、健康ランドを後にした。

11 23/06/23(金)20:35:00 No.1070738987

「……」 ホテルへの道をオベイと並んで歩く。もう日も暮れそうだし、オレはアメリカのウマ娘なので、ホテルに戻って荷造りをしなければならない。もう明日には帰国しないといけない。 ──違う。そうじゃない。オレは日本人だ、戻るべき場所はアメリカじゃなくて俺の家だ。なのに、脚が止まらない。 「ア、■■■■■!」 「oh,Are you OK?」 熱に浮かされたような気持ちで歩いていたせいか、道で見知らぬ男性にぶつかってしまった。自分より10cmは背が低いだろうか。日本人は背が低めだと思う。 頭を下げて去っていった彼を見送ると、オベイがパスポートを手渡してきた。 「ほら、落とし物だよ?」 「……oh」

12 23/06/23(金)20:35:11 No.1070739067

United statesの文字が書かれたパスポート。この国において自分の身元を証明するもの。 ……なんとなく、これを受け取ってはいけない気がする。もう戻れなくなる。そんな不思議な予感があって── 「うん、ありがとう。オベイ」 ──オレは、彼女から受け取ったパスポートを、ジャケットの内ポケットにしまった。

13 <a href="mailto:s">23/06/23(金)20:36:21</a> [s] No.1070739536

どうしようもない理不尽に巻き込まれて男としての意識はあるまま作画: 久住太陽な海外ウマ娘にされたい

14 23/06/23(金)20:38:17 No.1070740312

奇妙な物語…

15 23/06/23(金)20:41:07 No.1070741383

日本人だった記憶はちゃんとあるのに日本語が読めなくなって英語を母国語と感じちゃうのいいよね…

16 23/06/23(金)20:43:40 No.1070742362

ぶつかった時は知らないあめりかじんだったのにパスポート拾った瞬間からオベイユアマスターになってて次の瞬間にはオベイって相性で呼ぶくらい侵食されてる

17 23/06/23(金)20:47:15 No.1070743665

生徒手帳 プリティミラー パスポート 三大TS即死アイテム

18 23/06/23(金)20:48:06 No.1070743957

コテコテな外人化いいよね…味覚とかもがっつり変わってそう

19 23/06/23(金)20:51:36 No.1070745336

>コテコテな外人化いいよね…味覚とかもがっつり変わってそう 自分が日本人だったことを思い出そうと好きだったお米とか和食とか食べて「変な味」だと感じてショック受けたいよね……

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