虹裏img歴史資料館

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23/06/21(水)23:45:54 星にな... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1687358754400.jpg 23/06/21(水)23:45:54 No.1070115863

星になりたかったんだ 誰より目を引く一等星に

1 23/06/21(水)23:46:17 No.1070116101

昔から喧嘩が好きだった。 互いの熱をぶつけ合い、相手を下して悦に浸る。弾丸を浴びた皮膚の痛みは私を熱狂させ、喰らった拳の重さは怒りとなって倍返しした。 人の苦しむ姿が見たいとか、そういうんじゃなくて、ただ喧嘩という競技に私は明け暮れていた。ルールに則ったスポーツ 気づけば舎弟を名乗るようなのも増えて、キャスパリーグなんて呼ばれるようになった。 古い物語に出てくる魔物の名を冠されるのはむずがゆいところはあったけれど、あだ名によって名が売れたのはよかった。 私が強いスケバンという噂が広まるほど、同じ喧嘩中毒の不良とか、縄張りを主張する裏社会の連中とか、そういう荒くれ者が寄ってきた。 当然全部蹴散らしてやった。 不意打ちだろうがタイマンだろうが、私に勝てるやつはいなかった。 だから、あいつのことも特に警戒はしなかった。

2 23/06/21(水)23:46:39 No.1070116339

「あなたがキャスパリーグ……ですね!」 突如現れたそいつは、堂々と真っ正面から私に啖呵を切った。 「泣く子を黙らすスケバンの女王!地を這う黒き獣!悪を喰らう悪!魔猫キャスパリーグ!私、宇沢レイサと勝負です!」 バカみたいな言い回し────実際バカなのかもしれなかったけれど────をしながら、あいつは恥ずかしげもなく突っかかってきた。私も大概血の気が多かったからそんなやっすい挑戦も嬉々として受けた。 結果は……知りたい? まあ、負けはしなかったよ。それこそ、こそこそ逃げ隠れするならともかく、真っ向勝負なら。 今よりもあいつ体力無かったしね。 ただ、あいつは一回じゃ飽き足らず、何度も、何度も私に挑んできた。 どこから嗅ぎつけたのか、私が隠れ家を変えてもガンガン見つけて、大きな声で喚きながら誤字だらけの挑戦状を叩きつけてきた。 まあうっとおしかったね。 だってすでに決着してた。終わった喧嘩に拘る趣味は無かったし、格付けは完了した。 私の方が強くって、あいつの方が弱い。それが決定している以上、私が付き合う義理は無かった。

3 23/06/21(水)23:46:59 No.1070116585

無かったんだけど、うーん…………あいつさあ……「逃げるのですか!?キャスパリーグ!」とか言ってきてね?それはちょっと心外だったから、またあいつの誘いに乗っちゃって。 そこからはもうキリが無かったな。互いにバチバチ弾ぶつけ合って、薬莢撒き散らしながら追い追われ。 さすがに全戦全勝とはいかなかった。ヘイローがジンジンして、これヤバイなと思って逃げ…………ううん、撤退したことも何度か。 そんな感じだから、あいつの言うライバルがどうこうってのも、ことさら否定できないんだ。 あいつとのじゃれあいは楽しかった。知られたくない思い出であっても、無くしたい思い出じゃない。 だけど、溺れるような憧憬の前に、そんな熱は一瞬で塗り潰された。

4 23/06/21(水)23:47:19 No.1070116798

初めてあの子を見た時の話はしたっけ、うん、そうそう喧嘩帰りにアイスクリーム食べてるあの子を見つけてってやつ。 あの時私の世界は変わった。変えられた。 私の持っていない輝きを持っているあの子を、私は羨んだ。 妬みは無い。呪いも無い。そんな暗い感情はあの子には抱けなかった。 呪われたのは私の方。頭の中ぐちゃぐちゃにかき回されて、これまでの人生で積み上げた価値観のピラミッドに、特大の宝石を投げ込まれてしまった。 たった一瞬の邂逅だったのに、もう私の心はかくあれかしとしか言わなかった。 まず、形から入ろうとした。 トップクタンスに仕舞い込んで、あまり着てなかった私服引っ張り出して。 服屋に行って、あの子みたいな洋服を買おうとした。だけどまあ、これが笑っちゃうくらい似合わなくってさ。 白を基調にしたワンピとか、甘いフリフリな感じのお姫様みたいなやつ?ああいうのはまるっきり。 ペットの動物が飼い主に無理矢理服着せられてるような違和感。 これはもう生来の見た目からのものだから仕方ない。

5 23/06/21(水)23:47:56 No.1070117174

だから方針を変えた。 あの子になるんじゃなく、あの子のそばにあってもおかしくない私になろうとした。 これまでの私の『世界』とあの子の『世界』は違ったから。少なくとも、あの子の物語に出てこれるような姿になりたかった。 コンビニで今まで横目に流し見てたファッション誌漁って、お昼に流れるくだらないけれど流行を作ってる若い女の子が出ている情報番組を見て、勉強した。 やってるうちに結構楽しくなってさ、思ったよりも向いてたのかもね。 高校に上がる頃には自分で言うのもなんだけど、割と形にできて、それなりにマブ…………見栄えるようになったかな。 そして、トリニティの入学式。またあの子に出会った。 整列している一年生の集団の中で遠目ではあったけれど。見間違えるはずがない。 傷の無い幼い子みたいな柔らかい髪。宝石のように輝いている緑眼。日焼けしていない白い肌に、入学まもなくて緊張しているのか、上気した赤い頬が浮かんでた。

6 23/06/21(水)23:48:46 No.1070117660

綺麗だったな。 あの時憧れたままの姿。制服は違っても、持ってる雰囲気は全く損なわれていなくって。いや、むしろ制服があの子にあつらえたように馴染んでいたんだな。お嬢様学校なんて言われてるけれど、ティーパーティーのどんなお姫様よりも、私にはあの子の方が輝いて見えた。 だから、あのこと初めて話した時は本当に嬉しかった。 見かけたあの子に近づきたくて、スイーツ部に行ったら本当にあの子もいて。 同じ一年生だったからか、少し手探りながらも私に話しかけてくれた。あの時の私、緊張と格好つけと、抜けきってない元ヤンの雰囲気で結構怖い顔してたと思うんだけどね。 話した内容も覚えていない。隣にいた天使に真正面から見つめられて、私の上等じゃない脳回路は処理落ちしてしまった。ただ弾けるような笑顔だけが、網膜に灼きついている。 だから、『この時』私の『世界』は本当に切り替わったんだ。

7 23/06/21(水)23:49:15 No.1070117970

血と硝煙の中で暴力を振るい合う不良の世界ではなく、阿呆みたいに呆けながらも平和で穏やかな少女の世界に。 けどね、せっかく宗旨替えできたんだから私はもう過去を忘れて過ごすべきだったのに、頭の隅っこにどうしても染み付いて離れないものもあったみたいで。 それが引き摺り出されたのがあの事件。そう、あいつが私にストーキングしだしたヤツ。 まあね、すごい嫌だったんだよ。私はもうあいつの世界とは違う住人だと思っていたのに、いやいやまだあなたはこちら側ですなんて訴えられるようで。 私の主張は、あの時も今も変わらない。私は『こっち』がいい。 あいつのところなんて行ってやらない。 だけど、うん。 あいつがこっちに少し入ってくるのは、まあいいかなって思えるんだ。 たとえ世界が変わっても、そこで作った縁までは、捨てなくてもいいんじゃないかなって。

8 23/06/21(水)23:50:30 No.1070118656

星にはならなくていい そう教えてもらった

9 23/06/21(水)23:50:55 No.1070118945

授業の終わりを告げる鐘がなる。 最近は先生に教えてもらった甲斐もあって、それなりに理解できるようになってきた勉強は、それでも大変だし面倒くさい。 机にしがみついてるだけでへばるようなやわな身体はしてないけれど、頭は別だ。 私の出来の良くない脳は、数式の解読に用いた糖分を欲していらっしゃる。 放課後はその補給のための時間。学生らしく部活動に勤しむことで、身体を癒す。というのが普段のルーティーン。 しかし、今日は少し事情が違った。 ヨシミは補習がヤバいとか、アイリはクラスの子と約束があるとか、ナツは……なんか……探検に行くって言ってたかな……?私たちを誘わず一人でってのもまあまあ珍しいけれど、そこにわざわざついて行きたがるほど空気が読めない女ではない。 まあつまり、本日放課後スイーツ部はお休みなのです。 こうなってしまうとどうにも手持ち無沙汰である。 単独行動は苦手じゃない。それどころかむしろ集団行動の方が負担が大きいタチだけど、揃ってみんな捕まらないとなるとなんだかモヤモヤする。寂しい、とかではない。絶対。 のんびりとノートをカバンに突っ込み、教室を出てから、さてこれからどう動こうかと思案する。

10 23/06/21(水)23:51:20 No.1070119184

たとえ部活が無かろうと私の目的は変わらない。とりあえず何か甘いもの。 せっかく一人なのだから、ちゃんと質の良いやつを────。 と、そこまで考えたところで、見慣れた後ろ姿が目についた。 淡い虹色の髪に、オーバーサイズのリュックサック。とてとてと弾むように歩く少女。 「宇沢」 「はい?」 声をかけると、彼女は間抜け面をしながらこちらを振り返った。 そして、私の顔を認知した瞬間、パァッと表情を明るくしてずんずんこちらに向かってくる。 「杏山カズサじゃないですか!いったい私になんの御用……はっ!ふふっ……私わかりました!わかってしまいました!勝負ですね!ええもちろん受けて立ちます!」 「違う」

11 23/06/21(水)23:51:39 No.1070119356

ニンダイ終わりのタイミング見計らった時間なのかわいい

12 23/06/21(水)23:51:48 No.1070119444

名前を呼んだだけでなぜそういう結論に至るのだ。 治安を守る仕事のくせに、むしろ自分から喧嘩をしたがるのは、もはやどちらが不良なのかわからない。 しかし、彼女も(今回は)別に本気で言っていたわけではないようで、否定されてもへらへら笑っている。 「特に用事があったわけじゃない。ただまあ、見かけたから挨拶くらいはね」 「挨拶!?杏山カズサの挨拶と言えば!単騎で敵陣に乗り込みその鋭い爪牙で戦場を引っ掻き回したあげくに一人荒野の上に」 「違う。宇沢、そろそろ怒るよ」 いい加減にしておけよ。とギロりと睨みつけるが、まるで応えていない様子。 それどころか私の目を見つめ返してくる始末だ。 正直なところこの手の、私の過去をネタにした掛け合いは、いまに始まったことではない。 なんならこいつよりもナツの方がよっぽど擦ってくる。

13 23/06/21(水)23:52:13 No.1070119694

やめてほしいかといえばやめてほしい。ナツに関してはすでに何度もボコボコにしているし、ヨシミにも同上だが、こいつ、宇沢レイサに対しては、なんというか、あまりそういう手段に及びづらいのだ。 それは、こいつがアイツらに比べて私と実力が近いから暴力が通用しないとか、自警団という治安組織に入っているからとか、そういうのではなくって。ただ、言葉のコミュニケーションに肉体のコミュニケーションで返したくない。 すでに私とこいつは何度となく肉体言語を、喧嘩を行った。 今は言葉で語りたい。たとえそれが不愉快な弄りであったとしても。 こいつが人との距離感を測れないのは知っている。それを切り捨てる気は、今の私にはない。 「あれ?今日は放課後スイーツ部の皆さんは一緒じゃないんですね」 「みんな用事があるって。だから私は一人で下校。あんたは?自警団あるんじゃないの?」 「あはは……今日はお休みを頂いて……ちょうど見回りに出れる方も多くて……私は大丈夫と言ったんですよ!?ですけど、最近疲れが目立つから、たまには自分の時間をとスズミさんにも言われてしまって……あの……あまりお断りするのも、失礼かなーと思って……」

14 23/06/21(水)23:52:42 No.1070119980

スズミ。 こいつの会話でたまに出てくる、自警団の上層部───そんなものがあの集団にあるのかは置いといて───らしい先輩の名前だ。 宇沢はどうにもその人には強く出られないらしい。 より突っ込んで言うと、その人の意見なら鵜呑みにしている。と言った方が近いかもしれない。宇沢は思い込みが激しく、一人で突っ走るタイプで、同時に他者への決めつけも強い。 まさについこないだまでヤンキー継続中だと決めつけられていた私が言うのならば、それなりの説得力はあるだろう。 そして宇沢の中で、そのスズミなどという人物は、間違ったことはまるで言わない、正論と正義の化身だということになっているのかもしれない。 まるで盲信だ。 そこまで誰かを疑いなく信奉することは、私にはできない。 少しだけイラつく。

15 23/06/21(水)23:53:04 No.1070120198

「ふーん。じゃあなに、あんた今日暇なの?」 こいつが暇なら、スイーツ部の穴埋めをやってもらおうか、と思って、枕として投げた質問。 「そうですねー。ついさっきまで自警団任務に出るつもりでいたので、クラスの方のお誘いも断ってしまいましたし。うーむ……」 だけれど、その予想外の言葉にピクりと、意図せず私の耳が動いた。 クラスの、方? 「え。宇沢、クラスメイトに友達いたの」 大仰に腕を組んで考え込む宇沢に思わず問いかけると、こいつは一瞬キョトンとした顔をした後。 「はい!前々からお誘いは頂いていたのですが、最近ご一緒に遊ばせていただくことが多くって。とても良い方々で!先生の言う通りに勇気を出してみてよかったです!」

16 23/06/21(水)23:53:25 No.1070120407

なんて、見たこともないような、本当に嬉しそうな顔で私に言う。 だけれど、なんだろう。その宇沢の笑顔を私は喜ばしいものと思えない。 ネズミを捕らえてきた猫が、主人に戦利品を見せつけてきたような。私はそんなもの欲していないのに、自分の立派さを主張される。そういう雰囲気。 「…………へえ。よかったじゃん」 「はい!」 自分の感情が理解できないまま、とりあえず定型句を返すと、主人に褒められた猫は、笑顔で大きく頷く。 「まあ、それはそれとして。結局空いてるんでしょ?だったらちょっと付き合ってよ」 「え?杏山カズサに、私が?」 「他に誰がいるの。私もメンツ揃わなくて手持ち無沙汰だったし、ちょっと放課後スイーツ部では手が回っていない場所行きたいんだ」 「え、あの、私が行ってもいいんですか?」

17 23/06/21(水)23:53:49 No.1070120621

不安そうにこちらを見つめてくる宇沢。あまり見たことがない弱ったような姿に、ざわついた心が和んでいく。 そんなに性格は悪くないつもりだが、どうも今日はおかしい。 私はおどつく宇沢の前でふっ、と軽く笑う。 「誘ってるんだから当たり前でしょ。まあ、面倒だったら別にいいけど」 「そ、そんなことはありませんけど……うう…………行きます!行きます行きます!杏山カズサとスイーツ巡りですよね!?します!」 「巡りってほどじゃないけどね」 翻って大声で返事をする宇沢に苦笑しながら、私たちは寄り道を決めた。

18 23/06/21(水)23:54:08 No.1070120804

訪れたのはトリニティの近くのスイーツショップ。これくらいの距離なら普段の部活動はおろか、登下校の合間に寄ることも容易な立地だったが、私はここのスイーツを食べたことがなかった。 理由は、この店が『二人組専用』だからである。 席は向かい合う形のものしかなく、甘い菓子を大切な方と二人きりで味わっていただく。というのがコンセプトらしい。 別に組み合わせはカップルでも友人でもなんでもよかったのだけれど、スイーツ部は4人。 2:2に分けることもできた。だけれどそれは、アイリ・ヨシミ・ナツのうち誰か一人とずっと顔を突き合わせなければならないということ。バカ二人と喧嘩にならない自信はないし、アイリと二人きりで心臓が保つ自信もない。よってみんなの前であれこれ理由をつけて後回しにしてきたが、今日のツレは違う。 なにせ宇沢だ。店で暴れない程度の良識はあるし、今さらこいつに緊張など微塵もしない。 私は何の憂いもなく目玉商品を注文した。

19 23/06/21(水)23:54:34 No.1070121032

「おおおおおおおお!!!!!!すごい!!!!!すごいです見てください杏山カズサ!!!!!このパフェシロップをかける量で味が全く変わります!?!?!?」 初めて文明の利器に触れた原始人のごとく激しいリアクションを取る宇沢。私が料理人だったなら冥利に尽きるだろう。 「シロップを多くかけるとアイスが溶けて、下のフルーツ層の味が染み出してくる仕組みかな。これなら全く飽きが来ない……ふふっこれまで来なかったのがもったいないね」 かくいう私も叫んだりはしないものの、パフェの完成度に舌鼓を打つ。 甘さそのものはねっとりと、しつこさを感じる僅か手前なのに、一緒に放り込まれる酸味が口にアクセントを与えてきて、これは確かに人と話しながら食べたいスイーツだ。 宇沢に目を向けると、目を輝かせながらパクパクと食べ進め、そのたびに震えながら味わいに打ちのめされている。 こういう光景を微笑ましいと言うのだろうか? けれど私の舌は、スイーツを堪能しつつも脳の片隅で、先の話についてのモヤつきを振り払えずにいた。

20 23/06/21(水)23:54:54 No.1070121204

宇沢に友人ができたのは、別に、不思議なことではない。こいつは気合いがから回ったり、一緒にいると引きずられて疲れるだけで、悪いやつではない。悪虐とは程遠い世界にいるのがこの女だ。 だけれど、中学の頃から人に馴染むという行為を得意にしていなかった。なまじ一人でいても平気な心と体を持っていたから、それを改めようともしていなかった。 だから、こいつは交友関係が狭くって、ずっと絡むやつなんて、私くらいしかいなかったはずだった。なのに……。 なのに? ああ、そうか すとん。と腑に落ちる。つまり、なんだ。嫉妬か? 私は、宇沢が私以外の人間を見ていることが不快だったのか? 今の私は宇沢にとって何人もいる友人の一人であって、特別な何かではない。 私にとっての特別は、迷うことなくただ一人。他の全てを失っても、あの輝きを忘れることはない。

21 23/06/21(水)23:55:13 No.1070121366

同時に、私自身が宇沢の無二でありたかったという感情があった。 傲慢極まりない。自分は他の輝きを見ているのに、こいつには私を見ていて欲しいなど。そんな不条理は通らないだろうに。いったい何様のつもりだ。 さほど性格が悪くないつもりだって?自分に呆れ返る。 さほど厳格でもない私でさえ、思わず自嘲してしまうのだから、激しい正義感の持ち主などがこんな思慮に至ってしまえば、煮えたぎるような怒りを自分自身にぶつけていたかもしれない。 それほどバカらしい、誠実さの欠如。 「?何か言いましたか杏山カズサ」 自虐的に笑う私を、食べる手を止め不思議がって見てくる宇沢。 その顔はやや心配げで、本来の善良さが窺える。 「んーん、なんにも。ほら、味わうのはいいけど食べ進めないと、全部溶けるよ」 「はっ!そうでした!こんな素晴らしいもの、美味しく頂かなくてはバチが当たってしまいます!」

22 23/06/21(水)23:55:51 No.1070121687

気にしないよう促すと、宇沢は素直にスイーツを堪能しにスプーンを動かしだす。 ぱくぱくと生クリームを口に運ぶ少女の姿は、活動的な小動物を想起させる。 元々それなりに減っていたパフェはみるみるうちにそのかさを減らしていき、気づけば宇沢は最後の一口を口内に放り込んでいた。 「ん~~~~!!!!ごちそうさまでした!!!!」 行儀良く手を揃えて挨拶を告げる宇沢。 「すっっっごく美味しかったです!!!!杏山カズサも………あれ?まだ結構残ってますね?」

23 23/06/21(水)23:56:26 No.1070121985

私の前には、未だ大きな存在感を放つパフェが、半分以上も残っていた。 食事中に物思いに耽っていたせいで、あまり手が進まなかったなんて、スイーツ部の名折れである。 「あー…………ちょっと思ったよりも入らなくってさ。宇沢食べる?」 「えっ!いいんですか!?」 「このままだと常温になっちゃうし、スイーツは美味しい時に食べてこそだしね」 半ば誤魔化し目的の提案に宇沢はぱぁっと顔を明るくしたが、私のパフェを取ろうとしたところでぴたりと手が止まる。 「宇沢?どうしたの?食べていいってば」 私が促しても宇沢は動こうとせず目を泳がすばかりだ。 どこか申し訳なさそうに上目遣いにこちらを眺めると、迷った顔で言う。

24 23/06/21(水)23:56:51 No.1070122218

「あの……でも……『ライバル』から施しを受けるというのは正義の味方として……どうなのかと思ってしまい……うむむむむむ」 「ライバルて、あんたまだそんな……………………ライバル?」 私が、宇沢の。 「そっか、そうだったね」 こいつにとって私はまだ『ライバル』なのか。 言われてみれば、なんて当たり前。そもそも会うたびに毎度のように言ってくるじゃないか。 さっきまでの私はバカじゃないのか? ただの友人だと寂しくなって?一人で落ち込んで? 宇沢なんかに? 「いいえ!それでも善意からのプレゼントを断るのはもっと失礼なはず!不肖宇沢レイサ!ありがたくいただきま」 「ごめんやっぱなし。これ私の」

25 23/06/21(水)23:57:07 No.1070122355

意を決した宇沢がガラスの器を掴み取ろうとしたところを、さっと手元に寄せる。 宇沢の手は空振りして、信じられないものを見る目で私を見てくる。 「なっ!卑怯ですよ杏山カズサ!嘘をついたのですか!?」 「いやあんたがライバルからのものは受け取れないって言ったんでしょ。言われてみれば、わざわざ敵に糖分を送る必要もないなって」 「う~~こ、心の整理を付けた途端に~~~~~」 じたじたと手足を振り回す宇沢を尻目に、残ったシロップを纏めてかけて、スプーンを差し込む。 恨めしそうな宇沢だけれど、強引に人の物を取ろうとはしないのは、やはりどこまで行っても正義漢なのだろう。 口に入った甘味は先ほどとはまるで違い、さっぱりとした甘さを私の舌に残した。 結論。どうやら私はうざわ宇沢にとっての無二らしい。 自分勝手な女だとは思うけれど、それがどうにも心地よかった。

26 23/06/21(水)23:57:19 No.1070122463

私は惑星 星に惑う星 太陽の側に在れば それだけでいい

27 23/06/21(水)23:59:49 No.1070123811

大作だな

28 <a href="mailto:sage">23/06/22(木)00:00:02</a> [sage] No.1070123930

終わり カズサ→アイリと宇沢→スズミ前提のカズサ→←宇沢みたいなよくわかんないやつ カズサって友人に優先順位を付けるタイプだとは思うんだけどカズサの人生でそれが顕著な問題になることってないと思うんですよね だからこんなどっち付かずな思いでもそのまま日々を進められて特に破滅とかも無い そもそもシナリオの中で平和な世界に存在しているから アンパンマンの世界でレイプが発生したらどうすんの?って考えるようなものでカズサの世界はそういう取り返しのつかない暗さとは無縁な気がする

29 23/06/22(木)00:01:39 No.1070124894

すいと大作が出て来てビックリした

30 23/06/22(木)00:05:01 No.1070126733

この手の創作ブルアカだと初めて読んでみたけど良かったわ

31 23/06/22(木)00:05:24 No.1070126922

理解できる

32 23/06/22(木)00:06:17 No.1070127401

えっちかよ

33 23/06/22(木)00:06:46 No.1070127676

むっ良いねぇ… 語彙力の足りない俺の頭ではこれを名文化できないニヤニヤと共に読むしか出来ないが良いものを読ませてもらいましたありがとうございます

34 23/06/22(木)00:07:49 No.1070128253

あーなるほどね sexだよね

35 23/06/22(木)00:10:36 No.1070129667

>あーなるほどね >sexだよね 違うのだ!!1!!!

36 23/06/22(木)00:10:51 No.1070129803

よかった…

37 23/06/22(木)00:10:55 No.1070129841

カズサの素直な心がわかってとても良かったですまる

38 23/06/22(木)00:11:53 No.1070130357

カズレイもすっかり浄化されたものよ

39 23/06/22(木)00:11:58 No.1070130405

>あーなるほどね >sexだよね んんっーそうゆうのじゃないんだよなぁ 肉体じゃないんだよなぁ

40 23/06/22(木)00:12:05 No.1070130454

奢るなー!

41 23/06/22(木)00:14:24 No.1070131576

どうせ勃起してるのに体裁取り繕うのがトレーナーだからね

42 23/06/22(木)00:21:07 No.1070135038

>どうせ勃起してるのに体裁取り繕うのがトレーナーだからね ???

43 23/06/22(木)00:24:04 No.1070136512

いち、に。 いち。に。

44 23/06/22(木)00:26:48 No.1070137781

起承転結なら承辺りに位置しそうないい感じの文章だったよ…

45 23/06/22(木)00:32:40 No.1070140225

ASMRとか哺乳瓶ミルク美食過ぎ祭りもいいけどこういうのもいいね…

46 23/06/22(木)00:39:00 No.1070142868

>哺乳瓶ミルク美食過ぎ祭り んんんん?

47 23/06/22(木)00:42:20 No.1070144077

>>哺乳瓶ミルク美食過ぎ祭り >んんんん? このスレにはそぐわないけどあれもあれでいいものなのでそのまま検索かけるといい…

48 23/06/22(木)00:44:48 No.1070144943

自警団に上下は無いがまあ今の自警団に至る理由はスズミが多くを占めてるから実質上層部か.....

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