23/06/20(火)23:20:58 「……う... のスレッド詳細
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23/06/20(火)23:20:58 No.1069746269
「……うぎっ にっ、苦いです!!!!!!!!!」 「だから言っただろうメイケイエール」 あたたかい照明が柔らかく照らす純喫茶店の中 丸テーブルを挟んで正面にいるメイケイエールは、カップを持ちながら苦悶の表情を浮かべていた そんなに苦かったのか、舌をべーっと出している
1 23/06/20(火)23:21:19 No.1069746402
「ほらガムシロップ。入れな」 どうせこうなると思って、あらかじめカウンターからガムシロップを三つ持ってきていた が、エールは「結構です!!」といって受け取ろうとしない いやいや、要らないったって飲めないだろう…虚勢を張ってなにがしたいのだ そもそもこうなったのも、このお転婆お嬢様が… 「今日こそブラックコーヒーを飲みきってみせるんです!!」 と言って、人の話を聞かないからだ
2 23/06/20(火)23:21:33 No.1069746481
■ 「お前、ときどき変なところで頑固になるよな」 年季の入った丸テーブルに肘をつきながら、思わず呆れて乾いた笑いをこぼしてしまう 普段良い風に使われる「真面目」という言葉も、悪く言い換えれば「頑固」になる。物はいいようとはよく言ったものだ 関係ないが、エールの実家の飼い猫も「ガンコ」って名前だったっけか。なんだか不思議と縁があるな 「これは克服なのです!!!!!!!私も苦手なブラックを飲めるようにして、立派な大人のウマ娘に近づくのでええええええす!!!!!!」 「大人ねぇ…飲めたところで近づけるとは思わないが」 憧れる気持ちはわからんでもないが、それと大人になることは関係ないだろうと、無粋にも思ってしまうのはアタシだけではないはずだ
3 23/06/20(火)23:21:46 No.1069746561
「でもブラックが好きなソングちゃんは大人のウマ娘じゃないですか!!!!!!!!!」 「……そうかなぁ。先輩ウマ娘達の方が、アタシより何倍も大人だろう」 うーん。大人、大人かぁ…… まあ確かにしっかりしているねとか、礼儀正しいねとかはよく先輩方に褒められたりはする。自分でも結構気にしているし でも、デュランダル先輩やオルフェーヴル先輩の方がよっぽど、アタシの目には大人に映る なんて言えばいいのかな……オーラから違うと思うのだ
4 23/06/20(火)23:22:05 No.1069746682
「後輩のトルマリンちゃんだって言ってましたよ!!!!!ソングライン先輩は振る舞いが大人のウマ娘でカッコいいって!!!!!」 「……えっ、トルマリンって、パライバトルマリンのことか!?!?」 突然、アタシによく懐いてくれた後輩の名前が飛び出してきてびっくりした。彼女とは寮の部屋がすぐ近くで元々交流があり、今では併走に付き合ったりする二年下のダートウマ娘だ 彼女が出走した関東オークスの前の併走ではアタシのスピードに必死に喰らいついてきていた。だから個人的にすごく期待していたのだが、それに応えて見事勝ち切った自慢の後輩でもある この調子だといつしかアタシの事も追い抜かすのではないかと、彼女の才能に冷や冷やしていた所だった
5 23/06/20(火)23:22:17 No.1069746768
「というか、メイケイエールとは直接の関わり合いはなかったはずだよな。いつのまに関係を持っていたのか?」 「よくソングちゃんと併走している子だってのは知ってて気になってはいたので、タイミングを見計らって話しかけてみました!!!!!」 いやなんなんだその謎の行動力は!?ほぼほぼ無関係なのによく話しかけようと思ったな!?というか話しかけられた側は怖くないか!? さすがにアタシでも友達の知り合いってだけでクラスも学年も違う子といきなり話しかける勇気はない そういえば、彼女と出会った頃。自分の気性難を気にして過度に人と関わり辛かった時期が彼女にはあったことを思い出す ここは素直に成長なのだと喜ぶべきなのだろうが……でも、そこまでコミュ強になるのはお母さん聞いてないです。まあいいや
6 23/06/20(火)23:22:27 No.1069746837
「後輩の話は置いといて、アタシは別にブラックが好きで飲んでるだけだ。大人の振る舞いとやらについても、他の先輩方には勝てっこないぞ」 そう言った後、そういや目の前のチーズタルトにまだ手を付けていないことに気が付いたので、いただくことにした。フォークで端っこの部分を崩して、断片を口に入れる うん。美味しい。サクサクの土台に乗るしっとりしたチーズの風味がとても良い ここの喫茶店には定番メニューとして日替わりケーキが提供されている。多種多様なバリエーションがあってコーヒーと一緒に毎度頼むのだが、どれもハズレが無かった 「メイケイエールもタルト食べなよ。今日のも美味しいぞ?」 「そうですね!!!次の作戦のためにも食べます!!!!!!!!」 「……ちょっと待て。なんだよ次の作戦って」 「ブラックコーヒーを克服するって言ったじゃないですか!!!!!!その作戦ですよ!!!!」 「続いてたのかよ…」
7 23/06/20(火)23:22:39 No.1069746911
早いところ諦めて純粋にタルト楽しんだ方がいいと思うが…… しかしエールがこうなってしまったら何言っても聞き入れてくれないのは、アタシが一番知っていた てか、「次」ってことは、もしやその後にもなにか作戦考えてたりするのか……? 「さっきは真っ直ぐ挑んでダメでした!!!!!次の作戦は甘いものを食べた後に飲む!!!!!これで克服してみせます!!!!!!!」 「あまり変わんないと思うぞ……」
8 23/06/20(火)23:22:55 No.1069747018
よくわからない作戦は良いとして、さてさてようやくエールもタルトを食べる……のだが、その振る舞いがとても気品を感じされられるものだったことを伝えておきたい 元々座っている姿勢からしてすこぶる良いのもそうなのだが、普通フォークだけでタルトを崩して食べるところを、なんと彼女はフォークに加えてナイフも取り出したのだ 端っこの部分をナイフで丁寧に切り取り、それを綺麗な持ち方のフォークでパクリ 些細な動作からも、無駄と隙のない振る舞いで育ちの良さを伺えた。流石名家出身と言わざるを得ない その点で言えば、エールも充分お淑やかで「大人のウマ娘」だと思うのだ ……絶叫癖と、たまに今みたいに頑固になる点に目をつぶれば、だけども 「んんんんんんん~…!!!!!! あまくて美味しいでえええぇぇぇぇす…!!!!!!」 風味を味わった後、普段みんなに元気を振り撒くようなハツラツスマイルとは違う、緩みきった光悦の笑顔を咲かせた。天使になってそのまま空に昇っていってしまいそうだ このまま幸せそうな表情を眺めるのも良かったが、悪魔なアタシは現実に戻してやる
9 23/06/20(火)23:23:08 No.1069747094
「おいおい。コーヒーはどうしたコーヒーは」 「ハッ! そうでした!」 エールは言われるがまま、コーヒーカップの中身をちょびっとだけ啜る その瞬間、幸せそうな笑顔はどこへやら。一瞬で顔がしわくちゃになってしまった 「ニッッッッッッッッッッッッガいでえええええええす……」 それはもう、いきなり30歳ぐらい老けたかのよう。スイープ先輩に振り回されてる時のトレーナーさんもこんな表情してた気がする 「後味がクセものですね…!!!!」 「それが良いんだろう。落ち着く味わいだ」
10 23/06/20(火)23:23:30 No.1069747252
カップから立ち上る慣れ親しんだ深い香りを楽しみながら、アタシも中身を口に含ませる 鋭い苦味とほんのりとした酸味のアクセントが効いた、アタシの好きな力強いテイストだ やっぱりブラックはいい。どこか生き急いでしまう身体と心に安らぎをもたらしてくれる 確かにエールもブラックが飲めるようになったなら、きっともっと楽しくなるとは思う 二人の話題の幅が広がったり、お出かけスポットが増えたりするのは間違いないだろう しかし人には多様な好みと、丁度良いタイミングというのがあると思うのだ。だから無理して今飲めるようになる必要はないし、なんなら最悪飲めなくたっていい。少なくともアタシはそう思う 「皆さんどうやってブラックを克服したんでしょうね……!!!!!!」 「克服ってより、試しに飲んでみたら意外と行けた、って子が多いんじゃないかな……アタシは確かそうだし、タイムトゥヘヴンもそんな感じだった」 「えっタイムちゃんも飲めるんですか!!!!」 「最近よく飲むようになったんだよ。アイツよくゲームで徹夜するから、その為にコーヒーでカフェイン摂取してる」
11 23/06/20(火)23:23:42 No.1069747339
沼に落としたのは同室のアタシなんだけどな。と一言付け加える 前はモンエナばっか飲んでたんだけど、それじゃ体に悪いぞと言って勧めたのだった それまで寮室の一角にモンエナの空き缶タワーが徐々に積み上がっていた光景には戦慄を覚えたが、それはまた別の話 「同室といえば、ソダシとかもよく飲むんじゃないのか?」 「ハーブティー派です!!!!なんでも、深い甘味を感じるのがお気に入りなのだとか!!!!」 「へー…深い甘みか。なんだかコーヒーも飲んでそうなイメージだったけど。白に黒い飲み物ってなんか映えそうだし」 「あっ、えっと…実は、『コーヒーの色は今年のVMを思い出すから嫌だし……』といってるんですよね」 「……ははっ!アイツそんなに悔しかったのかよ!!」 まあ彼女なりの冗談だとは思うが、ここまで来ると半分トラウマになっているんじゃないかってぐらいだ いやはや、ずっと勝ちたいと思っていた子にそんな風に思われていたとはな。不本意だろうが、とても嬉しくなってしまう
12 23/06/20(火)23:23:54 No.1069747416
「シュネちゃんとかもコーヒーよく飲んでそうですよね!!!!カッコいいし!!!!」 「シュネルマイスター?アイツはああみえて炭酸飲料しか飲まないぞ?」 「ええっ!!!!!?なんだか意外ですね…!!!!!」 シュネルマイスター。そのシュッとした顔立ちと知的に思わせる眼鏡から、巷でクールビューティーと呼ばれている、アタシのライバルの一人だ いつもどこか人を寄せ付けないオーラを放っているから、確かに渋いもの飲んでそうなイメージを持つのもわかるのだが、案外そうではないのだ ドイツで産まれてすぐに日本に引っ越してきた彼女。実はアタシと地元が同じ幼馴染で、トレセン学園の中では一番付き合いが長かった クラスも違うこともあって、最近プライベートではちょっと疎遠気味だったのだが、小さい頃から顔を見合わせていた分お互いのことならなんでも知っていた
13 23/06/20(火)23:24:14 No.1069747533
「知ってるかメイケイエール。ドイツのレストランでお冷を頼むと、純粋な水ではなく炭酸水がくるらしい」 これはシュネルからよく聞かされていた話だ 国民はみんな炭酸水を飲んでいて、コンビニのミネラルウォーターなんかも基本炭酸水なんだそう 「なるほど!!!!ドイツの伝統が染み付いているんですね!!!!!!」 「ちょっと違う。ドイツ生まれだが育ちは日本だしな」 少ししゃべり疲れたので、小休止にコーヒーをもう一口。その間、シュネルが昔よくドイツについて自慢げに話していたことを思い出す ドイツ車はどーとか、ビールはどーとか、ドイツの薬学医学はどーとか。いやこれは漫画のセリフか でもそれはアタシだって人のことは言えなかった。負けじとアイツに、ハワイの魅力について語っていたしね 今思えばあまり関係のない地域同士を比べるのも変な感じはする。しかしそれでもとても印象深い、小さな頃の青春だった
14 23/06/20(火)23:24:27 No.1069747614
……こうやって、昔のことを思い返してみると、(そういえばアイツはそういう奴だったな)というふうに、自然とこの言葉が口から出てきてしまった 「炭酸が元々好みだったというのもそうなんだけれど……シュネルの場合は、憧れのものに少しでも近づきたいという気持ちもあったそうだ」 「憧れ……ですか」 喫茶店内ではしっとりとしたジャズのBGMが流れている。白髪の店主さんのお気に入りのレコードなのだとか それは初めてアタシがこの店に入った時や、初めてエールをここに連れてきた時と全く変わらないものだった 温暖色の照明の中。メイケイエールは何か思い詰めたように、コーヒー色の水面をぼんやりと見つめている 真剣に考え込むように、黙りこくってしまった
15 23/06/20(火)23:24:38 No.1069747696
この時彼女が何を考えていたのかは……多分だけど、アタシにも伝わっていた いつも語っていたその「夢」へとひたむきに努力をしている彼女に、そばで激を飛ばすことしか出来ない歯痒さも、最近になってより強く感じていた でも、余分な言葉を交わさず、ただこうやって。彼女と一緒の瞬間に居て、寄り添って。せめて彼女の強い味方で居続けることも……彼女にしてやれることの一つなのだと、アタシは信じている
16 23/06/20(火)23:24:48 No.1069747761
■ 「そ、そのコップはなんなんだメイケイエール…」 「最終手段でえええええええす!!!!!!」 あの後トレーナーさんから野暮用で電話がかかったので一旦席を離れ、しばらくしてテーブル席に戻ってみると、メイケイエールは透明のコップをこれ見よがしに見せてきたのだった 中には二つだけ氷が入っている。コップ全体が結露しているところを見るに、元は満杯に氷が入っていたことが伺える 何を企んでいるのだメイケイエール! 「ソングちゃんが離席している間、氷をいただいてコーヒーに入れておきました!!!!!!!冷やしてアイスコーヒーになったところを全部食道に流し込むって寸法です!!!!!!!!!」 「全部って、もしや一気飲みする気かメイケイエール!?!?」
17 23/06/20(火)23:25:08 No.1069747886
よく見ると、コーヒーカップの湯気が消えているのに気がついた。ギリギリまで氷を入れていたのか、表面張力で今にも中身があふれてしまいそうだった…… おうおう発想がぶっ飛んでいらっしゃる……これがブチコ先輩やソダシを産んだシラユキ一族の血筋かあ…… 「だいぶ脳筋作戦だな!?てかそれ飲んだ後一気に苦味がやってきて苦しいんじゃないか!?!?」 「ちっちっちっ!甘いですねソングちゃん!ガムシロップよりも激甘です!よく考えてください!」 「考えるったって何をだよ…」 「……氷を入れたという事は、その分溶けた水で味が薄まっているはずです!!!!!!熱と苦味を対策した完璧の布陣でええええええす!!!!!」 「それ苦味の絶対量は変わってないぞメイケイエール!!!!!本当に知らないからな!!!!せめてガムシロップ入れてからにしろ!!!!!!」
18 23/06/20(火)23:25:29 No.1069748005
しかしアタシの忠告を完全に無視して、エールはコーヒーカップをもって立ち上がる そのまま顔を90度に上げつつ中身をゴクっゴクっと飲み干し始めた。さっきベタ褒めしてた大人らしい気品を全部窓からポイ捨てしたみたいに豪快だ ……案の定。一気飲みが終わり空になったコーヒーカップを置いたとたん、エールの顔がサァ……っと青ざめてしまった 「う…!!!!!苦味が消えてません…ッ!!!!!!!!!これ吐きッ」 「ちょっ!嘘だろ!?!?」 思わず座っていた椅子を蹴飛ばして、急いでエールの口を手のひらで塞ぐ 間に合ったと安堵するがそれも束の間。突然、電源がパチっと落ちてしまったかのように、メイケイエールから目のハイライトと表情が消えてしまった
19 23/06/20(火)23:25:41 No.1069748082
「…」 これ…ダメなやつだ! 「やばいやばいやばいやばいせめてトイレまで耐えろよメイケイエールッ!!!!!」 マズい……ここで起爆したらいろいろ終わる!せっかくの行きつけの店なのに、もう二度と来れなくなってしまうッ!!!! アタシはそのメイケイエール型爆弾を抑えながら、急いでお手洗いに駆け込むのだった… おのれ…だから言っただろうメイケイエールッ!
20 <a href="mailto:s">23/06/20(火)23:26:13</a> [s] No.1069748288
最近この二人のお話書く人増えてて嬉しい
21 23/06/20(火)23:36:58 No.1069752140
またイチャイチャしてやがる…もっとやれ…
22 23/06/20(火)23:43:33 No.1069754295
タイムトゥヘヴンってそういう…